脱中華の東南アジア史 ①

       ~東南アジア4か国世界遺産の旅から考えたこと~

<自由で開かれた「インド太平洋戦略」>

安倍首相は今年の施政方針演説(1月26日)で、「地球儀を俯瞰する外交」という安倍外交の基本政策について、首相就任からの5年間で76カ国・地域を訪問し、600回の首脳会談を行ったと明らかにしたうえで、今後も「自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値を共有する国々」と連携し、「米国、欧州、ASEAN、豪州、インドといった諸国と手を携え、アジア、環太平洋地域から、インド洋に及ぶ、この地域の平和と繁栄を確固たるものとする」と強調した。

その上で「太平洋からインド洋に至る広大な海。古来この地域の人々は、広く自由な海を舞台に豊かさと繁栄を享受してきた。航行の自由、法の支配はその礎であり、この海を将来にわたって、全ての人に分け隔てなく平和と繁栄をもたらす公共財としなければならない。『自由で開かれたインド太平洋戦略』を推し進める」との決意を表明した。

「自由で開かれたインド太平洋戦略」とは、軍事力を誇示して南シナ海や東シナ海の領有権を主張し、珊瑚礁を埋め立てて人工島を作り軍事要塞化する中国に対抗し、またパキスタンやミャンマー、スリランカ、モルディブ、ジブチなど各地に港湾設備を建設し、実質的な植民地化を進める中国の「一帯一路」戦略に対抗するものであることは明らかだ。

南シナ海のスプラトリー諸島では、2014年以降、中国によって珊瑚礁の海が埋め立てられ、7つの人工島が作られた。浚渫船など数十隻の船や大型の土木機械がこれらの海域に集結し、海底の珊瑚を壊して砂をすくい上げ、ほんの数ヶ月で陸地を造成しコンクリートで覆ってしまう。7つの人工島の面積は、わずか2年あまりで、合計1214ヘクタール(東京ドーム258個分)に達した。人工島には最新鋭のレーダードームや衛星通信施設、ミサイル格納庫や兵舎が建設され、3000メートル級の滑走路と戦闘機のシェルターまで完成している。近隣の国とっては、自国の沖合に中国の空母艦隊が居座っているようなもので、その脅威たるや、ただ事ではない。米太平洋軍のハリー・ハリス司令官は「中国は南シナ海に『砂の長城』を作っている」と非難した。(マイケル・ファベイ『米中海戦はもう始まっている』文藝春秋2018年1月)。南シナ海に『砂の長城』を築くとは、この海域のすべての領有権を主張する中国の覇権主義的拡張主義の傲慢さをよく示している。

スリランカでは、中国の資金援助で南部のハンバントタ港が整備されたが、80億ドル超の対中債務を負った結果、99年間にわたり中国に運営権を引き渡すことになった。ここには中国の潜水艦も寄港する。

1200もの島々からなるモルディブでも、中国の支援を受けてインフラ整備や住宅建設が進んだが、中国の融資は10%以上の高金利のため、すぐに返済不能に陥る。その結果、ここでも99年間という長期契約が結ばれるなど、16もの島が不透明な手続きを経て中国側にわたっているという。モルディブでの中国による土地収奪は今後も増え続け、いずれは中国の植民地になると警告されている。(「モルディブ元大統領『中国が急速に土地収奪』2月16日読売新聞」)

http://www.yomiuri.co.jp/world/20180216-OYT1T50006.html?from=yartcl_popin

パキスタン・グワダル港やアフリカ・ジブチでの軍事拠点づくりなどは、中東・アフリカからインド洋を経てマラッカ海峡までを繋ぐ「真珠の首飾り」戦略の一環で、もともとは中国のシーレーンを守るための軍事戦略のはずだったが、いまやそれは「一帯一路」という名で、あたかも「平和的な経済協力・国際協調」でもあるかのような経済圏構想にとって代わっている。トランプ政権が孤立主義を深める中で、中国がグローバリズムの旗ふり役として、新たな国際経済秩序やルール作りに主導的に関わろうとしている。

習近平軍事独裁体制がますます強化され、それこそ「自由、民主主義、人権、法の支配といった基本的価値を共有する国」(安倍首相の施政方針演説)とは全く違う「異形の国」に、国際秩序の枠組みやルールづくりを任せていい訳がない。

本稿では、「自由で開かれたインド太平洋戦略」という観点から、東南アジア地域に注目してみたいと思う。というのも、この地域はインド洋と太平洋をつなぎ、いまやフラッシュポイント(発火点)となっている南シナ海を取り巻く沿岸国であり、中国の覇権や「一帯一路」構想の影響をもろに受ける地域だからだ。東南アジアのこの地域こそ、インド太平洋地域の中心、ハブの役割を果たし、世界の海運の3分の1が通る南シナ海とマラッカ海峡は、物流の大動脈としてアジア太平洋の生命線でもある。

安倍首相が「古来この地域の人々は、広く自由な海を舞台に豊かさと繁栄を享受してきた」というとおりに、南シナ海を取り巻く島々とインドシナ半島など沿岸の国々は、古来、この海を利用し、互いに交流し、平和と繁栄を享受してきた。『自由で開かれたインド太平洋』の今後を占う意味でも、インド洋と太平洋の結節点でもある東南アジア地域の歴史を振り返り、ASEAN諸国をめぐる地政学、国際政治の力学について考えてみたい。

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

0コメント

  • 1000 / 1000