韓国ドラマが示す断末魔の韓国経済危機

<弱肉強食の競争社会を反映する『イカゲーム』>

動画配信サービスNetflix(ネットフリックス)のオリジナル韓国ドラマ「イカゲーム」が世界で大ブレーク中なのだという。ことし9月の公開以来26日間で世界の1億1100万世帯で視聴され、Netflixの人気ランキングで94の国と地域で1位を記録したという。

中央日報10/13「17日間で世界の1億1100万世帯が視聴Netflix新記録」>

ドラマのタイトルとなっている「イカゲーム」(오징어게임)とは、1970年代から80年代にかけて、子どもたちの間で流行っていた遊びで、地面に〇、△、□でイカのような形を描き、攻守にわかれてそのエリアの中で陣取りをして勝ち負けを決める、どこか日本の“ケンケンパ”にも似た遊びだという。ドラマのストーリーは、ギャンブルや詐欺、失業などでそれぞれの事情を抱えて多額の借金を抱えている人たち、合わせて456人が、人数分の456億ウォン(約43億円)という巨額の賞金をかけてサバイバルゲームにチャレンジするというもので、「デスゲームもの」と呼ばれる日本の数々の漫画や映画の模倣、「Kパクリ」であることは間違いない。

ファン・ドンヒョク監督自身が認めているように、日本映画の「バトル・ロワイアル」(2000年)や『LIAR GAME』(2007)、『カイジ 人生逆転ゲーム』(2009)などにヒントを得たもので、ばく大な借金を負った主人公が一攫千金をねらってゲームに参加するという設定は『カイジ 人生逆転ゲーム』と似ていて、鮮血が飛び散る残虐な場面は『バトル・ロワイアル』を思い出させる。『イカゲーム』に登場する「ムクゲの花が咲きました」は日本でも「だるまさんが転んだ」という同じルールのゲームがあり、『神さまの言うとおり』(2014)にも登場する。

中央日報10/12「世界で大人気の『イカゲーム』、デスゲームの元祖・日本では意外な反応」

しかし、子どもの遊びを扱ったドラマといいながら、ゲームに負けた人間は、その瞬間に排除され殺害されるなど、あまりにも暴力的で教育上、有害だとして欧米では18歳以下の視聴は禁止され、またドラマに出てくる臓器摘発・臓器販売の場面があまりにも残酷だとして問題点も指摘されている。

中央日報10/11『イカゲーム』 米国・欧州の学校「18歳未満が見ないように監督を」


<「最も韓国的なものが最も世界的」って本当か?>

そんな中で、北朝鮮の対外宣伝メディア「メアリ(山びこ)」が、この「イカゲーム」について、辛辣な論評、というか、ある意味、韓国の深部をえぐった分析記事を掲載した。

メアリは「弱肉強食と不正腐敗がはびこり、非道徳行為が日常化している南朝鮮(韓国)社会の実情を暴露したテレビドラマが放送され、視聴者の人気を集めている」として「イカゲーム」を紹介した。その上で、ドラマの人気の背景について、「生存競争と弱肉強食がはびこる韓国と資本主義の現実をそのまま掘り起こしている」として「人間を極端な競争に追い込み、そのなかで人間性が奪われていく野獣化した南朝鮮社会。一番でなければ死ななければならないという弱肉強食の試合ルールを作り、凄惨な殺戮が繰り広げられる競技を娯楽と考え、それを見る金持ちたちが快楽を感じるというスタイルは、不公平な社会に対する激しい憤りを感じさせる」と主張した。

また「ドラマを見た観客は『激しい競争の中で脱落者が増えるのが現在の南朝鮮社会だ』『お金だけで人を評価する世の中を生きる現実が呪わしい』などの感想を明らかにしている」とし、ドラマに対する感想もやはり韓国社会像批判に集中した。

KBS日本語ニュース10/12「北韓メディア ドラマ『イカゲーム』紹介し、韓国社会を批判」

北朝鮮メディアの分析がそこそこ的を得ていることは、ファン監督自身が、10年ほど前に初めてこのドラマの着想を得たとき、周囲の人はドラマの構想を難解だという反応が多かったというが、その間に世の中が変わり、現実のほうがドラマに近づいたことで、受け入れられるようになったといっていることだ。つまり現代の韓国の若者は、財閥系の一流企業への就職に失敗すると、就職自体を諦め、銀行などから借金をして、ビットコインや不動産、株を買って、それこそ一獲千金を狙うゲームのような投資に命をかける、というまさに『イカゲーム』と変わらない世界を生きている。そういう状況とこの映画の素材が共通していることに共感と関心を呼んでいるのではないか、という分析もある。

ところで『イカゲーム』の世界的人気だけでなく、韓国ではBTS(防弾少年団)に代表されるK-POPやポン・ジュノ監督の『パラサイト~半地下の家族』などへの高い評価、そしてただただ辛いだけの「辛ラーメン」が世界で売上げを伸ばしていることも含めて、「最も韓国的なものが最も世界的なものだ」と豪語するようになった。世界の片隅にある韓国のモノや文化が、最先端で世界を牛耳る、いわば世界標準となったと夢想しているのだ。しかし、その「最も韓国的なもの」とは、『イカゲーム』や『パラサイト』の世界のように、韓国ならではの貧困や過酷な競争社会そのものを指し示している。『イカゲーム』の世界的な人気を手放しで喜んでいる間に、『イカゲーム』が描く競争社会、弱肉強食で敗者を切り捨てる現実がまさに足元に迫っていることに気づいているのだろうか。


<トリプル安にインフレ懸念で韓国経済は下振れリスク>

ドル高・ウォン安が進み、ついに10月12日には通貨危機レベルの危険水域といわれていた1ドル=1200ウォンの警戒ラインを越えた。国際原油価格の高騰や米国の量的緩和の縮小、それに中国経済への不安などから、リスクの高いウォンを売って、非常時に強いドルが買われるからだ。

ウォン安ドル高によって、原材料価格やガソリン価格、消費者物価が上がり、インフレと景気低迷が同時に進むスタグフレーションの危機さえ叫ばれている。生産・消費・投資などの経済指標はいずれも赤信号が灯っている。

ことし6月には最高値を更新し3300を越えた韓国総合株価指数(KOSPI)は10月12日、ついに2900まで下がった。このうち韓国トップ企業であるサムスン電子株は半導体価格の下落への懸念から売られ、株価は7万ウォンを割り込んだ。株式市場では、ことしに入って外国人投資家の売り越しが進み、その額は10月8日までに、金融危機があった2008年の規模(29兆554億ウォン)を越えたという。そして外国人による売り越しの対象になっているのがサムスン電子株で、その額は、売り越し額全体の83%を占める24兆720億ウォンだという。

朝鮮日報10/13「韓国株:金融危機並の外国人売り越し、サムスン電子だけで24兆ウォン売却」

債券市場では、国債金利も上昇し、国債の価値は下がり続けている。ウォン安に株価の下落、国債の値下がりも進む、いわゆるトリプル安の展開となっている。

ソウルの不動産取り引き価格は9月になって35.1%も下落し、下落幅が大きいところでは、1億から2億ウォンも値下がりしたケースも相次いでいるという。中国の不動産企業・恒大産業の巨額負債問題による信用不安でもっとも影響を受けるのは韓国だとも言われる。韓国でもマンションを爆買いする中国人の不動産投資は、韓国人の不満を爆発させている。

家計向け融資、個人信用貸付が急増し、5大都市銀行の家計融資残額は10月7日現在で703兆ウォン。昨年末(670兆ウォン)と比較すると増加幅は4.97%で、金融当局が提示した増加率目標値の下限5%に近づいているため、農協銀行に続き、他の銀行も相次いで一部貸付を中断するのではないかとの懸念が広がっている。

中央日報10/11「韓国、家計融資残額703兆ウォン…年末に襲う「貸付寒波」

働き手の中心となる30歳から49歳までの就業者数も減り続け、2015年の1262万人から去年は1171万人に90万人も減少した。この年代の雇用率は、去年は76.2%と経済協力開発機構(OECD)加盟38カ国のうち30位だった。ドイツ(85.8%)、日本(85.1%)、英国(85.1%)などと比べても10ポイント近くも低く、要するに韓国では働き盛りの人口のうち、4人に1人は無職か個人事業者ということになる。年代別の失業率ではことし6月の時点で、20代が18.6%、30代が8.7%、全体失業者数は58万3000人となり、6月としては過去最高となった。

中央日報10/14「韓国の30-40代雇用率はOECD最下位圏」

韓国の未婚女性の20%、5人に1人しか結婚願望はなく、非婚を選ぶ女性が当たり前になっている。去年の合計特殊出生率は0.84となり、このままでは崖を転げ墜ちるような急激な人口減少が待っているだけだ。女性が家庭を持ち、子どもを育てることに何の希望も関心も示さない社会に、どんな未来が待っているというのか。『イカゲーム』が示すような結末でないことを祈りたい。

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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