イラン「斬首作戦」の裏にあった「天網恢々疎にして漏らさず」

<明らかになったハメネイ師ピンポイント暗殺計画の全貌>

2月28日朝(日本時間午後5時)、米国とイスラエルの連合軍はイランの最高指導者アリ・ハメネイ師に対するピンポイントでの暗殺作戦を実行し、同時に革命防衛隊の総司令官や国防相など最高指導部の幹部多数を殺害した。

讀賣新聞3月3日の記事<イスラエル軍「40秒で最も重要な40人殺害」…ハメネイ師狙った作戦を自賛「見つけ出せない場所ない」>によると、「イスラエル軍のシュロミ・ビンダー情報局長は、イランに対する攻撃について、『我々は40秒間で、イランで最も重要な40人以上を殺害した』と自賛し、『我々が見つけ出せない場所はない』と豪語した」という。

同じく讀賣新聞3月5日付の記事<ハメネイ師殺害に諜報網を駆使、イラン国内の監視カメラに数年前から「侵入」…決行直前には通信基地局に妨害工作>によると、「イランの最高指導者ハメネイ師の殺害を巡り、米国とイスラエルが諜報網を駆使してイラン側の動きを監視していた実態が、欧米メディアの報道で浮かび上がってきた。イラン国内の監視カメラへのハッキングや通信傍受で得た情報を蓄積し、ハメネイ師らの所在地特定の精度を高めていた」という。

英紙フィナンシャル・タイムズや米CNNの報道などを総合すると、以下のような作戦経過がわかる。イスラエルの情報機関モサドは数年前からテヘランの交通監視システムをハッキングし、ハメネイ氏や政府高官らの動きを秘密裡に監視していた。市内ほぼ全域の交通カメラのアクセス権を掌握し、映像を絶えず自国のサーバーへ転送していた。イスラエルは取得した膨大な映像をソーシャルネットワーク分析で処理し、数十億のデータから警備担当者の住所や通勤ルートなどの詳細な行動プロファイルを作成した。イスラエルのある情報将校は「エルサレムと同じぐらいテランを熟知している」と豪語するほど、完璧な監視体制が築かれていた。

<「壮大な怒り」作戦は交通監視システムのハッキングが始まりだった>

圧倒的な情報の優意性を確保した上で、2月28日、ついに決定的な打撃が実行された。

攻撃決行の直前には、ハメネイ師との会議に高官らが向かっている動きを察知したのに加え、米中央情報局(CIA)も、情報源を通じて会議開催を裏付けた。リアルタイムのカメラ映像と携帯の電波信号を照合して、会議の時間と場所を正確に特定すると、まずアメリカのサイバー部隊がイランの通信や監視システムを麻痺させ、周辺地域のGPSを混乱に落とし入れた。さらにイスラエルが会議開催地付近の携帯電話基地局に電波妨害を行い、警護要員に電話がかかっても通話中かのように装い、要員に連絡できないようにした。

そしてイスラエル軍の戦闘機が標的に向けて最大30発の精密誘導爆弾を投下した。イスラエル軍の情報局長が「40秒間でイランで最も重要な40人以上を殺害した」というのは、まさにこの瞬間だった。数時間後、瓦礫の中からハメネイ氏の遺体が発見され、それを映した写真は直ちにトランプ大統領やイスラエル首相の手に渡った。

こうした一連の諜報活動を担ったのは、イスラエルでは軍のサイバー精鋭集団「8200部隊」や対外情報機関モサドなどだったという。また米国にとっては、ベネズエラのマドゥロ大統領逮捕に続いて、いわゆる「斬首作戦」の作戦計画の立案能力、その遂行能力の高さ、デジタル情報の収集・分析を含めた諜報インテリジェンス工作の精度の高さを見せつけた上に、相手国の防空網を無力化しB-2爆撃機による圧倒的な量の爆弾投下能力、軍事施設を正確に狙ったミサイルの精密な打撃能力、そしてスリランカ沖でイラン海軍の駆逐艦を爆破沈没させた第2次大戦以降初めてという潜水艦による魚雷攻撃まで、まさに世界で唯一無二の軍事力とその戦闘能力を世界に見せつけることになった。

今度の作戦名を米国戦争省は「OPERATION EPIC FURY」(壮大な怒り作戦)と名付けた。epicといったら、「英雄の冒険譚や民族の歴史を描いた長編詩、叙事詩的物語・事件」といった意味があるが、後世の人々には、今回の作戦が、時代を画した雄壮な物語として記憶に残ることになるのだろうか?ちなみにベネズエラのマドゥロ大統領を拘束した際の作戦名は「Operation Absolute Resolve」(絶対的な解決作戦)だった。

<中国製の防空網や監視システムの脆弱性を露呈?>

ところで、今回、米国とイスラエルによるハメネイ氏の暗殺作戦を成功に導き、世界を震撼させた攻撃の裏には、イランが長年、中国の支援を受けて構築してきた交通監視システムや防空網システムがあったという事実を世界が知ることとなった。防空システムは、ベネズエラも同様に中国の設備を導入し、同じく米軍の侵攻で一瞬のうちに無力化された。米中央軍の発表では、今回の作戦でも攻撃開始直後にイランの防空システムの80%が破壊されたという。攻撃に弱く、一瞬で破壊される中国製防空システムの存在が証明されたのである。

また、交通監視システムや街中に張り巡らされたCCTVカメラも、中国の支援を受け、中国製のネットワークシステムで構築されたものだ。中国国内と同様に、本来は自国民を監視するためだけの巨大なシステムだが、そのネットワークが敵への致命的な情報漏洩につながり、ハメネイ氏の死を招くという皮肉な結果となった。このことに一番のショックを受けているのは、中国の習近平政権であるのは間違いない。

以下の論述は、Youtubeチャンネル『看中国』(ビジョンタイムス・ジャパン)3月5日の「習政権も震撼?イラン指導者の命を奪った『監視システムの罠』」を参考にした。

それによると、米国在住のIT専門家で法輪功系のメディアで活躍する評論家・章天亮氏は、今回の作戦を「戦争の革命」と位置づけ、現代戦における決定的な技術的優位性が、従来の軍事における火力の規模から、データの掌握、アルゴリズムによるモデリング、そしてサイバー空間への浸透能力へと完全にシフトしたと指摘する。電子的な制圧作戦モデルにより、イランの反撃能力は大幅に削がれ、意思決定の全プロセスが、AIアルゴリズムによって導き出され、かつては人間の手で数か月を要した情報分析が、今やわずか数秒で完了するようになったという。そして理論上は、インターネットに接続された監視機器を大規模に導入している国は、どこも同様のハッキングリスクに直面することになるという。

<中国全土に張り巡らした「天網」と「雪亮」監視カメラシステム>

中国は全土に数億台のカメラを張り巡らした監視網「天網(スカイネット)プロジェクト」と呼ばれるシステムを稼働している。「天網(tiān wǎng)」とは、中国の古典『老子』に出てくる「天網恢恢(かいかい)疎にして漏らさず」という言葉に由来し、「悪事を行った者は必ず天罰を受ける」という意味で、日本語での「お天道様はすべてを見通している」に相当する。

しかし、今回のイラン攻撃で分かったとおり、その「天網」は庶民の悪事を暴くというより、まさに「天」上にいる最高指導者を「網」にかける手段として使われた。そして、そのネットワークには間違いなくシステム上の脆弱性が潜んでいて、もし北京などの都市の防犯カメラが、ハッカーに突破されれば、中国政権中枢の指導者の行動も同じように完全に筒抜けになることになる。

『看中国』によれば、インターネット上では今「カメラが最終的に指導者を裏切った」「イラン国民は中国のカメラに感謝すべきだ」「これでは中南海も丸裸だ。習近平国家主席もいつ自分の番になるかと恐れおののいているだろう」といった皮肉混じりの声が、次々と上がっているという。さらには「当局がこの事態に怯え、全国の監視カメラの撤去を命じるのではないか」と希望まじりに冗談めかして語る人まで出るほどだ。

実際こうした冗談もあながち的外れとは言えない。現在の中国では「天網」(スカイネット)や農村部まで監視網を広げる「雪亮xuě liàng」(Sharp Eyesシャープアイズ)といったプロジェクトも展開されていて、監視カメラの数は驚異的なペースで急増している。複数の国際的な調査機関の推計によれば、現在、中国国内には数億台から10億台近くの監視カメラが設置され、これは世界全体の半数以上を占めている。多くの大都市や地方都市では、市民1000人あたりのカメラ設置台数が数百台に達し、街角や路地からショッピングモール、学校、マンションの廊下に至るまで、人々の衣食住や移動は、ほぼ24時間体制で記録され、社会全体がまるで人々を監視するために最も理想的なシステム、巨大な「デジタル版パノプティコン」と化していると言われる。

パノプティコン(panopticon)とは、「あまねく(pan)」「見る(optic)」というギリシャ語の語源から「すべてを見渡す監視施設」のことで、18世紀に功利主義のベンサムが刑務所の建築モデルとして提唱し、中心の監視塔から収容者を常時監視できる構造となっている。現在では、フーコーが近代社会の権力構造、権力一般を説明するモデルとして用いたことで有名となった。

<「全監視監獄社会」という恐怖支配の終焉はいつ?>

中国政府は過去20年間で多くの監視システムを構築しているが、こうした「デジタル版パノプティコン」を構成するのは、AIを用いて個人を識別する監視システムの天網(スカイネット)や「雪亮工程」(鋭眼・シャープアイズ)と呼ばれる監視カメラを基盤としたシステムのほか、問題のあるウェブコンテンツを検閲するグレートファイアウォール、スマートフォンを通じて国民の移動や消費行動を監視し、それらの態度やモラルに点数をつけて信用スコアを格付けする社会信用システムなど、さまざまなシステムが運用されている。

そのうち「雪亮工程」(シャープアイズ)について、中国政府は2016年に発表した5カ年計画の中では2020年までに農村部や地方を含めて、中国の公共スペース全てをシャープアイズで監視できるように導入する予定だとしている。

「雪亮」シャープアイズがその他の監視システムと異なるのは、単に法執行機関やAIが監視カメラの映像をチェックするだけではなく、地元住民たちもカメラが撮影する映像を見ることができるという点で、住民らは自宅のTVやスマートフォンからカメラの映像をチェックし、何か問題があれば警察に通報することが可能だという。

China’s ‘Sharp Eyes’ Program Aims to Surveil 100% of Public Space | by Dave Gershgorn | Mar, 2021 | OneZero

このように市民の一挙手一投足を監視しようとする狂気は、まさに権力者の内面にある極度の不安感と政権転覆に対する深い恐怖の表れでもある。強権支配を維持するために、彼らはテクノロジーをあらゆる生活空間に浸透させて、市民のプライバシーを奪うことで、反抗の火種を全て摘み取ろうとする。

しかし皮肉なことに、ハメネイ氏の末路が示すように、体制維持のシステムが最高度にネットワーク化された時、それ自体が最も致命的な弱点へと変わる。支配者が丸腰の市民を警戒して、巨額の資金を投じた「天網」は、圧倒的な現代のテクノロジー戦の前では無力なばかりか、逆に自らの急所を正確に狙い撃ちさせる道標へと化してしまうのだ。

テヘランでの精密な暗殺作戦は「デジタル全体主義」を過信し、無数のカメラで社会全体を縛りつけようとするすべての政治指導者に、間違いなく重い警鐘を鳴らしている。

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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