「反撃能力」保有で浮上した半島有事の際の「邦人退避活動」問題

安保関連3文書に対する各国反応

岸田内閣で12月16日に閣議決定された「国家安全保障戦略」など安保関連3文書について、アメリカは「自由で開かれたインド太平洋を強化し防衛するための大胆かつ歴史的な措置」(サリバン大統領補佐官)と評価し「同盟国による自衛力強化への努力を支持し歓迎する」(国防総省報道官)と表明。一方、中国は「中国の脅威を騒ぎ立て、自国の軍拡の口実にするたくらみは成功しない」(中国外務省報道官)と反発し、外交ルートで抗議したことを明らかにした。

そして北朝鮮は18日、弾道ミサイル2発を日本海に向けて発射し、20日には外務省報道官談話で「我々がどれほど懸念して不愉快に思っているかを実際的な行動で繰り返して見せる」と挑発を続ける姿勢を示し、「日本は、遠からず覚えることになる身震いする戦慄を通じて、確かに間違っていてあまりにも危険な選択をしたことを自ら悟るようになるであろう」と威嚇した。

「反撃能力」に韓国は「事前同意」を要求

気になるのは韓国の態度である。韓国政府は、「平和憲法の専守防衛の原則を変更するなら、事前に韓国側に説明し同意を求めるべきだ」と内政干渉に等しい態度を見せる一方、「反撃能力の保有」に関しては「憲法上、北朝鮮は韓国領土であり、朝鮮半島の安全保障および我々の国益に重大な影響を及ぼす事案は事前に我々との緊密な協議および同意が必要」(韓国外交部当局者)、「日本の戦力を韓半島地域に投射するには必ず韓国政府の承認が必要」(韓国軍関係者)だとする上から目線の傲慢な姿勢を見せつけた。

これについて日本政府はすでに16日、外国特派員協会でのブリーフィングで、韓国の聯合通信記者から「反撃能力について韓国の同意を得る考えはあるか」と聞かれたのに対し、「反撃能力の行使は日本の自衛権行使であり、他国の承認を得るものではない。日本が自主的に判断する」と答えている。そして「反撃能力を発動する場合は切迫した緊急状況であるはずで、この場合、韓国と協議をしたり事前に承認を得る余裕はないはず」とする一方、「反撃能力行使を決断する時は情報収集と分析という観点で、米国および韓国と必要な連携をすることはあると考える」と述べている。

韓国野党「日本は戦争可能な国になった」

許せないのは、最大野党「共に民主党」の言い分である。同党の首席報道官は記者会見で、日本が反撃能力の保有を国家安全保障戦略に明記したことについて「事実上、戦争可能な国になるという宣言だ」と言い切った。また同党の李在明(イ・ジェミョン)代表も、尹錫悦政権の「対日屈従外交」がもたらしたものは「韓国の領土主権の否定と朝鮮半島を戦争に追い込む恐れがあるという脅しだけだ」と非難した上で、韓国政府に対し「日本の安保戦略に対して強力な抗議と共に修正を要求しなければならず、日本との盲目的な軍事協力の強化を中止することを強く求める」などと高飛車な態度を示した。

聯合ニュース12月19日「韓国最大野党 尹政権の「対日屈従外交」が安保脅威招来」

国家安全保障戦略の策定と反撃能力の保有が、まるで日本が朝鮮半島で先に戦争を仕掛けることになるというような言い方なのである。まったく逆ではないか。北朝鮮が今のような核ミサイル開発と国際社会への挑発を続けることがなければ、日本が反撃能力を保有する必要もないはず。飢餓に苦しむ北朝鮮に食糧や資金を援助し、核ミサイル開発を裏で支え、開発に時間的余裕を与えたのは金大中、盧武鉉、文在寅と続いた、いわゆる「従北左派」の歴代政権である。

北朝鮮の領域を自国の領土だといい、日本の反撃能力の保有を非難するのであれば、まず先に韓国が北朝鮮の核ミサイル開発を止めさせ、日本人拉致被害者の帰国を実現させるべきではないか。それさえも出来ずに、日本の自主防衛能力を非難するのは、お門違いだというしかない。

「普遍的な価値を共有しない国」が乱す世界秩序

改めて「国家安全保障戦略」の文面を読んで、「わが国を取り巻くグローバルな安全保障環境」として何を論じているかを見てみたい。

「自由で開かれた安定的な国際秩序は、パワーバランスの変化と地政学的競争の激化に伴い、今、重大な挑戦に晒されている」という現状認識を示し、ロシアによるウクライナ侵略と同じような事態は東アジアにおいても発生する可能性は排除できず、インド太平洋地域を中心に歴史的なパワーバランスの変化が生じているとし、「こうした世界史的な転換期においてわが国は戦後最も厳しく複雑な安全保障環境のただ中にある」という深刻な危機感を示している。

そして、「わが国を含む先進民主主義国は、自由、民主主義、基本的人権の保障、法の支配といった普遍的価値を擁護し、共存共栄の国際社会の形成を主導してきた」。しかし、その「普遍的な価値を共有しない一部の国家」は、「独自の歴史観・価値観に基づき既存の国際秩序の修正を図ろうとする動きを見せ」、また「経済と科学技術を独自の手法で急速に発展させ、一部の分野では、学問の自由や市場経済原理を擁護してきた国家よりも優位に立つようになり」、「自由で開かれた国際秩序を維持・発展させることがますます難しくなってきている」のは、「普遍的価値やそれに基づく政治・経済体制を共有しない国家が勢力を拡大し、国際社会におけるリスクが顕在化していることが大きな要因」だとしている。

韓国の従北左派勢力とも価値観を共有できず

ここでいう「普遍的な価値を共有しない国」とは、中国やロシア、北朝鮮のことを指しているのはもちろんだが、もう一つ、韓国の「従北左派」勢力もこの中に含まれていると言っていいかもしれない。

北朝鮮と金正恩に対する融和路線を踏襲した文在寅前政権は、北朝鮮の過酷な人権状況を問題にしたことは一度もなかった。亡命を希望した脱北住民を北朝鮮に送り返せば確実に死刑になることが分かっていながら強制送還するなど、「基本的人権の保障」については関心がない人々だった。体制批判のビラを風船で飛ばす行為を禁止するように金与正に言われると、すぐに「風船ビラ禁止法」を制定し、金正恩の機嫌を取ろうと懸命だった。

日韓慰安婦合意をいとも簡単に反古にし、反日不買運動を繰り広げるために国民に「ノージャパン、ノー安倍」と叫ばせ、東学党の「竹槍歌」をもう一度歌って日本に対抗しようと政権幹部が煽るなど、その対日強硬外交を見れば明らかな通り、「独自の歴史認識や価値観」を持ち、少なくとも日本とは価値観を共有できない人たちであることは間違いない。

従北左派勢力の中心になっている韓国最大の労働組合「民主労総」(全国民主労働組合総連盟)は、現在の保守政権の転覆を狙って再び「ろうそく革命」を主張する一方、在韓米軍の撤退を要求し、北朝鮮の体制を擁護する人たちだが、「民主」を名乗れるような組織ではなく、「独裁国家北朝鮮を擁護し、対話より拳(=暴力)を先行させ、自分の考えと違う反対派は無条件に「敵」と見なす反民主的な行いをためらわない」暴力的で非民主的な組織だといわれる(朝鮮日報コラム「従北・暴力的労働運動の終末」12月20日付)

従北左派の野党「共に民主党」の政治家らは、現政権の尹錫悦政権に打撃を与えるためだったら、すぐ嘘だとバレる嘘でも平気でつき、フェイクニュースをたれ流すことに何のためらいもない人たちであり、国民の政治不信を自ら植え付けても平気な人たちである。

旭日旗を掲げた自衛隊機や艦船の韓国乗り入れを拒否

その野党「共に民主党」は、日本の旭日旗は「戦犯旗」だと妄言を吐き、旭日旗を掲げた自衛隊の艦船や航空機は、韓国には絶対に寄港させたり乗り入れたりはさせないと主張している。

ここで問題となるのが、朝鮮半島有事の際、在留邦人の保護と退避手段の確保の問題である。有事の際に民間機の運航が困難なら自衛隊機を派遣するしかなく、その自衛隊機の乗り入れが拒否されたのなら、在留邦人は自ら退避の手段を探し逃げのびなければならない。先の大戦で敗戦し、満州や朝鮮半島から日本に引き上げる邦人たちが、この地でどれだけの辛酸をなめ、女性や子どもたちがどれだけ残虐な仕打ちを受けたか、語られてきたなかで、再びそうした状況が繰り返される危険がないとも言えない。

半島有事では大規模な邦人退避活動が必要

2020年の統計によれば、韓国には250万人を超える在留外国人がいて、そのうち邦人は8.6万人だといわれる。北朝鮮が日本を攻撃する態勢を見せ、日本が反撃能力を行使するような有事の際には、過去前例のない規模の「非戦闘員退避活動」(Non-combatant Evacuation Operations, NEO)が行われる必要がある。しかし、そうしたNEO非戦闘員退避活動が必要になっても、韓国政府の同意と韓国軍の協力が得られず、仮に在韓邦人の退避に支障が生じ多数の犠牲者が出るような事態になったら、どうなるだろうか。

朝鮮半島有事の際、在日米軍及び朝鮮国連軍の軍事施設の使用について、日本政府にはそれを承認する権利を法的に有している。また有事の際、自衛隊による米軍への後方支援活動を認めるためには、同盟国や友好国への後方支援を可能にする「重要影響事態」についての国会での事態認定が必要だが、韓国が日本のNEO活動を拒否し続け、対韓世論が厳しく国民的な合意形成が期待できないなかで、国会の迅速な承認手続きが行われるとは考えにくい。

いずれにしても、日本の後方支援がなければ、米韓による対北軍事行動は困難なものとなることは明らかであり、NEO非戦闘員退避活動ひとつを取ってみても安全保障問題で日韓が緊密に協力する必要があるのは明らかなのである。

参考:松浦正伸福山市立大学教授「朝鮮半島有事と在韓邦人保護問題――日本政府は自国民を救えるのか」

さらには、コロナ禍の中で中断していた観光客の往来が再開し、多数の国民が互いに訪問している現状を考えると、朝鮮半島有事の際、韓国における邦人観光客の避難誘導の問題と同時に、日本に滞在する韓国人観光客の帰国手段の確保と、足止めに伴う日本での臨時宿泊滞在手段なども検討しなければならない。つまり、韓国政府は日本によるNEO非戦闘員退避活動をただ単に拒否し続ければいいという問題ではなく、日本における自国民保護も自ら考える必要があるということを自覚しているのだろうか。

いずれにしても「普遍的な価値観を共有しない」隣国とは、スムーズに協議が進むとは考えにくく、互いに角を突き合わせてのギクシャクした関係は今後も続くことを覚悟する必要がありそうだ。

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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