民主主義にとって、何がもっとも大切かといえば、人が自分の考えを自由に発言・表現でき、他人の意見にもとことん耳を傾け、世の中の知りたい情報に自由にアクセスできることだ。つまりは「言論・表現の自由」、「報道の自由」、「知る権利」が守られることが、基本中の基本だといえる。
「国境なき記者団」は12月7日「The Great Leap Backwards of Journalism in China」(中国におけるジャーナリズムのうしろ向き大躍進)と題する中国のメディア状況に関する報告書を発表した。
それによると、現在中国では少なくとも127人のジャーナリスト(フリーランスや記者を職業としていないノンプロを含む)が政権によって拘束され、ジャーナリストの逮捕者数は世界最多を数えるという。そのうち半数以上に及ぶ71人はウイグル人ジャーナリストで、中国政府は2016年以来、「テロとの戦い」という名の下で、ウイグル人に対する暴力的な締め付けをしていると同時に、言論・報道の自由に対して過酷な迫害を行っていることが分かる。
また香港では2020年に国家安全維持法を施行し、ジャーナリストや報道の自由を叫ぶ人たちを弾圧する口実として使っている。強制的に廃刊に追い込んだ蘋果日報(リンゴ日報 Apple Daily)創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏や元編集長や元主筆など少なくとも12人が逮捕され、国家安全維持法違反の罪に問われている。
さらに今も世界中で猛威を振るっている新型コロナウイルスは、2019年秋から冬にかけて中国湖北省武漢市で最初に発生し、中国政府が当初、情報封鎖したために世界に拡散したことが分かっているが、新型コロナが蔓延した武漢での市民生活や都市封鎖の実態を知らせたジャーナリストやSNSの発信者が少なくとも10人逮捕されている。2020年12月の時点ではコロナ・パンデミックを知らせたという理由で、47人の市民ジャーナリストが拘束または行方不明になったという情報もある。
そのうち、張展(チャン・ジャン)という元弁護士の女性は、武漢での防疫措置について中国政府の誤った対処を指摘したというだけで逮捕され、拷問を受けた末に4年の懲役刑を受け服役し、獄中でもハンストを行い、抗議を続けているという。(Wikipedia:張展)
また方斌(ファン・ビン)という名の一般市民の男性は、YoutubeやWeChat(微信・中国版LINE)を使ってコロナ・パンデミックの中での武漢の様子を映像で伝えたことで、2020年2月に逮捕されたあと、行方が分からなくなっている。(Wikipedia :方斌)
彼らの拘束理由は政府にとって「敏感な話題」を調査報道した、あるいは検閲に引っかかった情報をSNSで扱ったなどの単純な行為だが、タブーとなる話題・トピックスの対象は増え続け、検閲に引っかかる「敏感」な問題もその“レッドライン”が拡大し続けている。チベットや台湾、汚職問題などのほか、自然災害やMeToo運動もタブー視され、コロナ・パンデミックの際は医療専門家として知られることも検閲に引っかかったという。
中国で報道業務に就くジャーナリストは、中国共産党のマウスピース(プロパガンダのための舌と喉)になることを強制されている。中国で記者として取材活動を許されるためには「記者証」を入手し、また更新する必要があるが、そのためには、習近平思想を集中的に学習する年間90時間に及ぶ講習を毎年、受けなければならない。記者たちはパソコンに専門のアプリを導入し、習近平思想や国家の宣伝機能強化に関する教材をダウンロードすることが求められるが、それによって記者の個人情報データも収集されているという。
中国政府は、中国人記者を徹底して管理し制御しようとする一方で、外国メディアの特派員は歓迎せず、冷遇するだけでなく、監視や脅迫さえも行っている。気に食わない外国メディアの記者に対しては、ビザを発給しない、更新しないといった圧力や脅しをかけ、実際に2020年だけで18人の外国人ジャーナリストにビザが発給されず、中国を出国せざるを得なかった。
また香港で出版業や書店を経営していたグイ・ミンハイ、ヤン・ホンジュン、チェン・レイという中国系ながら外国籍をもつ3人が、スパイ容疑でいずれも拘束されている。
バイデン大統領が主催して開いた「民主主義サミット」には、中国は招待されず、代わりに招待を受けた台湾からはIT担当閣僚の唐鳳(オードリー・タン)政務委員が演説した。唐氏は中国を念頭に「台湾は権威主義に対抗する世界の戦いの最前線に立ち、世界の自由、民主主義と人権を促進する上で主導的な役割を果たしてきた」とした上で、次のように語った。
<新型コロナ禍のなかで、権威主義的政府が公共の衛生や集団の利益という名の下に、人権を侵害する行為を正当化するなど、世界的に民主主義が後退する現象が見られました。しかし台湾は、都市封鎖(ロックダウン)をすることなく、またフェークニュースなどインフォデミックとの情報戦に負けることもなく、パンデミックを押さえつけました。
台湾の民主主義は、ただ「人民のためにfor the people」働くだけではなく、「人民とともにwith the people」協力することでもあるのです。効果的な感染症対策として機能した、IT技術を応用したマスクの配給システムやSNSを基盤にした接触追跡システムは市民社会が率先して研究開発した技術です。それを政府と企業が互いに協力することで大きく成長しました。
このような「市民、政府、第三セクター」のパートナーシップこそ、私たちが自慢し、世界各国と分かち合いたいモデルです。たとえば、台湾政府は台湾に駐在し拠点を置く国際メディアとNGOをサポートしています。この2年間、50人以上の外国人記者を受け入れましたが、その中には北京の圧力によって国外追放された米国メディアの特派員もいます。>
(「12月10日民主主義サミットでの唐鳳氏ビデオ演説より」)
中国が圧力や脅迫で追い出した海外メディアのジャーナリストを、台湾が受け皿になって、受け入れたというのだ。また新型コロナに対する中国と台湾の対応の違いも唐氏の演説からはっきりと分かる。その成果の違いは、中国での累計感染者数が99,780人、死者4,636人、台湾の累計感染者数が16,742人、死者848人(いずれも12月13日現在のReuters COVID-19 Trackerのデータ)という数字を見ても明らかだ。情報を公開し、言論の自由、報道の自由という民主主義の基本を大事にすることが、新型コロナを抑える唯一の有効な手段であることは明らかで、民主主義の力でコロナを押さえつけた台湾と中国の勝敗はもはや明らかなのである。
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