米韓首脳会談で「福島処理水問題」に言及しない文在寅の裏切り

バイデン大統領と文在寅による米韓首脳会談が5月21日に行なわれ、会談後に米韓共同声明が発表された。その共同声明全文を読んで不思議に思ったのは、韓国であれほど騒がれている福島第一原発処理水の海洋放出問題について、文在寅はなぜ首脳会談ではひと言も発言しなかったかということだ。少なくともホワイトハウスが発表した「米韓首脳共同声明」(U.S.-ROK Leaders’ Joint Statement)と「米韓パートナーシップ概要説明」(FACT SHEET: United States – Republic of Korea Partnership)の発表文には、Fukushimaフクシマも Nuclear waste water原発汚染水の文字も、どこにも見当らない。

文在寅自身は国際海洋法裁判所の提訴を検討するように指示し、新任の国務総理金富謙(キム・ブギョム)も「隣国に被害を与えるだけでなく地球全体を汚染するとんでもない行為」だとし、「太平洋沿岸の周辺国と協力し日本政府に圧力をかけ続けていく」と国会で答弁し、

聯合ニュース5/6「韓国の次期首相候補 日本の海洋放出「圧力を加え続ける」

漁民らが、「汚染水の海洋放出は人類に対するテロ」だと叫び、連日のように海上デモを繰り広げているというのに、米国大統領に対して何も言わないのは、国民に対する裏切り行為そのものではないのか。

聯合ニュース5/19「蔚山市の漁業関係者が海上デモ「海洋放出はテロ」

さらに不思議なのは、共同声明では、海外市場で原発を売るプロジェクトについて米韓の間で原子力技術協力を拡大するとしていることである。文在寅政権は原発ゼロ政策を掲げ、建設中の原発3基の建設を中断させているはずだが、海外には原発をどんどん輸出して、トリチウムを含む原発汚染水を海に排出することは一向に構わないという矛盾した政策をとっている訳だ。

さらに、共同声明では地球温暖化など環境問題への協力も掲げ、カーボンニュートラルなどグリーン政策のほか、海洋プラスチックや海洋投棄されるゴミの問題にも共同で対処することが謳われている。海洋プラスチックや海洋ゴミの問題をわざわざ米韓パートナーシップとして取りあげるくらいなら、韓国国民が上から下まで狂ったように騒いでいる福島のトリチウム水問題をなぜ、米国にぶちまけなかったのか、不思議でならない。しかも、仮に福島処理水がほんとうに「地球全体を汚染する海洋テロ」だとしたら、その被害をまともに受けるのは海流の関係から、韓国よりも米国西海岸であることは小学生でも分かる。それにもかかわらず、米国との首脳会談という最高・最適な場でこの問題を取り上げないというのは、韓国の子どもたちにどう説明するつもりなのか?

それにしても、今回の米韓首脳会談について、文在寅は「最高の訪問で、最高の会談だった」とSNSに書き込み、韓国政府と韓国メディアの評価も、4月の日米首脳会談でバイデン大統領と菅義偉首相との直接会談は二重マスクのハンバーガー会食だったが、今回はマスクなしのクラブ(かに)ケーキが出され、日本に差を付けたといって大喜びだが、そんなことで喜んでいる場合なのだろうか?

サムスン電子や現代自動車など韓国財閥企業による4兆円もの米国投資という手土産を携えての訪米だったが、その見返りに国民みんなが期待した新型コロナワクチンについては、バイデン大統領から約束されたのは、韓国軍兵士55万人分の提供だけで、それも韓国国民のためというより、いざという時には一緒に闘う米軍兵士のためのものと説明された。これさえも訪米の大きな成果だと自慢するほどなのだから、韓国側はもともと首脳会談にそれほど大きな成果を期待していなかったのかもしれない。

そもそも福島第一原発処理水の海洋放出問題について、米国は最初から日本の決定を支持する立場を明確にしていたのだから、韓国がこの問題を首脳会談で取り上げようと思っても、拒否されて議題にもならないことは最初から分かっていたことだ。要するに福島処理水問題は、あくまでも韓国自身による韓国人が反日を材料にただ騒ぐための韓国国内問題であることは明らかなのだ。そうでないというなら、米国でこの問題について何も言わなかった文在寅の責任を大いに追及してみせてほしい。

ところで、そんなことよりも、今回の「米韓共同声明」を、4月の菅総理訪米の際の「日米共同声明」と比較して、一目で分かるのは、中国Chinaという国名が、米韓共同声明では1回も使われず、わずかに南シナ海South China Seaとして1回出てくるだけ、しかも日米共同声明では言及された香港や新疆ウイグルでの人権問題についてはひと言も触れられず、わずかにミャンマー問題が取り上げられただけだった。

ちなみに日米共同声明では、中国の国名は4回、南シナ海・東シナ海への言及は3回、尖閣諸島は2回、台湾海峡は1回(米韓共同声明でも1回)、「自由で開かれたアジア太平洋」という言葉は3回(同2回)、米日豪印4か国によるQuad(クワッド)は3回(同1回)だった。この比較を見ただけでも、韓国がいかに中国への言及を嫌い、中国へのけん制とか中国包囲網に加わったと受け取られることに警戒しているかがわかる。

さらに、さらに不思議なのは、日米共同声明では、明確に「北朝鮮の非核化」denuclearization of North Koreaと「北朝鮮の核ミサイル問題」North Korea’s nuclear and missile programと言及しているのに対し、

<参考:「日米両国は、北朝鮮に対し、国連安保理決議の下での義務に従うことを求めつつ、北朝鮮の完全な非核化へのコミットメントを再確認するとともに、国際社会による同決議の完全な履行を求めた。日米両国は、地域の平和と安定を維持するために抑止を強化する意図を有し、拡散のリスクを含め、北朝鮮の核及びミサイル計画に関連する危険に対処するため、互いに、そして、他のパートナーとも協働する。バイデン大統領は、拉致問題の即時解決への米国のコミットメントを 再確認した。」(外務省仮訳

The United States and Japan reaffirmed their commitment to the complete denuclearization of North Korea, urging North Korea to abide by its obligations under UN Security Council resolutions, and called for full implementation by the international community. We intend to strengthen deterrence to maintain peace and stability in the region and will work together and with others to address the dangers associated with North Korea’s nuclear and missile program, including the risk of proliferation. Biden reaffirmed the United States’ commitment to the immediate resolution of the abductions issue.>

米韓共同声明では「両首脳は朝鮮半島の完全な非核化に対する共通のコミットメントと北朝鮮の核と弾道ミサイルプログラムに対処する互いの意志を強調した」(President Biden and President Moon emphasize their shared commitment to the complete denuclearization of the Korean Peninsula and their intent to address the Democratic People’s Republic of Korea’s (DPRK’s) nuclear and ballistic missile programs.)として、文在寅政権の要求どおり「朝鮮半島の非核化」denuclearization of the Korean Peninsulaという言葉を使い、「核ミサイルプログラムに対処する意志」などという曖昧な表現しか使われていない。すべて、文在寅政権の意向を反映したもので、バイデン政権は対話と外交というアプローチで北朝鮮核問題に対処するといっているが、結局、北朝鮮に核ミサイル開発の時間を与えるだけ、この間に、北朝鮮住民は緩慢な大量死を待つしかないのではないか。当然、その結果責任は文在寅にある。

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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