中国の植民地と化したラオス② 水力発電

<水力発電ダムの建設と電力輸出>

「ASEANのバッテリー」――ラオスの人たちは時には誇らしげに、時には自嘲的に自分たちの国のことをそう呼ぶ。国土の80%が山岳地帯のラオスには、メコン川流域一帯に多くの水力発電所を抱え、国内の電力消費量の4倍も発電している。そのうちの9割を隣国のタイやベトナム、中国に輸出し、電力は鉱物資源に次ぐ外貨獲得源でもある。

    (ラオス南部パクセー市にメコン川にかかる日本友好橋を望む)

電力の大半を輸出に回す一方で、ラオスは実は電力の輸入国でもある。政府系の発電会社であるラオス電力公社EDLの発電量はわずか10%で、残りは全てタイや中国などの企業が出資した独立発電事業者IPPによる輸出用の電力だ。ラオス電力公社EDLが供給する電力だけでは、年々拡大する国内の電力需要を賄えないため、国内需要の30%は隣国のタイや中国から輸入している。暑さが厳しい乾期には、エアコンの使用で電力需要が増えるが、河川の流量が減って発電量も少なくなる。そのため電気を大量に使う4月には、電気代は2倍から3倍も高くなるという。その一方で、雨季には発電量が多くなるが、海外に輸出する電気代は逆に安く買いたたかれるのだという。結局、国内では高い料金を払って電気を使う一方、国外には安い電気を輸出している。電力の輸入価格は、輸出価格より1割ほど割高で、輸出で稼いだ外貨が目減りする構図にもなっている。

ラオスで稼働する水力発電所は、2017年の時点で計42か所(発電能力は計630万KW)にのぼる。ほかに建設中のダムが48か所(同844万KW)あり、2030年までにはさらに108カ所(同800万KW)で建設計画があるという。ラオスのメコン川流域は、計算上は20000メガワット、現在の30倍以上の電力を生産する潜在能力があるといわれ、ラオス政府は今後15年間で新たに5000メガワットの発電量を増やす目標を掲げている。ラオス政府は、メコン川本流のダム建設にも着手し、メコン川では今後、6か所にダムが作られる計画だという。

           (メコン川にかかるラオス日本友好橋)

<メコン川はいずれ「第2の南シナ海」となる?>

今年3月30日、ベトナム、カンボジア、ラオス、タイの各首相とミャンマーの副大統領、それに中国の外相がハノイに集まり、今後5年間で、合わせて227の開発プロジェクト、総額660億ドルという野心的な投資案件に合意した。そのうち中国の電力会社による東南アジアでのダム建設は、41事業に上るといわれる。

ラオスとカンボジアのメコン川流域では、中国の資金で巨大ダムの建設計画が進んでいる。ラオスのドン・サホンやパクベン・ダム、カンボジアのセサン第2ダムなど、メコン下流の6つのダム建設に中国企業が投資している。

そのうちセサン第2ダムは総工費8億ドル、中国の電力企業「華能集団」が51%、カンボジアのロイヤルグループが39%、ベトナム電力公社が10%を出資するジョイントベンチャーで、完成すれば20億キロワットの発電能力があるとされる。華能集団は、セサン第2ダムも「一帯一路」の成果の一つで「東南アジアのインフラ投資に向けたモデル事業になる」と主張するが、インドシナ半島での中国の影響力拡大を示す象徴的なプロジェクトにもなっている。

中国は1995年以来、メコン川上流の雲南省や青海省、チベットで7つの水力発電ダムを建設し、ほかにも20か所でダム開発の計画があるという。こうしたメコン川上流の中国国内のダム建設の影響で、下流では季節によって上下してきた水位変化のサイクルが急激に変わり、水運や漁業、生態にも深刻な影響を与えている。ベトナムは、2016年に、この90年間で最悪だといわれる干ばつを経験し、穀物生産が減収したほか、180万人が水不足に陥った。エル・ニーニョなど気候変動の影響もあったが、中国のダム貯水量の増大で、下流の水量が減った影響が大きいとして、ベトナム政府は中国国内のダムの放水を中国政府に要請したほどだ。  

中国のメコン川問題に対する態度は、南シナ海で見せる強硬な態度と類似している。中国はつねに自分のルールに従って行動し、問題への対処はつねに2国間交渉を主体に個別に対応する。そして相手国が複数で連合して中国に立ち向かうことはできないように仕向けている。(サウスチャイナ・モーニングポスト)

http://www.scmp.com/news/china/diplomacy-defence/article/2126528/mekong-river-set-become-new-south-china-sea-regional

          (ラオス日本友好橋からメコン川を望む)

<「一帯一路」戦略と国際電力送電網の構築>

中国は「一帯一路」構想のなかで、電力送電網の国際的な連繫を提唱し、中国の電力企業も積極的な海外展開を進めている。発電所から消費地まで送電網が長距離になっても、送電ロスを減らす技術が「超高圧UHV送電」といわれる技術で、中国はその商業化に成功している。新疆ウイグルの砂漠地帯では、大規模な風力発電や太陽光発電がおこなわれているが、発電施設の大量建設に送電線の建設が追い付かず、再生エネの15%が送電網に接続できない、「棄風」「棄光」と呼ばれる状態となっているという。(「中国、電力網の世界戦略 その深謀、事情」)

http://globe.asahi.com/feature/side/2017040500001.html

「超高圧送電」の技術を使った送電網が、国境を越えて広域的に広がれば、メコン川流域のダムで発電された電力も、中国国内や東南アジア全域で活用することができる。しかし、こうした送電網システムが中国によって構築されるということは、エネルギー供給の基幹部分を中国の手に委ねることを意味する。通信分野では中国の華為(HUAWEI)が低価格の通信設備を武器に海外に進出し、すでにかなりの世界シェアを押さえている。中国企業の技術によってライフラインの基幹部分が押さえられることについて、米国内では安全保障上の懸念も高まっている。同じようなことが今後は、電力分野でも起きる可能性がある。中国が、国を超えて国際的な電力供給網を形成し管理するということは、将来、中国と対立し、中国の意に沿わない行動に出た国に対しては、電力カットをちらつかせて中国に従わせることもできるということを意味する。中国の「一帯一路」戦略全体についても言えることだが、計画はあくまで中国が描いた青写真に沿って、中国政府の意向や論理を反映したものであり、結局は、世界経済のルールや標準づくりをすべて中国に委ねることになり、やがては世界の経済覇権を握った中国の思うがままに秩序は作られ、他の国は何も抵抗できなくなっていく。そんな恐しい世界だけにはなってほしくない。

<国際基準からは外れた環境影響評価>

ダム建設は、環境破壊や住民の移転など社会的影響も大きいため、厳格な審査を必要とする世銀やアジア開発銀行ADBの場合は、難しい投資案件になるとされる。しかし、中国政府や中国企業は、大規模な開発事業でも社会や環境への影響をほとんど考慮せず、国際基準に沿った影響評価を行うこともなく、比較的簡単に融資するケースが多い。

日本や欧米のインフラ投資は、政府と現地住民の双方から要望を聞き、しっかり需要や経済効果を見積もるのに対し、中国の場合は、相手国政府との関係を重視し政府の言い分は優先するが、そこに暮らす住民の声はほとんど無視する。無視された住民は、故郷を追われ、漁業や農林業などの暮らしの手段を奪われ、約束された補償も十分に実行されないまま放り出される。ダムの建設は人々から土地や財産を奪い、伝統や文化を消滅させることも意味する。

「ラオスは一党独裁で言論の自由がないうえ、2012年に著名な社会活動家が政府の関与が疑われる形で行方不明になってからは、ダム建設を議論できる雰囲気もなくなった」(NGOメコン・ウォッチ事務局長木口由香さん)という指摘もある。

住民の異議申し立てを受けて、計画の中止や見直しをする仕組みはなく、これだけ多くのダムをつくることがラオスの発展にどうつながるのか、社会全体で検証されることもないまま、過剰な開発が進んでいる。

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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