いまウイグルで何が起きているか

いまウイグルで何が起きているか。日本ウイグル協会のイリハム・マハムティ会長がアジア自由民主連帯協議会の講演会(2017年7月16日)で「ウイグルにおける弾圧 最新情報」として報告している。そこで語られているのは、1960~70年代の文化大革命を上回る思想弾圧、人権抑圧が今も続いているという過酷な現実だった。

以下のURLで動画と講演記録が確認できる。

http://freeasia2011.org/japan/archives/5225

http://freeasia2011.org/japan/archives/5203

<エジプト当局がウイグル人を大量拘束>

NHKニュース(8月5日)は、7月上旬より、イスラム教を学びにエジプトに来ていたウイグル人留学生など62人がエジプト当局に拘束されたり、中国に強制送還されるケースが相次いでいると伝えた。国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチによる、こうしたウイグル人迫害は、中国政府が今年6月、ウイグル人は過激思想を持っているとして、エジプト政府に対し取り締まりを求めたことが背景にあるという。

米国政府の諮問機関・米国国際宗教自由委員会(USCIRF)も声明を発表し、エジプトで拘束されたウイグル人は200人を越えるとし、強権的な弾圧と中国への強制送還を直ちに停止するように求めている。またイタリアでも中国当局の要請にしたがってウイグル人1人が拘束されているという。

これについて、マハムティ氏は講演のなかで、エジプト当局が多数のウイグル人を拘束し、中国に強制送還しているのは、中国からエジプトへの資金提供や投資話など何らかの見返りの約束があったからだとしている。

ウイグル人はイスラム教徒だから、イスラムの国々なら安全だという話ではなくなってきている。トルコでも、ウイグル人への対処は厳しくなっていて、たくさんの人々がいま刑務所の中にいるという。というのは、中国を脱出し、タイやマレーシア、カンボジアなどを経由して、何千、何万というウイグル人がトルコに渡ったが、そのウイグル人たちは自分の身分を証明できるものがなく、身分がない人々だからだ。トルコに入国したウイグル人たちは、一旦は安全な生活を手に入れたが、その後、トルコ政府の政策が変わり、ウイグル人に対する扱いが厳しくなっているのだという。

中国政府が、IS(イスラム国)と関係があり、テロを起こす可能性があると喧伝するせいもあり、ウイグル人は世界中の国々で警戒される存在にもなっている。

<ウイグル人へのパスポート支給の謎>

いまウイグルで何が起きているのか。何か陰謀めいたものを感じるのは、去年初めにウイグル人に対して、申請すれば全員にパスポートが発行されたことだ。しかも、年末になるとそのすべてが回収されたという。

今年に入って、そのパスポートを使って外国に行った履歴がある人は、いま全員が「学習班」にいるという。学習班とは形を変えた刑務所のことだ。そこでは共産主義の再教育、共産党の正しさ、外国の怖さといったものを「学習」させられる。そういえば、去年6月、ロイター通信は「新疆ウイグルではパスポートの発給申請に際して、一部住民のDNAサンプルや指紋、声紋の提出を義務付けた」というニュースを伝えていた。ウイグル人にパスポートを発給し、外国に出すことで、何かをあぶりだすという、選別や検査の企みでもあったのだろうか?

<街はまるで刑務所のなか同然>

新疆ウイグルでは地域のコミュニティ(「社区」と呼ばれる)が住民を点数制で評価する名簿が存在する。講演会では、マハムティ氏が「社区常住戸語系打分表」(=町内居住者民族別点数表)と題された内部文書を示して、その恐るべき人種差別・人間選別の実態を暴露している。住民には全員に100点満点の基礎点が与えられるが、ウイグル人というだけで10点減点、15歳から55歳の男性は何かと危険な活動分子と見られて10点減点、仕事がない人も10点減点。さらにイスラムを信仰し毎日礼拝する人は10点減点、宗教的な知識が深いと見なされると更に10点減点。パスポートを持っている人は10点減点、そのうち中東・中央アジアなど中国が問題あると指定した26カ国の中のどこか1か国に行っただけで10点減点。「点数表」には、以上のような点検項目が横に、具体的な住民の名前が縦に並び、それぞれの住民の合計点数が計算されている。100点から70点までは「放心」(安心)していい安全な人、70点以下50点までは『一般』(普通)と判定され、それ以下は危険分子だ。要するにこの「点数表」の減点対象となる点検項目を見れば、非イスラムの漢民族は最初から減点なしの100点満点であることは明らかで、最初からウイグル人だけを監視対象にして、ウイグル人が危険人物か、そうでないかを区別・判定するためのものでことが分かる。普通の国では、このような点数制で民族差別することは許されないはず。

ウイグル人は、自宅がある街区の入り口で監視の安全保障員に自分の身分証明書を見せないと、自宅にも戻れない。毎日顔を合わせ、顔見知りの安全保障員でも身分証明所をそのつど見せなければいけない。もし身分証明書をなくしてしまったら、その日は家に帰って寝ることはできない。

公衆トイレも身分証明書を見せないと入れない。トイレの入り口には受付をするおばあさんが座っているが、受付のテーブルにはヘルメットや警察の盾などの装備がわざとらしく置いてあり、「開包検査」(「かばんを開けて中を検査する」)と書かれた看板がある。トイレがテロ活動と関係するはずはなく、なぜこんなことをするのか、というと、入り口で受付けをするおばあさんらへの思想的な締め付けにある。こうした監視が日常のことだということを納得し、感情的にも受け入れるようにという圧力なのだ。

マハムティ氏によると、ウイグル人が久しぶりに自分の故郷に帰るなど、漢民族以外の人がどこか外からその町に入るときは、その町に現在住んでいる家族や友人に駅まで迎えに来てもらい、この人はこの町に入っても何も悪いことはしないという保証書にサインしてもらわないと、駅から出ることができないのだという。

また、例えばウイグル人が、街でビルをバックに写真を撮ったとする。するとすぐに人が出てきて、「お前は誰だ?身分証明書を出せ」と誰何される。その身分証明書が本物か偽物かは、カードリーダーでこすってチェックすれば、すぐに分かる。身分証が本物だと分かっても、「なんのために写真を撮ったのか」と問われ、目的などあるはずもないから、ほとんどのケース、いますぐ消せということになる。しかし、こうしたケースになるのは、少数民族か外国人の場合で、漢民族だとまったく問題にもならない。

マハムティ氏は「刑務所でも、学校でもなく、これが私たちウイグル人が住んでいる町の実態だ」と嘆く。ウイグル人が住むところは、刑務所の中とほとんど変わりないのである。

<文革よりもひどい宗教弾圧、民族差別>

新疆ウイグルでは、イスラム教を広め、イスラムを人に教える人々が、宗教を違法に宣伝したとか、地下宗教学校を開いたとか、いろいろな理由で、次々と刑務所に追いやられているという。そうした宗教的指導者のあとには、今度は文章を書く雑誌編集者や作家など、ウイグル人の中で影響力を持つ知識人・文化人で、少しでも名前が知られるようなると、皆、刑務所に入れられるという。

マハムティ氏によると、新疆大学の学長が最近、逮捕された。彼は日本に留学して博士号をとり、衛星経由で地下資源を遠隔探査するシステムを作り、国に貢献した人物だというが、ウイグルで彼のことを知らない人はいないというぐらいに有名になったので、危険人物とされたようだ。国に対する貢献などはどうでもよく、ウイグルでは、有名になったというだけで罪になるのだ。

ウイグル人たちは、なにか幸せなことがあったときも、たとえば給料が入っても、人から物をもらっても、「アッラーに感謝する」というが、いまはそういう言葉は使ってはいけないのだという。その代わりに何と言うかといえば、「習主席に感謝する」だという。ウイグル人は、ご飯を食べたり、宗教的な行事を始めるときは「アッラーの名義の下で始める」という言い方をするが、いまはそういう言い方をしてはだめで、「習主席の指導の下で」で言い換えるのだともいう。

マハムティ氏も「文化大革命のときも、ここまで酷くはなかった。文革では、特定の個人を反革命だとか走資派だとかいって批判することはあったが、一つの民族に対してここまでひどいことはしなかったはずだ」という。しかし今は、文革時代よりも極端で、漢民族たちは洗脳の結果、「ウイグル人にはこのぐらいのことをやって当たり前だ」と考えている。そうした考え方は漢民族の幅広い支持を得ているので、ウイグルだけではなく、チベットやモンゴルでも共産党のやりたい放題なのだという。

中国政府は最近、漢民族と結婚したウイグル人女性に対して17~18万元の金を「お祝い金」として支給するようなった。17~18万元(日本円で270~290万)という金額は、ウイグルに住む人にとって、生活が一変するほどの大金だ。また漢民族と結婚するといい仕事も見つかり、その女性の人生は一変する。ウイグルの農村地域の生活の厳しさからみて、こうした道を選ぶ女性は増え続けるかもしれない。

マハムティ氏は、「中国政府は、宗教を理由にウイグルからウイグル人たちを一掃し、消滅させることを狙っている」と見る。ウイグルの人たちは、自らの国を取り戻すことよりも先に、民族の存続が危機に直面する事態を抱えている。「新しいユダヤ人をつくらない、ウイグル人を第二のユダヤ人にさせないでほしい」とマハムティ氏は訴える。

新疆ウイグルは、中央アジア、南アジアに伸びる「一帯一路」の起点でもある。ウイグル人たちが抱える問題、ウイグル人を取り巻く現状を直視しないと、中国の影響力が広がるパキスタン、キルギスタン、カザフスタンの人々も、やがてウイグル人と同じ運命を辿るしか、ないかもしれない。

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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