韓国原子力安全委の安全宣言を無視した漁業者の無理すじ提訴

韓国・済州島の漁業関係者が、日本政府と東京電力を相手取り、福島第一原発の処理水の海洋放出の決定撤回と海洋放出に向けた準備の中止、さらに実際に放出が行なわれた場合に被る損害への賠償を求めて、5月13日、済州地裁に訴状を提出したという。

<聯合ニュース5/13「韓国・済州島の漁業関係者 海洋放出で日本を提訴」

いま実際に具体的な損害が発生しているわけではなく、将来も、漁業被害が発生するという科学的な根拠があるわけでもないのに、いかなる法律を根拠に、しかも裁判管轄権を持たない外国政府に対して、その行政行為の執行停止を命じることができるというのだろうか?

申し訳ないが、日本は国際原子力機関IAEAという国際機関の監視と承認を受け、しかも環境にいかなる負荷も与えないために、放射性物質の国際的な放出基準や水質基準以下に抑えて処理水を放出することにしているため、国際的にも国内的にもいかなる瑕疵も存在しない。

つまり、どこからも、責めを負う理由はないし、まして外国の政府や裁判所から命令を受ける謂われはどこにもない。

こんなことで外国政府を相手取って裁判を起こせるとしたら、われわれ日本国民も、韓国の月城(ウォルソン)原発や古里(コリ)原発から今も大量に放出されているトリチウムの海洋放出について、その差し止めを求める裁判を韓国政府を相手取って起こすこともできるし、北朝鮮の核開発や核実験をやめさせるために北朝鮮の金正恩を被告にして差し止め訴訟や損害賠償請求訴訟を起こすことだって可能だ。

さらには、広島・長崎の原爆被害者やマリアナ環礁での水爆実験による第5福竜丸事件の放射能被爆者を含めて、長年にわたる被爆の苦しみに対する損害賠償を求めることも可能なはずだし、米国や中国などの核保有国が1945年から1983年にかけて地上核実験を繰り返し行ない、今も地球環境上にはそのときにばらまかれた半減期の長い放射性物質が自然界には至るところに存在するはずだが、それに対しても全人類が等しく、核実験を行なった核保有国に対し、損害賠償を求めて訴訟を起こすこともできたはずだ。

しかし、そんな裁判が起こされたという話は聞いたこともないし、原爆を落とした米国や核実験をおこなった中国をはじめ核保有国が訴えられたという話を聞いたこともないのは、そんな訴えを起こしても受け付けてくれる裁判所もなければ、裁いてくれる法律もなかったのである。

今回、訴えを起こした済州島の漁業関係者は、国家は他国の裁判権に服さないとする国際法上の「主権免除」の原則があることは知っているらしい。しかし、聯合通信によると、「主権免除」が適用され訴えが却下される可能性もあるが、「主権的行為であっても犯罪など重大な不法行為には主権免除が適用されないという論理で韓国に裁判権があると主張する予定だ」という。元慰安婦たちが日本政府を相手に起こした損害賠償請求訴訟で、今年1月8日、ソウル中央地裁が主権免除の原則を排除し、原告勝訴の判決を出したのと同じ2匹目のドジョウを狙っているらしいが、この慰安婦訴訟の判決そのものは、世界的にもあまり例がないほど「画期的な判決」だったが、おなじソウル地裁の別の慰安婦訴訟では、やっぱり主権免除の原則は適用されるという判決が4月21日に出て、韓国司法界でも主権免除に対する考え方は揺れ動いていることがわかり、1月の判決の「価値」はあっという間にしぼんでしまった。

ぜひ、今回の「福島処理水裁判」では再び「画期的な判決」を勝ちとるように、思う存分闘ってほしい。そして世界に先例を示す「模範」となるか、世界に韓国の恥を大いにさらけ出すか、この際、白黒をはっきりさせてほしい。

ところで、実際に訴えが受理されると仮定して、裁判の過程でもうひとつ白黒をはっきりさせなければならないのは、福島第一原発の処理水問題を巡って、韓国政府の合同タスクフォースがまとめた「報告書」の中身である。

麗澤大学客員教授の西岡力氏が独自に入手した対外秘の文書「福島原電汚染水関連現況報告2020.10.15関係部処合同TF(海洋水産部)」は、海洋水産部を中心に関係省庁の局長級を集めたTF(タスクフォース)が、2020年2月10日に発表された日本の経済産業省の諮問委員会「ALPS小委員会」の最終報告書を受けて、その報告書の内容や韓国国内での専門家や環境団体等での議論をTFが検討した結果として作成されたものだという。

それによると韓国の原子力安全委員会は、7回にわたって専門家懇談会などでこの問題を検討した結果、多核種除去装置ALPSは原発で一般的に使用されている処理設備の運用技術と大きく違わない技術であって、その浄化処理性能には問題はない。影響評価については、国連の「放射線の影響に関する科学委員会」(UNSCEAR)の方法論を使用して導き出される日本周辺・沿岸近隣地域に対する放射線影響数値は妥当。トリチウム(三重水素)については、「たいへん弱いベータ線を出し内部被曝だけが可能だが、生体に濃縮・蓄積されることは難しく水産物摂取による有意味な被爆可能性は非常に低い」。また海洋拡散については、「トリチウムの海洋放出の数年後に韓国国内海域に到達しても海流に従って移動しながら拡散・希釈され有意味な影響はないと予想される」としている。

そのなかには、「汚染水」の処分法案については、技術的には実現可能で、「技術的・時間的観点で先例がある大気・海洋放出が現実的」だとしている。またその影響評価については「汚染水全部を毎年処分すると仮定して導き出せる評価結果は、自然放射線の被曝線量(2.1mSv/年)に対比して1000分の1以下」だとしている。

<Youtube動画WiLL増刊号502回「【西岡力】韓国政府は処理水の「安全」を知っていた!」>

要するに、この報告書によれば、韓国の原子力安全委員会は7回にわたって専門家による会議を開いて検討した結果、①ALPSの浄化処理性能には問題はなく、②処理水を海洋放出しても国連の基準に照らして放射線による影響はなく、③トリチウムによる被爆可能性はなく、④韓国海域への影響は海流による拡散・希釈で無視でき、⑤海洋放出は先例もあり、技術的に可能、と結論づけているのである。こうした専門家による科学的な結論を、裁判でいかに突き崩すことができるか、十分に注目に値する。

というか、こんな最初から勝てる見込みのない裁判を漁業関係者に起こさせる前に、原子力安全委員会は専門家としての権威を示し、自ら出した結論を政府や国民にしっかりと説明し、政治家とメディアと国民の無知蒙昧を啓くべきであろう。現代科学の成果と常識に反して、何の問題も影響もない福島処理水にただただ感情的に、非科学的、非論理的にしか対応できない国民とメディアと政治家しかいないという状況は、韓国の科学者として真に恥ずべき現実だと認識すべきだろう。

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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