香港人が大合唱した“歌”の記憶がある限り 民主化への希望は消えない①

国際金融センターから「金融犯罪都市」に淪落

2020年9月に予定されていた香港立法会選挙に向けて民主派の人たちが候補者選びのために実施した予備選挙について、香港国家安全維持法違反で起訴された立候補者など45人に対して、香港の高等法院(高裁)は11月18日、国家や政権を共謀して転覆させる目的だったとして禁固4年から10年の実刑を言い渡した。民主主義国家なら、正当な政治活動として認められる民意の表明に対して、有罪という判決が下されたのである。

<産経新聞11/19「香港民主派45人に量刑言い渡し 国安法違反最大の裁判」>

その一方で、米紙ウォールストリートジャーナルは25日、信頼できる世界の金融センターとしての香港が今や「金融犯罪都市」に転落し、中国やロシア、北朝鮮、イランなどといった権威主義国家がマネーロンダリングや米国による貿易制裁措置を回避するための拠点として、香港を使っている、とし、米国が香港に与えている優遇措置を見直すべきだ、という記事を掲載している。

<万維読者網・中国遼望11/25「“香港正沦为全球金融犯罪中心”」>

香港は、もはや中国政府が完全にコントロールする中国の地方都市の一つに過ぎず、かつては資本主義の西側諸国に対して開かれた唯一の窓として、国際金融貿易都市として利用してきた香港だが、そうしたヒト・モノ・カネ、そして情報が自由に行き交うことで価値が生まれる、という香港の輝きは完全に終りを告げ、まるで犯罪組織が暗躍する闇の世界にまで落ちぶれてしまったようだ。

香港には時代とともに流れる歌があった

その香港と言えば、香港の人々がその時々に思い込めて口ずさみ、デモや集会ではたまたま肩を並べた市民同士が心を一つにして大合唱した「歌」とともに時代の記憶が蘇る。1989年の天安門事件のときもそうだったし、2014年の雨傘革命や2019年から20年にかけての民主化要求デモの時もそうだった。次の動画をぜひ見て欲しい。

<Youtube動画「『香港に栄光あれ』の記憶を再び」>

2019年の民主化運動のテーマソングとなり、運動のシンボルにもなった歌「香港に栄光あれ」(我願榮光歸香港、Glory to Hong Kong)についてまとめた動画である。最初に曲が作られ、市民から募集して歌詞を完成させたあと、冒頭のオーケストラ・バージョンの動画が発表された。楽団員たちはヘルメットやガスマスクをつけて演奏しているが、演奏も動画の編集も見ごたえがあり、完成度は高い。このほか中国の伝統楽器を使ったバージョンもあるが、作曲からこうした動画の制作・発表までわずか2か月だったということを考えると、音楽や映像など香港芸術界のレベルの高さを示している。

そしてこの動画は発表から2日間で70万回再生され、この歌は瞬く間に香港市民の間に広がった。各地にある大型ショッピングモールではフラッシュモブ(突然の集会)という形で、自然発生的に市民による大合唱が行われ、サッカーの国際試合では、中国国歌にブーイングが浴せられる一方で、会場にはこの歌の大合唱が鳴り響いたこともあった。そうした合唱だけではなく、街角に立ち続ける2人の少女が静かにこの歌を口ずさみ、通りを行く人々に民主化への思いを伝えるという風景もあった。

民主化運動を支えたテーマソングに込められた決意とは?

香港の人々の心を捉えた歌がどういう内容で、何を訴えたものなのか、それを示すためにその中文の歌詞(発音は広東語)を以下に紹介し、私なりの日本語訳をつけてみた。

『香港に栄光あれ』(我願榮光歸香港)

(作曲:匿名Thomas dgx yhl 作詞:Thomasとネット市民)

何以 這土地 淚再流      なぜ この地に再び涙が流れるのか

何以 令眾人 亦憤恨      なぜ 誰もが怒りに震えるのか

昂首 拒默沈         顔を上げ 沈黙を破り

吶喊聲 響透         叫び 声を轟かせよ

盼自由 歸於 這裡        自由が再びここに戻ることを願って

何以 這恐懼 抹不走       なぜ この恐怖は消えないのか

何以 為信念 從沒退後      なぜ 信念を曲げないのか

何解 血在流           なぜ 血を流しても

但邁進聲 響透        前進する声は 響き渡るのか

建自由 光輝 香港           自由で 光輝く 香港を築くために

在晚星 墜落 徬徨 午夜      星も見えない 暗い夜をさまよえば

迷霧裡 最遠處 吹來 號角聲    遠く霧の向こうに 角笛を吹くのが聞こえる

捍自由 來齊集這裡 來全力抗對  自由の為にここに集い 全力で立ち向かえ

勇氣 智慧 也 永不滅         勇気も知恵も 不滅なのだから

黎明來到 要光復 這香港      夜明けだ 取り戻せ この香港を

同行兒女 為正義 時代革命     みな心を一つに 正義のため 革命の時だ

祈求 民主與自由 萬世都不朽    民主と自由よ どうかこの街に永遠であれ

我願 榮光 歸香港         香港に 栄光よ 戻れと願う


自由で光輝く香港、かつてあった、そして本来あるべき香港の姿を求めて、戦いに挑もうとする必死さがあり、前途が見えない中で悲壮感さえ漂う歌であることは、ひとつ一つの歌詞からも伺うことができる。

ところで、この歌はいま街中で歌うと警察につかまり、インターネットに載せることやCDで販売することも禁止されている。2020年7月に施行された香港国家安全維持法によって、反国家的、反体制的だと認定されたからだ。

しかし、映像にあったように、かつては街のあちこちで自然発生的にこの歌の大合唱が始まり、その場にいた全員が歌を通して心を一つにしたという事実があった。大勢の人と声を合わせ、心を一つにして歌ったという記憶は忘れられるものではなく、永遠の記憶であり、法律の規制で消せるわけもない。ということは、中国政府が一国二制度の約束を破って、香港の司法の独立や言論の自由を奪ったとしても、香港の人々の心からは、かつて歌った歌の記憶とともにある民主化への願い、香港の栄光を取り戻すという希望まで奪うことはできない。また、そうであることを信じたい。

実は、香港の人々が心を一つにして歌を歌い、歌に抵抗や希望を込めたという経験は過去にも何度かあった。その一つが1989年天安門事件の時だった。次のブログでは、そのとき歌われた「香港民主運動歌曲」あるいは「六四歌曲」について、振り返って見る。

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

0コメント

  • 1000 / 1000