迫り来る米中衝突の悪夢

「いままで『考えられない』ことだったアメリカと中国の武力衝突が、ここへ来て俄然、現実味を増している。避けられないという声もあるほどだ」。

ドナルド・トランプの大統領就任を前に、NEWSWEEK日本語版1月17日号は「米中衝突のカウントダウンが始まる」(War Clouds over China)という記事を掲載している。

トランプ次期大統領は当選直後、台湾の蔡英文総統と電話会談を行い、中国にとって曲げられない「一つの中国」という大原則にも疑問を投げかけている。当選後初の記者会見(11日)でも「中国との貿易では、年に何千億ドル規模で損失をこうむっている。対策が十分でないため、2200万ものアカウントが中国によってハッキングされた。中国は、米国を出し抜いて南シナ海で大規模要塞を建設している」などと発言し、就任後には中国に対する強硬な態度も変えるだろうという雰囲気は感じられない。

「一つの中国」が否定されたら、シナ歴代の王権・王統を引き継いだつもりでいる中国共産党はその正統性を失い、習近平は面子を完全につぶされる。そうしたなか、中国は空母遼寧を太平洋まで進出させ、南シナ海上空に爆撃機の編隊を飛行させて中国による防衛識別圏の存在を誇示しようとするなど、こちらも強気を崩さない。

空母遼寧の太平洋進出にあわせ、米太平洋艦隊は原子力空母カール・ビンソンを中心とする空母打撃群を西太平洋に派遣した。

NEWSWEEK誌によると、次期国防副長官候補に浮上しているジョン・ボルトン元国連大使は、トランプは「南シナ海を中国の省の一つに」しようとする中国の取り組みを後退させるため、手始めにより強力な米海軍艦艇を戦闘用レーダーを作動させた状態で南シナ海に派遣する可能性があるという。そうなれば「重大な挑発」だ激しく反発するだろう中国軍がどういう行動に出るか、予測すらできない。

記事では、オーストラリア出身のジャーナリストで映画監督のジョン・ピルジャーが制作したドキュメンタリー映画「迫り来る対中戦争」を紹介している。映画では、中国を取り巻く軍事状況について、「今やミサイル、爆撃機、戦艦、そして核兵器を配備した400以上の米軍基地が中国を取り囲む。米軍基地はオーストラリアから日本、韓国まで北上する形で点在し、ユーラシア大陸からアフガニスタン、インドまで広がる。あるアメリカの戦略専門家に言わせれば、これこそ『完璧な包囲網』だ」という。

また『中国という蜃気楼』の著者ジェームズ・ブラッドリーは映画のなかでこう話す。

「北京から太平洋の方角を見渡せば、目に入るのは米軍の戦艦や、中国に狙いを定めたミサイルを山ほど配備され沈みそうなグアム島だ。韓国にある米軍の兵器は中国を標的にし、日本はアメリカのこぶしを守るグローブになっている。私が中国人なら、アメリカの攻撃的な姿勢に不安を感じざるを得ない」。

同じく映画に登場する上海のベンチャー投資家で政治学者のエリック・X・リーは、米中の大規模な軍事衝突など非現実的な上にばかげているという。「2つの国がこれほど依存しあっている状態は、前例がない。中国は世界最大・史上最大の貿易国であり、しかも米中両国は世界全体とつながっている。以上すべてが平和を示唆している」という。

そこまでの状況認識が今の習近平政権にあるなら、なぜ、南シナ海への軍事進出を止めず、ICBMを搭載した戦略原潜の南シナ海への配備や更なる空母の建造など、あからさまにアメリカに対抗する姿勢を、なぜ改めないのか。それにしても今回の安倍首相のフィリピン、豪州、インドネシア、ベトナム4カ国訪問は、インド太平洋での中国包囲網の結束を強め、トランプ新大統領への強力な援護射撃になったことだけは間違いない。

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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