五輪の政治利用が激しくてIOCから忌避された韓国

韓国の文在寅大統領は、この後に及んでもなお、北京冬期オリンピックの機会に北朝鮮の金正恩総書記と会談し、あわよくば米中も巻き込んで4か国首脳会談を行なうなど、北京五輪を朝鮮半島問題に関する一大「政治ショー」の場として利用したい考えのようだ。そもそも北朝鮮は東京オリンピックを一方的にボイコットしたことで、IOC国際オリンピック委員会から資格停止の処分を受け、北京冬期五輪には参加できなくなっている。北朝鮮選手団がいないオリンピックの場に、金正恩一人がノコノコと姿を現すことなどあり得ないはずだ。

聯合ニュースによると、文大統領は9月15日、韓国を訪れた中国の王毅外相と会談し、北京冬季五輪の開催成功のために協力する意向を示し、「北京五輪が(2018年の)平昌五輪に続き北との関係を改善する転機になり、北東アジアと世界の平和に寄与することを願う」と話した。これに対して王毅外相は「北京五輪が南北関係改善のきっかけになるよう努力する」と応じたという。

聯合ニュース9/15「韓中外相「朝鮮半島情勢の安定的な管理重要」=北への関与で一致」>

これについて、読売新聞は「来年2月の北京五輪開幕式に合わせ、北朝鮮の金正恩総書記やバイデン米大統領、中国の習近平国家主席らと一堂に会して朝鮮戦争(1950~53年)の終戦宣言を行いたいという意向とみられる」と報じた。

読売新聞9/15「文氏「北京五輪を対北関係改善の転機に」…訪韓中の中国外相に協力要請」

つまり文在寅氏は「来年5月の任期満了までに南北融和策でレガシー(政治的遺産)を残すことを悲願としている」(読売新聞)ために、その最後のチャンスとして北京五輪を徹底的に政治利用し、朝鮮半島問題をめぐる「国際政治ショー」の場として世界に訴え、ひいては国内向けに「政権パフォーマンス」の最後のあがきに使いたいわけなのだ。

それにしても、北京冬期オリンピックの開催について、中国政府によるウイグル人などへの人権侵害を理由に、欧米諸国では参加ボイコット、少なくとも政府関係者の出席拒否という「外交的ボイコット」の主張が高まっている。そんな中で、バイデン大統領がこれまたノコノコと北京まで出かけていくことはあり得ないと思うのだが・・・。

文在寅は、この夏の東京オリンピックに際しても、平昌五輪の二番煎じ、つまり「アゲイン(Again)ピョンチャン(平昌よ、もう一度)」を期待し、南北合同チームの結成や、東京での金正恩との南北会談の実現に意欲を示していた。しかし、北朝鮮が新型コロナの蔓延を理由に東京五輪ボイコットを宣言したことから、その夢はあっけなく消え去ることになった。しかし、そのあとも、日韓首脳会談の開催をしつこく要求し、開会式の直前まで訪日にこだわった。日韓の間に横たわる様々な課題はそのほとんどが韓国側が引き起こした問題だが、それに対して自らは何の解決策も示さないまま、首脳会談さえ実現すれば関係改善が図られるだろうという、何ともお気楽な、というか、ある意味、日本を馬鹿にした対応を取ってきたのが文在寅だった。

文在寅にとって、あるいは韓国にとって、オリンピックとは、自分たちのために如何様にでも利用でき、何でも勝手に主張できる場だと思っているのだろうか。今回、東京オリンピック・パラリンピックに際して見せた大韓体育会(=韓国オリンピック委員会)と韓国選手団の一連の振る舞い、たとえば選手村に掲げた政治的スローガンの垂れ幕騒動や福島県産食材を拒否して自国選手団に支給した自前のコンビニ弁当を「放射能フリー弁当」だと称し、福島など東北3県の人たちが育てた3種類の花で作ったビクトリーブーケを「放射能ブーケ」だと揶揄したこと、それに旭日旗や竹島問題に対する執拗な抗議など、明らかにスポーツという範疇を超え、日本に対するあからさまな政治的な嫌がらせ、国際社会に向けた日本侮蔑の政治的なパフォーマンスだった。

しかし、オリンピックは韓国一国のためにあるわけでもなく、オリンピックが韓国を中心に動いているわけでもないのである。東京オリンピックで見せた韓国のこうした姿勢や態度に対して、IOC国際オリンピック委員会は、明らかに嫌悪や忌避の態度を示すようになった。

2032年のオリンピックの開催地について、IOCの執行委員会はことし2月、オーストラリアのブリスベンを優先候補地として選定し、さらに6月の執行委員会では、単独立候補したブリスベンを全会一致で候補地として承認した。その結果、7月21日、東京で開かれたIOC総会ではブリスベン開催が賛成多数で正式に決定された。2023年開催地に関するこうしたIOCの承認決定過程に唯一、異議を唱えたのが、韓国だった。

韓国は、2032年オリンピックの開催地としてソウルと平壌による南北共同開催という形で立候補していた。これは2018年9月、文在寅が平壌を訪問し、金正恩と会談した際に、北京五輪など主なスポーツ大会には南北合同チームを派遣することで一致したほか、「2032夏季オリンピック南北共同開催招致協力に関する共同宣言」を発表し、ソウル・平壌共同開催を実現しようと約束したことによる。また、女性秘書に対するセクハラ被害を告発されて自殺した朴元淳前市長も、ソウルと平壌の2都市共同開催に、極めて熱心だった。そうした文在寅や朴元淳らの意向もあって、ブリスベンを優先候補地として選定した2月のIOC委員会の決定については、ソウル市は直ちに「遺憾だ」とする声明を出したほか、朴元淳の自殺にともなって4月に行なわれた市長補欠選挙の直前、市長不在にもかかわらず2032年開催都市への立候補をIOC側に通知したほか、新しい市長が決まりブリスベンが最終候補地に確定したあとも、もう一度開催地に名乗りを上げるというしつこさだった。

しかし、この立候補にあたっては、「共同開催」と銘打ってはいるものの、2019年2月のハノイでの米朝首脳会談が決裂して以降、北朝鮮が韓国との対話を完全に断絶したなかで、北朝鮮とはいっさい協議できず、北朝鮮側の了解もないまま「ソウル平壌共同開催」を堂々と謳ったIOCへの一方的な申し入れだった。そうした事情は、すでにIOCも承知していたことで、南北共同開催の話が持ち上がった当初、興味を持ったIOCが北朝鮮側と直接、連絡を取ったところ、あっさり「関心がない」と一蹴されたと言われる。その後も「共同開催」に関して、韓国と北朝鮮が接触したり話し合ったりしたという形跡はいっさいなく、単に韓国だけの、あるいは文大統領ひとりの政治的な願望にすぎないことは、IOCにも筒抜けになっていた。

実はことし10月、ソウルで各国の国内オリンピック委員会NOCの集まりであるANOC(=NOC連合)の総会が開催されることになっていたのだが、東京オリンピック開催中の8月初め、IOC側が突如、開催場所をソウルからギリシャのアテネに変更すると通知してきた。ANOC総会は世界206の国と地域の国内オリンピック委員会NOCの代表や執行委員1000人余りが年1回集まり、世界のスポーツ界の著名人などと交流を広げるイベントで、もともとは去年10月に開かれることになっていたが、新型コロナウイルスの蔓延で東京五輪が一年延期となり、このANOC総会も一年先延ばしになっていた。韓国側はこの場を利用して2032年の南北共同開催を各国NOCに大々的にPRする計画で、そのために相当の時間とお金をかけて準備していたとされる。しかし、IOC側の独断で突如、開催場所がアテネに変更となった訳だが、その理由について、韓国オリンピック委員会=大韓体育会が、竹島問題への執拗な抗議を繰り返したり、政治的主張を盛り込んだ横断幕を選手村に掲げたりしたことなどが、IOCの逆鱗に触れたのではないか、というのが国内外のメディアの大方の見方だった。

それにしても、文在寅は、あるいはソウル市は、北朝鮮の平壌とオリンピックを共同開催するという意味を、いったいどう捉えていたのだろうか。オリンピック開催ともなれば、どの程度の競技をどの競技場で行なうかにもよるが、それにしても、事前の準備や交渉を含めて大量のIOCやスポーツ関係者が北朝鮮に出入りし、五輪本番ともなれば各国の選手団や競技関係者のほかに海外からの観客も受け入れなければならず、かつてない規模で外国人が北朝鮮を訪れることになる。その過程で、北朝鮮の政治制度、経済状況、市民生活などあらゆることに光が当てられ、好奇の目が注がれることになるのは間違いない。

北朝鮮といえば、いまだに一度入ったら二度と出られないといわれる生き地獄のような政治犯収容所が各地にあり、各地で平然と行なわれている死刑囚の公開処刑が衛星からもはっきりと捉えられているような国である。

中国の新疆ウイグル自治区で無数に存在する強制収容所施設やウイグル人などに対する強制労働、宗教弾圧や民族文化の抹殺、日常生活の監視や数多くの人権迫害などについて、欧米諸国ははっきりと「ジェノサイド」(民族消滅政策)だと指摘して、北京冬期オリンピックへの参加ボイコット、最低でも政府関係者の出席を拒否する外交的ボイコットを求めている。こうした状況のなかで、仮に北朝鮮でオリンピックが開催されたら、北朝鮮の人権状況や日本人拉致被害者の存在などが国際問題として大きくクローズアップされるのは明らかだろう。ましてや北朝鮮は非核化には応じることもなく引き続き核戦力の増強を続け、国連決議に違反して開発を進める弾道ミサイルの試験発射を繰り返し、その成功を世界に誇示し、周辺国に脅威を与え続けている国である。世界が求める非核化の要求に応じることなく、国連による厳しい経済制裁を受けているような国で開催されるオリンピックなど、世界の多くの国が認める訳がなく、参加を拒否するのは当たり前だろう。

文在寅と金正恩は、そこまで承知したうえで、2032年オリンピックの南北共同開催への協力を約束し、共同宣言にまとめたということなのか。

あるいは、文在寅は、金正恩が核開発を放棄し、米朝対話や南北関係が進展し、朝鮮半島平和プロセスが動き出せば、すぐにでも北朝鮮の体制が変わり、人権を擁護する平和国家に生まれかわるとでも夢想したのかもしれない。しかし、その後、北朝鮮側は核放棄を明言せず、ハノイでの米朝協議が決裂した以後は、韓国との対話を断絶し、開城の南北共同事務所を爆破した妹の金与正が、文在寅とその政権を「無能、愚鈍だ」などと口汚く罵り、人格攻撃する状態が続いている。この状態のなかで、北朝鮮がオリンピックの南北共同開催について一切言及せず、韓国の呼びかけには一切反応せず、協議にも応じないと言うことは、文在寅よりは、はるかに現実的かつ冷静にオリンピック開催など不可能だという現状を認識している証拠なのではないか。

文在寅政権は、金与正が北朝鮮へのビラ散布を禁止せよと抗議しれば、すぐにビラ禁止法を作るなど、北朝鮮の顔色を伺いながら、その言いなりになっている。ミサイルを発射しても北朝鮮には何の抗議もぜず、北朝鮮が米韓合同演習の中止に言及すれば、米軍より先に北朝鮮と日程や規模を話し合いたいという始末だ。北朝鮮が韓国に対してこれだけ敵対的なのにもかかわらず、鄭義溶(チョン・ウィヨン)外相は、北朝鮮はいまも南北軍事合意を遵守していると北朝鮮擁護発言を繰り返す。どうなっているのだろうか?文在寅の任期は来年5月まで残り8か月あまり。その間に北朝鮮との関係が劇的に変わることは考えられないが、次期政権が引き続き親北・反日反米の左派政権となるか、それとも対北強硬派の保守政権に変わるか、しばらく大統領選挙の行方に目が離せない。

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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