「一帯一路」の陰で強化されるウイグル弾圧

新疆ウイグル自治区のウルムチでは、住民に対して携帯電話やノートパソコンなどを管轄の警察署に持ち込み、登録するように求める「重要通知」が出されたという。携帯電話やパソコンに中の過激思想に関するデータの有無などを検査するためのもので、8月1日までに応じない場合は、「法律にのっとり責任を追及する」と明記されているという。米政府系国際放送RFAラジオ自由アジアの報道を引用し7月6日付け読売新聞が伝えている。中国当局はこれまでも、過激思想と結びつく可能性がある映像のダウンロードを監視したり、路上でウイグル人のスマートフォンを抜き打ち検査したりしてきた、ともいわれる。

さらに国外にいるウイグル人に対しても監視が強化されているという。以下は「正論」(2017・08号)の大高未貴報告「中国”一帯一路“構想の陰で激化するウイグル弾圧と共産党プロパガンダ」からの情報。それによると、中国当局は、在日ウイグル人の新疆に残る家族に対して、日本での住所や電話番号を教えるように強要している。これに応じないと「不穏分子を匿っているのか」などと言いがかりをつけ、強制収容所送りにされかねないので、教えざるを得ないのだという。すると一日に何度も中国当局から電話があり、着信記録の多さにはゾッとする。日本には3000人から5000人のウイグル人が在住しているが、ほぼ全員がマークされていると見られるという。したがって、日本のLineに似た中国版SNS「微信」We Chatも監視されていることは間違いなく、ウイグル人たちはWeChatでは、決して個人情報や本音のやりとりはせず、あえて中国国旗を手にした写真を載せたり、中国政府や習近平礼賛のことばを連ねるのだという。

同じ大高未貴報告によると、2012年来日した世界ウイグル会議代表ラビア・カーディル女史は以下のような話をしたという。

「中国が勝手に”新疆ウイグル自治区”と呼ぶ東トルキスタンは、かつて高い農業技術を誇り、美しい伝統文化を持っていました。中国政府は当初、我々の文化の高さを絶賛し笑顔で接近してきました。ところが1949年から54年にかけて、「人民解放軍は野蛮人を救うために来た」といって25万人を虐殺。次に行ったのが、精神の破壊です。中国人は私たちに川で沐浴することすら禁じ、一部屋に20人を押し込め、10人で一つの鍋をつつく生活を強要し、動物のように扱ったのです。そして、ある日、微笑みながら「我々の政策に間違いがあるなら声を挙げてください。それを参考に改善します」と言いながら、声を挙げた人をいきなり国家反逆罪だといって拘束しました。その数は6万人以上で、彼らはクリム盆地に追放されましたが、生きて戻った人は千人にも満たなかったのです。

61年の配給は1か月250グラムの油と、8~13キロの食糧で、飢餓で数十万人が死にました。64年~96年にかけてウイグルの沙漠で地上核実験を46回も行い、何十万、何百万という人が被害を受けています。

そして2006年から09年の間に、約40万人の若いウイグル人女性(15~25歳)が沿海部の工場施設などに強制移住させられ、いまはその数が70万人にものぼりました。毎日10時間以上休みなく働かされ、年収は8万円にも満たない。娘たちが工場から家に電話をかける時は、漢人とウイグルのスパイ2人が見張りにつき「私たちは中国政府のおかげで素敵な職場で働き、幸せです」と言うことを強要されます。本当のことは言えません。

容姿端麗の女性であればナイトクラブや売春窟などに売り飛ばされる場合もあります。このことは秘密裏に遂行されてきたのですが、今年になったら開き直って、ウイグル自治区のトップが「職にあぶれた貧しいウイグル人女性を救済するため、これから150万人」を強制移住させると公言しました。ウイグル人男性から結婚適齢期の娘たちを奪い、彼女たちを漢民族と結婚させることによって民族浄化しようという策謀です。ナチスドイツのホロコースト以上の人類に対する冒涜です」

中国当局は、ウイグル人を中華民族という大家族の一員だとしながら、新疆ウイグル自治区は、暴力恐怖主義、民族分裂主義、宗教的極端主義のいわゆる「三股勢力」の巣窟だと見なし、反抗するウイグル人の摘発・弾圧を強めている。ウルムチ市内では、睨みを利かしているぞと市民を威嚇するように多数の装甲車両が配置され、厳戒態勢を強いている。鉄道の駅や高速道路では検問所が設けられ、ウイグル人に対しては、とりわけ厳しい荷物検査が行われている。自治区のどんなに辺鄙な街でもあちこちに警察の出先が置かれ、武装警察だけではなく、低賃金で雇われた漢族が得点稼ぎにためにむやみやたらにウイグル人を足止めして難癖をつけ、賄賂を要求しているといわれる。

中国人(漢族)の旅行ガイドがいうには、「一般の中国人は新疆ウイグルには恐くていけない。むしろ外国人のほうが行きやすい」という。漢族中国人にとって、新疆ウイグルは心理的にも、物理的にも最も遠い存在であり、いまだに外国も同然なのだ。

習近平が音頭をとり「中国の夢」を乗せて進める現代版シルクロード構想「一帯一路」。その一環として建設が進む中国パキスタン経済回廊CPECは新疆ウイグル自治区のカシュガルが中国側の起点となっている。途中にはカシミールやバロチスタン州など治安状況が厳しい地域があり、中国人を狙ったテロが頻繁に発生している。その影響もあって、「一帯一路」に必要な治安維持の確保を理由に、ウイグル人に対する引き締めがなおさら強化されているという。新疆ウイグル自治区をはじめ中央アジアやユーラシア大陸をつなぎ、共に繁栄する道を探るはずの「一帯一路」構想が、肝心の新疆ウイグルの人々を苦しめている。そうした実態をありのままに知ったとき、「一帯一路」に協力を表明してきた各国政府は、これからどういう態度をとればいいのだろうか?

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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