8月2日午前10時の日本の閣議決定を受けて、文在寅大統領はその日の午後2時、緊急閣議を召集、その冒頭、国民向けの談話を読み上げる様子は全土に生中継された。閣議を生中継するのは初めてだという。
この国民向け談話について、韓国メディアは、「文大統領が日本に対して全面戦争を宣布した」と伝えた。確かに「勝ち抜く」とか「勝てる」とか勇ましい言葉が多い。
以下は、聯合ニュースが伝えた「文在寅大統領8.2国民向け談話」の韓国語全文「국민 위대함 믿는다…일본 충분히 이겨낼 수 있어」(国民の偉大さを信じて、日本には十分に勝てる)からの仮訳である。
<「外交・経済の非常な状況に対応するため緊急に国務会議を召集しました。
(日本の閣議決定は)問題解決のための外交的努力を拒否し、事態をさらに悪化させる無謀な決定であり, きわめて残念です。
行き止まりの道に行かないように警告し、問題解決のために膝詰めの談判をしようという我が政府の提案を日本政府は遂に受け入れませんでした。
(日本は)一定の期間を定めて状況を悪化させずに交渉の時間を持つよう促した米国の提案にも応じませんでした。韓国政府と国際社会の外交的解決努力を無視し、状況を悪化させてきた責任は日本政府にあることが明確になりました。これから起る事態の責任も全面的に日本政府にあるという点を明確に警告します。
どのような理由をつけて言い訳をしても、日本政府の今度の措置は、わが国の大法院の強制徴用判決に対する貿易報復であることは明白です。
日本がG20サミットで強調した自由貿易秩序を自ら否定する行為です。
私たちがより一層深刻に受けとめるのは、日本政府の措置は我々の経済を攻撃し、成長を妨げようという明らかな意図を持っているという事実です。
私たちの一番近くの隣国で、友好国だと思ってきた日本がそのような措置を取ったことは、おおきな失望であり、とても切ないことです。
日本の措置によって私たちの経済には深刻で難しい状況が加わりました.
しかし、我々は二度と日本には負けない。
私たちは幾多の逆境を勝ち抜いて今日に至りました。
多くの困難も予想されますが、私たちの企業と国民には、その困難を乗り越える力量があります。
決して望んだことはありませんが、韓国政府は、日本の不当な経済報復措置に対し、相応の措置を断固として取っていく方針です。
日本が経済強国として、私たち経済に被害を与えようとしたなら、私たちもそれに正面から対抗することができる方案を持っています。
加害者である日本が”「賊反荷杖」(チョクバナジャン)して”開き直ってかえって大口をたたく状況は決して座視することはできません。
(注:この「賊反荷杖」(チョクバナジャン)について、朝日、読売、NHKなど日本のメディアは、『盗人猛々しい』と訳し、この日の記事の見出しにも使った。しかし、中国語にはなく、韓国だけで使われるこの四字熟語の本来の意味は、朝鮮の古来の刑罰に由来し、杖(棒)で叩かれる罰を受ける罪人が逆にその杖を奪って振り回す、というのが原義で、つまり屈服すべき者が返って居丈高な態度をとる、過ちを犯した者が何の過ちもない人をとがめること。つまりは「盗っ人猛々しい」ということになる。「적반하장」(チョクバナジャン)を辞書でひくと、漢字の「賊反荷杖」の原義とともに「盗っ人猛々しい」が訳語としてしっかり載っている。しかし、韓国人に聞くと、この言葉は普段から日常会話のなかで頻繁に使われる言葉で、「あんたがよく言うわ」と軽口をたたくぐらいのニュアンスで、相手を軽い気持ちでいなしたり、反駁したりするときにしょっちゅう口にでる言葉だという。漢字を使わなくなって久しい韓国の人々は、この言葉に「賊反荷杖」などという漢字があることなどつゆ思いもせず、その由来や原義などもとより知るよしもない。したがって日本のメディアが、この言葉を「盗っ人猛々しい」と訳したことによって、日本人の間には過剰な反発が生じ、韓国人の間には戸惑いや違和感を生む結果となった。実は、ネット上では今も議論が続いている。正直、私もこの部分の訂正はこれで3度目。これはこれで一つの異文化論として成立しそうだが、以下、談話の続きに戻る。)
日本政府の規制措置の実行状況に応じて、われわれも段階的に対応措置を強化していきます。
すでに警告したように、私たちの経済を意図的に打撃し、損害を与えようとしたなら、日本も大きい被害を甘受することを覚悟しなければならないでしょう。
韓国政府は、応酬の悪循環を望んでいません。これを止める道はただ一つ、日本政府が一方的かつ不当な措置を一日も早く撤回し、対話の道に戻ることです。
韓国と日本, 両国の間には不幸な過去によって負った深い傷があります。両国は長い間、その傷を縫い、薬を塗り、包帯を巻いて、傷を治癒しようと努力してきました。
ところが、今になって加害者である日本がかえってその傷を引っかき回すのなら、国際社会の良識が決して容認しないことを、日本は直視しなければなりません。
国民の皆さんに申し上げます。私たちは今年、特に3·1独立運動と臨時政府樹立100周年を祝い、次の新しい 100年の未来を誓いました。
力で相手を圧倒した秩序は過去の遺物としてあるだけです。
今日の大韓民国は過去の大韓民国ではありません。
国民の民主パワーは世界最高水準であり、経済も比べものにならないくらいに成長しました。どんな困難も充分に乗り越える底力を持っています。目の前には困難あるかもしれません。しかし挑戦に屈服すれば、歴史は再び繰り返されます。
今の挑戦をむしろチャンスと思って新しい経済の跳躍のきっかけにすることができたら、私たちは十分に日本を勝ち抜くことができます。
歴史に近道はあっても省略はない、という言葉があります。いつかは越えなければならない山であり、今この場で立ち止まるならば永遠に山を越えることはできません。国民の偉大な力を信じて政府が先に立ちます。挑戦を勝ち抜いて勝利の歴史を国民と一緒にもう一度作ります。私たちはできます。」>(談話は以上)
最後は、悲痛な叫びにも聞こえなくはないが、この「国民の偉大な力を信じる」という言葉は、文在寅大統領が、あらゆる場所で何回も言及している言葉だ。たとえば、ことし5月7日、文大統領がドイツの日刊紙「フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング」(F.A.Z)に寄稿した「平凡さの偉大さ 新たな世界秩序を考えて」と題する文章でも、「国民の偉大さ」について論じている。詳しくは、本ブログの「韓国は平凡な人を大切にしてきた社会なのか?①~③」を読んでいただければうれしい。
https://fujinotakane.amebaownd.com/posts/6399916
https://ameblo.jp/shimakichi-san/entry-12477043262.html
「ろうそく革命」という名の民衆の数の力で、前政権を弾劾に追いやり、その民衆パワーで政権を執ることができた、その文大統領が「国民は偉大だ」と褒めそやすのはもっともなことというしかない。
しかし実際に、国民が偉大であるかどうかを判断するためには、文大統領がいうように、日本との経済戦争で、勝ち抜けるかどうかに掛かっている、ということなのだろうか。経済戦争での勝利とは、そもそも何を指すのだろうか。何をもって勝利というのだろう?
いますぐにその勝敗の結果が出るとは思えないし、最終的に決着がつくものなのかどうかも分からない。そもそも経済戦争に勝って、日本に凱歌を上げたからといって、実際に何が得られるのだろうか?過去の屈辱の歴史を忘れさせ、日本に対して優越感をもち、日本を侮蔑することぐらいだろうか?それがどれほどの価値をもつというのか。
談話のなかで、文大統領はことしが3.1独立運動・臨時政府樹立100年であることに触れ、この間の日韓関係を「不幸な過去によって負った深い傷があり、その傷を縫い、薬を塗り、包帯を巻いて、傷を治癒しようと努力してきた」歴史だったと表現した。今回の貿易管理上の優遇措置の除外は、その古傷に手を入れかき回す所業だとも言っている。しかし、貿易も商売も、ビジネスも、過去に顔を向けてやっているわけではなく、みな明日の生活のため、明るい未来のために一生懸命にやっていることだ。経済と過去の歴史は関係ないし、それを敢えて結びつけるのはどうかと思う。
前回のブログで、反日ろうそく集会について触れ、参加者がもつプラカードに「(親日派の)土着倭寇を追い出せ、(保守系の)朝鮮日報は廃刊せよ」というスローガンが書かれていることを紹介した。安倍政権を糾弾し、日本製品不買運動を訴えると見せかけた集会も、結局は激しい左右対立を反映した国内向け政治闘争の場であり、与野党の勢力争いの場に過ぎない。ソウルという街は、国会議事堂周辺でも光化門前や鐘路の中心部の道路でも、平日でも週末でも、どこかで必ず政治集会やデモが行われていて、騒がしいことといったら世界一かもしれない。横断幕やのぼり旗がそこら中に掲げられ、抗議の人が寝泊まりするテントが歩道に忽然と出現し、ポスターの立て看が歩道を延々と占領し、街の景観を損ねること甚だしい。
経済戦争でいつか日本に勝った暁には、一流の国際都市として恥ずかしくない品格も取り戻していただき、静かで穏やかな先進国の都市景観をぜひ見せていただきたいと願う。
ところで文在寅(ムン・ジェイン)大統領は「ホワイト国」から韓国を除外した日本政府の決定から3日後の5日午後、首席秘書官・補佐官会議を開き、経済規模や国内需要で優位を占めている日本経済を追い越すためには、北朝鮮との経済協力を進め朝鮮半島に「平和経済」を実現するしかないと訴えた。
「南北間の経済協力で平和経済が実現すれば、韓国は一挙に日本経済を追い越すことができる」「平和経済こそが世界のどの国にもない、われわれだけの未来だと信じ、南北がともに努力していけば、非核化と韓半島の平和という土台のうえでともに繁栄できる」と強調したという。(KBSニュース8月5日:文大統領「平和経済で日本経済を追い越すべき」)
世界のお荷物となっている北朝鮮と手を組むことで、いかなるバラ色の「平和経済」の未来が待っているというのか。米韓合同軍事演習に反発してこの2週間で4回も短距離弾道ミサイルやロケット砲の試験発射を繰り返し、しかもその新型ミサイルは低空で複雑な飛行をし、新型ロケット砲もマッハ6.9もの超高速で飛来するため、いずれも迎撃は困難だと言われる。さらにその射程は最大で600キロ、韓国全土を標的にするために開発した新型兵器なのである。韓国が国連安保理の制裁の例外として無理やり頼み込み、食料支援として5万トンの米を送ろうとしても、その受け取りさえ拒否する北朝鮮と、いかなる経済協力を行い、「平和経済」の実現とやらは、いったいいつのことになるのか?
さすがに、日本やアメリカより、北朝鮮のことしか念頭になく、北朝鮮に対してはすべてが前のめりになっている文大統領らしいアイデアだが、「平和経済」などという実体の分からない構想を聞くに及んで、いったいこの大統領は本当に経済のことが分かっているのか、疑わざるを得ない。
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