終了・廃棄を宣言したGSOMIA韓日軍事情報包括保護協定について、失効期限ぎりぎりの6時間前に、韓国政府は「日韓通商当局による政策対話が続いている限り、という条件のもとで、協定の終了通告の効果を停止する」と発表した。つまりGSOMIAの「実質的な延長」だが、日本の対応次第ではいつでも終了を宣言できるとしているため、振り上げたこぶしを下ろすこともできず無様に宙ぶらりんのままである。
その翌日(11月23日)、ソウル中心部光化門広場では、さっそく文在寅大統領の退陣を求める大規模な保守派の集会が、「文在寅退陣国民大会」の名のもとで開かれ、太極旗とアメリカ国旗を手にした市民が光化門広場の三分の二を埋め尽くし、文在寅糾弾に気勢をあげた。GSOMIAの延長を文在寅政権の外交・安保政策の失策だとして、政権批判の材料として大いに利用しようという動きだ。人々が掲げていたプラカードや横断幕には、「文在寅退陣」のほか「詐欺弾劾、さあ隠していたものを暴いてやる」「同性愛政権、下野せよ」「国民を馬鹿にする北韓の保衛部」など、過激な言葉が並んだ。
それにしても、韓国がGSOMIA終了を予告してからのこの三か月はいったい何だったのだろうか?90日前に終了通告をしなければ自動延長となるGSOMIAだったが、その通告期限だった8月22日、破棄、終了を通告してきた。日本による半導体素材など三品目に対する輸出管理の厳格化措置を撤回させるために韓国が対抗手段として採った措置だった。しかし、日本側は、当初からGSOMIAが終了しても困るのは韓国側で、日本は米国経由で情報を入手できるので実質的な影響はないと突っぱねた。さらに戦略物資の輸出管理強化という通商政策と、安保政策であるGSOMIAとは別次元の問題で、二つを関連させることはないという立場は一貫していた。
どうみても、韓国側の一人芝居、独り相撲で終わったというのが、正直なところだが、安倍総理が「日本はいっさい譲歩をしていない」と語ったとか、政府関係者が「パーフェクトゲームだった」などコメントしたことが韓国に伝わると、青瓦台の鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長は『日本政府の指導者として果たして良心の呵責を感じずに言える発言なのか、問わざるを得ない』と発言。外交的には、外国政府首脳の心の内の善悪にまで言及する発言はありえないと自国メディアからも糾弾される始末だった。確かに、神にでもなったような高みからの発言は傲岸不遜と言うしかない。
挙げ句の果てには、当日の経済産業省の貿易管理部長の記者会見で、合意内容を歪曲して伝えたとし、このことを指摘して抗議すると日本は謝罪してきたと明らかにした。しかし、この問題が日韓のメディアで報じられると管官房長官も経済産業大臣も「日本政府が謝罪した事実はない」と完全否定し、「韓国側の発言にいちいちコメントするのは生産的ではない」と一蹴して終わりだった。
産業経済省の記者会見で何が「歪曲」だったかというと、韓国側が貿易管理に関する法整備や体制の不備を改善する意欲を示したとの「感触を得た」と説明したことと対韓輸出管理強化の措置は維持すると発言したことに対してだった。韓国の言い分は、自分たちに貿易管理上の問題があったと認めたわけではなく、実際には日本の輸出規制の撤回を協議する方向で合意しただけだと主張。要するに、自分たちには何の非もないので、改めるは日本側だけという論理なのだ。しかし、そういうことなら日本側も協議に応じることはなかっただろう。日本は最初から輸出管理強化は国内手続きの案件であり、他国と協議するような内容ではないとし、2国間協議には応じてこなかった。そもそも半導体素材など三品目の輸出管理強化措置は、高純度の液化フッ化水素など猛毒の化学兵器の材料にも使用される材料を、韓国企業が必要以上に大量に日本から輸入しながら、それが第三国に横流しされているという疑惑が浮上し、そうした疑惑の解消を目指す政策対話に、韓国の通商当局が3年以上も応じてこなかったことが原因でもある。韓国側が輸出管理の不備を認めず、改善する意欲を示さないなら、何をどう協議するというのか。今後、課長級協議が実際に始まったとしても、議論は平行線に終わり、おそらくは店ざらしになって何の結論も出ない恐れが濃厚だ。
「慰安婦」問題もしかり「徴用工」問題もしかり、韓国の態度は相変わらず、自分たちは絶対無謬で何の反省もする必要はなく、悪いのは日本で、悔い改めるべきはすべて日本だという態度なのである。まさにこれこそ、李栄薫教授が名付けた「反日種族主義」そのものではないか。
GSOMIAの実質的延長の決定について、韓国政府は、日本から貿易管理に関する政策対話の提案があり、日本の輸出規制の見直しを条件に延長決定を行ったと強弁しているが、それは国内向けの言い訳に過ぎず、この間にアメリカからの強力な圧力に晒され続け、それに抗しきれなかったことがあることは間違いない。
GSOMIA破棄を決定したのは3か月前の8月22日。その直後、アメリカのポンペイオ国務長官はただちに「失望」を表明し、韓国の対応を非難した。米国務省は声明で、GSOMIA終了による影響について「韓国の防衛をさらに難しく複雑にし、在韓米軍だけでなく韓国軍もさらに大きな脅威にさらされることになる」とした。
その後も、青瓦台の要人らが次々とワシントン詣でを繰り返し、日本を非難する告げ口外交を繰り広げるとともに、アメリカが日本との間に立ち仲介役を買って出てくれることを懇願した。しかし、アメリカはそうした要望にはいっさい応じなかった。ワシントン詣での青瓦台スタッフが、GSOMIA廃棄について米国政府の理解を得たと発言すれば、米国務省はすぐにそんなことは言った覚えはないと否定し、ウソはすぐにバレた。
11月に入ると、アメリカ国務省や国防総省の高官らの韓国入りや接触が目に見えて増えた。国務省のスティルウェル次官補(アジア太平洋担当)をはじめ、ハイレベル経済対話に臨んだクラック国務次官(経済成長・エネルギー・環境担当)。バンコクでの拡大ASEAN国防相会議出席の途次、韓国を訪れたエスパー国防長官、米韓軍事委員会の定例会議に出席するため韓国を訪れたミリー統合参謀本部議長などで、そのほかにも拡大ASEAN国防相会議、制服組トップによる米韓、日米韓の接触なども頻繁に行われた。
そうしたなか15日にはエスパー国防長官、ミリー統合参謀本部議長 、エイブラムス在韓米軍司令官、ハリス韓国駐在アメリカ大使の4人が打ち揃って青瓦台を訪れ、文大統領と直談判する場面もあった。
しかし、その文大統領は19日夜、生放送のテレビ番組「国民との対話」に出演し、「原因を作ったのは日本側であり、日本が改めない限り、協定は終了する」と強気の姿勢を固持した。
そうしたなか対日・対米強硬派として知られ、GSOMIA終了を先頭に立って主張したとされる青瓦台の金鉉宗(キム・ヒョンジョン)国家安保室第2次長が18日から20日まで極秘裏に訪米したことがわかった。
GSOMIA失効期限を23日午前0時に控え、青瓦台などで動きが激しくなったのは、その金鉉宗氏が帰国した20日午後からだった。しきりに日本側との協議が進んでいるといったうわさが流され、水面下で事態が動いていることを匂わせた。21日午前と22日午後、二日連続でNSC国家安全保障会議の常任委員会が開かれたのも、異様だった。21日午前のNSC常任委員会は康長官の国会対応のため急遽午前に前倒しされたと言われ、金鉉宗安保室第2次長の訪米結果の報告が行われたものと見られる。21日夜には康長官とポンペイオ国務長官の電話会談が行われた。22日、名古屋で開催されるG20外相会議への康外相の出席が決まったのは、名古屋便出発の三時間前だった。
こうしたドタバタとすったもんだの末の「GSOMIA終了通告の効力停止」という韓国側発表だったが、真実は自縄自縛の末にあえなく自爆したという自作自演ストリーに等しかった。しかし、GSOMIAの破棄問題は、とりわけ対米外交、米韓同盟という点において、取り返しのつかない大きな禍根を残すことになった。
エイブラムス韓米連合司令官は12日の記者会見で、 「GSOMIAを通じて北東アジア地域に、より強力な安定と安全保障をもたらすことができる。GSOMIAの基本原則は、韓日両国が歴史的な違いより、地域の安定や安全保障を最優先に置くという明確なメッセージだ」と述べ、その上で、「GSOMIAがなければ、われわれがそれほど強くないという間違ったメッセージを(中国や北朝鮮に)送る恐れがある」として、GSOMIAの維持を訴えた。
ハリス駐韓アメリカ大使は19日、聯合ニュースとのインタビューで「核心の争点は結局、韓日の歴史問題で、これが経済問題に拡大した。韓国はこの問題をさらに安保領域に拡大した」と指摘し、「韓国が歴史問題を米国の条約上の義務である朝鮮半島防衛に関するわれわれの能力にも影響を及ぼす安保領域にまで拡大させたことに失望した」とまで非難した。
GSOMIAの締結は、そもそもオバマ大統領時代に朴槿恵政権に強く働きかけ、2016年4月にようやく締結までこぎ着けたもので、対中国戦略を考えたとき、日米韓三か国の協力体制の象徴とされてきた。
実際に、アメリカはGSOMIA締結後には日米韓三か国のイージス艦システムを連動させ、アメリカのミサイル防衛システム(MD)のもとに編入することを計画していた。そのために米軍の主導のもと、日韓のイージス艦が参加した海上訓練が9回にわたって実施され、双方の連携を確認している。アメリカがGSOMIA廃棄について、当初から敏感な反応を示したのも、こうした背景があったからだ。<KBSワールドニュース11月22日「国防部、2016年GSOMIA締結直後に韓日イージス艦「連動」を検討」>
しかし、その後、文在寅政権は、日米韓三か国の同盟構築には参加しない、アメリカのMDミサイル防衛システムには参加しない、高高度ミサイル防衛システム(THAAD)の追加配備には同意しない、という「三つのノー」を中国に対して約束し、GSOMIAの骨格的な役割を骨抜きにしてしまったのである。文在寅政権がどっちを見て、安保政策を進めているかは明らかだ。
アメリカ政府は、今回のGSOMIAをめぐる一連の経緯を通して、文在寅政権が「レッドチーム」、すなわち中国を中心とする大陸勢力のなかに入ったことを認識するに至ったことは間違いない。
この間、GSOMIA破棄に関連して、こうした文在寅政権の立場を強力に代弁した論考が、文在寅支持の左派系紙ハンギョレ新聞に掲載された。
西江大学社会科学研究所常任研究員だというキム・ペクチュ氏がハンギョレ新聞(10月16日)に「韓日GSOMIA終了、その先にある問題」と題して寄せた寄稿文だ。この一文は、東アジア安保体制のなかでの文在寅政権の本音を伺うことができる。
筆者はまず、「韓日GSOMIAの終了決定は、『果たして韓国にとって高度な韓日安保協力が必要なのか』という問いに対する返答だった」という。韓国にとっては高度な韓日安保協力すなわちGSOMIAや、アメリカが主導する「インド太平洋戦略」のような協力の枠組みに入る必要はなく、むしろ、そうした枠組みのなかに組み入れられることは、中国の脅威に対応するための前哨基地に追い込まれることになると見る。すなわち、日韓安保協力が高度化すれば、日本は戦略基地、韓国は最前線の戦闘基地になることを意味するとし、次のように主張する。
(以下引用)「公共財としての米日同盟という論理は、冷戦期に米国がアジアに構築しようとしていた反共軍事同盟の延長線上にあり、事実上中国牽制、ひいては対中国封鎖という顕在的含意を持つ。韓国はそのような米日同盟という公共財を享有する必要がないので、代価を支払う理由もない。
韓国は、米・日とは違い、中国を現実的脅威としては認識しない。たとえ潜在的な中国脅威を認めても、現実的に中国を敵対視するいかなる集団防衛体制にも参加できない。中国を頭に載せて生きる朝鮮半島の地政学的運命といえる。
したがって、私たちは高度な韓日安保協力要求を毅然として拒否しなければならない。韓国の安保に必要なのは韓米同盟であり韓米日同盟ではない。THAAD配備問題で確認した通り、米日同盟は韓国の安全に責任を負わない。米日同盟の前哨基地化要求を断固として拒否することにより、不要な紛争にまきこまれるリスクを除去しなければならない。」(引用終わり)
かろうじて、米韓同盟の必要は認めているが、日米韓の三国同盟は拒否し、日本を完全に排除している。日本に対する韓国側のこうした態度、方針は、旭日旗を理由に海上自衛隊艦船の入港や観艦式への参加を拒否したことをはじめ、去年12月、日本の哨戒機に対して火器管制レーダーを照射した事件などですでに十分明らかになっていた。日本にとって韓国は友好国でも何でもなく、潜在的な脅威となっていることが明白になったのである。
同じような論調は、ハンギョレ新聞のなかに散見される。以下は、キム・ヌリ中央大学教授の寄稿「対米関係が変わってこそ統一時代が切り開かれる」(11月19日)である。
(以下引用)「今、私たちは毎日のように米国の傲慢さを目撃している。国防長官、国防次官、統合参謀本部議長、韓米連合司令官、在韓大使まで総動員し、GSOMIA終了の撤回を全方位的に圧迫する昨今の状況は、米国が果たしてこの国を同盟相手どころか主権国家として認めているのかさえ疑わせる。
文在寅政権はさらに大胆に米国と相対すべきである。米国に屈従しながらなす術なく振り回されていては、朝鮮半島の平和と統一を牽引することはできない。もはや韓米同盟も質的に新しい次元に変化しなければならない。」(引用終わり)
さらにハンギョレ新聞ワシントン特派員のファン・ジュンボム記者のコラム「『同盟とは何か』問い直させる米国」(11月14日)では次のように論じる。
(以下引用)「韓国政府のGSOMIA終了決定に『強い憂慮と失望』を表し、じゅうたん爆撃を加えてきた米国政府が、輸出規制措置という原因を提供しこの事態を呼び起こした日本に対しては、どんな解決努力をしているのか分からない。日本の態度変化なくして韓国だけが一方的に引き下がれという要求が続くなら、韓国国民は受け入れがたく、『同盟無視』という世論が高まるだろう。」(引用終わり)
韓国とアメリカはいま、在韓米軍駐留経費をめぐって韓国側負担を5倍に引き上げるというアメリカ側提案をめぐって、厳しき対峙し、協議は決裂したばかりだ。また文在寅政権が任期内に目指している戦時作戦統制権の韓国軍への移管もさまざまな軋轢が生じ、順調都は言えない。こうしたなかでメディアや政界では、米韓同盟の見直しや同盟解消後の核保有論まで飛び出し始末で、きわめて危険な状況でもある。
一方で、韓国はGSOMIAを終了しても米韓同盟には何ら影響を与えないと強弁し続けた。しかしアメリカの専門家の認識はまったく正反対だ。
リチャード・アーミテージ元国務副長官とビクター・チャ戦略国際問題研究所(CSIS)韓国碩座は23日、ワシントンポストに共同署名で投稿し、「66年間続いた韓米同盟が深い苦境に立たされている」と論じた。「韓国は大切な合意(GSOMIA)をてこにして、米国を韓国と日本の経済的、歴史的紛争に介入するように強制した。これは同盟乱用(alliance abuse)行為だ」と批判した。さらに「情報協力を中断したいという韓国の脅威は、北朝鮮の核とミサイル試験発射に対応する韓米日の能力を低下させるだけでなく、韓国の安保利益が日米安保利益と潜在的に分離されかねないことを示している」と指摘した。
<東亜日報11月26日「アーミテージとビクター・チャ『韓米信頼は既に損傷』」>
GSOMIAの失効期限となっていた22日夜、米空軍のB52戦略爆撃機がグアムを発進し対馬海峡から日本海、津軽海峡へと日本付近を飛行したことが分かった。航空自衛隊のF15戦闘機編隊と在日米空軍のKC135給油機1機も共に飛行した。GSOMIA失効のぎりぎりのタイミングでの日米共同の示威飛行は、明らかに韓国への警告の意味がこめられていたことは間違いない。
GSOMIAがあるとないとでは、有事の際の即応体制で情報共有に差が出るのは明らかで、一線で戦う兵士だけでなく、韓国国民や日本国民の生命財産にも影響がでることは明らかだ。しかし韓国政府は、一時的な損得や、自分たちのプライドのためだけに、兵士の命や人々の生命財産に関わる合意、信義則をいとも簡単に秤にかけて売りにだし、取り引き材料として使ったのである。
先にハンギョレ新聞の投稿記事で示した通り、韓国は地政学上、大陸国家の中国に逆らうことができず、日米同盟やインド太平洋戦略には与する訳にはいかないという考え方である。
それにしても、過去、朝鮮王朝をまさに「奴隷国家」のように扱い、横暴な属国支配を行った中国、戦後は朝鮮戦争への参戦で韓国国民を大量に虐殺した中国には、「事大主義」を標榜して何の文句も言わないくせに、日本に対しては千年の恨みだとか言って、一切の妥協を拒絶し、敵対感情だけを煽る。まさに反日種族主義に凝り固まったこんな国とまともな交渉できるわけがない。
写真は11月23日ソウル光化門広場での「文在寅退陣要求国民大会」
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