「ジェノサイド・オリンピック」北京五輪が人類史に残す禍根

以前から危惧されていたことだが、開幕も直前となって、北京冬期オリンピックの様々な問題点が、さまざまな方面から指摘され、改めて中国でオリンピックを開催する意味やその危険性について、疑問が浮かび上がっている。 何より不安なのは、中国に入国する選手たちの安全の問題である。 

▶政治的発言の監視 

米国・英国・オランダ・カナダなど各国は自国の選手団に「ハッキングの危険が高いため個人のスマートフォンやノートブックを北京に持っていかないように」と勧告している。現地で処分できる使い捨てか、レンタルの機器を使い、電子メールアカウントも新たに作って大会期間中に臨時に使用する方法も推奨した。 

 AFP通信によると「北京冬季五輪期間中、選手や関係者が使う公式アプリケーション『MY2022』のセキュリティー性が脆弱でハッキングの危険にさらされている」という。『MY2022』にはリアルタイムチャット、音声通話、衛星測位システム(GPS)ナビゲーションなどの機能が搭載され、ユーザーのパスポート情報や新型コロナワクチンを含む医療記録なども入力することになるが、ユーザーの音声録音やファイル伝送時に暗号化が完全ではなく、盗聴やハッキングの可能性がある」という。AFP通信は「リアルタイムのチャットやニュース検索は検閲や監視を受ける可能性がある。この作業に使われると推定される2442個の単語目録がプログラム内から見つかった。政治的に敏感な内容に対して当局に自動申告する機能も含まれている」と伝えた。 

中央日報22/01/20「北京五輪開幕控えて論争が加熱…オミクロン株にハッキングまで」> 

つまり選手や大会関係者のスマホに強制的にインストールされるアプリを通じて、彼らの会話がリアルタイムで盗聴され、検索・閲覧した情報も監視されている可能性がある。 

英紙『Daily Mail』や米紙『Washington Post』など複数の海外メディアは1月20日、「北京五輪の組織委員会の関係者が、外国人選手が中国の法律に違反する発言をした場合、処罰を受ける可能性があると警告した」と一斉に伝えた。

スポーツ選手は、政治的な見解や主張を持ってはならないという決まりはどこにもない。彼らが自分の考えに従って、中国の現状に対して自由に発言する権利を剥奪され、そうした個人の見解の表明がつねに監視・検閲され、処罰されるとしたら、それこそ人類の平和と文化の発展に貢献するというオリンピックの精神とはいったい何なんだろう? 

▶通信ネットへの侵入 

選手や大会関係者だけでなく、オリンピックを取材する新聞・雑誌の記者やカメラマン、テレビ局のクルーや技術スタッフらは、アクレディテーションAccreditationと呼ばれるIDカードの申請の段階で、生年月日やメールアドレス、顔写真などの個人情報が中国当局に把握され、さらなる個人情報の収集や監視の手段として使われ、選手以上に検閲・監視の対象となることだろう。彼らジャーナリストの役割は、ただ単にスポーツの結果を伝えるだけが仕事ではなく、選手たちの活躍の背景にあるそれぞれの国の実情や、オリンピックによって変化する開催国の状況など、スポーツと政治、スポーツと社会を幅広く報道することである。中国で開催される限りは、中国の政治、経済、文化、人権状況などさまざまな局面に焦点をあて、掘り下げて報道することこそ使命にしているはずだ。しかし、最初から監視・検閲され、問題があったら処罰するぞ、と身構えている国で、自由な報道、自由な言論などありえるはずがない。 

インテリジェンスに詳しい専門家によると「中国では、共用のWi-Fiなどを通じて、機器がハッキングされたり、ウイルスを侵入させられたりして、機器内の情報が筒抜けになり、通信を監視・追跡される場合がある。つまり選手や大会関係者、マスコミ関係者など中国入りした本人だけでなく、彼らがメールでやりとりした相手先やパソコン内に保存されているアクセスデータも抜き取られ、それらを通じて、日本の一般市民、ひいては政府関係者や企業関係者のパソコンに侵入することが可能になるかもしれない。TikTokやファーウェイの通信機器が問題になっているが、要するに、中国という国はそこまでやる国だと認識し、警戒と準備を怠らないことが重要なのだ。 

▶食材の危険性 

選手たちが選手村で食べる食事にも危惧する声が上がっている。中国で生産された肉や野菜には、筋肉増強剤や成長促進剤が使用されており、それらがドーピングにひっかかる危険があるというのだ。 ちょっと古い話だが、2010年、卓球の中国オープンに出場したドイツ代表選手が尿検査で筋肉増強剤「クレンブテロール」に陽性反応を示し、2年間の出場停止処分を科されたことがあった。同行したコーチからもクレンブテロールが検出されたことで、中国での食事が原因である可能性が高まり、処分が解除された。 

クレンブテロールはもともと気管支喘息などを治療する薬品で、同時に、筋肉を残したまま体脂肪を減らす効果があることでも知られている。中国の畜産業者はこの効果を悪用し「痩肉精」と呼ぶクレンブテロールを豚や牛に与えて、赤身の多い食肉を生産している業者が少なくないという。クレンブテロールは大量摂取した場合、頻脈、動悸、めまいなどの症状を引き起こし、健康被害をもたらすとされる。加熱調理しても影響は残ることから、欧米諸国はもとより、中国でも食用家畜にクレンブテロールを与えることは禁止されている。 

中国メディアによると、当時、北京で流通している牛肉、豚肉、羊肉の52%から興奮剤が検出されたとの情報もあった。 

産経新聞2016/5/14「中国産牛肉・豚肉を食べただけでドーピング違反になるなんて…」 >

中国で養殖されるエビやウナギなどは成長ホルモン剤や病気予防のための抗生物質を養殖池に大量に投入されているし、野菜も成長促進剤を使用しているケースがあるという。 

韓国メディアが東京オリンピックの際、福島産の食材について、「放射能汚染」だといって、根拠のない風評を煽り立て、あれだけ騒いだのに、北京オリンピックでは何も騒がないのはなぜか?中国は、キムチはもともと中国の「泡菜」という漬物が起源だと主張していて、キムチの本場を自称する韓国は、中国に対していろいろ文句があるはずなのに、今回はなぜ沈黙を貫いているのか? 

▶人工雪による環境破壊 

北京から150キロ、ノルディックスキー、フリースタイルスキー、スノーボード、バイアスロンなどの会場となっている張家口(モンゴル語でカルガン)は、万里の長城の北側にあり、もともとは北方系の遊牧民が暮らした地域であり、中華民国時代には察哈爾(チャハル)省の省都が置かれ、1949年から1952年に河北省に編入されまでは内モンゴル自治区に属していた。年間降水量は403ミリ、1月の降水量は2ミリ、2月は4ミリしかない、大陸性の乾いた砂漠地帯である。そんなところに人工雪だけでスキーコースをつくるものだから、人工雪製造のための大量の水が回され、周辺の都市では水不足に陥っているといわれる。 

さらに大会が終わったあとの後遺症も気がかりだ。山の頂上にまるで宇宙基地のような巨大な丸い展望台をもつジャンプ会場の上空から周囲を見るも、人工雪で白くなっているのはレースが行われるスキーコースだけで、それ以外は茶色の禿げ山か赤茶けた砂漠だらけだ。本来、水のないところに、よそから持ち込んだ大量の水で人工雪を大量に製造し、それが春になって一気に溶けたら洪水となって流れだし、付近の地形や環境にも大きな傷跡を残すことは間違いないだろう。

そもそも雪も降らず、スキーを楽しむ人々も文化もないようなところで、冬のオリンピックを開催すること自体が間違いなのだ。 

▶未解決の「彭帥問題」と民族虐殺オリンピック 

北京冬季五輪を前にして、突如、大ニュースとなり、IOCを巻き込んで国際問題化したのが女子テニス選手、彭帥さんの事件だった。彭帥さんの問題とは、権力者が女性の人権を無視して、ハラスメントを繰り返し弄んでも何の罪も責任も問われない古代国家的な権力体質に異議を申し立て、国家規模の性虐待セクハラに対するMe Too運動でもある。そうした彭帥さんの異議申し立て、訴えに対して中国政府や当事者の張高麗前副首相は何も答えていないし、彭帥さん自身もその所在を明らかにせず公に発言する自由を未だに手にしていない。選手を守るべき女子テニス協会WTAやIOCさえ、彭帥さんが今どういう状態に置かれているかを把握できていないで、何がオリンピックなのか。 

実は、彭帥問題は、彭帥さん一人の問題ではなく、新疆ウイグルには何十万、何百万人という数の「ウイグル人の彭帥さん」がいて、強制収容所で中国語や共産主義思想の学習を強いられ、強制的に避妊手術をさせられ、ウイグルの言葉や宗教、文化を奪われ、街のいたる所にある監視カメラと顔認証技術で行動の自由が奪われ、声紋など生体認証によって携帯電話の通話内容がすべて把握され、まるでウイグル全体が刑務所の中のようだ。 

そもそもスポーツの感動とはなんだろう。人々はスポーツの何に心がうごかされるのか。美しい演技、最高のテクニック、限界への挑戦、人間が持つ能力への無限の可能性、それらを感動と共に感じる一瞬を共有したいと思ってみるのだろう。しかし、そのスポーツが行われる舞台が、いまも日常的に非人道的な収容や隔離が行われ、家族が引き離され、連絡を遮断され、厳しい行動監視と通信検閲が行われているまさにその現場、当事者の国だとしたら、スポーツを素直に観戦し、感動する心の余裕など持てるはずがない。 

ウイグル人に対する人権迫害、民族絶滅政策のために、北京五輪を「ジェノサイド・オリンピック」だと抗議して、欧米各国は外交的ボイコットを宣言している。さらに軍事関係者の間では、北京冬期五輪・パラリンピックの後には台湾有事を懸念する声もある。過去には1936年のベルリン大会の3年後にドイツはポーランド侵攻に踏み切り、第2次大戦が始まった。2014年のソチ大会後にはロシアがウクライナ・クリミアを併合した。未来の世代からは、2022年の北京五輪は、人類最大の愚行だったと言われないだろうか。 

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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