中国大富豪の御曹司が東京入管で移住手続き、だと!?
中国の不動産王「万達集団」(万达・ワンダグループ)の総裁・王健林氏の息子、王思聡(ワン・スーツォン)氏が「日本移住」の手続きのため、4月下旬に東京入国管理局の窓口に並んでいる写真がSNS上に出回り、在日中国人の界隈で大きな話題になっているという。
<X(旧ツイッター)に載った写真「王思聡 投資ビザの手続きで自ら日本入管に並ぶ」>
大富豪の御曹司、典型的な「富二代」である王思聡氏(1988年1月生)といえば、親から「好きに使っていい」と言われて5億元をもらい、PE(未公開株)投資ファンドやエンターテインメント企業などを立ち上げ、代表や株主を務める企業は100社あまりと言われる若手実業家で、若い女性の願望の対象なのか、中国では「国民老公」(国民の婿さん)と呼ばれる。ところが、保有する車の数は「数えたことがないので分からない」と答えて物議を呼び、K-POPの歌手や日本の女優?との交際も噂されるなど典型的な「花花公子」(プレーボーイ)で、過去にはMOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)と呼ばれるeスポーツの競技者だったり、微博(ウェイボー)で4000万人のフォロワーを持つインフルエンサーでもあった。しかし、中国政府の「ゼロコロナ」政策を批判したとかで、SNSのアカウントが削除され、また債務不履行により裁判所から不動産・クルマ・銀行預金等の財産が差し押さえられたほか、ファーストクラスでの旅行、豪華ホテルでの宿泊、ゴルフやナイトクラブなど贅沢禁止令が出されたと報じられている。
そんな何かとお騒がせな、中国人なら誰もが知る超有名人が、なぜ東京入管に姿を見せたのか。在日中国人の間では、円安で買い得となった日本の不動産に投資するため、投資ビザを入手して、日本に「永住」するためではないかと囁かれている。在日中国人ユーチューバーの楊小溪氏が、そのYoutubeチャンネル「ヤンチャンCH」(5月11日)で「中国富裕層の日本移住が急増中!爆買い→爆移住の理由は?」と題して、王思聡氏来日の背景を解説している。
( 王思聡の来日とビザ手続きを伝えるYoutube「ヤンチャンCH」)
子どもを文京区の公立小学校3S1Kで学ばせたい、だと!?
そのYoutubeチャンネルでも語られているが、いま日本に移り住む中国の富裕層や知識人が急速に増えている。まるで沈没寸前の泥船から逃げ出すように我も吾れもと中国を脱出しているのだ。巨大IT企業アリババ(阿利巴巴)の創業者・馬雲(ジャック・マー)氏や不動産デベロッパー万科グループの創業者・王石氏も日本に長く滞在し、中国には戻っていない。
最近、中国から来日する人の多くはIT企業や金融業界で働いてきた人たちだそうで、給料は日本のほうが下がるが、競争社会の中国を離れ、安全にのんびりと暮らせる日本でのゆとり生活を満喫しているという。
また不動産への投資のほか、子供に日本の教育を受けさせるのが目的という人も多く、とりわけ「3S1K」と呼ばれる東京文京区内の公立小学校(千駄木、昭和、誠之、窪町小学校)に入れるのが中国人の間でステータスになっているらしい。英語教育にも力を入れ、私立中学校への受験率が高いからだという。
ちょっと時期は異なるが、別の中国人ユーチューバーが発信するYoutubeチャンネル(「中国まる見え情報局」)では、2022年春の時点で、一家3人で日本に移住を予定していた広東省広州市の貿易会社経営者のインタビューを扱っていた。
この移住希望者が語っていたのは、当時コロナ禍で厳しい規制生活を強いられていたこともあって、「いまの中国にいたら世界の動きが分からない。新しい環境で商売をしたい」というのが移住の動機で、あわせて語っていたのが「自分の子供(1歳の娘)には将来の選択肢を与えたい。そのためにも良い教育を受けさせたい」ということだった。さらに「自分の1歳の娘は成長するごとに親の言うことを聞かなくなっている。日本では保育園での幼児教育が充実していると聞いているので、日本の保育士さんに、わが子をしっかり躾してもらうことを期待している」と言ったのには呆れた。子供の教育を目的に来日し定住したいという気持ちは分からないではないが、しかし、これでは親の責任を放棄し、こどもの躾まで日本におんぶしようという腹づもりなのか?「三つ子の魂百まで」というが、日本の教育システムに頼って自分の子の完全な日本人化教育まで任せるということではないのか?
<中国まる見え情報局(2022年4月21日「中国人はなぜ日本に移住したいと願うのか!?」>
「日本は“永住権”をとりやすい国だ」というとんでもないウソ
ところで、中国富裕層の日本への「爆移住」をテーマにした楊小溪氏のYoutube動画では、「日本は、アメリカやヨーロッパの国と比べてビザや『永住権』がとりやすい国」だとし、「高度人材で学歴と年収400万円以上の収入があれば滞在1年で『永住権』がとれる」と発言したために、これが大炎上し、動画のコメント欄では、中国人の「爆移住」に反対し「中国人おことわり」「中国人来ないで」という声であふれる事態となっている。
もう一つの「中国まる見え情報局」のYoutube動画でも、日本への移住を選択した理由に、米国や英国の入国ビザを入手するのは困難だが、日本のビザは比較的とりやすく、自分が会社を持ち、3~4年安定して経営している実績と日本語能力があることを入国審査官に示せれば、滞在ビザの入手は可能だとしている。そしてその後も日本に住み続けることを希望するという文脈で、ここでも「永住権」という言葉を使っている。
そもそも日本では「永住権」という権利などなく、しかもそれを外国人に与えることはない。与えられるのは「永住許可」だけだ。在日朝鮮・韓国人の2世3世に許されているのも「特別永住許可」であり、その他外国人の「一般永住許可」を得るためには10年以上の滞在実績が必要となっている。2019年改正の「出入国管理法」で規定された在留資格「特定技能1号」でも最長5年の技能実習を終了するか、技能と日本語の試験に合格することが条件で、さらに家族を帯同しての無期限就労が可能な「特定技能2号」となれば、高度な熟練技能とさらに難易度の高い技能試験への合格が必要とされる。
また去年2023年4月に改正・施行された「出入国管理法」では、「高度人材外国人」の獲得のためのポイント制による「優遇制度」を導入された。ここでいう「高度人材外国人」とは「高度学術研究活動」「高度専門・技術活動」「高度経営・管理活動」という3つの活動領域で、学歴や職歴、年収などの項目ごとにポイントを与えるというもので、ポイントの合計が70点以上になれば「高度人材外国人」として認定し、5年の在留期間が認められ、さらに3年経過して条件が満たされていれば、在留期間が無期限になる、つまり永住資格が得られるという制度だ。
具体的には「出入国管理及び難民認定法別表第一の二の表の高度専門職」で基準が定められていて、例えば「高度専門職」の場合、日本が必要とする先端技術や学術研究を専門とする研究者を対象にしていて、学歴(博士、修士、専門職学位)、実務経験の年数(最低は3~5年)、日本および海外の契約している研究機関から受ける年収(最低400万円以上)、年齢(40歳未満)、資格(国家資格の有無や技術試験の合否)、特別加算(必要とするイノベーションへの貢献、日本語能力など)で、各項目ごとに最高40点から最低5点までのポイントが付けられていて、それらの合計が70点以上ないと永住資格は与えられない。
また経営管理に関する専門知識を持っている人も、その専門学位や事業の経営又は管理について3年以上の実務経験があること、報酬の年収が1000万円以上、活動機関の取締役、執行役又は業務を執行する社員として当該機関の事業の経営又は管理に従事することなどの最低条件が必要であり、それぞれの評価ポイントの合計が70以上となっている。
つまり、法律に定められた評価ポイントや合計点数の基準をみれば、単に会社を経営しているとか、日本語がしゃべれるというだけでは、合格点に達しないことは明らかで、日本語もしゃべれない中国人が、ただ単に大金持ち、富豪というだけで、日本の『永住権』がとれるはずがないことは明らかなのである。
懲役刑や税金不払いでも取り消される永住資格
さらに出入国管理庁が公開している「永住許可に関するガイドライン」によれば、
永住許可の要件には「素行が善良であること」や「生計を営むに足りる資産を有すること」「原則として10年以上在留していること」などに加えて、「公的義務(納税、公的年金や公的医療保険の保険料の納付、出入国管理及び難民認定法に定める届出など)を適正に履行していること」が含まれている。
また、現行法でも1年超の懲役刑や禁錮刑を課された外国人は強制退去の対象になるとされているが、1年以下の懲役・禁錮刑であっても永住許可の取り消しを可能にする法改正が、ことし4月に閣議了解され、今の国会に提出されて成立する見通しとなっている。つまり「永住許可」といっても、半永久的な資格ではないのである。
いまの日本にとって確かに必要な有能な高度人材であり、日本のために貢献してくれるという人あれば、どこの国の人であっても受け入れることにやぶさかではないが、中国の国内事情である政治経済環境の悪化に伴い、ただ単に活路を求めて中国を脱出し、日本に押し寄せる中国人にまで、日本の税金が使った社会インフラである教育施設や医療制度の恩恵を享受させる必要はあるのか。
『永住権』などと簡単に口にさせない規制や環境整備が必要
現在、日本で暮らす在日中国人は75万人で、そのうちの22万人は東京に住んでいるという。これらの中国人すべてが「高度人材」であるはずはないが、しかし、滞在10年を越えて「一般永住許可」を申請する予備軍であると考えると恐ろしい。
それにしても、日本人がビジネスで中国に出張する場合、入国ビザを取得するには、かつての会社の上司の連絡先や配偶者の父親の連絡先・職業など、業務とは関係ない多くの個人情報の提出が求められ、何十枚もの書類の提出や煩雑な手続きが必要なのに対し、中国人はいとも簡単に日本に入国できるように見える。また日本の不動産の購入は、中国人でも簡単にできるが、中国の土地を日本人が買うことは絶対に不可能だ。国と国との関係は、互いに同じ土俵に立って相手を遇する『相互主義』が原則であり、日本人が中国でできないことは、日本に来た中国人にも許すべきではない。
在日中国人が、日本には存在しない「永住権」と言う言葉を簡単に口にし、あたかも自分たちが取得できる「権利」であるとでも思っているかのように主張したり振る舞ったりすること自体が、ゆゆしきことだと言わざるをえない。「永住権」などという権利は外国人にはない、ということを明確にするための規制の強化や法整備、「永住許可」を得るためには納税の義務など、日本で暮らすために必要な公的義務や社会人としての責任を果たすことが条件だということを教える広報、そして何よりもわれわれ日本人の間の在日外国人に対する共通認識と幅広い世論の形成が、いま求められているといえないだろうか。
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