佐渡鉱山で「強制労働」があったのかが 問題の本質

先日(2月1日)亡くなった石原慎太郎氏は「屈辱だけは絶対に我慢できない」とよく言っていたという。日本人は屈辱を受けたとき、雪辱を期し名誉を守るためなら自ら腹を掻っ捌いても悔いはないという覚悟を持った人々を祖先に持つ。 

<戦後の未解決問題は屈辱でも不名誉でもない> 

韓国人にとって、屈辱とか名誉とかはいかなる感覚なのだろうか。戦前に日本による統治を許したことは確かに「屈辱」に違いない。しかし、戦後77年以上たっても、いまだに「慰安婦」や「徴用工」といった問題が解決していないことを、不名誉なこととはけっして思っていないようだ。第三者の目からは見るとそれはほんとうに奇妙なことにみえる。 

なぜなら、仮に20万人の少女が「慰安婦」や「性奴隷」として戦場に「強制連行」されたり、後述のように50万人以上の男たちが日本に無理やり連れて行かれ「強制労働」を強いられたというのなら、そのなかの何人かは抵抗して立ち上がり、力づくで闘争し、あらゆる手段を尽して国際社会を含めた外部に不当性と窮状を訴え、仲間を組織して反乱を企てるような人が出てくるはずだと思うが、そういう話は聞いたことがない。現代の韓国の人々にとっても、民族と祖先の名誉のためにも、そういう勇気ある行動を起した人はいないかと生存者や関係者を血眼(ちまなこ)になって探したり、資料を集めたりするのが、普通だと思うのだが、残念ながら最近まで、そういう話は聞いたことがなく、研究者やマスコミが熱心にそうした事柄を追求したという形跡もない。最近になって2019年12月に「日本強制動員被害者支援財団」という団体が出版した報告書『日本地域の炭鉱・鉱山での朝鮮人強制動員の実態~三菱鉱業佐渡鉱山を中心に』(일본치역 탄광・광산 조선인 강제동원 실태-미쯔비시 (三菱)광업(주)사도(佐渡) 광산을 중심으로-)チョン・ヘギョン(정헤경)著(ARGO人文社会研究所研究員)があることを知ったが、この報告書にしても、依拠しているのは日本の研究者による既存の日本語文献だけで独自の発掘資料などほとんどない。 

そもそも、戦後77年経ち、その間に、あり余るほどの時間があったにも関わらず、当時を体験した当事者たちが生きている間に、あらゆる手段を尽して「証言記録」を収集し、仮に被害があったというなら賠償金でも慰謝料でも支払うなど救済措置をとるべきなのに、2018年大法院判決が出るまで、この間に何の救済策も解決策もとられなかったとは、一体どういうことなのか?

戦前に、中国大陸を転々としていた大韓民国臨時政府が、戦場まで連れて行かれたという「慰安婦」や日本で強制労働させられたとされる「徴用工」の存在に気づき、何か声を上げたという話は聞いたことがないし、李承晩から全斗煥まで歴代大統領がこの問題を取り上げたという話も聞いたことがない。 

そうした長い間の無為無策に、政府も国民も恥ずかしく思い、自責の念に駆られてもいいものだが、そんな反省は欠片もなく、むしろ問題を解決させず永続化することを望んでいるようだ。つまり、仮に「被害者」がいればの話だが、「被害者」救済などはどうでもよく、自分たちの「恨(ハン)」の感情にひたるだけで、日本に対して徹底的に嫌がらせができればそれで満足なのだろう。 

<韓国には「強制労働」者の名簿も証言記録もない> 

「佐渡島の金山」の世界文化遺産登録について、韓国による「朝鮮半島出身労働者の強制労働の現場」だという事実に基づかない不当な主張は、日本人にとってまさに「屈辱」であり、名誉を汚す不当な言いがかりであり、こうした主張は断固としてはね除け、受けた屈辱は何があっても晴らさなければならない。それはまさにわれわれ父祖たちの名誉の問題であり、一国の名誉の問題だからだ。そして、これは一国の命運を賭けたまさに「歴史戦」であり、国際社会のなかで名誉ある地位を得るための「外交戦」、すべての資源と知力を注ぎこみ、国民が一丸となるべき「総力戦」なのである。 

さて、この問題の本質は、佐渡金山で朝鮮半島出身労働者の「強制連行」や「強制労働」が実際にあったのか、という事実確認の問題だということにつきる。 

当時の状況を示す資料は、会社や関係者の証言など、日本側に圧倒的な数の資料があることは間違いなく、韓国側には、何の資料も証言もなく、実際に強制労働をさせられたという「被害者」の名簿さえない。戦後、70年以上も経つ間に、当時、佐渡で働いた韓国・朝鮮人労働者を一人ひとり探しだす努力をすれば、「被害者」の特定も「被害の実相」を聞き出す証言も集めることができたであろうに、そんなことはいっさいせず、今回の日本の世界遺産登録推薦を受けて、韓国政府のなかに官民合同タスクフォースを組織して2月3日に初会合を開き、今後「交渉に必要な資料収集や分析などを綿密に準備していく」のだそうである。 

このタスクソースには「外交部、文化体育観光部、行政安全部、教育部、文化財庁、海外文化広報院、国家記録院の7政府部処(省庁)と日帝強制動員被害者支援財団、東北アジア歴史財団、ユネスコ韓国委員会の3公共機関の局長級幹部が出席する」という。 

朝鮮日報2/4「佐渡金山世界遺産登録に対抗、韓国政府の作業部会がきょう初会議」> 

相手側も「総力戦」の態勢である。これに「サイバー外交使節団」を名乗るVANK(Voluntary Agency Network of Korea)という半官半民の団体が加わり、ネット上で強烈な対外発信・海外広報を行っている。VANKを設立した朴起台団長は、いま連日韓国メディアに出まくりで、日本に対する辛辣な言葉を延々と列ねて倦むところがない。 

<「強制労働」はあったが全ての前提の韓国> 

その韓国が問題だと指摘しているのは、「佐渡の金山」の世界遺産への登録申請で、その推薦する期間を江戸時代に限るとしたことについて、朝鮮人を「強制労働」させたという第2次世界大戦中の歴史をから目を逸らせるための卑怯な隠ぺい工作だとしている点である。だとしたら、世界遺産としての文化的価値は江戸時代にあったとしても、世界遺産登録とは別の問題として、佐渡鉱山の歴史に、朝鮮人の強制労働という事実が本当にあったのかどうかという客観的な検証を行う必要がある。

それは佐渡鉱山だけに留まらず、長崎県の端島炭鉱(軍艦島)についても検証が必要だ。端島に「強制連行」があったというのは、2015年「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産登録にあたって、韓国側の「騙し討ち」によって「働かされたforced to work」朝鮮人労働者がいたことを日本が認めさせられ、それを韓国側は「強制労働forced labor」があったことを認めたと勝手に解釈し主張しているのである。そうした経緯は当時、外相だった岸田首相が当事者としてもっとも良く知っているはずだ。 

さらに最近報道された例では、山口県宇部市の海底炭鉱・長生炭鉱で1942年2月3日に発生した出水事後で、海底の坑道に閉じ込められた朝鮮半島出身の労働者136人が犠牲になった事故があるが、これについても、韓国メディアは「強制連行」あるいは「強制徴用」された人々であるとしている。しかし、1942年の時点で、1944年9月から始まる「徴用」の人がいるわけがない。 

聯合ニュース2/3「強制徴用された朝鮮人136人の遺骨収集まだ 海底炭鉱水没から80年」> 

そもそも、韓国では、戦前に日本に渡った朝鮮半島の人々は、みな無条件で「強制連行」された人々であり、過酷な労働現場で強制的に「奴隷労働」された人々だという前提がある。そのように教科書でも教えられ、韓国の新聞テレビも何の疑いもなくそれを事実として伝えている。 

しかし、1939年から1945年にかけて、朝鮮半島から日本に渡った渡航者の数を見ると、「労務動員」として渡った渡航者の総数は724,727人だったのに対し、労務動員とは関係なく朝鮮から日本に渡った一般渡航者は、同じ期間1,653,505人だった。つまり「労務動員」として日本に渡った72万余の人の2倍以上にあたる165万余の人は自分の意思で金儲けのため、あるいは留学や就職のために日本に渡った人たちだった。その結果、在日朝鮮人の総数は、1939年に961,591人だったものが1944年には1,938,433人となり、この間、わずか5年で100万人近く増えたことになる。 

<以上の数字は『反日種族主義との闘争』第4章・李宇衍「日本に行ったらみな強制動員なのか」p47より、大蔵省管理局「日本人の海外活動に関する歴史的調査」1947年などをもとに作成した表による> 

ここでいう「労務動員」には、応募や官斡旋、それに徴用が含まれるが、このうち朝鮮半島に国民徴用令が適用された1944年9月以降に実際に「徴用」されて日本に渡った人は22万人余りだった。つまり、労務動員72万人からこの徴用を差し引いた残り50万人は応募や官斡旋に応じた人々であり、それはあくまで本人の自由意思による選択であり、強制連行や強制労働に当たらないのははっきりしている。 

そして「強制労働ニ関スル条約」(昭和七年)で「強制労働」とは、「処罰されるという脅威の下に強要されたり、自らの任意で申し出たのではない労務をいう」と規定されているが、「国家総動員法」の規定に基づく「国民徴用令」による徴用は、「緊急の場合すなわち戦争の場合は強要された労働」には含まれないとされているため、「徴用」はそもそも強制労働には該当しない。当時、朝鮮半島の人々も「日本国民」だったのであり、逆に「徴用」の対象とならなかったとすれば「逆差別」といわれても仕方がない。 


前述の『反日種族主義との闘争』所収の李宇衍氏の論文「日本に行ったらみな強制動員なのか」は、当時の朝鮮半島の人々が「官斡旋」で役所から、あるいは面長(村長)や駐在所から「日本に行ってくれ」といわれた時、それほど抵抗感はなく、「韓国にいても仕事はなく、みんな日本に行きたくてもなかなか簡単には行けないので、正直いえば嬉しかった」という声や、「日本に行って帰ってくると洋服を着て中折れ帽に革靴という姿で帰ってくるので、日本は天国だと思っていた。日本に行けと言われたとき、そんなに抵抗感はなかった」という声を『明日への選択』編集部「強制連行はあったのかー朝鮮人・中国人「強制連行」の虚構」(日本政策研究センター2004)から引用している。 

佐渡鉱山の場合も、佐渡鉱業所の労務課員が朝鮮南部の農村を回って労働者の「募集」を行ったところ、労務課員によれば、1939年2月には「一村落20人の募集割当てに約40人の応募が 殺到したほどであった」(『佐渡相川の歴史・通史編・近現代』相川町史編纂委員会編1995年)という。

当時、朝鮮半島の農村地帯は干ばつ被害で疲弊していた時で、佐渡鉱山の労働者募集を、文字通り「旱天の慈雨」として喜び、募集の2倍に当たる人が殺到することになったのである。 

<日本の研究者の従来の論文も批判的な検証が必要> 

ところで、佐渡鉱山で働いた朝鮮半島出身労働者の実態に関する記録は、ここに引用した『佐渡相川の歴史』のほかにも、▼「佐渡鉱業所 半島労務管理ニ付テ」(『在日朝鮮人史研究第12号』1983年9月に所収)▼平井栄一稿『佐渡鉱山史』(1950年)▼「東京鉱山監督局主催『朝鮮人労務管理研究協議会』資料」(1943年6月7日)▼『新潟県史 通史編8(近代3)』新潟県編(1988年3月)など多数に上る。 

そのうち『新潟県史』について、ハンギョレ新聞は日本の毎日新聞を引用して以下のように書いている。「新潟県が1988年に出した『新潟県史 通史編8 近代3』の「強制連行された朝鮮人」という項を見ると「1939年に始まった労務動員計画は、名称が募集、官斡旋、徴用に変わるが、朝鮮人を強制的に連行した事実は同質」と記されている。毎日新聞は「強制連行はなかったと思いたい日本政府にとって、都合の悪い公的通史であるのは間違いない」と明らかにした。」 

<ハンギョレ新聞22/2/2「佐渡金山世界遺産登録、ユネスコはどんな判断を下すのか」> 

このハンギョレ新聞の記事は、日本を批判するには、やっぱり日本のメディアの助けを借り、日本の研究者の論文に頼るしかないことを明示している。 

ところで、この『新潟県史』4章2節の「強制連行された朝鮮人」を書いたのは佐藤泰治という研究者である。彼が書いた論文には他に「新潟県における朝鮮人労働者・(1)(2)」『新潟県部落史研究』3号(1980年5月)、4号(1981年5月)。「新潟県における朝鮮人・ノート」、「新潟県中津川朝鮮人虐殺事件」『在日人史研究』15号(1985年10月)などがあり、新潟県における在日朝鮮人の研究では有名な人物で、先に示した韓国側の報告書『日本地域の炭鉱・鉱山での朝鮮人強制動員の実態~三菱鉱業佐渡鉱山を中心に』も佐藤の論文に多くを依存し、佐藤から様々な資料・データを提供されている。 

新潟県・新潟市については、朝鮮総連による北朝鮮への帰国運動で在日朝鮮人家族が出国する窓口となり、北朝鮮の貨客船「万景峰号」の寄港地となっていた関係で、朝鮮総連と特殊な関係を持つ人々が多い地域だった。今後、佐渡鉱山の「強制動員」の実態を突き詰めるにあたっては、佐藤泰治や前回紹介した広瀬貞三などの研究者の論文もイデオロギー的な偏向がないかを含めて改めて精査する必要があるだろう。 

<韓国の「騙し討ち」の論理に乗るべきではない> 

ところで、毎日新聞の澤田克己論説委員は「『佐渡金山』は遺恨試合 韓国が怒る真の理由」(サンデー毎日・エコノミストONLINE2/3)という記事で、「今回の推薦はかなり無理筋に見える。今の日本のやり方は、世界遺産委員会での採択をわざわざ難しくしているようなもの」だとして、完全に韓国側の立場に立って日本政府の決定を批判している。 澤田は、佐渡の金山について「日本側は、推薦対象は江戸時代に限ったので朝鮮人労働者とは無関係であり、したがって韓国も本件の当事者ではないという立場を取っている」ことや端島炭鉱など「明治日本の産業革命遺産」の対象年代も「幕末からロンドンで日英博覧会が開催された1910年まで」と区切り、日本が朝鮮を植民地にしたのは1910年だから、それ以前の話だという理屈(をとった)」ことなど上げて、「日本の不誠実な態度」だと批判しているが、驚いたことに、その際、「『強制労働』という言葉そのものにも論点は多いが、今回の本筋とは関係ないので深く立ち入らないことにしたい」と書いていることだ。 

「強制労働」があったか、なかったのかが、日本と韓国の最大の論点であり、まさに「本筋」であるはずなのに、「強制労働」という言葉には論点が多いから深く立ち入らない、というのである。こういう表明こそ、韓国側の立場に立ち、韓国側の罠に嵌まり、彼らの騙し討ちに乗ることになるということを分かっていないのだろうか。

彼らの主張は、「慰安婦」問題でも「徴用工」問題でも、「強制連行」や「強制労働」の具体的な実態やその証拠を何も提示できないくせに、日本統治下の朝鮮人支配はすべて搾取であり、強奪であり、日本統治下の朝鮮人の労働はすべて「強制労働」であり「奴隷労働」だというのが前提となっている。なぜなら「慰安婦」の強制性は「河野談話」が公式に認め、朝鮮人労働者の「強制労働」は端島炭鉱の登録の際に日本政府が「forced labor」だと国際社会に認めたからだ、というのである。いつまで韓国の汚い、卑劣な「騙し討ち」に負け続けるつもりなのか。 

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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