「K防疫」は失敗、自画自賛と日本を嘲笑した代償

19都道府県に出されていた緊急事態宣言は10月1日にすべて解除された。翌日の土曜日には人々が一斉に行楽地や飲食店に繰り出し、ニュース画面をみていると、どの家族連れも満面の笑みに溢れ、幸せそうだった。それだけ誰もが待ち焦がれていた瞬間だったということだろう。

9月に入って、新規感染者や入院患者の数は目に見える形で急減した。この功績はひとえに、コロナ克服の唯一の手段はワクチン接種だと宣言し、一日100万人以上のワクチン接種という大号令を出した菅義偉首相のものであることは間違いない。感染拡大の第5波は、新規感染者が東京都で8月13日の5773人、全国では8月20日の25,857人をピークに、9月6日には東京都で968人、全国で8,220人まで減少した。皮肉にも菅総理がコロナ対策に政権の命運を賭けると決し、自民党の臨時役員会で総裁選への不出馬を宣言した9月3日のわずか3日後だった。その後も、総裁選直前の9月27日には、東京都で154人、全国で1,146人にまで減少している。かりに総裁選の日程があと1か月遅かったら、菅総理は辞める必要はなく、政権は続いていたかもしれない、と思うのは私だけだろうか。

ところで新型コロナウイルスの新規感染者が、日本では急減している一方で、韓国では逆に、ここに来て、感染者数が過去最高にまで増えている。韓国では、去年11月中旬以降、新規感染者が300人を越えたことで感染拡大の第三波の到来を宣言したが、それから7月初めまで8か月間、大きく増えることも減ることもなく一日の感染者数は300人から800人の間を推移した。これほど長い間、ほとんど500人前後で下げ止まったままの状態だったため、何か数字の操作が行なわれているのではないかと疑ったりしたものだ。しかしその後、7月中旬からは1200人を超える日が連続し、8月にはそれが2000人を越え、9月の秋夕(チュソク)中秋節の連休(18日~22日)が明けた9月25日には3,273人となり、去年1月に最初の感染者が発生して以来、過去最高を記録した。同じ日の日本全国の新規感染者は2,050人だったので、日韓の人口規模を勘案すれば、日本の3倍あまりの感染者が発生したことになる。その後も2000人台が続き、その一方、日本は1000人以下に減少した(10月3日現在)。

この間のワクチン接種状況は、日本も韓国も2月下旬にワクチン接種が始まったが、当初は韓国のほうが順調に接種が進み、日本は接種のスピードはなかなか上がらない状態だった。しかし、その後は、韓国がワクチンの確保量が需要に追いつかず、供給計画に狂いが生じたため、5月と6月の2回にわたって接種がほとんど中断する時期もあった。一方、日本では6月に入ると連日100万回以上の接種が進んで、7月初旬には160万回以上に達する日もあり、ワクチンの接種率では日本がはるかに先行する状態が続いた。2回目のワクチン接種率が人口の30%を超えたのは日本が8月1日、韓国が8月30日。50%を超えたのは日本が9月11日、韓国が9月30日だった。

参考:新型コロナウイルスワクチン接種率の推移【世界・国別】>

            (韓国・光明市保健所の野外PCR検査場 9月23日)

ところで、1回目のワクチン接種に関していうと、その進展スピードは、韓国も日本も同じような曲線を描いた。これは、文政権がワクチン導入の遅れを取り繕うため、1回目接種の拡大を優先するあまり、本来は2回目接種のために使うはずのワクチンを1回目の接種に流用したためだ。そのため前述のとおり、ワクチンの供給計画に齟齬が生じ、ワクチン接種が停滞する時期もあった。

もともと韓国が最初に導入したアストラゼネカ製のワクチンの場合、2回目の接種までの期間が8週間から12週間といわれ、ファイザーやモデルナの3~4週間より2倍以上かかった。韓国では、ワクチンの絶対量が不足したことで、この1回目と2回目の間隔を最大限、延ばして対応したため、日本に比べると2回目接種の完了まで時間がかかり、間延(まの)びした感は否めなかった。

いずれにしても、8月から9月にかけて、日本ではワクチン接種が進むのと同時に新規感染者数も確実に減少していったのに対し、韓国では、ワクチン接種が進むのと逆行して感染者数が増える、という何とも不思議な現象が起きた。

韓国でも日本と同じく、変異株のデルタ株への置き換えは、この間にほぼ100%に達していて、日韓の違いを説明できるのは、ワクチンの種類が韓国では当初、アストラゼネカやヤンセンファーマ製が多くを占めたのに対し、日本ではファイザーやモデルナ製だったという事情しかない。

ところで、文在寅大統領は、新型コロナウィルスが拡大しパンデミックの様相を見せた当初、韓国での感染者や死亡者数が、欧米などに比べてはるかに少なかったことに気をよくして、新型コロナ対策に成功したと勘違いし、「K防疫」と称して、韓国を世界の先進モデルとして海外に売り出すことを考えた。野外のドライブスルー方式のPCR検査も、マスクの割当制郵便局販売もすべて「K防疫」だった。そして、ワクチンについても、ワクチン生産と供給において世界のハブを目指すとして「グローバルワクチンハブ化構想」を掲げた。

しかし、その実体は、ワクチンを世界に供給する「ハブ」どころか、ファイザー社などとの契約が難航して、自国用のワクチンさえ不足し、バイデン大統領の情けで米国から軍人向けワクチン100万人分の提供を受けたほか、「ワクチンスワップ」と称して、イスラエルやルーマニアなどから有効期限の迫ったワクチンを譲り受けて急場をしのぐなど、哀れな物乞い外交に終始した。しかも、本来は発展途上国へ回すべきCOVAXのワクチンさえ真っ先に押さえ、ワクチン確保のためなら、なりふり構わぬ執念も見せつけた。

ワクチンの導入に当たって、日本は国内で治験をやり直すなど国内手続きに時間がかかったものの、海外製薬メーカーとの間で優先的購入権の交渉を確実に行なった結果、3回目のブースター接種にも十分な量のワクチンを確保している。一方、韓国は当初、国内の感染者数が抑制されていたこともあってワクチン接種をそれほど重視せず、欧米の製薬メーカーとの交渉が後手に回ったことで、購入契約は計画通りにはなかなか進まなかった。

このうちモデルナ製のワクチンは、2020年12月、文大統領がモデルナの最高経営責任者(CEO)に直接、電話をかけて交渉し4000万回分の供給を約束させたものだったが、契約では具体的な納入期限に関する定めはなく、8月半ばまでに導入されたのは245万回分(6%)に過ぎなかった。

朝鮮日報8/18「韓国向けモデルナワクチンの「屈辱的契約」、月別の供給計画もなかった」>

このため、韓国政府は代表団をマサチューセッツ州のモデルナ本社に派遣して交渉したが、その後も、納入は滞り、8月は供給予定量(850万回分)のわずか4.2%しか供給されなかったといわれる。

中央日報8/30「モデルナ8月に4.2%のみ供給 2次接種計画に狂いのおそれ」>

当初は、「グローバルワクチンハブ化構想」に従ってワクチンや治療薬を独自開発し世界に供給するとしていたが、韓国のSKバイオサイエンスがアストラゼネカ社と、サムスンバイオロジックスがモデルナ社とそれぞれ結んだ委託生産契約では、原液を輸入して瓶詰めするだけの作業に過ぎず、独自開発のワクチン生産にはほど遠かった。

独自開発といえば、台湾ではすでに8月23日から台湾製ワクチンの一般への接種を始めているほか、日本の塩野義製薬もことし中の承認を目指し、ワクチン開発は台湾や日本のほうがはるかに先を行っている。さらに他国への人道的なワクチン提供では、日本のほうがはるかに先行している。文大統領は、韓国がワクチンを世界に供給するハブになるという言葉を、6月のバイデン大統領との会談や先の国連総会の一般演説でも口にしているが、今のところは実体を伴わない虚言に終わっていることは明らかだ。

そればかりでなく、文大統領が「K防疫」を自慢すると、そのあとには必ず国内での感染が拡大するという傾向が現れるという。流行初期の去年2月、文大統領が「コロナはすぐに克服できる」と言った直後に大邱の宗教教団を中心に集団感染が発生、就任3周年演説で「K防疫が世界標準になり、韓国は先進国になった」と宣言した途端、ソウル梨泰院(イテウォン)のクラブを中心にクラスターが次々に発生。英国でのG7サミット(6月11~13日)でK防疫を自慢し気分よく帰国した翌月には感染が1200人まで拡大し、最近も国連演説(9月21日)でK防疫とワクチン協力を訴えて戻った直後に過去最高の感染者を記録した。

そんななかでも、文大統領は成人の80%、高齢者の90%がワクチン接種を完了する10月か11月を目標に、感染防止対策「社会的距離の確保」を緩和し、日常生活を取り戻す、いわゆる「ウィズコロナ」に転換する方針を示している。さらに、新規感染者がたとえ一日3000人台でも、医療施設には余裕があるとして、ウィズコロナに転換する構えを示している。

KBS日本語ニュース9/29政府「1日に感染者3千人台でも11月から段階的日常回復へ」>

これがK防疫の実体なのか?文大統領は「2025年までに、韓国を世界のワクチン生産5大国家に跳躍させる」と宣言し、ワクチン開発を半導体やバッテリーととも「3大国家戦略技術」に選定し、新たな経済成長の原動力にするとしている。K防疫は、国民の生命と健康を守る方策というより、新たな経済戦略、国家発展戦略として重点が置かれている。

文大統領夫人の金正淑(キム・ジョンスク)氏は世界韓民族女性ネットワーク大会にビデオメッセージを寄せ、「韓国の国際的地位が急激に高まっている。K医療やK防疫は世界の模範となっている。頭に「K」がつく単語から、韓国国民としての誇りを感じる」と述べている。

KBS日本語ニュース8/30「大統領夫人 世界韓民族女性ネットワーク大会にメッセージ」>

金正淑夫人は、旦那と同様に、無邪気というか能天気もいいとこだ。

K-POPやK防疫だけではない、KバイオやKコスメ、K整形、Kウェブ漫画、KドラマやKスタイル、それにKパクリにKねつ造などなど、あらゆるものにKがついて賑やかだ。何でもKが付けばいいというものではないが、Kは「韓国による韓国特有の」という意味では、肯定的にも否定的な意味でも使われる。

カン・ドックという作家は中央日報への寄稿で、K防疫の自画自賛は、「国家的・民族的自負心の高揚を目的に、事実をベースにした情報を否定し、世論を糊塗するために活用する」という特色があるという。そして「K防疫がそれほどうまく作動しているなら、1年以上続いている自営業者や若者の苦痛と涙は一体何なのか」と問う。

K防疫について「Kファシズム」だとか「官製民族主義」だという意見もあるが、私に言わせれば、「K全体主義」であり「K民族優越思想」にすぎない。それを如実に示すのは、K防疫に対する自画自賛は、日本に対する誹謗中傷や嘲笑を伴うことが多いことだ。

最近の日本の陽性者の急速な減少についても、中央日報は、ただ単にPCR検査数が減ったことによる効果だとして、「8月中旬に20万件まで増えた一日のPCR検査件数が9月末には4万-6万件に減り、検査者の減少による「錯視効果」ではという指摘もある」と揶揄した。

中央日報10/4「1カ月間に感染者が10分の1に減少…「ウィズコロナ」で先を進む日本の秘訣」>

またWowKoreaは「なぜ日本はPCR検査を減らしてまで『ウィズコロナ』に切り替えたのだろうか。保守性向の産経新聞は『次期政権に向けた菅首相からのプレゼント』だと評価した。社会と経済活動を再開するために、菅首相が“ウィズコロナ”という出口戦略を展開したという説明だ」と断じた。

WowKorea10/3「“防疫失敗”と嘲弄された日本、韓国より早い『ウィズコロナ』転換の背景とは?=韓国報道」

韓国マスコミは、相変わらず何の根拠もなく偏見だけで、ただ日本を中傷し嘲笑することに血道を上げている。しかし、ワクチンの接種完了率が60%を越え、感染者が減って同時に濃厚接触者も減っているのだから、PCR検査が減るのは当たり前のことだ。それがどうして「錯視効果」だとか「次期政権へのプレゼント」などと言えるのか。なお産経新聞が伝えたとする「次期政権へのプレゼント」という文言は確認できなかった。


最近、日本に一時帰国し、韓国に再入国した経験から、日本と韓国の水際でのコロナ対策を比較することができた。海外からの入国者に対しては日本でも韓国でも、スマートフォンにアプリを強制的にインストールさせ、これによって入国後2週間、健康状態を報告させ、位置情報で申告した場所で自宅待機しているかを確認している。日本では、SOSと呼ばれるアプリで、毎日1回、ビデオ通話の催促があり、自分の顔と背景を映しだすことが義務づけられた。スマホの位置情報と、AI人工知能による画像分析で本人確認と待機場所の確認が行なわれるのだという。ビデオ通話の催促があったのに、しばらく応答しないでいると「早く待機場所に戻れ」という警告メッセージがあった。韓国では一日2回、体温や咳などの健康状態を報告することになっているが、報告が遅れると必ず地元の保健所から電話があり、報告するよう催促された。その際、韓国語は聞き取れないと断っているのに、相手は一方的に韓国語でまくし立てた。韓国ではたとえゴミ出しでも一歩も家の外に出ることは禁じられ、生ゴミを含めて2週間のゴミを保管しろと言われて、BIOHAZARD Disposable Autoclave Bag(病原体、使い捨て高圧滅菌袋)と書かれた赤い色のゴミ袋を保健所から渡された。そのほか、段ボールいっぱいのインスタントラーメンや加工食品が自宅に届けられる。

こうした自宅隔離に違反した者は、1年以下の懲役、または1000万ウォン(92万円)以下の罰金が科せられる。また入国時には、命令に従わないものは所在位置が通報される腕輪(リストバンド)をつけることを誓約する書類に署名させられる。さすがに日本ではこれほど厳しい罰則規定はなく、公共交通機関を利用しないという制限以外は、近くのコンビニに行くのも自由だ。

これだけの強制力を持ち、厳しいK防疫にも関わらず、1年9か月以上もの間、韓国では感染拡大がいっこうに終息する気配を見せないのはどうしてなのか?こうした実情を見る限り、K防疫など、けっしてモデルにするわけにはいかない。

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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