安重根を「英雄」と称賛する限り、日韓の和解は成立し得ない①

韓国で、安重根(アン・ジュングン)をテーマにした『英雄』というミュージカル映画が、去年12月21日の封切りから37日目で観客300万人を突破し、ヒットしているという。<KBSニュース1月28日

安重根とは1909年10月26日、中国ハルビンの駅構内で伊藤博文を銃撃した暗殺犯だが、韓国では「義士(ウィサ)」と呼ばれ、その行為を「義挙(ウィゴ)」と称し、「民族の英雄」として扱われている。

民族感情に訴え“魂を揺さぶる”映画

映画は、事件から100周年の2009年に初演された同名のミュージカルが原作となっていて、映画の冒頭で、安重根が仲間を誘って「断指同盟」をつくり、薬指を切断して血書をしたためる場面の合唱シーンや、母親が死刑判決に控訴するのは日本に命乞いをすることだから死刑を受け入れろと手紙を書く、その母が歌う場面は、見る人を涙させずにはおかない映画のハイライト場面だそうだが、そうした魂を揺さぶるような合唱・歌唱シーンが次々と展開される。

つまり史実がどうだったかよりも、見る人の感情に訴えるための作り物、演出が重視された映画でもある。この映画のポスターには「私はテロリストではない。大韓民国独立軍の隊長だ」と書かれているが、1909年当時はまだ大韓帝国時代で「大韓民国」も「独立軍」も存在しない。安重根が実際に裁判で名乗ったのは「大韓義軍の参謀中将」という肩書きだが、その大韓義軍に資金を提供していたのは大韓帝国初代皇帝だった高宗だったともいわれる。いったい何からの独立だったのか?

「テロリスト」と言われることへの韓国の反発

韓国では、安重根が「テロリスト」だと呼ばれること、とりわけ日本人からそう言われることには反発が強いようだ。

日本のネットユーザーが「安重根はテロリストだ」とコメントしたのに対して、「旭日旗は“戦犯旗”」と言い張る例の徐ギョン徳教授は「日本のこうした反応はちゃんとした歴史教育を受けていないため」とし「日本政府が正しい歴史教育を施す必要がある」と主張する。その上で「KドラマやK映画が全世界で注目されているので、日本はこうした映画を通じて自分たちの歴史的過ちが全世界に思いっきり顕わになることが恐れているようだ」とし、「日本の歴史歪曲に対応するためには、今後、Kコンテンツを活用した積極的な広報がさらに必要だ」と強調している。

中央日報23/1/2「安重根義士をテロリストと言う日本のネットユーザーに徐ギョン徳教授『歴史教育を受けていないため』」

「正しい歴史教育」をしていないのは、どちらなのか。徐教授の主張は、要するにK映画やKドラマという“作り物”=フィクションを利用して、韓国に有利な「歴史」を創作し、日本を貶めるためなら、虚偽や創作でも手段は選ばない、と宣言しているようにも聞こえる。

しかし、安重根の行為は、そこにいかに崇高な理念や目的があったとしても、暴力ではなく言論や表現の自由を通じて民主主義社会を実現するという近代市民社会の理念とは相容れず、韓国以外の国では間違いなく「テロリスト」の範疇に入る人物だ。

安重根をテーマに次々創作される映画や小説

ところで、安重根をテーマにした映画は、ほかにも今年公開予定の『ハルビン』があり、この映画の安重根役には、ドラマ「愛の不時着」などで主演したイケメン男優ヒョンビンが務めるということで早くも話題になっているという。

映画『ハルビン』の完成を予告するホームページには、シノプシス(概要)として「1909年、祖国から離れたハルビンで大日本帝国に奪われた大韓帝国を取り戻すために命をかけた独立闘士たちの物語を描いたスパイアクション大作」とある。

安重根と「スパイ」がどう関係するのかは分からないが、「スパイアクション大作」と銘打っているので、映画が多くの観客を引き込み、興行的に成功することは見込んだ、エンタメ作品の雰囲気が早くも濃厚である。

この映画の原作というわけではないが、同じく安重根をテーマに去年出版されベストセラーになったという本がある。歴史小説家として知られるキム・フンによる同名の『ハルビン』という小説だが、この小説も史実がどうだったかというよりも、こうした事件を起した歴史上の人物を等身大の人間として扱い、その内面を想像して描いた完全なフィクションなのだという。

安重根をテーマにした小説と言えば、2014年8月、韓国の小説家キム・ジョンヒョンが発表した『安重根、安倍を撃つ』という小説があり、当時のベストセラーだといわれる。

小説は、安重根が現代にタイムスリップして狙撃手・スナイパーとなり、当時、第2次安倍政権として返り咲いた安倍首相を狙撃するという、安倍氏の最期を予告するような、とんでもない内容だった。

J-CASTニュース2014/8/25「荒唐無稽、安倍首相の暗殺小説が韓国で大人気 韓国の英雄、安重根が現代に蘇り、スナイパーに」

韓国は異様な「テロ礼賛国家」か

こうして見てくると、安重根は李舜臣と同じく数多くの小説や映画の素材として使われる、韓国における数少ない民族の英雄だが、こうした人物を無条件で礼賛するしかない韓国は、「テロ礼賛国家」という異様な国であり、虚偽の歴史をつくり教える国と言われても仕方ない側面を持っている。

安重根という人物を描くには、歴史的事実やその背景はどうでもよく、安重根はなぜ伊藤博文を暗殺したのか?伊藤博文とはどういう人物だったのか?その当時の韓国の状況、韓国と日本の関係、さらに韓国を取り巻く世界の情勢はどうだったのか?など、俯瞰的、国際的な視点で歴史の真実を見つめ、理解しようという姿勢や態度は、どの制作者にも、またそれを享受する観客側にも、まったく見受けられない。あるいはそんなものは初めから必要ない、関係ないと韓国人は思っているのかもしれない。なぜなら「民族の英雄」として神聖不可侵の地位は揺るがないからだ。(続く)

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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