南シナ海「九段線」に法的根拠はない⑥


<スプラトリー諸島でのごり押し力ずくの占拠>

中国海軍がみずから刊行した記録(『当代中国海軍』)によれば、国家海洋局は1983年4月スプラトリー諸島のすぐ北の状況調査を開始するように命じられた。続いて5月には2隻の船がはるか南のジェームス礁まで派遣されている。1987年4月 中国科学院は島を測量するための新たな調査団を派遣した。5月、海軍は小艦隊を派遣して調査団に合流させ、その途中で補給と戦闘訓練をしつつ、ファイアリー・クロス礁にコンクリートブロックを投入、これを中国領と宣言した。その後、観測所を設置。1988年2月にはさらにその近くのクアテロン礁も占拠した。

1988年3月14日、ジョンソン礁を死守するベトナム兵80人に対し、中国は機関砲を打ち、全滅させた。作戦の全貌は、Youtubeを通して中共側が撮影した映像で確認することができる。https://www.youtube.com/watch?v=Po7QL3xmMuw

これを見れば一目瞭然だが、この作戦は、戦闘でも何でもなくて、武器も持たないベトナム兵を一方的に殺害した残虐な虐殺事件というしかない。水没した環礁の浅瀬で、ベトナム兵たちは、ひざまで水に浸かって国旗を掲げながら横一列に並んで中共軍側と対峙し、環礁を死守している様子が見える。彼らは武器は何も手にしておらず、近くには軍艦や大きな兵器もない。そんな無防備なベトナム兵に対し、中共軍の機関砲が一斉に浴びせられ、海上に白い水柱が連続して立ち上がると同時に、水柱の向こうでは兵士の姿がつぎつぎに海に消えていった。目を覆いたくなるような虐殺の瞬間を示すシーンだった。中共側は、こんな虐殺事件の映像を堂々と公開し、「赤瓜礁海戦」と称して作戦の成功を宣伝している。共産中国以外の人は、シナ人の残虐性を示す映像としてしか受け取れないことを、彼らは理解できないのだろう。

1988年4月、中国はさらにマッケナン礁、スービ礁、ガヴェン礁の3つを新たに占拠した。中共軍は、他国軍の抵抗や悪天候にもめげず、わずか2ヶ月強のうちに、ほとんど水没している珊瑚礁の上に生活の基盤と補給施設、防衛用の砲座を建設した。これらの島は、ライバル国が押さえている島からは20キロ未満の範囲にありながら、1988年以前にはどこの国にも占拠されていなかった。測量調査団は綿密な計画と多くの資源を注ぎ込んで準備したうえで、みごとにその任務を果たしたのである。こうして中国は、スプラトリー諸島に足がかりを確保した。(p123)

<ミスチーフ礁の占拠>

1995年2月、スプラトリー諸島の東側に位置するミスチーフ礁を中共軍が占拠し、建造物を建築していたことが判明した。前年秋からモンスーン期のためフィリピン海軍がパトロールをしていない隙を狙っての侵攻だった。また1991年末のソ連崩壊後、米比相互防衛条約は解消され、アメリカはクラーク空軍基地から撤収、1992年にはスービック海軍基地からも撤収し、フィリピンにおけるアメリカの軍事的なプレゼンスは、この時期、著しく低下していた。中国がそれまでに南シナ海で確保した場所はすべて、パラセル諸島またはスプラトリー諸島の西側にあって、他国が領有権を主張する場所からは遠く離れていた。しかし、東側のミスチーフ礁に手を出したことによって、中国ははじめてASEAN諸国が領有権を主張する海域に侵入したのだった。(p127)

1998年末から1999年にかけて中国が鉄筋コンクリート製施設を建設していることが報道され、マニラでは反対運動が起きた。

<スカボロー礁をめぐる攻防>

中国が「中沙群島」と称しているマックルズフィールド堆は、実際には暗礁だけで島はひとつもない。このマックルズフィールド堆のいちばん東側、フィリピンにもっとも近い場所にあるのが、海面上にわずかに顔をだした岩を持つスカボロー礁だ。大海原のなかの小さな岩をめぐり、愚かしいとしか言いようのない攻防が繰り広げられている。

2007年4月、スカボロー礁の岩に香港からチャーター船でやってきたアマチュア無線の愛好家グループが、無線機や発電機などを持ち込み、ここに5日間滞在、世界中の無線仲間と交信を行った。島で経済活動ができるという実績づくりのためだった。

2012年4月には、8隻の中国漁船が、大量の珊瑚、オオシャコガイ、生きたサメまで密猟しているのをフィリピンの沿岸警備隊が発見、検挙しようとしたところ、中国の大型海洋監視船2隻がやってきてそれを阻止し、にらみ合いが続いた。台風の接近で、両国政府とも艦船を撤退させることで合意したが、中国船はそのまま居座りスカボロー礁を物理的に支配し続けた。ここが埋め立てられ、滑走路など軍事施設が建造されれば、パラセル諸島やスプラトリー諸島ミスチーフ礁と結ぶ大きな三角形が形づくられ、南シナ海全域を覆う航空識別権の設定など、中国が軍事的には圧倒的に優勢な支配権を手に入れることができるとされる。

干潮時にも水面下にある暗沙や暗灘に対しては、いかなる国も所有権を主張する根拠を持たないが、中国は「歴史的権利」を主張し、マックルズフィールド堆やジェームズ礁の領有権を主張している。中国海軍の艦船は、ソマリア沖での海賊取締りに向かう途中でジェームズ礁に寄り道し、中国の領有権をアピールするための石碑を、毎回、海に投げ込んでいる。おかげで海底には、中国の石碑のコレクションが出来上がっているほどだ。(続く)

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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