8月2日を境にリセットされた日韓関係②

世界の人たちにとって8月2日の大ニュースといえば、トランプ大統領が、中国からのほぼすべての輸入品に10%の追加関税を課すと突然、ツィートで明らかにし、アジア・欧州の株式市場が軒並み値を下げたことであり、韓国の人たちにとっては、この日未明に発射された北朝鮮の飛翔体(のちに多連装ロケット砲と判明)のニュースであったはずだった。北朝鮮が先月25日と31日、それにこの日と立て続けに試験発射した射程200~300キロのロケット砲や射程600キロの短距離弾道ミサイル(イスカンデル)は、北朝鮮自身が韓国を標的にしたものと公言したように、まさに韓国全土が危機に直面した事態であるはずなのに、そういったニュースは完全に無視され、この日、韓国の全メディアが報じたのは、日本による「ホワイト国」除外の閣議決定のニュース一色となった。

因みに、日本国内に関して言えば、この日、京都アニメーションの放火事件で犠牲になった10人の身元が公開され、作画監督などかけがえのない多くの才能が失われたことが改めて明らかになり、日本中が悲しみに包まれ、ネット上では、「あいちトリエンナーレ」で慰安婦少女像が展示されたというニュースにアクセスが集中したという。

ところで、「ホワイト国」リストから韓国を排除するという話は、日本ではことしの初めから議論されていると報じられ、7月に入ってから、政令改正の閣議決定はもはや既定路線だと報じられてきた問題だった。

それにもかかわらず、この閣議決定のニュースで、韓国メディアがそれこそ天と地がひっくり返ったかのような大騒ぎになぜだったのか、経緯を振り返ってみたい。

韓国は、閣議決定の8月2日のぎりぎりまで、アメリカが日韓の間に介入し、何とか仲裁してくれるものと期待し、2日夕方、バンコクで開かれているARF=ASEAN地域フォーラムでの日米韓外相会議で、ポンペイオ国務長官が日本に圧力をかけ、日本政府の決定をひっくり返してくれると期待していたフシがある。

実は、閣議決定の2日前、アメリカの政府高官が、日韓に対し、現状を維持し新たな措置は採らないという条件で交渉に入るスタンドスティル(休止、据え置き)協定を結ぶように提案したというニュースが流れた。(KBS日本語ニュース「米政府、韓国と日本に「仲介案」提示」)


韓国では、このニュースが大きく扱われたが、日本では管官房長官が、米側からのそういう提案はないときっぱりと否定した。日本側が否定しているのに、日韓の間に仲介案など存在するはずはなく、まして成立するはずもない。しかし、そんなあやふやな「仲介案」という話でも、それにすがりつくしかないのが韓国の実情だった。多くの韓国メディアは、おそらく米国が日本の決定を覆してくれるものと一縷の望みを託して、日米韓外相会議の行方を、固唾を飲んで見守り、現地からの中継体制をとっていた。康京和外交長官だけが、3か国外相会談後、単独の記者会見を行ったのも、そんな国内の目を気にして、国内向けにアピールするためだったと思われる。

韓国側は、日本による対韓輸出規制の問題なのに、肝心の日本はまったく相手にせず、青瓦台や外交部の官僚たちを米国に派遣し、ひたすらワシントン詣でを繰り返し、アメリカ頼みに徹した。米国の日本に対する圧力を期待したのだろうが、そうした努力にもかかわらず、米側からは仲介を買って出てくれるという返事は示されず、日韓の両国間で解決せよというつれない返事しかもらえなかった。

ところで、韓国メディアの注目のなか、8月2日の閣議決定のニュース速報が韓国で流されたのは、日本国内で報じられるより数分早かったといわれる。KBSをはじめテレビメディアは一斉に特番を構え、このニュースを朝から伝えていた。それだけ注目度が高かったということだが、閣議後の世耕経産大臣の会見の内容などと比べて、この問題に対する日韓の温度差は明らかだった。

世耕大臣は、閣議後の記者会見で、貿易管理令の見直しについて、韓国の輸出管理に問題があったための運用見直しであり、何かに対する対抗措置でもない。韓国を、台湾やASEAN諸国、インドなどとの友好国と同様の扱いに戻すだけで、いわゆる禁輸措置ではないため、グローバルサプライチェーンや日本企業に悪影響がでるということは全くない。手続きさえしっかり行えば輸出はできる。現に台湾やASEAN諸国とは厳格な輸出管理を行う一方、密接な経済関係を構築している。ホワイト国から外れることで何か障害があるというなら、ホワイト国ではない台湾との間で、しっかりとしたサプライチェーンが成立するはずがないことを強調した。経済報復だとか経済戦争の勃発だとか大騒ぎする韓国メディアへの牽制だった。

その一方で、世耕大臣が会見時間の半分以上を使って、繰り返し強調したのは、韓国への不信感の表明だった。記者会見の模様をノーカットで伝えている動画から世耕大臣の発言を書き起こしてみる。<テレ東、世耕経産大臣閣議後会見ノーカット版

「韓国とは、信頼感をもって対話もできない状態になっている。7月12日の説明会について、事前に説明し、冒頭でも相手側に確認して始めた事務的説明会という会合であったにもかかわらず、(韓国側からは)あとで一方的に協議の場だと言われ、その中でわれわれがまったく認識のない撤回の要請を行ったと言われる。(記者発表の内容をどこまでとするかの)プレスラインもしっかり確認したにもかかわらず、あとから一方的にそれを破る発言があった。まずは、7月12日の説明会について、現場の当事者の合意に反する発表があったことに対する訂正をまずしていただく必要がある、その上で韓国側と信頼して対話ができる環境を韓国側の責任でつくる必要がある。韓国側には、まずは発表の訂正をはじめ誠意ある対応をお願いする。

(国際会議の場で韓国側との接触、協議の可能性についても)まずは事実とは違う説明をしていることを訂正がないと経産省としては、韓国側とまた会っても違う内容の発表がされるかもしれない。われわれの懸念を韓国側がしっかり除去する必要がある。RCEPの場でこの問題を取り上げること自体が不適切。まずは12日の説明について訂正することが極めて重要で、それがあってのちにさらなる質問が(韓国から)あれば、それに対応していく。

(不買運動や日本への渡航中止の動きが出ていることについて)、輸出管理を的確に行うという国内手続きの問題であり、これをそのほかの分野と結びつけること自体がおかしい。経産省の仕事は、貿易管理をしっかりと行うということに尽きる。」

世耕大臣のこうした韓国非難の発言、つまり7月12日の説明会をめぐる韓国側の対応を問題とする発言は、これが初めてではない。記者の囲み取材や自身のツィッターでの発信でも、何度も取り上げている。しかし、7月12日の説明会にこうした背景や問題があったことを韓国メディアが伝えることはいっさいなく、完全無視である。

こうした韓国メディアの報道姿勢こそが、日韓の対立を煽り、溝を深めていることを自覚すべきときだ

(写真は8月3日夜8時撮影、旧日本大使館前のろうそく集会)

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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