4月10日に実施された韓国総選挙の結果には正直、驚いた。韓国のメディア各社が口を揃えていう「与党惨敗、野党圧勝」という結果は、韓国国民の選択なので、外の人間がとやかくいうことではないが、尹錫悦政権に対する多くの韓国人がもつ感情は、なかなか外から見ているだけでは理解しがたいものがある。
ちなみに開票結果は、与党「国民の力」と比例政党「国民の未来」は現有議席114から108へ後退、野党「共に民主党」と比例政党「共に民主連合」は現有議席156から175へ大躍進。比例政党の新党「祖国革新党」が比例得票率24.25%で12議席を獲得した。そのほか李俊錫「国民の力」元代表が立ち上げた「改革新党」が3議席、「新しい未来」と「進歩党」が各1議席を獲得している。
「タマネギ男」曺国(チョ・グク)新党に何を期待しているのか?
驚くべきは、2審で懲役2年の有罪判決を受けている曺国(チョ・グク)元法務部長官が立ち上げた「祖国革新党」が、創立からわずか1か月で、いきなり12議席を獲得したことだ。曺国氏は自分の娘や息子の医学部進学などで有利になるように有印公文書を偽造し、不正に奨学金を得たりしていた人物であり、ソウル大法学部教授や法務部長官を務めたにも関わらず、自らと家族の利益のために公権力を乱用した人物である。有罪判決を受けた人物が、何の反省も禊ぎもなく、選挙に出馬にするなど、日本では考えられない。その曺国氏は尹政権を「検察独裁」と非難しているが、その比例名簿には検察出身者、しかも問題を抱えた元検事が何人もいるほか、比例名簿の上位10人中5人は懲役犯や被告人が名前を連ねていた。<朝鮮日報3月20日社説「当選有力の比例名簿上位10人中5人は懲役犯・被告人の政党」>
<<出口調査 比例選挙の年代別支持政党の割合
青・与党「国民の力」、赤・野党「共に民主党」、水色・曺国新党>>
まさに犯罪者集団ともいうべき政党だが、KBSなど地上波放送局3社が共同で実施した出口調査の世代別支持率をみると、曺国氏の政党を50代の男性の44.5%、40代の男性の41.5%が支持し、この世代の女性も32%~34%と高い支持率を示している。また20代(18・19歳を含む)の女性の51%が李在明氏の政党を支持し、30代と40代の女性も36%~38%が同じく李在明氏に対する高い支持率を示している。分別のある40~50代の韓国男性の半数近くがこんな人物を支持する理由は理解できない。
曺国氏は、選挙後には早速、尹大統領夫人に対する「特別検察制度」を実施に移すと表明しているが、国会の場をまさに私怨を晴らす場として利用するつもりのようだ。こんな男に有権者は何を期待しているのだろうか?
李在明の私党となった最大野党、何をするか分からない
李在明氏も、不動産開発に絡む不正で側近が何人も逮捕、起訴され、本人の関与が焦点となっているほか、不倫した女優から名誉毀損で訴えられ、夫人が京畿道知事の公用カードを使って私的な飲み食いや買い物をしていた実態が暴露されている。日本の福島処理水の海洋放出に反対して行ったハンストは、昼間だけのパフォーマンスであり、暴漢に襲われ首に切り傷を負ったが命に別状もないのにドクターヘリを使って釜山からソウル大病院まで搬送されるなど、数々の問題行動や不正・疑惑にまみれた人物である。20代から40代の韓国女性が、こんな不道徳な人物を好む理由が分からない。
いずれにしても、この選挙結果を受けて、尹大統領と与党は今後、人事の刷新や予算編成、基本政策としてきた年金・教育・労働などさまざまな制度改革も、何もできない「植物大統領」、「死に体政権」になることは間違いなく、韓国政治は再び停滞と混乱を繰り返すことになる。それはともかく、こうした有権者の投票傾向は3年後の次の大統領選挙にも引き継がれることになるのだろうか。現在、公職選挙法違反などで公判中の李在明(イ・ジェミョン)氏や2審で懲役2年の判決をうけている曺国氏の刑が確定すれば収監され、5年間は選挙に出ることができないので、とりあえずはそうなることを期待するしかないが、しかし、彼らのことだから、今後、どう抜け穴を見つけ抜け道を講じるか分からない。文在寅と同じ、あるいはそれ以上の反日左派政権が今後も韓国に誕生する可能性は残されているのだから、日本はけっして安心できない。
こうした総選挙の結果を受けて、韓国の漫画家・尹瑞寅(ユン・ソイン)氏はSNSで、「今日から大韓民国の大統領は事実上、李在明」「尹錫悦をいつだって弾劾できるし、法も思い通りに作れる」とし、「大韓民国の国民は共産主義者と犯罪者が好きすぎる」と非難した。その上で「この国には愛想が尽きた」「老後の医療までも、めちゃくちゃになっているのだから、ここに残っている理由がない」と国外脱出を匂わせている。≪朝鮮日報4/12記事「この国には愛想が尽きた」漫画家・尹瑞寅氏の投稿≫
在日の朝鮮半島問題専門家で韓国籍の朴斗鎮氏は「選挙で、与党が過半数近くまでとったら、人生最後の韓国旅行を女房と一緒にしようと思っていたが、はっきり言って韓国に行くことは一切ない。その気は起こらなくなった」と断言するほど、心ある人々の間では絶望感が広がっている。<李相哲TV(2024.4.15)[朴斗鎮×李相哲]韓国には愛想尽きた、大統領は犯罪者でも良いらしい>
「民意は常に正しい」というけれど、与党全体の得票率は45%
「国民の力」の選挙責任者、韓東勲(ハン・ドンフン)非常対策委員長は、選挙の翌日、「民意は常に正しい。国民から選ばれるに足りなかった」として、敗北の責任をとって辞任した。
尹錫悦大統領も「国民の意思を謙虚に受け止める」、「より腰を低く柔軟な姿勢で意思疎通し、民意に耳を傾ける」などと反省の弁を繰り返している。
しかし、「中央日報」によると、全小選挙区での得票を積み上げると野党「共に民主党」は50.5%、与党「国民の力」は45.1%で、その差は5.4ポイントしかなかった。だが、小選挙区での獲得議席数では、民主党161、国民の力90という大差がついた。得票率1ポイント程度の差で決まった選挙区が多く、1000票以下の接戦で民主党候補が制した選挙区もある。与党支持に示された45%の民意は無視してもいいのだろうか?
中央選挙管理委員会によると、韓国全国の254の選挙区の総投票数は2923万4129票だった。このうち共に民主党は1475万8083票を獲得し、国民の力は1317万9769票を獲得した。国民の力は全国164の地方区で敗北したが、これらの選挙区で国民の力に集まった票が732万6423票だった。つまり、国民の力に投票した人の半分以上は「死票」だった。
<WowKorea 4/13「総選挙の投票者、4人に1人は国民の力に投票し「死票」に」>
民主主義で示される民意とは、それだけ残酷だという証拠でもあるが、結果は結果であり、政治家がその結果に責任をもつことはもちろんのこと、政治選択をした国民も、投票結果から生まれるすべての政治状況の変化、政策の実施結果からは逃げる訳にはいかない。
それにしても、今回の選挙でもはっきり示されたのは、慶尚道と全羅道の根深い地域対立であり、年代別、男女別の考え方・意識の断絶がますます顕著になっている現実だった。韓国は東西南北に分断されているだけでなく、人々の意識のなかでも、互いに理解できないほど遠い存在となり、とても同じ国民とは思えないほど分断が進んでいるのではないか、と疑ってしまう。政治的・思想的にはどういう立場にあるか分からない人々を、同じ「韓国国民」として一括りで付き合わなければならないとしたら、外交の世界でも、世間的な交際でも、ややこしくて一筋縄でいかないと、戸惑うしかない。やはり、韓国と向き合うにはため息しか出ない。
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