米中が向き合う中国の軍事力①

<侮れないどころか戦慄の中国軍事力>

ジェームズ・マティス国防長官が来日し(2月3~4日)、安倍総理や稲田防衛大臣との会談を通じて、尖閣諸島が日米安保条約第5条の適用範囲だと表明し、アメリカの防衛義務を確認した。また中国が環礁を埋め立てて軍事要塞化を進める南シナ海について、仲裁裁判所の判決にも言及して中国の力による変更を認めないという立場を鮮明にし、「航行の自由」を確保するための作戦や周辺国の防衛力構築を支援する立場も明らかにした。予測不能のトランプ新政権のなかにあって、日米安保体制の今後については、日本にとってはほぼ100点満点の満額回答だったといえるかもしれない。

その中国に対してトランプの米国がどう対処していくかを占う上で欠かせない本がある。ピーター・ナヴァロ著『米中もし戦わば 戦争の地政学』(文藝春秋2016・12、原題CROUCHING TIGER: What China' s Militarism Means for the World by Peter Navarro)。ナヴァロ氏といえば、米カリフォルニア大学アーバイン校の教授(経済学、公共政策)で、中国に関する著作や雑誌テレビでの活動などによって筋金入りの対中強硬派として知られる。そしてトランプ新政権がホワイトハウスに「国家通商会議」を新設し、その委員長にナヴァロ氏を指名したことは、新政権の対中国政策を色づけるものとして注目を集めている。

『米中もし戦わば』では、<「1500年以降の世界史を振り返ると、中国のような新興勢力が、アメリカのような既成の大国と対峙したとき、70%以上の確率で戦争が起きている」という事実を前に、中国の経済や貿易活動はもちろん、政治体制や軍の内情に至るまで、あらゆる面から「米中戦争」の可能性と、それを防ぐ方策を分析している>とのこと。(本書奥付より引用)

<世界最大規模のミサイル保有数・中国の軍事力の実態>

この本を読んで戦慄を覚えたのは、中国の軍事力が従来の予測よりはるかに強大化・高度化し、先端技術による兵器の近代化が想像以上に進んでいるという現実だった。日本の軍事専門家はわずか数年前まで、日本の潜水艦艦隊の戦術能力と練度は、中国より20~30年先を進んでいると自負し、最近、西太平洋に姿を見せた空母「遼寧」についても、張り子の虎ならぬ「浮かぶ標的」だと揶揄していたが、この本を読むと、そんな甘い見方は無残に打ち砕かれる。

中国が保有する巡航ミサイルや弾道ミサイルの数は、世界最大規模で、それらは日本や台湾、ロシアなど周辺国に標準をあわせ、とりわけ横須賀や佐世保、横田、嘉手納など第一列島線の主要な米軍基地は、中国第二砲兵部隊が照準を合わせている。「これらの基地は固定され、どこへも移動しない上、弾薬庫や燃料タンクまでグーグルアースではっきり確認することができ、上空から丸見えの固定されたソフトターゲットだ。中国軍は座標を打ち込んで目標を設定し、ミサイルを一斉発射すれば、一気に破壊することができる」(No.2672、電子版によるページ数、以下同)

さらには「空母キラー」と恐れられるのが、対艦弾道ミサイル東風21号(DF21)だ。「この対艦弾道ミサイルの画期的な点は、地表へと落下しながら、 空母や駆逐艦などの大海原の中の比較的小さな目標を速やかにロックオンすることができるとともに、非常に正確に目標を追尾しながら回避行動まで取れること」(No634)。

中国はミサイルを増産しているだけでなく、これまで以上に殺傷能力の高い新型ミサイルの開発にも余念がない。その代表例が2014年に最初の試験がおこなわれた極超音速滑空ミサイルで、このミサイルの最高速度はマッハ10、つまり音速の10倍(時速1万2000キロ)」で、水平に近い角度で滑空して目標に接近してくるため、探知も迎撃も難しいといわれる。

<30種類にも及ぶ最新式機雷による海上封鎖>

中国は「接近阻止・領域拒否」に最も有効な兵器として、機雷の開発と保有にも力を注いでいる。中国は、すでに五万発の機雷を保有していると主張しているが、これは世界最大の機雷保有数だという。中国自身が認めているところによれば、中国は最新技術を使って30種類以上の機雷を保有している。たとえば一般の商船や漁船と敵の空母や戦艦のエンジン音などを識別し、敵の艦船の音に反応して深海から高速度で浮上して敵艦に激突するロケット推進式上昇機雷も配備しているという。

そしてこれらの機雷の敷設には、軍だけでなく、一般的には「非戦闘員」と見なされる漁船団も大量に参加している。たとえば「中国には現在、鋼鉄製のトロール漁船が三万隻あり、その各々に機雷一〇発を積載できる」。さらに、「帆船の漁船が五万隻あり、こちらは各々二~五発の機雷を積載可能」(No926)だという。

機雷の有効性は、その海域に1発でもあれば探索と処理に時間がかかり、その海域に入ることを躊躇わざるを得ないという心理的効果にこそある。ミサイルも機雷も、1隻100億ドルもするような空母に比べたら、数100万ドルで製造できてしまう安価な兵器である。破壊する対象に比べて値段が極端に安い兵器は「非対称兵器」と呼ばれるが、こうした「非対称性」、さらには「戦わずして勝つ」という心理戦、数を重視する人海戦術の考え方こそ、アメリカを脅かす中国の軍事戦略などである。(続く)

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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