南シナ海「九段線」に法的根拠はない⑦

<スプラトリー諸島の現状>

外交誌「ディプロマット」5月6日号のアレクサンダー・ブビング教授の論文によると、現在スプラトリー諸島で各国が領有の拠点を置くのは、ベトナムが21、フィリピン9、中国7、マレーシア5だという。中国はパラセル諸島では、ほぼすべての島嶼、環礁を実質的に押さえているといえるが、スプラトリー諸島に関しては、ゲームにもっとも遅れて参加した新参プレーヤーとして、その確保した地歩は決して優勢ではなく、スプラトリー諸島全域を自分のものだと主張できる権利も権限もないのが実態なのである。

スプラトリー諸島の現状がどうなっているか、香港の英字紙「South China Morning Post」の南シナ海問題に関するWeb特集を参考に、まず全体を押さえておきたい。Conflicting claims: South China Sea multimedia special

中国は、はったりだけで何の根拠も示さない「九段線」を持ち出して、南シナ海のほぼ全域に対する主権を主張するが、他の周辺関係国は国連海洋法条約(UNCLOS)を根拠に明確な線引きを行ない、領海やEEZの主張を展開している。

ベトナムは、1988年中国の襲撃でジョンソン礁を失って以後、スプラトリー諸島の21地点を現在、押さえている。ベトナムはUNCLOSに基づいて、沿岸から200カイリのEEZ内にあるスプラトリー諸島の島の領有権を主張している。ベトナムが占拠している21地点は、臨時的な監視拠点から常設の駐屯地までさまざまで、規模は小さいが埋め立て工事も行っている。ベトナムは早い段階でこの海域に進出したこともあり、高潮時でも水面上に顔を出している11の島の領有権も主張できるため、そこから発生する200カイリのEEZも主張できる。

フィリピンはUNCLOSに基づき、フィリピン沿岸に近接する島々の主権を主張し、1970年から1978年にかけて、フィリピンはスプラトリー諸島の7つの場所を占拠し、うち5つには軍を駐留させた。80年代初めから1999年まで、フィリピンはコモンドール礁と第2トーマス礁にも前哨拠点を設置した。中国とフィリピンは、いたちごっこよろしく、環礁帯の分捕り合戦を繰り広げた。中国は秘かに環礁に標識やブイを設置し、環礁のうえに多くの構造物を建設したが、フィリピンはそれらを見つけ次第、撤去し、中国に抗議を続けた。1988年、中国がジョンソン礁をめぐってベトナム兵80人を虐殺する事件があったあと、フィリピンは、法的手段と外交チャンネルを通じて中国の主張に対抗する道を追求するようになった。

マレーシアとブルネイは、UNCLOSに基づき200カイリのEEZ内にある島や岩礁について主権を主張している。ブルネイはEEZ内のルイーサ礁の領有権を主張している。マレーシアもルイーサ環礁を含めたブルネイ沖200カイリでのブルネイの排他的権利を認めている。この海域には大きな島はないが、海底資源探査ではこの環礁の周辺には石油・天然ガスなど豊かな海底資源が存在することが知られている。

マレーシアは5つの場所に軍隊や建造物を設置している。1983年からスワロー環礁、1986年からアルダシエール環礁とマリベレス環礁、1999年からエリカ環礁とインベスティゲーター暗礁。マレーシア軍は恒久施設はないが、ダラス環礁、ロイヤルシャルロットとルイーサ暗礁に対し定期的なパトロール監視活動を行っている。

そもそもスプラトリー諸島の名前の由来は、英国籍の捕鯨船の船長リチャード・スプラトリーに由来する。1843年3月29日、彼が船長を務める小型帆船サイラス号の見張り人が低い砂地の島を発見し、これは海図に載っていない島だと考えた。英国海軍水路局は発見者の名前をつけて、ここをスプラトリー島と名づけ、1881年以来、同局の発行する海図にその名を記載している。(p134)

スプラトリー島とアンボイナ島は、英国国王の名において、民間の英国人とアメリカ人にグアナの採掘を認める許可が官報に記載されている。英国はいまにいたるも、スプラトリー島とアンボイナ島の領有権を正式に放棄したことはない。

それどころか1930年、フランスの戦艦がスプラトリー島を占拠し、領有権を主張すると、英国は数週間後には領有宣言をしっかり蒸し返している。(p137)

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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