「歴史分裂病」虚像の歴史で国民が分断される不思議の国・後編

あれだけ騒いだのに福島処理水に沈黙する野党

ところで李在明氏は1年前、福島処理水のことを「核廃水」だと呼び、海洋放出は「核テロであり、第二の太平洋戦争」だと言って、消費者と漁民の不安を最大限まで煽った。海洋放出からちょうど一年が経ち、その間に韓国政府は周辺の海域165か所と公海18か所で、のべ5万件に及ぶ放射能検査を行い、水産物検査のモニタリングも3万7700回以上繰り返したが、基準を超えるものは1件もなかった。野党と李在明氏はいまでは福島処理水についてはひと言も発言せず、一年前のあの「怪談」話の大騒ぎがなかったかのように沈黙している。

<中央日報社説8・23「事実でないことが明らかになった汚染水怪談に沈黙する韓国民主党」> 

韓国大統領室は23日、野党の主張は「科学的根拠のないデマ政治」であり、「野党のデマ政治のせいで1兆6000億ウォンもの無駄な予算を費やした」「野党が国民の恐怖と分裂をあおったことで、漁業従事者と国民がデマの犠牲になった」「野党は、直ちに国民に謝罪すべきだ」と口を極めて非難した。

<KBSニュース8・23「汚染処理水の放出1年 大統領室が野党のデマ政治を批判」>

尹大統領演説:虚偽の扇動といんちき論理を糾弾

尹大統領は8・15光復節の演説で、北朝鮮住民に自由を届けることの大切さを強調したが、「自由な社会を突き崩す虚偽の扇動といんちき論理」にも振り回されてはならないとして次のように訴えた。

<「私たち皆が自由人となり私たちの自由がお互いに共存するためには、責任と配慮、秩序と規範が前提となります。秩序と規範を無視する放縦と無責任を自由と混同してはいけません。自由社会を崩すための虚偽の扇動といんちき論理に振り回されてはなおさらいけません。」

「いわゆるフェイクニュースに基づいた“虚偽の扇動といんちき論理”(허위 선동과 사이비 논리)こそ自由社会を攪乱させる恐ろしい凶器です。今やフェイクニュースは一つの大規模産業となり、“いんちき”(사이비=似て非なる、まやかし)知識人たちは偽ニュースを商品として包装して流通させ、既得権益集団を形成しています。いんちき知識人と扇動家たちは私たちが本当に目指すべき価値とビジョンを全く提示できずにいます。国民を惑わし自由社会の価値と秩序を壊すことが彼らの戦略であり、本当の目標を明らかにすると偽りの扇動が効かないからです。」

「扇動と捏造で国民を二分し、その隙から利益を得ることだけに執着するだけです。彼らがまさに、私たちの行く末を遮る反自由勢力、反統一勢力です。」>

福島処理水に関するデマ政治、虚偽の扇動と捏造、そしてそうしたデマ政治で国民を二分させたことを見ても、ここでいう「いんちき知識人」と扇動家が誰のことを指しているかは明らかだ。そして野党と遺族団体の光復会は、尹大統領が8・15演説で、日本統治時代の問題や日本の過去に対する歴史的責任についていっさい言及しなかったことに反発し、尹政権を「親日政権」と罵倒し、その退陣、弾劾を叫んでいるが、虚偽の捏造と宣伝は、まさに過去の歴史問題で盛んに行われ、それによってこの国の国民は二分させられている。

<ハンギョレ新聞8・17「尹大統領演説:過去に対する日本の責任にはまったく言及せず」>  

上海臨時政府をめぐる歴史対立

例えば今の野党・左派革新勢力は、1919年4月の上海臨時政府の成立をもって韓国の建国だと主張し、保守派の与党は1948年8月15日の大韓民国憲法の発布と大韓民国の成立をもって建国だとし、互いに対立している。さらに与党保守派は、初代大統領の李承晩について「反日政策」を実行したと見るのに対し、野党と光復会は、李承晩を「親日派」だと断定し、「建国大統領」と呼ぶことにも反対する。立場によって歴史の見方は180度異なるという証拠である。

ところで、上海臨時政府について「亡命政権」だという見方もされるが、その実態は、当時、たまたま世界各地に散って反日独立運動をしていた人々が寄り集まって急場で作った組織に過ぎず、半島にいた人々が当時、臨時政府の成立を知っていた訳でも、それに支持を表明し、承認したわけでもない。また臨時政府の主要メンバーが選挙で選ばれた訳でもない。「亡命政権」とは言えないという証拠に、当時の世界の国々が上海臨時政府を一つの政権としてその存在を承認することはなかった。

また終戦直後、中国に残っていた臨時政府の金九(キム・グ)主席の韓国への帰国をめぐり、アメリカ政府は臨時政府主席の肩書きでの帰国を認めず、一般人としてしか帰国が許されなかった。さらに臨時政府は対日戦勝国の一員として認めよという主張を繰り返したが、サンフランシスコ講和会議では、臨時政府を戦争当事者として認めず、連合国の一員にも加えなかった。つまり当時の世界情勢、国際社会のなかで臨時政府は如何なる正統性も代表権限も有していなかったのである。

実は、上海臨時政府の存在とその正統性を認めないという点では、北朝鮮はアメリカと同じ態度をとっている。臨時政府は当時、海外で活動していたさまざまな団体、組織の寄せ集めで、その中には共産主義を標榜する団体もいくつかあった。北朝鮮は金日成の時代から一貫して臨時政府の正統性を認めなかったのは、そうした共産主義を標榜する団体を排斥し、政府の中枢から共産主義勢力を排除しようとしたからだった。

臨時政府は暗殺団のリーダーが率い中国各地を逃亡

そもそも臨時政府主席の金九は、「日本の首魁を屠戮する」を合い言葉に「韓人愛国団」という暗殺団を作り、昭和天皇を狙った桜田門事件(1932年)や上海天長節爆弾事件(同年)など数々のテロを命令・指揮した、いわばオサマビン・ラーディンと同じテロリスト集団のリーダーだった。そのためテロの首謀者として日本の官憲の追及を受け、臨時政府はその拠点を南京から最後は重慶まで、中国国内を転々と移し、逃亡を続ける結果になった。そして中国国内を転々とする間も、臨時政府の会議を開き、さまざまな政治勢力による路線闘争で、政府や議会を担う要員は離合集散を繰り返していた。臨時政府といってもその実体は、数十人の家族連れの一団が中国の各地をこそこそと逃げ回る姿に過ぎなかったのである。

臨時政府の初代大統領には李承晩が選出されたが、上海で実際に執務したのは1920年12月から翌年5月までのわずか半年だけだった。共産主義嫌いの李承晩は、そうした寄せ集めの組織のなかで、支持基盤をまとめることができず、路線闘争に敗れた結果だった。

そしていま、臨時政府の成立をもって大韓民国の建国であり、憲法でも保証された正統性(レジティマシー)の根源だと主張すれば、臨時政府を認めない北朝鮮からは大反発を買い、それこそ朝鮮半島の統一など、永遠に遠ざかることになるだけだ。それでもいいのか?

「暗愚の国王」再評価で「植民地近代化論」否定だって?!

植民地近代化論にしても、日本統治によって韓国の社会的経済的発展があったことはさまざまな歴史資料、経済データからも明らかだ。いま韓国では朝鮮王朝末期に日本によって破壊された王宮の建物の復元が進み、最後の国王高宗(コジョン)の「韓国近代化に果たした役割の見直し」とやらが進んでいる。それにしても古代奴隷性国家そのものだった朝鮮王朝の高宗の統治のほうが、日本統治より良かったと主張する根拠とはいったい何なのか。

高宗は閔妃殺害のあと自分も身の危険を感じて、ロシア公使館に逃げ込み、それから1年間にわたってロシア公使館で政務を行った。有名な「露館播遷」(1896~7)と呼ばれる事件だ。ところがこれだけでなく、日清戦争の時は米国公使館に避難し、日露戦争の時はフランス公使館に逃げ込み、その直前には中国の青島やウラジオストクに亡命するという噂もあった。さらに甲申政変(1884)のときは清の軍隊に救出を頼み、東学党の乱でも清や日本の軍にすがった。何かあったらすぐに外国政府に援助を求め、亡命する姿勢を見せることがしばしばあり、「七館播遷」と呼ばれるほど外国の庇護を求めて右往左往した人物だった(パク・チョンイン著『売国奴高宗』)。何しろ晩年を過ごした徳寿宮には、高宗の脱出用に外部に通じる専用の地下道が作られていた。

国民を守るよりまず自分の身を守ることしか考えない「暗愚の国王・皇帝」が、朝鮮近代化のためにいかなる力を発揮できたというのか?

<朝鮮日報コラム2019・2・1「高宗に問うべき三つの罪」>

奴隷制と両班支配でいかなる近代化が可能だったのか

朝鮮の開国開放のために命を張って甲申革命を起した若手官僚に対して一族郎党、幼い幼児とともにその一家を根絶やしにし、日本に亡命した開化派のリーダー金玉均を追い詰め、最後は上海で暗殺した後は、その遺体をソウルに運んで、切り刻んで衆目に晒すという陵遅刑を実行した高宗・閔妃の王朝にどんな希望があったというのか。

日本統治以前は朝鮮半島の住民の半数は奴隷・奴婢の身分で、彼らは売買の対象だったほか、苗字もなく、文字を学ぶことも許されない人々だった。一方の支配階級であった両班(ヤンバン)と呼ばれる人たちは、体を動かすこと、汗を流すことを嫌い、無為徒食、ただ奴隷である下層階級に寄生し搾取する人々だった。そんな古代社会を引きずる人々にいかなる近代化、産業革命が期待できたと言えるのか?それらの疑問に正面から回答したのちに植民地近代化論のどこが間違いなのか反論すべきだろう。

結局は、自ら捏造した偽りの歴史という毒に犯され、自らの歴史にがんじがらめに縛られ、そこから抜け出せなくなって煩悶とする姿であり、しかも、そうした「いんちきな歴史」を宣伝・扇動し、論争を拡大しても、未来に何の生産的な結果も残せないまま、にっちもさっちもいかなくなった姿しか見えない。それにも関わらず、過去の歴史の評価だけで国民を色分けし、国民を二分して対立を煽る構図に持ち込んでいる。韓国国民全体を巻き込んだ「歴史分裂病」だといってどこか悪いだろうか。

(上海臨時政府の実体及び金九主席の事跡については、このYoutube動画が詳しい)


富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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