公職者の職業倫理と規範意識を厳しく問う日本
日本では、もはや旧聞に属し、覚えている人も多くないかもしれないが、兵庫県内の市立中学の59歳の校長がコンビニでレギュラーサイズのカップにラージサイズのコーヒーを注ぎ、1回当たり70円、計7回で490円の利益を得たとして、教育委員会から懲戒処分を受けた、というニュースがあった。これによって、30年あまりにわたって教職に携わり、子供たちからは「優しい憧れの先生」という声があったにも関わらず、退職まであと一年を残して、一杯たった70円の出費を惜しんだ末に、数千万円という退職金や教員免許を失なう結果になった。
朝日新聞が2024年2月1日「コンビニコーヒー『量増し』の不正行為 中学校長の懲戒免職は妥当か」と題して報道し、産経新聞が同2月28日に「70円の利益で退職金がパー コンビニコーヒー不正使用で懲戒免職、中学校長の『罪と罰』」という長文の解説記事で報道している。
県教委の聞き取りに対し、くだんの校長は、コンビニのセルフコーヒーカウンターで誤ってラージボタンを押してしまった際、こぼれずにレギュラーカップに収まったことが、不正を始めたきっかけだとし、「出来心でやってしまった」と話しているという。検察はこの事件について不起訴処分にしていたため、教育委員会による懲戒免職という処分は重すぎるのではないか、という議論もあったと朝日は報じているが、産経新聞は「子供たちに規範意識を教えて指導する立場にある教師」が、「繰り返し窃盗行為」を行った罪は重いとして、過去の事例も踏まえ「決定が覆る可能性は極めて低い」とした。
韓国紙が懲戒免職の中学校長のニュースを引用して嘆き節
ところで、日本のこのニュースが、最近になって、韓国の保守系日刊紙でも取り上げられ、今さらながら、注目を浴びたのには驚かされた。4月28日付の『朝鮮日報』日本語版記事としてネットでも配信された以下の二つのコラムである。
「コンビニのコーヒーで490円分ごまかして懲戒免職になった日本の校長」と題した金泰勲(キム・テフン)論説委員のコラム(「萬物相」)と
「とうとう歳費全額受け取って4年任期を全うする尹美香議員」という姜京希(カン・ギョンヒ)記者のコラム記事である。
韓国で最も歴史のある名だたる主要メディアが、日本の公立中学校校長による「出来ごころによる、とるに足らない」事件を、今になって何故、大げさにとり挙げるのかについては、最近行われた韓国の国会議員選挙の結果など、韓国ならではの政治状況、より正確には、韓国における政治家と有権者の遵法意識と倫理観が大きく関係している。
4月10日、投開票が行われた韓国総選挙では、現政権の尹錫悦大統領を支える保守系与党が惨敗し、左派系野党の「ともに民主党」と結成まもない新党の「祖国革新党」が圧勝した。しかし、その選挙で立候補した人、当選した人の具体的な人物像をみると、過去に犯罪歴、逮捕歴を持つ人が大半を占めるなど、日本の有権者目線でみると、相当怪しい人々が当選している実態がある。
例えば、現地の新聞記事で以下のように指摘されいる。
「今回の韓国総選挙に出馬する686人のうち、前科があるのは239人。3人に1人は前科者という話になる。」<朝鮮日報3月31日「記者手帳」>
「最大野党「ともに民主党」の元党代表李洛淵(イ・ナギョン)氏は、同党の国会議員167人のうち40%に当たる68人に前科があると主張した。」
<聯合ニュース1月9日「最大野党議員の4割が前科者」 離党表明の李洛淵元代表」>
韓国の国会は刑事被告人と前科者の集まりだって!?
そもそも最大野党「ともに民主党」代表の李在明(イ・ジェミョン)氏自身が前科4犯で、現在も、「7つの事件、10件の容疑で3件の裁判」を受けている被告の身分である。大法院(最高裁)判決で刑が確定すれば、収監され、選挙出馬資格を失う人物だ。朝鮮日報4月23日付のコラム「地獄の入口に5回 共に民主・李在明代表が挑む最後の「ミッションインポッシブル」によれば、李在明氏は、これまで自身の暴力的言動や不正疑惑、スキャンダルなどで何度も政治的危機に陥り、地獄の入り口を5回も覗(のぞ)いたにも関わらず、その都度、窮地を脱し、ついには議会権力の頂点まで登り詰めた人物だ。そのスキャンダルの一つは、京畿道知事時代、夫人が京畿道庁の公用クレジットカードを使用して、自宅用の寿司や高級牛肉、贈答品や日本製シャンプーなどを購入していたことを、夫人専属の秘書によって告発された。しかし、今回の選挙では、そうした公金の不正使用も、有権者の関心や怒りの対象にはならず、李在明氏は選挙区の与党候補に大差をつけて当選した。
また選挙1か月前に新党「祖国革新党」を結成し、比例選挙で25%の得票率を獲得し、いきなり12人を当選させた曺国(チョ・グク)氏は、自分の娘や息子の大学進学を有利にするため、虚偽のインターン確認書を作成するなどで、2審で懲役2年の判決を受けている。また同党の院内代表に選出された黄雲夏(ファン・ウンハ)議員も1審で懲役3年を言い渡されている人物だ。祖国革新党は尹錫悦政権を「検察独裁政権」だと糾弾しているが、彼らを支持した有権者は、そうした司法の判断は「たいしたことはない。どうにでもなる」と考えている人々なのだろうか。日本で「検察」といえば、東京地検や大阪地検に代表されるように、国家権力の不正・疑惑にも毅然と立ち向かう最後の「正義の砦」のようなイメージがあるが、韓国ではどうもそうではないらしく、1980年代の民主化運動の時代を経て、検察は「独裁政権のお先棒を担いで民衆をいじめる存在」とみられている。
日本には「正義」を主張するが、自分のやっていることは不正義ばかり
さらに問題の人物は、前述の朝鮮日報のコラム記事「とうとう歳費全額受け取って4年任期を全うする尹美香議員」で取り上げられた尹美香(ユン・ミヒャン)氏である。彼女は「挺対協」(挺身隊問題対策協議会)や「正義連」(日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯)の理事長を務め、慰安婦問題で日本政府の責任を糾弾する先鋒に立ってきた人物であり、4年前の国会議員選挙で当選したが、その直後に活動家仲間の元慰安婦から寄付金を私的に流用していたなどの数々の指摘を受け、業務上横領など8件の容疑で起訴された。長々と続いている公判では、去年2月の2審で8000万ウォンの横領と補助金管理法違反などで有罪となり、懲役1年6月、執行猶予3年の判決を受けている。しかし、なおも無罪を主張して上告したため、刑は確定せず、結局、国会議員として4年の任期を全うし、歳費も全額手にする結果となった、というわけである。
朝鮮日報のこのコラムを書いた姜京希(カン・ギョンヒ)記者は、コンビニ・コーヒーで一杯70円の窃盗を行って懲戒免職となった日本の公立中学校の校長のニュースを引用した上で、「韓国ではどうだろうか。そんな日本から謝罪を受け、歴史の正義を確立しようという市民団体の出身者(引用者註・つまり尹美香)が、自分の不正や過ちには寛大な恥知らずさに加え、問題が明らかになると、マスコミと検察による魔女狩りだと主張する。最低限の法的な正義さえ遅れ、4年間の国会議員任期に受け取った歳費を回収する仕組みもない。」と締め括っている。
李在明をはじめ、曺国、尹美香とこれだけツラの皮の厚い連中が雁首を並べ、自分の犯した犯罪に罪の意識などまったくないのを見れば、韓国の司法制度はいったいどうなっているのかと疑問を提起し、国会議員を選ぶ韓国の有権者の規範意識や倫理はどこまで低下しているのか、と嘆くのも無理はないと思う。
「お天道さまがみている」、自分を律する規範意識が大切
日本では昔から、こどもへの躾けとして「お天道さまがみている」という言葉が言い聞かされてきた。人が見てないから大丈夫、バレないと思って悪事を働いても、天の神さまはけっして見逃さない。つまり、天の道理、自分の良心に恥じない行動を常にこころがけなさい、という意味だ。
数年前、韓国に滞在していたとき、気になったのは、バス停や道路脇などに、コーヒーショップで買ったコーヒーのカップをそのまま棄てていく人の多さだった。
いま、渋谷など東京の繁華街はどこも外国人観光客でいっぱいだが、外国人客の増加に伴って目立ってきたのが、通りに棄てられたゴミの量だ。かつては街路にゴミひとつないきれいな風景が、外国からの評価も高い日本の取り柄の一つだったが、それも今や過去の物語になってしまったようだ。通りにはゴミと一緒にマスクがあちこちに棄てられ、飲んだあとのカップや空き缶が道路脇に平然と置かれている。あるいは電車の座席の下にペットボトルを置き去りにしていく人もいる。誰がつけていたか分からないマスクや他人の飲み残しのカップを片付ける人の迷惑や苦労を考えたら、ゴミは持ち帰って処分するのが当たり前のことなのに、日本からそうした美風は消えつつあるようだ。
日本の政界も政治資金問題など、けっして胸を張れるような状況ではないが、問題は政治資金やゴミの問題だけではない。韓国のように、法律や犯罪に対する感度が鈍くなり、やがて罪を犯しても大した問題ではないと簡単に許したり、悪事を見ても見ぬふりをするような社会になることが恐ろしい。
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