2年前の今頃は、国が滅びると大騒ぎだった。韓国産業界は、日本が「韓国経済の肺腑を刺した」と悲鳴をあげた。文在寅大統領は「日本に二度と再び負けない、日本を飛び超える」と檄を飛ばした。
韓国では当時、日本は「半導体の製造部品を事実上、切断した」と言われた。輸出管理の手続きを一般の国と同様の扱いにするだけで、「輸出を禁止した」訳ではないのに、だ。日本の経済産業省は「輸出管理の強化であり、輸出を規制・制限するわけではない」と何度も繰り返し説明したにも関わらず、韓国政府も韓国メディアも「輸出規制」という表現を今に至るも使い続けている。
文大統領が7月2日、日本の輸出管理強化から2年となったのに合わせて開かれた懇談会で、「奇襲攻撃のように始まった日本の不当な輸出規制措置に対抗し、”素材・部品・製造設備の自立”の道を歩み始めて2年となった。韓国経済に大きなショックを与えるとの懸念が多かったが、中核品目の国内生産を増やし、輸入を多角化し、素材・部品・製造設備の自立度を画期的に高めるきっかけとなった」とし、「この2年間、我々は共生と協力によって“誰も揺るがすことのできない国”に向かって前進した」と語った。
<KBS日本語放送7/2「日本の輸出管理強化から2年 文大統領「誰も揺るがすことのできない国に」>
「奇襲攻撃」だの「不当な輸出規制措置」だのと、まるで喧嘩腰の発言だが、本人も語っている通り、「韓国経済に大きなショックがある」と大騒ぎしたが、半導体産業にはほとんど影響がなかったことは半導体業界自身が証言している。
日本が輸出管理を強化すると「日本に2度と再び負けない」と宣言した文大統領は、半導体の素材・部品・製造設備など100大中核品目の技術自立化と国産化を指示し、そのために今後5年間での45兆ウォンの研究開発(R&M)予算を投じるとしていた。
それからたった2年しか経っていないが、文大統領は先の懇談会で「半導体素材3品目の安定した供給網が築かれた。50%に迫っていたフッ化水素の日本依存度を10%台に抑え、フッ化ポリイミドは技術の確保だけでなく輸出にも成功した。また、EUVレジストもグローバル企業の投資を誘致し、国内での量産が目前に迫っている」としたうえで、「韓国産業で高い割合を占める100大品目の日本に対する依存度を25%まで抑えることができた」と豪語した。
その前日、韓国の産業通商資源部が、日本の輸出管理強化から2年が経つのを機にまとめた「素材・部品・設備分野における競争力強化の成果」によると、輸出管理強化の対象となった3品目(フッ化水素、フッ化ポリイミド、フォトレジスト)の対日依存度は大きく低下したとしたと発表した。
このうち、フッ化水素のことし1月から5月までの輸入額は460万ドルで、輸出管理強化前の2019年の同じ期間(2840万ドル)に比べると83.6%も減ったという。また、フッ化ポリイミドは、代替材料のUTG=超薄膜強化ガラスの採用によって、日本からの輸入は必要なくなり、事実上、ゼロとなったほか、フォトレジストは、ベルギー産の輸入が12倍に増え、対日依存度は低下したとした。こうして、100大中核品目の対日依存度はこの2年間で31.4%から24.9%へと6.5ポイント減少したとし、素材・部品・設備分野全体でも対日依存度は16.8%から0.9ポイント減少し、15.9%になったという。
ところで、「輸入が12倍になったというベルギー産のフォトレジスト」とは、ベルギーに進出した日本企業との合弁会社の製品であり、そうした事実を隠してもなお「対日依存度は下がった」と言いたいようだ。
<KBS日本語ニュース7/1「日本の輸出管理強化から2年 素材・部品・設備分野の対日依存度が大きく低下」>
こうしたことを受け、日本の輸出管理強化2年に関する韓国のメディアの反応も「2年が過ぎた今、韓国経済の未来の成長を妨げるため打撃を加えようとした日本の戦略は失敗したことが明らかになった。むしろ輸出規制が韓国の素材・部品・製造設備の生態系を健全にし、日本に対する技術依存度を下げるきっかけになった。韓国市場を総なめしていた日本の消費財メーカー各社が、立ち直れない打撃を受け、崩壊している。韓日貿易戦争の勝者は我々だった」といった評価が多い。
<マネートゥディ6月28日「災い転じて福となす 日本の輸出規制2年」>
<輸出管理強化3品目の対日依存度の低下は嘘>
しかし、そうした評価は正しいのだろうか?別の数字を引用してみよう。
韓国貿易協会によると、今年1~5月の極端紫外線(EUV)用フォトレジストの輸入のうち、日本が占める割合は85.2%で、前年同期(88.6%)より3.4ポイント、輸出管理強化前の19年1~5月(91.9%)に比べると6.7ポイント下がった。年間では19年の88.3%から昨年(20年)は86.5%に下落した。ベルギーからフォトレジストを迂回(うかい)輸入したとしてもこの程度の下げ幅なのである。
今年1~5月のベルギーからの輸入が占める割合は9.8%で前年同期(5.8%)より4.0ポイント上昇した。19年1~5月に比べ9.4ポイント高い。
フッ化ポリイミドも日本からの輸入の割合が今年1~5月に93.6%と、前年同期(93.9%)より0.3ポイント下落した。年間では19年の93.0%から昨年は93.8%にやや上昇した。
高純度のフッ化水素(エッチングガス)は今年1~5月の日本からの輸入の割合が13.0%で前年同期(12.3%)より0.7ポイント上昇したが、19年1~5月(43.9%)に比べると3分の1の水準に下落した。
しかし3品目とも今年1~5月の日本からの「輸入額」は前年同期に比べ増えた。フォトレジストが6.0%、フッ化ポリイミドが10.6%、フッ化水素が15.3%それぞれ増加した。フォトレジストとフッ化ポリイミドは19年1~5月と比べても輸入額が増えたという。これで対日依存度が下がったと何故言えるのか?
<聯合ニュース6/27「日本の輸出規制から2年 中核品目の供給網安定化で進展=韓国」>
素材・部品を含めた対日貿易全体をみると、今年1 - 5月の対日貿易赤字は100億ドルと昨年より35%増えた。韓国は日本との貿易で毎年200億〜300億ドルの赤字を記録し、赤字規模は貿易相手国の中で日本が常に1位となっている。
その全体の貿易額を見ると、2018年が日本からの輸入額546億ウォン、対日輸出額が305億ウォン(対日貿易赤字240億ウォン)だったのに対し、輸出管理が強化された2019年には輸入475億ウォン、輸出284億ウォン(貿易赤字191億ウォン)で確かに輸出入とも規模は縮小しているが、2020年になると輸入460億ウォン、輸出250億ウォン(貿易赤字209億ウォン)でわずかに減少しているが、ほぼ前年並みで、対日依存度が大幅に減少したことを示す数字とは言えそうにない。それより、日本からの輸入よりも韓国から日本への輸出の減少幅のほうが大きい。そもそも日本からの輸入が減ったのはビールやユニクロ商品など消費財が中心で、素材・部品などの中間財については、ほとんど影響を受けなかったと言われる。日本からの中間財の輸入がなかったら、韓国の中小企業は存続できないからだ。因みに今年1 - 5月に日本から輸入した中間財は137億ドルで、対日輸入額全体の63%に当たる規模となっている。
<前掲・マネートゥディ6月28日「災い転じて福となす 日本の輸出規制2年」>
<対日依存を下げろ、という裏で日本企業の誘致>
京畿道といえば、次期大統領選に名乗りを上げた李在明(イ・ジェミョン)知事が強硬な反日主義者として知られるが、そうした強硬な対日姿勢の裏で、積極的な日本企業誘致に舵を切っているという。以下は『NEWSWEEK』誌5月14日号からの引用である。
(以下引用)「韓国有数の港湾都市である京畿道平澤市はサムスン電子の企業城下町としても知られる。半導体装置メーカーの日産化学が90%出資して作った韓国現地法人NCKはその平澤(ピョンテク)市にあるが、日産化学とNCKはことし4月、平澤市に隣接する唐津(タンチン)市の工業団地に工場を新設する覚書(MOU)を締結した。同じ工業団地には今年1月、ダイキン工業が工場を新設する覚書を締結した。ダイキン工業は、半導体の製造過程で必要なエッチングガス(高純度フッ化水素)では韓国国内で28%のシェアを持ち、サムスンやSKハイニックスなどに供給してきた。
昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)も京畿道安山市に110億円を投資して新工場を作る計画だ。2016年にSKマテリアルズと合弁でSK昭和電工を設立し、半導体材料を生産している。新工場を建設し、生産能力を30%引き上げる計画だ。 東京応化工業は仁川市の松島工場に追加投資を行って、生産能力を2倍に引き上げた。同社は2012年、サムスン物産と合弁でTOK尖端材料を設立し、半導体核心素材のフォトレジストを生産している。」(引用終わり)
<NEWSWEEK5/14「脱・脱日本依存? 韓国自治体が日本の半導体材料メーカー誘致に舵を切っている」>
こうした実態をみるかぎり、「対日依存度」が下がったと大見得を切れるのか、足元を見つめ直した方がいい。結局、高付加価値の先端素材分野で日本の影響力がまだ大きく、半導体の製造設備分野では国産化率は低く、海外依存度は80%に上るという。自分たちの寄って立つ基盤の現状を正確に把握・分析できなければ、技術の自立も国産化も果てしない夢に終わるだけだろう。
文政権の執権4年間の成果があまりにもみじめで惨憺たる結果に終わっていることもあって、文政権は、外交でも経済でも、実態のない成果を誇張して伝えることばかり考えている。
たとえば、新型コロナウイルスの世界的なパンデミックを前にして、文在寅政権は、「K防疫」と称して感染拡大の阻止に成功したとして、盛んにその対策の有効性・先進性を世界に自慢してきた。確かに感染者数と死亡者数は日本に比べてもはるかに少ない。しかし、一日の新規感染者の数は、検査数が少ない土日が空けた月曜になると300人前後まで減少するのだが、その後は500人から800人台までと必ず増え、そのパターンがこの半年以上ずっと続いているということは、何か数字の操作でも行なわれているのか、あるいは感染防止対策にそれほど効果がないことを示しているのか、いずれにしても「K防疫」といってもそれほど効果的な対策ではないことの証明ではあるだろう。
もう一つ、文政権が力を入れているのが、韓国を「グローバルワクチンハブ」にするというアイデアだ。韓国をコロナウイルスワクチンの製造拠点にし、ワクチンを世界に流通させるハブの役割を構築しようというもので、5月に米韓首脳会談で訪米した際にも、アメリカ側にワクチン製造技術の韓国への供与を要請し、「米韓グローバルワクチンハブ」のための米韓作業部会の設置で合意している。6月のG7サミットにゲスト参加した際も、ドイツのワクチンメーカーに直談判し、韓国に製造拠点を設けることで合意したが、このドイツ製のワクチンは免疫効果が50%以下だということが、その直後に判明し、文政権をがっかりさせた。
ところで、韓国のワクチン接種の状況といえば、6月までに高齢者のワクチン接種を終えるとして1500万回分のアストラゼネカ製ワクチンの接種を進めたのだが、とりあえず1回目の接種者の割合を高めるために無計画に接種を強行した結果、2回目接種のためのワクチンの確保ができなくなり、6月末の時点でワクチン接種はほとんど停止している。さらに7月以降に確保できる見込みのワクチンはファイザー製かモデルナ製しかないため、1回目にアストラゼネカ製の接種を受けた人は、2回目はアストラゼネカ以外のワクチンを接種することになり、「交差接種」(ちゃんぽん接種)だと呼んで、その方が免疫効果は高いと宣伝するのに躍起でもある。
自分の国民のためのワクチンさえ確保できず、ワクチンの製造技術も自前で確保できない国が、世界のワクチンハブになる、などという大言壮語を誰が信じるだろうか?
0コメント