アウシュビッツに近づく「ウイグル絶望収容所」

                                                ウイグルでいま何が起きているか②

習近平は「中国を分断しようとする行為は必ず失敗し、人民の非難と歴史の懲罰を受けるだろう」、「偉大な祖国のわずかの領土でも分割することは許されない。これは中国人共通の信念だ」と強調した(3月20日全人代閉幕演説)。台湾問題を念頭にした発言だが、ここでいう「人民」や「中国人」の中に、台湾人やウイグル人、チベット人、モンゴル人は、少なくともそう自称する人たちは含まれていないはずだ。

このブログでも紹介したように、新疆ウイグルでは史上空前の規模で警察の人員と装備が拡大配備され、最新のデジタル監視システムによって、ウイグル人がどこに行き、誰と話し、パソコンで何を検索し、SNSでどんなやりとりをしたか、すべて監視・追跡されている。そうした監視システムは、すべてのウイグル人は潜在的なテロ容疑者だという前提で機能している。それはつまり自国民に対する扱いではなく、占領した外国領土で異民族を統治するのと変わらない扱いだといえる。

<亡命ウイグル人は100万人、引き裂かれる家族>

中共政府の弾圧を逃れ、海外に亡命したウイグル人は世界14か国に100万人以上いると言われる。国内に残った家族や知人が、そうした海外にいるウイグル人と電話で話しただけで拘束され、収容所に送られるケースが相次いでいる。すべての電話が盗聴され、PCやスマホでのやりとりもすべて監視されているからだ。イスラム教の教理を学びにエジプトに留学していたウイグル人留学生が、中国政府の強い要請を受けたエジプト当局によって拘束され強制的に帰国させられる事件が去年あった。強制帰国させられた留学生数百人のその後の消息が分からなくなっている。家族や友人らは、生きているのか死んでいるのかも分からないという。

ウイグル人にとって最も辛いのは、愛する家族との接触を断ち切り、沈黙のバリアーを築かなければならないことだという。米国に亡命したウイグル人は、何か月ぶりかに故郷の祖父に電話をした。祖父は「この電話はもうすぐ通じなくなる。だからもう電話はするな。私たちのことは心配するな。おまえが元気でいるかぎり私たちも元気だ」と言われたという。この電話のあと祖父は再教育キャンプに送られたと親戚から教えられた。米国に留学中のウイグル人留学生はウルムチに残る妻から「もうすぐ家に警察が来る」というショートメールを受け取った。「だからこれが最後のお別れだ。携帯電話の連絡リストからあなたの名前を消す」とあった。それから一か月後、新疆の公安職員だと名乗る男からスマホ・アプリのWhatsApp にメッセージが入った。「米国でわれわれのためのスパイ活動をしてほしい。イヤだとは言わせない。われわれのために働かなければ、君が望まない他の者のために働くことになる」と脅迫されたという。

(“Thought police create climate of fear in China’s tense Xinjiang region” SCMP記事2017/12/17)

<世界で最も過酷な警察暴力が横行する地域>

新疆ウイグルでは、政治犯や過激思想の持ち主のほか留学生、あるいは単に海外旅行をしたという理由だけで、裁判もなしに強制収容所に送り込まれている。

連行される時は、頭に黒い袋を被さられて連れ去られるのだという。親が「自分の息子はどこに連れて行かれたのか」と警察に聞きにいくと、その親も連行されてしまうそうだ。恐怖でウイグル人は何の声も挙げられない状況になっている。それは海外にいるウイグル人にも及び、家族や親戚・友人とも一切連絡がとれなくなっている。

人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチとアムネスティ・インタナショナルは、中国政府は分裂主義者やテロリストの取締りという名義の下で、数十万人のウイグル人を理由もなく逮捕・拷問し、集団的な洗脳と思想改造のための再教育キャンプに送り込んでいるとし、「新疆は世界でもっとも過酷な警察暴力が横行している地域だ」と批判している。

この強制収容所について、新疆政府は「職業訓練のための適正化センター」あるいは軍事訓練や政治学習を目的にした学校だと説明している。新疆政府がインターネット上に載せた告知文によると、コルラなどの都市では「完全に閉鎖された場所での軍事訓練」が3ヶ月から2年間の予定で始まると予告し、ウイグル人は漢語、法律、民族の団結、愛国心や過激主義を捨てることなどを学び、生活、訓練、学習、食事、睡眠の5つを全員が共同で行う、としている。頭に黒い袋をかぶせて強制的に引っ張っていく場所、そんなものを「学校」と呼べるのだろうか?

最初はウイグル社会に影響力があるインテリ層、作家や芸術家、詩人、歌手などが拘束され次々に連行されるのだという。収容所では1日2食しか与えられない。設計人数を越えて人を収容するから、収容所はどこも満員でぎょうぎゅう詰め。「中国共産党は偉大だ、中華民族は偉大だ」とスローガンを叫ばされ、歌ったり踊らされたりするのだという。

両親が拘束されてキャンプに収容されたため、子供たちだけが取り残され、孤児になるケースも多い。孤児たちを収容するためのキャンプも新たに作られているが、面倒をみる親がいなくなった途端、生きる術を失い、そのまま行方不明になる子供たちもおおいと言われる。

<住民の40%が拘束、街から男の姿が消えた>

日本ウイグル連盟会長のトゥール・ムハメットさんは、強制収容所には現在、150万人にも及ぶウイグル人が収容されていると主張する。一方、中国現代史研究者の水谷尚子氏は、その総数は89万人あまりにのぼるという統計データを入手し、Newsweek日本語版にリポートを発表している。

水谷尚子「ウイグル絶望収容所の収監者数は89万人以上」Newsweek 2018/3/13

この統計データは、トルコ・イスタンブールに在住する亡命ウイグル人組織が「信頼できる現地の公安筋から入手した」として、彼らが運営するインターネットテレビ『イステクラルTV』で2月14日に公表したものだ。いつの時点のデータかは分からないが、この表を見て明らかなのは、ウイグル人の人口比率が高いカシュガルやホータンなど新疆南部で拘束者が多く、たとえばカシュガル地区ではウイグル人総数の7%にあたる24万人、ホータン地区では同じく15%にあたる31万人が収容されている。収容者の8割にあたる69万人は、ウイグル人が密集する地域の出身者であることがわかる。さらにこの表からは、ウイグル人だけではなく、カザフ人やキルギス人、タタール人といった非漢族の人たちも多くが収容されていることが分かる。再教育キャンプに男たちが集められた結果、街から男たちの姿がほとんど見られなくなった地域もあると言われるが、確かにこの表でアクチ県を見ると、44,656人の総人口に対して、収容者は18,432人にのぼり、41%もの人が街から消えたことになる。

2016年8月、新疆ウイグル自治区の党書記として陳全国が着任して以降、ウイグル人に対する弾圧のレベルは高まり、その手段も強硬になったといわれる。陳全国は前任地のチベットでも再教育キャンプを試しており、チベット人に対して行った弾圧の手段を新疆にも持ち込んだのだ。陳全国は、ウイグル人の分離独立主義者はテロ攻撃でこれまで数百人の命を奪ったと非難し、「人民戦争の大海のなかでテロリストは必ず葬り去る」と宣言している。

こうした強硬方針の一方で、融和策の一環として、新疆では政府機関に務める公務員が地元のウイグル人の家庭に入り、「民族の団結」を育てるための交流を行うよう奨励されている。漢族とウイグル人が親戚関係をつくるという意味で「結対子」と呼ばれる政策で、2,3年前から始まっているとされる。漢族の幹部もウイグル語を習得するため、毎月、ウイグル語を学習する講座が開かれている。政府機関の職員は全員がウイグル人の家庭に1週間滞在し、一家に思想教育を行い、過激主義を捨てるよう説得するよう求められている。しかし、ウイグル人にとっては、赤の他人に土足で踏み込まれるのと同じで、決していい気分ではないだろう。

<「中国の宣戦布告に対してウイグル人は立ち上がる」>

ウイグル民族運動指導者のラディア・カディール女史は2018年2月、15回目となる来日に合わせて東京で講演、強制収容所の実態を訴え世界の支援を求めた。200人近くの市民で埋まった会場で立ち見も出るほどの聴衆を前に、カディール女史は以下のような激越な演説を行なった。講演の全容は以下の動画で確認できる。

ウイグル民族運動指導者ラビヤ・カディール女史訪日講演会)https://www.youtube.com/watch?v=dMX_s23HOP4&feature=youtu.be&app=desktop

「中国はすでに人類の道徳の基準に挑戦し、イスラム聖職者を迫害し、クルアーン(コーラン)を読んでいる人を殺し、このこと自体でもうすでにイスラム世界に宣戦布告している。しかし不思議でならないのは、世界のどこかでクルアーンがたった一冊焼かれただけでもイスラム教徒は抗議デモするのに、ウイグルでは100万冊が焼かれてもイスラム社会は黙っていることだ。

皆さん考えてみてください。ウイグル人は100万人単位で虐殺されているにも関わらず、世界の人は引き続き中国とビジネスをしている。私たちが国際社会に訴えていることは、各国に本当に自由で民主的な議会があれば、中国にただちに虐殺をやめるように声明や決議を出してもらうことだ。国際的なメディアは、東トルキスタン(新疆)に行くべきなのだ。最大のニュースはいまそこで発生している。それをしないジャーナリズムとはいったい何のためのジャーナリズムなのか?ウイグルでは大勢の子供たちが殺されているのに、子供の人権を守る団体は何をしているのか。日本と世界の皆さんに呼びかけたい。中国のウイグル人に対する収容キャンプ、ファシスト的なキャンプを直ちに閉鎖するよう自分たちの議員に呼びかけて欲しい。このまま虐殺が続けば、ウイグル人は3年以内には地球上からいなくなるかもしれない。この21世紀の社会で、どこの国が100万人単位の人間をキャンプに収容することができるのか。この世界の人道とはいったいどこに消えたか。中国共産党の下で苦しんでいる中国人も本来はウイグル人のために戦うべきなのだ。彼らの未来は、われわれの現在なのだから。」

「いま必要なのは、ウイグル民族の命をいかに永らえさせるか、生存させるかということだ。中国で失われた人権を取り戻すのは自分たちでしかない。中国人のいうことを聞けば、生き残れると考えるのは浅はかだ。中国はいま、中国と仲良くしたいというウイグル人を選んで殺している。だからすべてのウイグル人たちは今、戦わなければ生存はないと考えている。ウイグル人はまったく武器を持っていない。武器をもたない民族を殺すのだから、ウイグル人は立ち上がり、自分たちを守るために、あらゆる手段を使って戦うことに決めた。中国のわれわれに対する虐殺は、われわれにどんな手段でも使えるという道を開かせてくれた。 私たちは世界の平和のため、自分たちに生存のために戦い続けます。」

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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