日本と台湾が置かれた緊密な位置関係を示す象徴的な出来事があった。
この3月に台湾の30代男性が、はしかに感染し発熱した状態で沖縄を訪れ2泊3日の旅行をした。沖縄までの飛行機のなかで客室乗務員2人に感染させたほか、沖縄でこの男性に接触した8人に2次感染が広がり、男性が沖縄に入ってからちょうど1か月の4月16日の時点で、あわせて52人のはしかの感染者が見つかっている。2次感染した客室乗務員は、発疹が出ているにも関わらず、3月末までに台湾と大阪、台湾と成田を結ぶ国際線2往復に乗務していた。4月初め沖縄を旅行した埼玉県の男子高校生も感染し、発症が確認されるまでの間に埼玉から名古屋まで新幹線で移動し、受診した名古屋の病院では看護師や同じ病院を訪れた中学生2人にも感染を広げていたことが分かった。
国立感染症研究所によると、感染者1人から2次感染が発生する平均人数は、インフルエンザが1〜2人、おたふく風邪が4〜7人に感染を広げるのに対し、はしかの2次感染者は12〜18人に及ぶという。たかがはしかと侮ることはできない恐るべき感染力である。
http://www.nanigoto.net/entry/2018/04/17/095014
実はこうした感染症に対応するうえで、台湾は国際的な医療ネットワークから外れ、空白域になっている。台湾で何か感染症が発生した場合、その情報を周辺国や国際社会に直ちに伝える手段がなく、台湾以外の国・地域でパンデミック(爆発的感染)が発生した場合も、台湾にその情報を伝えるルートがないのだ。
なぜならこうした感染症情報を各国とやり取りしているWHO世界保健機関に台湾は加盟していないからだ。正確には、台湾はオブザーバー資格でもいいので参加したいと要望しているのに対し、中国が強硬に反対し台湾を排除しているからだ。ことし5月21日にはWHOの年次総会がジュネーブで開催されるが、去年に続いてことしも台湾には招待状が届いていない。米国の対台湾窓口機関「米国在台湾協会(AIT)」が台湾のオブザーバー参加を支持する声明を出し、日本の超党派の国会議員でつくる「日華議員懇談会」が同じくこれを支持する決議を出しても、台湾を国際社会から締め出し孤立化させる工作に専念する中国の態度を変えさせるまでには至っていない。
2003年香港を中心に感染が拡大したSARS(重症急性呼吸器症候群)の時も、SARSに感染した台湾の医者が京都など日本国内を旅行し、感染者が一人もいなかった日本は天地をひっくり返すほどの大騒ぎになったことがある。その当時から台湾のWHO未加盟問題は、日本など近隣国にとっては国民の生命と健康に直結する死活問題だと指摘されてきた。人類文明の発展に逆行し、世界の利益に反する中国の横暴を、いつまで許しているのだろうか。
日本では、モリカケ問題ばかりに国会審議が費やされ、文書改ざん・セクハラ疑惑に揺れる財務省問題の影に隠れて、大きく報道されることはなかったが、この間、台湾周辺で軍事威嚇を強める中国軍の動きは異常だった。4月12日、海南島三亜沖の南シナ海で、空母遼寧など艦艇48隻、航空機76機、将兵1万人が参加して、「史上最大規模」だという観艦式が習近平の観閲のもと行われた。その後、台湾海峡では各種の軍事演習が同時並行で行われた。4月18日から20日まで3日連続で、戦闘機や爆撃機、偵察機などの空軍の編隊が台湾を周回する飛行を行ったほか、福建省沖では、陸軍航空隊所属の攻撃ヘリ部隊が、実弾射撃訓練を実施し、海上の模擬艦船などの目標にミサイルやロケット弾による攻撃を行った。この実弾演習は、昼夜15時間にわたって行われ、全天候型攻撃が可能であることを見せつけた。一方、遼寧など空母艦隊はバシー海峡を抜けて台湾の東の太平洋を北上し、宮古島と沖縄本島の間を通過するルートで航行した。途中20日には、台湾東部の海上で、空母遼寧から戦闘機を発進させる発着艦訓練を行うのが初めて目撃された。空と海から自衛隊が監視するなかで行われた示威行動だった。対中国正面の台湾西側とは違って、山脈で隔てられた台湾東部は、後方支援機能や地下トンネルに隠された滑走路など緒戦の損害を避けるための「戦力保存基地」が置かれているといわれ、台湾の国防にとっては最後の砦、あるいはアキレス腱ともいえる場所だが、その目と鼻のさきで行われた空母艦載機の発着艦訓練は、台湾に対するあからさまな恫喝にも等しいと言えた。
終身独裁制に道を開き、全体主義的強権支配を強める習近平は、自ら掲げた「中国の夢」「中華民族の復興」という目標実現のため、台湾回収の野望を簡単に口にするようになり、武力統一も視野に入れているといわれる。アジアのなかで最も民主的で透明な選挙制度を実践し、なに不自由なく市民の権利を行使し、平和な暮らしを営む台湾の人々が、なぜ習近平ごときの暗くてみじめな独裁政治の犠牲にならなければいけないのか。
台湾の人々は、中国の軍事威嚇に屈するような人たちではないことを知るべきだ。台湾の39歳以下の若者を対象にした最新の世論調査によれば、「中国が武力で統一を迫る状況が生じた場合、台湾のために戦う」と回答した人は70%に上ったという。台湾では軍の徴兵制が廃止され、志願制へと移行したが、志願者不足で軍の人材難の問題が指摘されていたなかで、有事の際には台湾防衛のために立ち上がる意思を示す若者がかなりを占めたことがわかる。同じ調査では、台湾の独立を支持する人は23.5%、現状維持が65.5%を占めた一方、中台統一を支持する人は10.4%だった。9割に及ぶ台湾人が中国との統一に反対を表明しているのである。そうした民意を無視し、武力でねじ伏せようという侵略行為が、この21世紀の市民社会で許されて良いはずがない。
(Recrd China「中国の武力侵攻なら若者の7割が軍に志願、世論調査で明らかに―台湾」)
http://www.recordchina.co.jp/b590454-s0-c10.html
トランプ政権下の米国は台湾との関係で著しい進展がみられる。3月には、米国と台湾の高官の相互往来を解禁する「台湾旅行法」がトランプ大統領の署名によって成立した。台北市内に新たに建設された米国在台湾協会(AIT)台北事務所が6月12日にオープンする。このオープニングセレモニーに新任のボルトン大統領補佐官が出席するという話が香港の新聞で伝えら、米国が派遣する高官に注目が集まっている。
日本にとっても台湾が中国に奪われるということは、まさに日本の生命線ライフラインを失なうことを意味する。日本と台湾は、同じ海洋国家として自由、民主、法の支配などの同じ価値観を共有し、「自由で開かれたインド太平洋戦略」をともに実行する同盟関係ともいうべき存在でもある。
去年3月、「日本台湾交流協会」が主催して台北で開いたイベントに赤間二郎総務副大臣が出席し、日本の食品や日本酒、工芸品や観光地の紹介を行った。日台断交後、台湾を訪問した日本の最高位の現職閣僚となった。こうした日台間の交流・往来は、さまざまな分野、あらゆるレベルで拡大し、高度化していく必要がある。ビジネス・経済分野の交流は当たり前のことだが、次は、台湾のTPP参加や経済連携協定に向けて日本政府は積極的に取り組んでいくべきだ。観光、学術、文化などの交流イベントには、東京都など自治体レベルも含めて互いの官僚や政治家が参加する機会をもっと増やすべきだ。さらに地震や台風などの自然災害や海難事故、感染症や大規模テロの発生時に即時に対応できる救難・救援体制を恒常的に整備するために、関係部門の連携強化を図るべきだ。本当は、米国と同じような「台湾関係法」を日本も独自に制定し、台湾を孤立させず、つねに支援しているという姿勢を内外に示すべきだと思うが、それが無理なら、たとえば国民の有志が民間レベルで「日台共同防衛」を宣言し、台湾への中国の武力行使に反対する姿勢を鮮明にしてもいいかもしれない。
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