「慰安婦像」を子供にどう説明するのか④

<慰安婦問題を竹島問題にも拡大、中国とも共闘>

「韓国・京畿道の地方議員団が竹島に慰安婦像を設置することを決議し、募金活動を始めた」(産経新聞1月17日http://news.yahoo.co.jp/pickup/6227389)というニュースには驚いた。当然のことだが、日本側からは強い反発の声が上がっている。

韓国民はせいぜい嫌がらせか鬱憤晴らし程度の軽いノリでやっているかもしれないが、日本の領土である竹島に慰安婦像を建てるということは、われわれ日本国民の神経を逆なでし、日韓関係は長期にわたって修復不可能な状態に落ち込むのはもはや間違いない。

ところでTHAADの配備をめぐっては激しく対立する中韓だが、慰安婦像問題ではしっかり共闘しようと目論んでいる。ハンギョレ新聞に載った北京大学教授李婷婷の寄稿記事(中国からみた韓日の「少女像をめぐる軋轢」http://japan.hani.co.kr/arti/opinion/26265.html)にはあきれた。日本総領事館前の慰安婦像が「公館の安寧と威厳の維持」を求めたウィーン条約第22条に違反するというのは、ただ単に「日本政府の主張に過ぎない」と断言し、この条項は過激なデモに適用されるというのが一般的な解釈で、「慰安婦像は追悼碑・記念碑の代わりに建てられた芸術造形物であり、第22条に十分配慮している」などと、とんでもない論理を展開する。そして「中国、韓国など被害国同士が歴史問題で歩調を合わせる必要性を再び痛感させられる」。「中国にも昨年10月、上海に初の少女像が建てられた。至る所の少女像に合意違反と国際法違反という否定的イメージをつけられることを放置してはならない」とし、中韓共闘を呼びかけている。

ちょっと待ってほしい。一昨年の日韓合意では「韓国政府は、日本政府が公館の安寧、威厳の維持といった観点から懸念しているという点を認知し、関連団体との協議等を通じて適切に解決されるよう努力する」と尹炳世外交部長官がはっきりと発言している。その尹炳世長官は最近も韓国国会で「外国公館前の像設置は国際慣行として認められていない」と発言している。つまり韓国政府もウィーン条約違反であることは認識しているのだ。それを中国が横から口を挟み、それこそ苦し紛れの屁理屈を重ねるのは見苦しい。

<「脱北者少女像」を中国大使館前に設置しよう>

実は、韓国には外国大使館前に「少女像」を設置しようとする市民運動がもう一つある。ソウル市中区の中国大使館前に「脱北者少女像」を設置しようとする運動だ。北朝鮮から脱北を図る人々が現在も絶え間なく中国へと渡っている。しかし、中国当局は彼らを保護することなく、北朝鮮に送り返している。北朝鮮に送還された脱北者たちは収容所に連れて行かれ処刑されるケースが多い。これに対して抗議する韓国の人権団体の運動である。(「中国大使館前の「脱北者少女像」設置運動はダメ?」Wedge

http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20170114-00010002-wedge-kr&p=3

この「脱北者少女像」について、中国政府の反発を受け、ソウル市中区は「設置は認めない。設置すれば撤去する」と言っているそうだが、北京大学李婷婷教授の説に従えば、過激なデモはやらず、「芸術作品」として設置するだけならウイーン条約に違反しないということなのだから、人権団体の人たちは、堂々と像の設置を進めることをお勧めする。

<中韓が解決すべき今そこにいる「性奴隷」問題>

北朝鮮から国境の川を越えて中国に逃げこむ北朝鮮女性たちこそ、実は、われわれの同時代に存在する「性奴隷」そのものとも言える存在なのだ。

世界では、女性や子供を誘拐し、闇取引きする売買が、今も公然と行われ、多くの女性が「性奴隷」として苦界に身をやつしている。女性の違法な売買が今も大規模に行われている地域として、中国と北朝鮮の国境地帯が知られる。

キリスト教系の脱北者支援組織Crossing Bordersを主宰するMike KIM氏の著書『Escaping North Korea (2008)』によると、中国に脱出する北朝鮮の不法難民のうち、女性の割合は60~70%、その女性の70%から90%は人身売買の対象だとされる。中朝国境地帯では女性の売買を専門に行う業者が暗躍している。北朝鮮側にいる業者は、「いい仕事や儲け話がある」などとだまし、国境を越える手引きをする。ある国境の村では、こうした甘言に誘われて女性の45%が中国側に脱出して帰ってこない村もあるという。

Crossing Bordersは、北朝鮮に接する中国側国境地域に支援者を募って地下連絡網をつくり、支援者の住居を「家庭教会」や「シェルター(避難所)」として使い、北朝鮮を脱出してきた難民をいち早く保護する活動を行っている。というのも、脱北女性を狙う中国の密売業者たちとの一刻一秒を争う戦いでもあるのだ。密売業者たちは国境の川を渡ってくる女性たちをその場で捕まえるため、国境地帯で野外キャンプをしながら待ち伏せしているのだという。密売業者の手に落ちた女性たちは、言葉や地理が分からず、保護を求めて訴え出る権利もないまま、業者のなすがままに、中国の貧しい農村地帯に運ばれ、まさに「現代の奴隷」として売買されることになる。

脱北者の女性を金で買うしか結婚の手段がない農民は、もともと身体障害者や精神的欠陥を抱えた男性が多く、買った女性は財産の一部としてしか看做されないため、その後の女性の運命は悲惨なものとなる。一家の奴隷として完全に飼いならされ、絶対服従するまで、家畜同様に一日中、家の中に縛りつけられ、命令に従わなければ、母親や姉妹を含め、一家全員から手荒い暴力を受ける。諦めて少しでも従順な姿勢を示せば、掃除や料理をする時、夫との性行為の義務を果たす短い間だけ、ほんの少し行動の自由を与えられるが、家族が外出するときは逃げないように必ず縛られた。

北朝鮮から中国へ、脱出した人の総数は、2006年当時で30~40万人といわれる。その半数以上が女性だったとして、人身売買の結果として10万から20万規模で北朝鮮女性が中国国内に不当に拘束され、悲惨な運命を嘆きながら、ただひたすら救出を待っているということではないのか?われわれ日本人も北朝鮮に拉致されたままの被害者を抱えているため、けっして他人事ではない。救出を待つ被害者や家族には心からの同情を禁じえない。

中国も韓国も、70年も前の「慰安婦」と呼ばれた女性を取り上げて、日本の歴史認識をあれこれ云々することに熱心だが、もっと自分の足元をしっかりと見つめて欲しい。同じ中国人同胞や韓国人同胞が当事者として関わり、現実に「性奴隷」としか言えない境遇で苦しむ女性が、中国国内に数万から数10万人もいるという事実にどう向き合うのか。70年前の手の届かない彼方にある問題を追いかけるより、手を伸ばせばすぐそこにある現実を直視し、救いを待つ人々を実際にどう救い出すか、その方法を考える方が重要なのではないか。

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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