国産ロケット打ち上げでICBM技術を確保したと騒ぐ韓国

韓国のロケット開発の意図は、民間の商業用なのか軍事用なのか、の区別はなく、その両方を目指している。韓国は何のためにICBM大陸間弾道ミサイル級のロケットが必要なのか。北朝鮮の極超音速ミサイルやSLBM潜水艦発射弾道ミサイルなどとあわせて朝鮮半島の南北分断国家が進める兵器開発は、世界にとって極めて危険な存在になりつつある。

韓国が2010年以来、12年の歳月をかけて設計から製造、運用まですべて独自技術で開発したという初の国産宇宙ロケット「ヌリ号」が全羅南道高興(コフン)郡にある羅老(ナロ)宇宙センターから10月21日午後5時に打ち上げられた。3段式の液体燃料のエンジン6基を登載し、全長47メートル、重量200トンのロケットは順調に飛行し、1段目、2段目の切り離し、フェアリングと呼ばれる先端部の円錐カバーの分離にも成功し、発射後15分で上空700キロの目標高度に達した。しかし、三段目のエンジンが設定した燃焼時間(521秒間)通りに燃焼せず、その前に46秒早く(475秒間)で燃焼を終えたため、ダミーの衛星は計算上の秒速7.5キロの速度に達することができず、目標としていた軌道への投入は失敗したという。

現場で打ち上げを見守っていた文在寅大統領は、「目標を完璧に実現することはできなかったが、発射体を高度700キロまで飛行させたこと自体は、素晴らしいことだ。来年5月に行われる2回目の打ち上げでは完璧に成功すると信じている」と脳天気なことを言ってみせた。来年5月は、自身の任期が終了し、肩書きが取れたあとにどういう運命が待っているか、見せ場となる時期でもある。しかし、大統領のこうした発言に足並みを揃えて、翌日の新聞・テレビは、これで韓国は世界7大宇宙強国となり、ICBM技術を確保したなどと大騒ぎした。

中央日報社説10/22「世界7大宇宙強国の希望を打ち上げた韓国型発射体ヌリ号」

朝鮮日報10/22「専門家ら、ヌリ号発射でICBM技術も確保」>

衛星の軌道投入に失敗し、巨大な宇宙ゴミを増やしただけに終わり、ロケットの商業利用は遠のき、宇宙ビジネスもしばらくは無理であることが分かっただけなのに、この手放しの喜びようはいったい何なのか。「世界7大宇宙強国」というが、ヨーロッパ諸国(17か国が加盟・出資)が共同運営するEAS欧州宇宙機関を含めて、いま実際に商業用宇宙ロケットの打ち上げを行っているロシア、米国、中国、日本、インドの5か国と1機関のなかに、今度は韓国が7番目に加わったというのである。あれ?ダミーだったけど衛星の軌道投入は失敗したんじゃないの?まだ「宇宙強国」を名乗るのは早いのではないか。それに独自ロケットを開発し衛星を打ち上げた実績があり、その能力がある国といえば、英・仏のほか、イスラエル、ウクライナ、イラン、パキスタンがあり、それに北朝鮮も9年前(2010年12月)に衛星打ち上げ成功を宣言している。つまり、いつになるか分からないが、韓国が衛星打ち上げに成功したとしても、せいぜい13か国目に入るか入らないという位置になる。ブラジルやトルコ、台湾など多くの国も衛星開発・打ち上げ計画を推進している。いまだに実績もないのに、7大宇宙強国となるのはまだ早いし、傲慢というものだ。

韓国初の国産ロケット「ウリ号」の開発・製造には、現代重工業やハンファ工業など軍需産業を中心に300社以上の民間企業が参加していて、将来的にはそうした民間企業にロケット関連技術が技術移転され、衛星打ち上げなど国際的な宇宙ビジネスに参入するほか、月面探査など国際共同プロジェクトにも参加し、「2030年の月着陸船自力打ち上げ」という目標をもっているという。

しかし、ビジネスとして成立するには、ロケット打ち上げ技術を確立し、実績を伴って信頼性を確保した米国や日本などと競争していかなければならない。ビジネスとして独り立ちするまでには、政府が相当の資金を半永久的に、惜しげもなく投入しないかぎり不可能だろう。

それよりも、はるかに実現可能性が高いのが、ロケット技術のICBMへの転用だ。それが冒頭にも言った「民間の商業用なのか軍事用なのか、の区別はない」という意味だ。今回のヌリ号の打ち上げで、衛星の軌道投入には失敗したことには、それほど落胆せず、むしろ、ヌリ号が目標としていた高度に到達したことを成果として強調しているのは、商業用と軍事用に共に応用できる宇宙航空技術の確立を目指してきたからだ。

ところで、韓国は、軍事的に北朝鮮と厳しく対峙し、韓国駐留米軍がその防衛に大きな責任と役割を果たしているということもあって、軍事技術についても米国側から制限が設けられてきた。その一つが、ミサイルの射程距離を制限する米韓ミサイル指針だった。

当初のミサイル指針は1979年、米国が当時の朴正熙政権にミサイル技術を供与する代わり、韓国が開発できるのは射程180キロ、弾頭重量は500キロと制限した取り決めだった。その後、韓国側の求めに応じて段階的に緩和され、2017年7月に弾頭重量の制限はなくなったが、射程800キロメートルという制限だけは残っていた。それがことし5月の文大統領の訪米を機会に、米韓ミサイル指針は撤廃され、800キロの射程制限もなくなった。このとき韓国メディアは「ミサイル自主権」を確保したと両手を挙げて喜んだ。

今回のヌリ号の打ち上げも、実はこのミサイル指針の解除と関係していて、韓国ではミサイルの射程を制限するこの取り決めがあったことが、ロケット開発の足かせとなり、宇宙開発事業は大幅に出遅れたと考えられていた。それが、バイデン政権になって韓米ミサイル指針が撤廃されたことにより、人工衛星を打ち上げるためのロケットの開発も自由になっただけでなく、SLBM=潜水艦発射弾道ミサイルやICBM=大陸間弾道ミサイルの開発に関する規制もなくなったと考えられている

発射の2時間以上前から燃料を充填しなければならない液体燃料の衛星打ち上げロケットとは違い、戦略兵器としての弾道ミサイルは長期保存と秘匿が可能な固体燃料にする必要があるが、韓国はすでに固体燃料のロケットエンジンの燃焼実験にも成功していると言われる。それにしても韓国がICBMの保有を必要としている理由はどこにあるのだろうか?いったいどこに向けて発射するつもりなのか?北朝鮮や中国、日本だったら射程1000キロ程度の巡航ミサイルでも十分に足りる。まさかアメリカではないだろう。仮にアメリカを標的にするとしたら、それは北朝鮮や中国と一緒に完全にレッドチームとなり、自由主義諸国と敵対するときだろう。

それよりも、ヌリ号の開発もそうだが、韓国の宇宙開発は完全に日本を目標としている。衛星発射ビジネスも国際宇宙開発プロジェクトへの参加も、日本と肩を並べ、日本を追い抜くことを意識しているのは明らかだ。経済の実力では、すでに日本を追い越したと自負し、遅れた日本を嘲笑している韓国である。日本への対抗心から、利益をあげる見込みもないのにロケット開発に予算をかけ、さらに日本が最新鋭戦闘機F35を購入すると分かれば、自分もF35を手に入れ、日本がF35を搭載できる軽空母を整備すると分かれば、自らも軽空母保有計画に乗り出すという国である。朝鮮半島周辺を防衛するのになぜ空母が必要なのか?文政権下で進められてきた軍事力の増強は、北朝鮮に対抗するというより、日本を意識し、日本の脅威になるための軍事力増強としか考えられない。

一方の北朝鮮は10月19日、東部の新浦の沖合でSLBM=潜水艦発射弾道ミサイルの発射実験を行ない、600キロ離れた日本海に着弾させた。

労働党創建76年に合わせて10月11日、平壌で開催した国防発展展覧会「自衛2021」には、新型ICBM=大陸間弾道ミサイル「火星16型」や極超音速ミサイル「火星8型」などここ5年間に開発された兵器の数々が展示され、軍事技術の進展が著しいことを顕示した。寧辺など核施設でのプルトニウム生産や核兵器開発が進んでいると、IAEAは警告を行っている。

時あたかも日本では衆議院選挙の真っ最中で、各党の外交安保政策にも注目が集まっている。

公示日の19日夜のNHKニュース番組で、公明党の山口代表は「敵基地攻撃能力というのは昭和31年に提起された古めかしい議論の立て方だ」と発言した。その当時の「敵基地攻撃論」が如何なるものかは知らないし、山口氏が何を言いたいのかも理解できないが、そもそも65年以上も前の1950年台後半当時の兵器体系や中国や朝鮮半島が保有する戦力を持ち出しても、今とは比較にならないし、周辺国の状況や安全保障に対する考え方は比較できないほどに変化している。まして、極超音速ミサイルなど迎撃が不可能なミサイルに対しては、それこそ発射する前に敵基地を叩かなければ自国民を守ることができないという事実は、65年前よりもはるかに深刻化しているのは明らかだ。観念論や机上の空論ではなく、周辺国の現実を直視した議論がいまこそ必要ではないのか。

(YTNニュース画面より「失敗しても初の国産ロケットの製作と発射に大きな意味」とある)

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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