韓国では、「慰安婦」はナイチンゲールよりも気高いと言わなければならない。慰安婦は韓国において神聖不可侵の存在であり、慰安婦の権利と名誉を守るとして設立された「挺対協」(挺身隊問題対策協議会)も聖域化された組織だと、韓国の現代史研究家・池萬元氏はその著書『元韓国陸軍大佐の反日への最後通告』(ハート出版)のなかで言っている。慰安婦と「挺対協」が聖域として手厚く保護されているのは、韓国における反日感情を維持・拡大させるうえで、これらの存在が決定的な役割を果たしているからだ、ともいう。
(引用)「彼女たちは30年間、韓国内外でこの団体を名乗って国家利益と相いれない不穏な活動を行ってきたが、未だに慰安婦問題はこの組織が事実上排他的に独占している。慰安婦についてこの組織の見解と異なる発言をした人間は、言論人であろうが学者であろうが直ちに糾弾されて訴訟を提起される」(位置No1501)。
「挺対協」は、発足から27年経った2017年7月、団体名を「日本軍性奴隷性問題解決のための正義記憶連帯」と変更した。「慰安婦」イコール「学徒挺身隊」だと混同、誤解していることを自らが認めるような団体名「挺身隊問題対策協議会」を、今度は「慰安婦」イコール「性奴隷」だとこじつけ、曲解させる組織名に変えただけに過ぎない。こうした名前の変更を見ただけで、この団体が目指しているのは、元慰安婦の女性たちの個人の救済や人権の解決にあるのではなく、むしろ問題の解決を難しくし未解決のまま永遠に存続させることこそに目的があることが分かってきた。
その「旧・挺対協、現・正義記憶連帯」に内部から公然と反旗を翻す動きがついに出現した。元慰安婦を名乗り、1992年以来「挺対協」と活動をともしてきた92歳の女性、李容洙(イ・ヨンス)氏が5月7日、突然、記者会見を開き、挺対協の元理事長尹美香(ユン・ミヒャン)氏に対する爆弾発言を繰り広げたのである。
それ以来、文在寅政権に批判的な保守系新聞「朝鮮日報」と「中央日報」が、「挺対協」にまつわる寄付金など活動資金の不正疑惑を次々と暴き立て追及しているのに対し、文政権を支持する左派与党系の「ハンギョレ新聞」が挺対協を攻撃する野党や新聞は「親日派」だと決めつけて論戦を煽るなど、韓国ならではの左右分断状況を露呈し、それこそ蜂の巣をつついたような大騒ぎとなっている。
李容洙氏は1992年6月に「慰安婦被害者」だと公表して以来、挺対協と活動をともにしてきた。「慰安婦は性奴隷だった」と公言し、「悪逆な日本軍の実態」の語り部を務めてきた彼女は、挺対協の活動にとって、もっとも大きな功績を残した女性でもあった。その活動の場は世界に及び、2007年7月には米下院議会で証言に立ち、米国議会が慰安婦問題で日本政府を糾弾する下院決議121号の成立に大きな役割を果たしたほか、2017年11月には訪韓したトランプ大統領の歓迎晩餐会に招待され、何も知らないトランプ大統領と突然ハグするハプニングを演出した女性としても知られる。
その慰安婦の代表といってもいい女性が、活動を共にしてきた挺対協(現在の正義記憶連帯)について「30年にわたりだまされるだけだまされ、利用されるだけ利用された」と批判したのである。
李容洙氏が記者会見で語った衝撃発言には、このほかにも、挺対協が1992年1月8日以来、ソウルの日本大使館前で毎週開いてきた「水曜集会」について「慰安婦問題の解決に何も役立たない。学生らが集会に貴重なお金と時間をかけているが、集会は憎悪と傷だけを教えるだけ。正しい歴史教育を受けた韓国と日本の若者が親しくなり、対話をしてこそ問題を解決できる」と批判し、「水曜集会はなくすべきだ。(私は)来週からは参加しない」と宣言した。
さらに「集会に参加した学生が出した募金はどこに使われたか分からない」と批判し「募金・基金などが集まれば被害者のために使うべきだが、被害者のために使ったことがない」と主張した。また団体で出版した慰安婦被害の事例をまとめた本は「内容の検証がしっかり行われないまま販売されている」と指摘した。
<KBS日本語放送5/8「慰安婦被害者 支援団体を批判、水曜集会の廃止主張」>
http://world.kbs.co.kr/service/news_view.htm?lang=j&Seq_Code=75718
実は李容洙氏は5年前にも同じような趣旨で挺対協批判を展開したことがある。産経新聞によると、2015年6月、週刊誌「未来韓国」とのインタビューの中で「日本が話し合おうといっているのに。会わずに問題が解決できようか」と挺対協のかたくなな姿勢を問題視した。また、挺対協が在韓日本大使館前で毎週行っている抗議集会について「何のためにしているのか分からない。ただ、『謝罪しろ』『賠償しろ』と叫んで集会の回数をこなせばいいというものではない」と疑問を呈していた。
<産経新聞2015/7/3「歴史戦」元慰安婦が支援団体「挺対協」批判 「当事者の意見聞かない」「事実と異なる証言集出した」>
それに続く今回の公然たる「挺対協」批判は、挺対協の元代表で正義記憶連帯前理事長の尹美香(ユン・ミヒャン)氏が、4月15日の総選挙で左派与党系の「ともに市民党」から比例代表選挙に立候補して当選したことが契機だった。李容洙氏は記者会見で「尹氏は国会議員になってはならない。私欲のため的外れなところに行った」と批判した。尹美香氏が選挙前にメディアに対して李容洙氏からも支持されていると語っていたことについては「すべて尹氏がでっち上げた話だ」と否定した。
一方、こうした一連の批判に対して、当の尹美香氏は8日、フェイスブックに、李容洙氏との出会いについて「1992年に(慰安婦として名乗り出る)申告の電話をしてきたとき、私が事務室で電話を受け、蚊の鳴くような声を震わせながら『私は被害者じゃなくて、私の友人がね…』と言っていたあのころのことを、つい昨日のことのように覚えている」と書き込み、李さんが元慰安婦ではなかったとも受け取れるコメントを載せた。
<朝鮮日報5/9「共に市民党」公認漏れ団体が李容洙さんをけしかけたって?」
これが真実なら、それこそ30年にわたって、慰安婦でも何でもない女性が「慰安婦」を騙(かた)り、まさに歴史に名を残す「名女優」として演技し、世界を相手に虚偽の話を語り、欺し続けてきたことになる。もともと李容洙氏は、家を出た時の年齢や慰安婦になった経緯など関して証言が二転三転し、あやふやだった。
<フリー百科事典ウィキペディア(Wikipedia)「李容洙」>
しかし、「慰安婦であった自分が語る言葉がすべて真実であり、歴史の一級資料そのものだ」と豪語してはばからなかった。李容洙氏が慰安婦であったのか、なかったのか、挺対協関係者は、真実を明らかにする義務がある。
また、李容洙氏は記者会見で、2015年12月の慰安婦問題に関する日韓最終合意の際、「日本が10億円を供出することを知っていたのは、尹代表だけだった」と言った。尹美香氏は、韓国外交部から日韓合意に関する事前説明を受けていながら、メディアのインタビューに対し「(政府の相談は)なかった。被害者たちの意思も全く聞かれていない」と答えている。しかし、李容洙証言に従えば、日本が10億円を供出するという合意内容を知りながら、当の慰安婦たちには何も知らせず、相談もしなかったことになる。朴槿恵政権はこの10億円で2016年7月に「和解・癒やし財団」を設立、慰安婦一人あたり1億ウォン(現在のレートで約870万円)の慰労金を支給することにしたが、挺対協は、慰安婦に対し、この慰労金の受け取りを拒否するよう強要したといわれる。中には受け取るなという挺対協の説得に対し、「お金が欲しいから受け取らせてくれ」と訴えたという元慰安婦の証言もある。そうしたなかで合意当時47人いた生存者のうち34人が慰労金を受け取った。4人に3人は、挺対協のいうことに従わなかったのである。
<中央日報5/11慰安婦被害女性ら、日本からの支援金受け取ると「裏切り者」の烙印>
元慰安婦の人たちが日韓合意の中身を事前に知り、日本からの10億円の提供を承諾していたのかどうかの問題は、実は、2017年に発足した文在寅政府が、日韓慰安婦合意の破棄を決定するに至ったその経緯に関わる重要な問題でもある。
文在寅政権はこのとき、日韓慰安婦合意は当の元慰安婦たちの意向を汲んでおらず「被害者中心主義」に背くとして、合意を破棄する主な大義名分としたのだった。しかし、尹美香氏が外交部との間に立ち、日韓の交渉経過や合意内容について説明を受けていたにもかかわらず、それを元慰安婦たちに伝えていなかったとすれば、話が変わってくる。元慰安婦の意向を確かめず「被害者中心主義」に背いたのは尹美香氏そのものだったわけだ。
李容洙氏は記者会見で「募金・基金などが集まれば(慰安婦被害者の)おばあさんたちのために使うべきだが、おばあさんたちに使ったことがない」と声を上げた。これについて、挺対協は日本政府からの慰労金の受け取りを拒否し、挺対協と行動を共にする元慰安婦に対しては、「1億ウォンずつ支払ったし、李さんも金を受け取った」とし、「李さんの記憶はわい曲されている」「心身が衰弱した状態」と反論し、李容洙氏を「認知症」扱いしたのだ。
正義記憶連帯は、被害者支援を口実に4年にわたり50億ウォン(約4億4000万円)近くの寄付金を集めておきながら、18年には募金額の1.9%(2320万ウォン=約203万円)、2019年には3%(2433万ウォン=約212万円)しか元慰安婦の女性らに手渡されていなかった。残りが何に使われたのかは不明だ。
しかも、公益団体が寄付金を集めたり支出したりするときは法人名義の通帳を使用することになっているはずだが、ここでは正義記憶連帯名義の口座ではなく尹美香氏の個人名義の口座で金を受け取っていたことが分かった。
<朝鮮日報社説5/15「尹美香の個人名義口座で慰安婦寄付金受け取り、公然と横領していたのか」>
http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2020/05/15/2020051580015.html
李容洙氏の告発を契機にして、この団体の補助金や寄付金の取り扱い、会計処理がいかに杜撰であるかが白日の下に晒されることになった。
挺対協と正義記憶連帯は2016年から4年間、毎年国庫補助金を受け取り、その総額は13億ウォン(1億1400万円)に上っていたが、国税庁への毎年の報告では、2016年から18年までは補助金の記載はゼロで、2019年に5億3800万ウォンの記載があるだけだった。
<中央日報5/15「正義記憶連帯、4年間13億ウォンの国庫補助金のうち8億ウォンが消えた」>
また2018年に国税庁に提出した寄付金公示内訳によると、その年の支出のほぼ全額に当たる4億7000万ウォンをその年の3月に亡くなった元慰安婦に一括して支給した形になっていた。支出目的は水曜集会の必要経費や国際協力など10項目に及ぶそうだが、それらの詳細な内訳は示さず、支給先を元慰安婦一人に代表させ、その総額を明示するだけで、会計上は「一括記載」として処理し、具体的な支出内訳の公開を避ける目的があったとされる。
<中央日報5/13「慰安婦被害者1人に4億ウォン支出、慰安婦団体また不審な会計」>
挺対協は2016年5月、在日朝鮮人学校の生徒支援を目的に元慰安婦の名前を冠した「金福童(キム・ボクトン)奨学基金」を立ち上げた。しかし去年1月、その元慰安婦金が死去すると、奨学基金が本来の対象とした在日の生徒ではなく、正義記憶連帯の身内の関係者や左派系の市民団体・労組の子弟が奨学金の支給対象となり、去年、在韓米国大使公邸に無断侵入して抗議活動を行った親北系の「大学生進歩連合」に所属する2人の学生にも奨学金が支給された。奨学金の設立趣旨と違うのは明らかだが、正義記憶連帯は、これも元慰安婦の遺志に沿ったものだと強弁している。
<朝鮮日報5/11「金福童奨学金、民主労総・全農・進歩連帯の子女に支給」>
次々に浮上してくるこうした疑惑について、正義記憶連帯は、外部の会計監査を受ける基準である募金額100億ウォン(約8億8000万円)には達していないため会計監査は受けていないが、その替わり弁護士と会計士による内部監査が行なわれ、経理処理については問題ないと言われているとした上で、「世の中の市民団体で寄付金の内訳を細かく公開する団体がどこにあるのか」と開き直り、支出の詳しい内訳を公開することを拒否した。その上で、現理事長のイ・ナヨン氏は「慰安婦の救済は政府の仕事だ。正義記憶連帯は(慰安婦に金を伝達して)救援するだけの団体ではなく、政府への圧力、国際社会活動、市民キャンペーン、教育などさまざまな活動をすることで、総体的に日本軍慰安婦問題を解決するための運動体だ」とした。つまりは目の前の元慰安婦一人ひとりの個別の問題の解決はどうでもよく、自分たちの目的を達成するために単に慰安婦を利用しているだけだと告白しているように聞こえる。
保守系の新聞を中心にした尹美香氏や挺対協・正義記憶連帯の疑惑追及が激しさを増すと、尹美香氏が所属する与党「ともに民主党」や親文在寅の左派系市民団体は、尹氏と正義記憶連帯の疑惑を取り上げるのは「親日派」の仕業だと規定し、フェイスブックやツイッターなどSNS上では、「正義記憶連帯を攻撃する者は土着倭寇だ」「NO安倍」といったフレーズの入ったイラストが拡散されているという。
これに対して、今回、疑惑を告発した元慰安婦の李容洙氏も親日派で、正義記憶連帯の経理処理について改めて報告を求めた国税庁も土着倭寇なのかという声も上がっている。
「土着倭寇」とはいうけれど、倭寇はもともと「土着」の人々、つまり地元の沿岸漁民などによる海賊行為だった。海禁政策をとった明代には中国沿岸や朝鮮半島周辺では特にその傾向が強い。そこに「倭」などという言葉をつけるのは、今でいえばレイシズム(Racism)人種的偏見でしかない。今回の慰安婦団体をめぐる疑惑や内部対立について、日本はまったく関係なく責任もとりようがないのに、「親日派」だとか「土着倭寇」だとか言って、日本を巻き込むのはいい迷惑だ。
さらに在日朝鮮人を中心にした日本の市民グループは、韓国の慰安婦団体をめぐる疑惑や内紛について「(慰安婦)被害者をここまで追い詰めたのは誰か」として、「日本政府、日本社会こそが責任を問われている」と題する文章を発表した。
「李容洙おばあさんの苛立ちと不満は誰に向けられたものか。30年間、被害事実の認定と心からの謝罪、それに基づく賠償が求められてきたにもかかわらず、未だその声に応えることが出来ていない日本政府にこそ、被害者をこのような状況にまで追い詰めた責任がある」とした上で、「一部韓国メディアは悪質なでっち上げ報道を直ちにやめよ」と訴えている。数々の疑惑に対して何の反論もせず、ただ「悪質なでっち上げ」と断じる姿勢には、彼らの主張がいかに欺瞞に満ちているかを示している。
それにしても、何様のつもりなのか?日本に対しては根拠もない言いがかりもいいところだが、日本の片隅のごく一部で発せられたに過ぎない小さな声が韓国の新聞では大きく取り上げられ、あたかも日本を代表する声でもあるかのように伝えられる。「従軍慰安婦」とか「性奴隷」とか言い始めたのは日本人であり、日本発のこうした論調が韓国に伝わり、さらに大きくなっていくというのは、これまでも繰り返されてきたいつものパターンだ。
いま韓国を二分して大きく騒がれている問題は、あくまでも韓国の市民団体の不正な会計処理や意見対立をめぐる純然たる内部の問題であり、慰安婦問題と慰安婦支援団体を神聖不可侵の聖域扱いする中心となった市民運動家・尹美香氏が与党の国会議員となったことで、彼女の過去の実績を含め、その活動をどう評価するかをめぐって与野党を巻き込んで国会での議論にまでなり、つまりは韓国政治の与野党対立という純粋な国内問題であり、南北分断だけではなく「左右分断」という韓国特有の亀裂の深さを反映したものに過ぎないのである。したがって、そこに日本と日本人が入り込む余地は到底ないし、いかなる責任も関わりもないはずだ。しかし、そこに日本をむりやり引きずりこもうとする反日勢力の従来のパターンが再び繰り返されている。日本としては、韓国のいまの事態にいっさい関わることはなく、どうぞ勝手に左右対立の行き着くところまでトコトンやってくださいと無視を決め込み、やり過ごせばいいだけの話なのである。
日本でも人気の在日ユーチューバーWWUK TVは、韓国慰安婦団体の寄付金の不正会計について「慰安婦に対する同情心をかき立てては寄付金を募り、日本から10億円をむしり取りながら、なお不十分だということで謝罪と賠償を求め続けるエンドレスの状態で、もはや永遠にカツアゲできる国を挙げたビジネスとなっていることに、多くの国民が気づき始めたのはいいことだが、慰安婦問題のベースとなる歴史自体がねつ造されたものである事実にもたどり着き、慰安婦問題はビジネスではなく単なる詐欺であったことを気づいてほしい」と呼びかけている。もはや、彼の言葉に尽きるのではないか。
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