この30年間で最大規模の公安スパイ事件
いま韓国では、北朝鮮と繋がりがあるとされる秘密地下組織が摘発され、ここ最近では最大規模の公安スパイ事件として騒がれている。
国家保安法違反事件として韓国の情報機関「国家情報院」と警察に摘発されたのは、慶尚南道昌原(チャンウォン)に拠点を置く「自主統一民衆前衛」という地下組織や、済州島や忠清北道などのリベラル政党と関係がある活動家の組織で、去年11月以来、全国各地の関係先に対する家宅捜索が行われ、メンバー20人ほどが捜査対象だといわれる。
また1月18日には、韓国最大の労働組合「全国民主労働組合総連盟(民主労総)」の幹部4人に対する国家保安法違反容疑で、ソウル市内にある民主労総の本部など4か所の家宅捜索が一斉におこなわれた。その際、家宅捜索を阻止するために集まった労組員が本部前で機動隊とにらみ合い、衝突まで発生している。
最新のデジタル暗号技術などを駆使
国家情報院の調べによると、これらの地下組織の活動家や労働団体幹部らは、カンボジアやベトナムに旅行し、そこで朝鮮労働党偵察総局の下にある「文化交流局」(旧225局)に所属する工作員と接触していたとされる。
また北朝鮮側と情報の受け渡しをする際には、写真や音楽などのデジタルデータの中に別の情報を埋め込んで隠蔽するステガノグラフィ(steganography)と呼ばれる暗号化プログラムを使っていたほか、インターネット上にサイバードボーク(Cyber Dvoke)と呼ばれる、いわば秘密の「隠し金庫」を用意するなどして、そこで情報の受け渡しを行っていたという。
また、昔ながらの「乱数表」を使った情報のやりとりも行われていたとされ、国家情報院がそうした手段で交わされた通信の中身を分析したところ、尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権に退陣を迫るために新たな「ろうそく集会」を開催することや、選挙への介入、「親日積弊」政策を糾弾することなどの指示が出されていたという。
国会議員の補佐官として潜り込んだスパイも
秘密地下組織のメンバーは、労働団体や農業団体などに浸透して活動していたほか、驚くことにそのうちの1人は現職国会議員の「4級補佐官」を務めていたことが分かった。
韓国のユーチューブチャンネル「カロセロ研究所」が12日に伝えたところによると、その国会議員とは慰安婦支援団体の「挺対協」(韓国挺身隊問題協議会)の代表を長く務めていた尹美香(ユン・ミヒャン)氏のことで、問題の補佐官は2016年から挺対協傘下の「金福童(キム・ボクトン)の希望」という組織の運営委員を務め、尹美香氏が国会議員に当選した2020年から2年間は、その補佐官を務めていた。
「金福童の希望」とは、元慰安婦の故・金福童氏の名前をとった奨学金基金で、主に在日コリアンの子弟たちに奨学金が贈られている。
北朝鮮と繋がりのある地下組織の活動家が、韓国国会の中を自由に動き回っていたほか、在日コリアンへ奨学金を支給する基金を使って、日本にも活動の場を広げていたことも考えられる。
話はそれるが、いま日本のネット上で大きな話題になっているColaboの仁藤夢乃氏は生前の金福童氏と親しく交流し、その考え方などさまざまな影響を受けたことを仁藤氏自身がSNSで明かしている。
左派政権で捜査が打ち切られたスパイ事件
実は、今回の国家情報院によるスパイ組織摘発の公安捜査は、10年前の2013年から始まっていたもので、2016年7月には、メンバーらがカンボジアのアンコールワットで北朝鮮の工作員と接触した証拠をつかんでいたとされる。
しかし、2017年に文在寅(ムン・ジェイン)政権になったあと、南北交流が進んだことを受けて国家情報院の対北朝鮮スパイに対する捜査機能は縮小され、今回の一連の捜査は途中で打ち切りを迫られていた。
政権交代で尹錫悦政権が誕生したあと、国家情報院の幹部全員の総入れ替えが行われたことで、ようやく捜査が再開されることになったという。
「指令」通りに現政権批判のろうそく集会
ところで、北朝鮮の指令にもあった尹錫悦大統領の早期退陣を求めるろうそく集会は「キャンドル行動」と名づけられて、去年の8月からは毎週土曜日に、去年10月からは月1回、全国から数万人の市民がソウルに集まって行われている。
14日におこなわれたろうそく集会では、スパイ組織摘発について、「歴代独裁政権が民主派人士を弾圧したように、尹政権も国家保安法を動員し政権危機から免れようとしている」と批判し、「尹錫悦を必ず退陣させ、今年を尹錫悦の退陣元年にしよう」と気勢を上げた。
分断国家という複雑な状況にあるとはいえ、選挙で選ばれた政権を力づくで倒そうと陰謀をはかる勢力がいまだに暗躍する不思議な国でもある。
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