太平洋にトリチウム1グラムでも放射能汚染だと騒ぐ韓国

前回のブログでも言及したように、海洋水産部を中心にした韓国政府合同タスクフォースや、韓国原子力学会、あるいは韓国科学技術院(KAIST)原子力・量子工学科教授など、この道の専門家が、福島第一原発の処理水が海洋放出されても、韓国沿岸に及ぼす影響は考慮する必要はないと断言しているにも拘わらず、韓国国会の立法調査処という科学とはほとんど縁がない極めて政治的な部門が、「福島第一原子力発電所からトリチウムを含む汚染処理水を海洋放出する場合、韓半島東海岸にも放射性物質が流入する可能性がある」という報告書を発表したという。

KBS日本語放送2021/4/29「韓国国会の報告書 福島汚染処理水「韓半島東海岸に流入の可能性ある」>

     (写真:4月24日ソウル日本大使館前 福島処理水海洋放出に抗議する集会)

     (写真:現場で配られていたポスター『放射能汚染水 日本が飲め」とある)

(参考) 

▶韓国政府合同タスクフォース報告書『福島原発汚染水関連現況』(2020年10月)「海洋放出から数年後、国内海域に到達しても海流により移動して拡散・希釈されて有意味な影響はない」

中央日報4/15「日本の原発水、影響大きくない-韓国政府TF、昨年報告書出していた」

▶韓国原子力学会の発表資料『日本の福島原子力発電所の汚染処理水放出に対する原子力学会の立場』(4月26日)「学会の評価の結果、日本が再浄化せず現在の貯蔵状態そのままで全量を1年間で海に放出したとしても、韓国国民が受ける放射線の被ばく線量は(中略)一般人に対する線量限度である1ミリシーベルト毎年の約3億分の1であり、無視できる水準」

ハンギョレ新聞4/28「韓国原子力学会、福島原発「汚染水」ではなく「処理水」だと主張

」>

▶韓国科学技術院(KAIST)原子力・量子工学科のチョン・ヨンフン教授「処理水は実際には危険ではないため、危険性だけを強調すれば日本に対して負け試合になる」

中央日報4/16「韓国教授、汚染水の危険だけを強調すれば負け試合に…放出後は共同監視を」

確かに、海はどこでもつながっているのだから、海流の流れだけを見たら、何十年先、何百年先かは知らないが、福島沖を流れた黒潮の海流は北米大陸まで行ったあと北赤道海流に乗って西へ向かい、再び黒潮に乗って日本周辺にたどり着くことは理論上、考えられるが、だからといって「放射能汚染された水」が朝鮮半島の東海岸にたどりつくとは直ちには考えられない。そもそも立法調査処の報告書では、どれだけの量の放射性物質が流れ着き、具体的にどれほどの放射能被害があるかについてはひと言も触れてない。当然だろう。そんな計算ができるわけがないからだ。

立法調査処は、「日本が分析の基礎となる資料を公開していない。どのような放射性物質がどれだけの濃度で放出されるかについて、信頼できる情報がないため、予想被害に対する具体的な観測が難しい状況だ」と、日本の情報公開に責任があるような言い方をしているが、前述の韓国原子力学会が、福島第一原発に貯蔵されているタンクの水を未処理のまま全量放出したとしても、韓国に与える影響は「無視できる水準」とした見解と矛盾する。

経済産業省がトリチウムを含む処理水の処理法について諮問した専門家委員「ALPS小委員会」での説明資料によると、福島第一原発のタンクに溜まっているトリチウムの総量は平成30年3月時点で、約1000兆ベクレル、質量にして約20グラムだという。

経済産業省「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」公聴会 説明資料

これを今後20年から30年かけて放出したとしても、一年で放出されるトリチウム量は1グラム以下である。広漠とした太平洋の荒波に、たとえばスポイト一滴のインクを落としたとして、海流に乗って太平洋を一周し、数千キロも経たあとに、そのインクの跡をどのように検出するというのか?すこし頭を使って考えれば、そんなことは不可能であることは、小学生でもわかる問題である。

しかも、以前のブログでも、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構の山西敏彦部長による「トリチウムの物性」に関する解説を紹介したが、トリチウムが出す放射線β(ベータ)線は、空気中で5ミリ(mm)、水中では6マイクロミリ(μm)の距離しか進めず、紙一枚どころか、皮膚さえ透過できるエネルギーはない。マウスに毎日、何億ベクレルものトリチウムを含んだ水を飲ませても、通常の水を飲んだとマウスとガンの発生率に違いはなかったという研究もあるという。つまり、トリチウムを体内に取り込んだとしても人体細胞に影響を与える力はほとんどなく、体内に取り込まれたトリチウムは10日で排出されるため、体内濃縮あるいは生物濃縮はない。

宇宙線が大気中の窒素や酸素に衝突して地球上では年間200グラム程度のトリチウムが生成され、雨や河川、水道水にも含まれているが、人類の歴史のなかでトリチウムによる健康被害の報告が一件もないことでもトリチウムが人体に無害であることは証明されている。

韓国国会立法調査処の報告書は、そうした科学的知見をすべて無視し、与野党国会議員の「反日」情緒に向き合った極めて政治目的の濃い文書であることが分かる。それにしても哀れなのは、立法調査処の報告書の内容を伝えるKBSや聯合通信のニュースが太平洋の海流を説明する図で「オヤシオ(오야시오)」とか「クロシオ(구로시오)」とか日本語をそのまま使っていることである。科学用語や地理的概念でさえ自分たちの言葉を持たず、「敵国」の言葉を使ってしか自分たちの主張を伝えられないことに恥辱は感じないのだろうか?

英語でもKuroshio current/Oyashio current というしかないのだが、日本海を「トンへ(東海)」だとか無理な主張を展開するくらいなら、「Tsushima current(対馬海流)」や「太平洋(태병양)」「赤道(적도)」を含めて、日本語由来の用語をすべて自分たちの固有語に改めるぐらいの気概をもつべきではないのか。

(続く)

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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