自分たちの主張に合わない報道は、すべてフェイクだという韓国

日韓首脳会談をめぐる一連の報道では、韓国メディアのレベルの低さを改めて知ることになった。レベルの低さというより、もはやジャーナリズムの体をなしていないという程のむごたらしさだ。

朝鮮日報日本語版3月25日のコラム「ついにホヤまで飛び出した…品格を失った日本メディアの報道」や中央日報日本語版3月23日の「日本メディア『ホヤ輸入要請、撮影制止』…韓国大統領室『ホヤという言葉出なかった』」などがその典型である。

フェイクだという前に、なぜ「裏取り」しないのか

日韓首脳会談で来日した尹大統領と日本の政界関係者との間で交わされた会話のなかに、日本側から宮城県沖の海で採れるホヤの韓国への輸入再開について要請があったと日本メディアが報じたことについて、韓国外務省がそんな話は出なかったと否定したとし、だから日本の報道はフェイクであり、「フェイクを垂れ流す日本のメディアは完全に品格を失った」と一方的に批判したのである。

問題の日本側の記事は、毎日新聞3月22日の古賀攻専門編集委員が書いたコラム「微妙な日韓の温度差」だが、それによると、韓国側に対しホヤの輸入再開を要請したのは日韓議員連盟の額賀福志郎会長であり、日韓首脳会談の翌日17日のことだった。毎日新聞の古賀氏は、尹大統領と会談した額賀氏本人や同席した日韓議員連盟の議員に直接話を聞くか、あるいは同僚の政治部記者の取材メモにしたがってこの記事を書いたものと思われる。ところが、朝鮮日報や中央日報は、この毎日新聞の記事を最初からフェイク記事だと断定して引用しているのである。しかし、ジャーナリストなら、引用する記事の中身をフェイク、誤報だと疑うより先に、取材対象者となった額賀氏やその周辺に接触して、本当にそういう発言をしたのかどうかを確かめるほうが先であろう。

この記事の内容を韓国外務省が「そんな話は出なかった」と頭ごなしに否定しているからという理由だけで、毎日新聞の記事を誤報だ、フェイク記事だと断定するのは、朝鮮日報や中央日報がもはや単なる「政府広報紙」に堕落したことを意味している。当事者の一方的な主張だけを聞いて記事にするのではなく、相手方の主張や第三者の証言も取材して「裏を取る」=確認する、というのは取材の鉄則であり、そうした「裏取り」取材の必要性は「真実」に迫るには絶対に必要な取材のイロハだと、新米記者なら最初に教えられることだ。

自分たちで騒ぎを大きくし自らの首を絞める韓国

日本人には、単なるホヤの話で、どうして「フェイク記事」呼ばわりまでして大騒ぎしなければならないのか、不思議に思うだろう。しかし、福島第一原発から出る処理水の海洋放出問題は、韓国では韓国人の食卓が今すぐにも放射能汚染されるかもしれない深刻な健康問題だと認識され、東北沿岸で採れたホヤを韓国に輸入することなど死んでも受け入れられないからだ。東日本大震災以前は、宮城県沖で採れたホヤの70%は韓国に輸出され、キムチの原料などに使われていたにも関わらず、いまではホヤは恐怖の対象になっている。

処理水の海洋放出問題が、韓国では韓国人の食生活に直結する極限の環境問題として議論され、ここまで極大化したのは、それこそ韓国内の原発から毎年放出されるトリチウムの量が、福島原発に貯まっているトリチウム量を上回るという科学的データを無視し、ただ恐怖だけを煽る韓国メディアの非科学的で感情的な報道の影響だというのは明らかだ。

反日感情を煽るプロパガンダは北朝鮮の指示だった

さらに最近、明らかになったのは、韓国検察に摘発された北朝鮮のスパイ組織網の捜査を通じて、北朝鮮工作員とひそかに接触し連絡を取りあっていたスパイ組織「自主統一民衆前衛(自統)」のメンバーが、北朝鮮から「反日感情」をあおって闘争せよという指令を受けていたという事実である。

それによるとスパイ組織の「世論流布チーム」は、「福島沖で怪魚出現、奇形児出生といったデマをインターネットで大量にばらまき、社会的反感と不安感を増幅させよ」など、「反日感情」を刺激するよう具体的な指令を受けていたという。

朝鮮日報3月24日「北朝鮮『福島沖に怪魚出現、奇形児出生デマを流せ』…韓国内のスパイ組織に反日感情刺激を指示」

いずれにしても、自らを映し出して極限まで大きくした自分の陰影に、自ら震えて恐れおののいている姿といっていい。

今回の日韓首脳会談は、国際会議を除き、互いの国を訪問しての単独会談としては、野田首相と李明博大統領による2011年12月の会談以来、12年ぶりのことだ。2011年といえば、その年3月の東日本大震災で、日本は苦悩にうち沈んでいたときだが、台湾の人々から寄せられた暖かい言葉や義援金の記憶は鮮やかにあるが、韓国からは「大津波をお祝いします」「日本沈没を期待する」などという数多くの心ない言葉を投げつけられた記憶や、いまだに続く東日本8県の農水産物の輸入禁止措置や、福島処理水の風評被害を助長するためだけの非道な仕打ちしか思いつかない。

竹島問題を取り上げただけで「誤報」だと断じる

岸田首相と尹大統領による12年ぶりの首脳会談や政界関係者などとの会談で、この間に日韓の間で懸案となったさまざまな課題が議論の俎上にあがったことは容易に予想できる。

何しろ朴槿恵・文在寅政権時代には正式会談すらなく、この間に日韓間には、解決を要する新たな課題が次々に生まれては積み上がっていった。いったんは合意したもののその後、文政権が破棄した慰安婦問題のように、解決どころから深刻さが増すだけで、それにも関わらず手つかずのまま放置されてきた。

それなのに、日韓首脳会議では竹島問題や水産物輸入問題も議題に上ったと日本メディアが報道したことに対して、韓国左派系野党は強い反発を示し「屈辱外交」や「亡国外交」だと批判しているほか、韓国メディアからも竹島問題などが首脳会談の議論に上がったこと自体を否定し、そうした日本の報道を「誤報」だと断じているのだ。

例えば中央日報3月22日の「『独島発言』の真実…誤訳、尹政府の誤判断、韓国野党の歪曲」では、日韓首脳による共同記者会見直後に行われた木原誠二官房副長官のブリーフィングで、「日韓関係全般について議論するなかで、総理からは日韓間の諸懸案についてもしっかり取り組んでいきたいという趣旨を述べた。この諸懸案の中には竹島の問題も含まれる。加えて慰安婦の問題も、総理からは日韓合意の着実な履行を求めた。レーダーは我が国の立ち場に基づいて発言を総理からした。(水産物輸入規制問題)これについても総理から、我々の立ち場から言及した」と述べて、諸懸案の議題の中に竹島の問題が含まれたと明らかにし、しかもこの記者会見の席には中央日報の記者もいたにも関わらず、これを誤報としたのである。

自分たちに都合の悪いことはすべてフェイク

これについて大統領室関係者は韓国メディアに対し「根拠もなくとりあえず報じておきながら、事実でないことが明らかになればいつの間にか姿が見えなくなるのが日本メディアの形態だ。全く根拠がないか、歪曲(わいきょく)された報道が出てくることに対して遺憾を表し、再発防止を求めた」としている。(同上3月22日付中央日報記事)

さらに、韓国最大野党共に民主党の幹部は、「日本の公営放送をはじめとする諸メディアが、韓日首脳会談で『独島(トクト)問題への言及があった』と主張している。これは韓国憲法の規定する大韓民国の領土をフェイクニュースで侵略したのと同じだ」とし、日本メディアの韓日首脳会談報道について、「大韓民国の国会議員の共同名義で抗議声明を発表しよう」と提起したという。

ハンギョレ新聞3月24日「韓国野党、日本の独島虚偽報道に『共同抗議声明』を提案…与党、受け入れ意思は」

考えてみれば竹島問題は、日韓の間に横たわる最大の主権問題であり、領有権問題である。日韓の首脳が顔をつき合わせて話をするとなったら、真っ先に取り上げる問題であることは当然だ。それを首脳会談で日本側から竹島問題を取り上げたことをもって、「屈辱外交」だとか「亡国外交」だとか言って大騒ぎする韓国人の感情は、自分を取り巻く国際情勢については何も考えず、自分たちの論理だけで済ませばそれで満足という、まさに「井の中の蛙」状態であることを示している。その馬鹿さ加減を、この国の人たちはいつになったら気づくのだろうか?

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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