“世界皇帝”のように振る舞う習近平 しかし底は見えている?

習近平は、9月1日、中国・天津で開かれた上海協力機構(SCO)の首脳会議で「重要講話」と称する演説を行い、このなかで「私はグローバルガバナンスに関するイニシアチブを提唱し、各国と共に、より公正で合理的なグローバルガバナンスシステムの構築を推進し、人類運命共同体に向けて手を携えて歩んでいきたい」と豪語した。

新華社9月1日「习近平主持上海合作组织成员国元首理事会第二十五次会议并发表重要讲话」

傲慢にも「地球統治」の構想をぶち上げた習近平

「グローバルガバナンス」とは中国語では「全球治理」というらしいが、すなわち「地球統治」という意味である。習近平はその「地球統治」について「イニシアチブ」(構想の提唱)を行い、「地球統治システム」の構築を推進すると宣言したのだ。

習近平はこの地球を支配し、全人類を指揮できる世界の盟主にでもなったつもりなのか?SCO首脳会議で習近平が行った「重要講話」は、あたかも“全人類に向けて世界皇帝が発した号令”でもあるかのように見える。まさか、習近平が支配する地球上で暮らしたいなどと誰が思うだろうか。習近平と運命を共にする「人類運命共同体」など、まっぴらご免、満腔の思いを込めて拒絶する。

                                                                 (9月3日 抗日戦勝利80年軍事パレード)

SCO首脳会議では、そのほか、中国、ロシア、インド、イランなどSCO加盟10か国の首脳らが署名した「天津宣言」が採択され、同じく加盟10か国は「第二次世界大戦勝利と国連創設80周年似関する声明」を発表した。

それらの詳細については、のちほどくわしく分析を試みたいが、習近平の「重要講話」といい、「天津宣言」や「80周年声明」といい、まるで、習近平やプーチンらが、米国や欧州、日本などに対抗してブロック圏をつくり、第2次大戦の終結とその後の歴史を自分たちの論理で一方的に総括するとともに、新たな世界秩序や経済圏構想をぶち上げ、あたかも自分たちが新しい世界と人類を引っ張る進歩勢力であり、アメリカなど西欧は役割を終えた没落勢力でもあるかのように振る舞っている。

中国・天津に集まった異端の国家指導者たち

「グローバルガバナンスに関するイニシアチブ」の詳細については、後述するとして、まず、この首脳会議に集まった国々を紹介したい。上海協力機構(SCO)は、中・露と中央アジア4カ国が2001年、上海で開催した首脳会議を機に創設したもので、2017年にインドとパキスタン、23年にイラン、24年にベラルーシが加わった。

今回の首脳会議にはSCO加盟国(10か国)であるロシアのプーチン、ベラルーシのルカシェンコ、それにイラン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、ウズベキスタン、それにパキスタンの各大統領(インドのモディ首相は会議には代理出席か)。「オブザーバー国」(2か国)からモンゴル大統領、「対話パートナー国」(14か国)からはアゼルバイジャン大統領、アルメニア首相、カンボジア首相、モルディブ大統領、 ミャンマー暫定大統領ミン・アウン・フライン、ネパール首相、トルコ大統領エルドアン、エジプト首相、それに「議長国ゲスト」としてトルクメニスタン大統領、マレーシア首相、ベトナム首相、それにラオス国家主席、国連グテーレス事務総長らが招待され出席した。このうちラオスは今回の会議で対話パートナー国に昇格した。インドネシアの大統領も出席の予定だったが、国内で大規模デモが広がっていることを受けて急きょ欠席を決めた。

首脳級だけで24か国が参加した会議だが、その顔ぶれを見ると、ロシアによるウクライナ侵攻に協力ないし黙認している国がほとんで、会議ではプーチンがウクライナ問題について弁明したそうだが、少なくとも宣言や声明の発表文にはウクライナに関する言及はない。

また、会議には10か国以上のイスラム国家の首脳が集まりながら、中国が進めるイスラム教の中国化とイスラム教徒であるウイグル人やカザフ人らの強制収容政策などの宗教弾圧に対して何の抗議もした様子がない。つまり信仰的には不信心で、イスラムの神に対しては背徳的、冒涜的な指導者ばかり、ということが言える。

「地球統治」に関する習近平の「5つの方針」

さて、SCO首脳会議における「重要講話」で、習近平はグローバルガバナンスについて、何を提唱したのかを見てみたい。冒頭に紹介した「グローバルガバナンスに関するイニシアチブを提唱する」とした一文に続いて、習近平は以下の5つの方針を提示する。(以下、括弧内は中文表記)

<第一に、主権平等を堅持する(奉行主権平等)。大小・強弱・貧富にかかわらず、全ての国がグローバルガバナンス(全球治理)において平等に参加し、平等に意思決定し、平等に利益を得ることを堅持する。国際関係の民主化を推進し、発展途上国の代表性と発言権を高める。

第二に、国際法の支配を遵守する(遵守国际法治)。国連憲章の目的と原則など、広く認められた国際関係の基本規範を全面的、十分かつ完全に遵守し、国際法と国際ルールが平等かつ統一的に適用されることを確保する。「二重基準」(“双标”)を設けることなく、少数の国の「家規」(“家规”)を他国に押し付けない。

第三に、多国間主義を実践する(践行多边主义)。共商・共建・共享のグローバルガバナンス観を堅持し、団結と協力を強化し、単独行動主義(单边主义)に反対し、国連の地位と権威を断固として守り、国連がグローバルガバナンスにおいて代替不可能な重要な役割を確実に発揮させる。

第四に、人間中心の理念を提唱する(唱導以人为本)。グローバルガバナンスシステムを改革・改善し、各国人民がグローバルガバナンスに共同で参加し、その成果を共有することを保障し、人類社会が直面する共通の課題により良く対応し、南北の発展格差をより良く埋めることで、世界各国の共通利益をより良く守る。

第五に、行動志向の方針を重視する(注思行动导向)。体系的な計画と総合的な推進を堅持し、グローバルな行動を調整・連携させ、各方面の資源を十分に動員し、より多くの目に見える成果(可视成果)を創出し、実務的な協力を通じてガバナンスの遅れ(治理滞后)や断片化を回避する。>

新華社9月1日「凝聚上合力量 完善全球治理——在“上海合作组织+”会议上的讲话・全文」より、自動翻訳ソフトDeepLで翻訳し若干の修正を行った>

この中の「国際法支配の遵守」や「多国間主義」、あるいは「二重基準」や「家規(国内法)」の否定を見ても、明らかに米トランプ大統領の「アメリカ・ファースト」政策に対する対抗心が如実に見て取れる。「反トランプ」を掲げて、中国が中心となり、グローバルサウスなどそのほかの世界を糾合できるか注目である。

さらに「人間中心の理念」に至っては、チベットやウイグル、モンゴル人に対する大量虐殺や人権弾圧、それに漢族を含めた全て国民に対する思想統制や監視システムなど、「人間中心主義」とは真逆の人権弾圧を行う全体主義国家こそ中国であるという実態を指摘しておこう。

まさか、上海協力機構こそ「人類の未来」だと!?

さらに「重要講話」では、上海協力機構は「創設から24年間にわたり、相互信頼、互恵、平等、協議、多様な文明の尊重、共同発展の追求という『上海精神』を堅持してきた」とした上で、「百年に一度の大変革に直面し、上海協力機構は主導的役割を発揮し、グローバルガバナンスイニシアチブを実践する模範(全球治理倡议的表率)となるべきである」として、以下の4つの規範を提示する。(以下の中国語原文で「上合」とは「上海合作組織」つまり「上海協力機構SCO」のこと。以下は抄訳)

<▼世界平和と安定の維持に貢献する「SCOの力」(“上合力量”)

効率的な安全保障協力を展開し、引き続き非同盟・非対抗・第三国を標的としない原則を堅持し、様々な脅威や課題に共同で対応し、新設された安全保障上の脅威・課題対応総合センター(应对安全威胁与挑战综合中心)と麻薬対策センター(禁毒中心)の役割を発揮させる。

グローバルな開放協力の推進において発揮すべき「SCOとしての責任」(“上合担当”)

加盟各国はエネルギー資源が豊富で、市場規模が大きく、内発的成長力が強固であり、世界経済成長への貢献度は持続的に高まっている。我々は引き続き高品質な「一帯一路」共同建設を推進し、経済グローバル化がより包括的で包摂的な方向へ発展するよう促す。今後5年間でSCO加盟国と共に新たに「1000万キロワット太陽光発電」と「1000万キロワット風力発電」プロジェクトを実施する。中国は関係各国と共に「AI人工知能応用協力センター」の建設を推進し、人工知能発展の成果を共有する。関係各国による北斗衛星測位システムの活用を歓迎する。

全人類の共通価値を弘揚する「SCOモデル」(“上合示范”)

引き続き文明交流と相互理解を促進し、異なる歴史文化、異なる社会制度、異なる発展段階にある国々が平和と和睦、調和のうちに共存する輝かしい章を綴っていく。中国はSCO政党フォーラム(论坛)、グリーン・持続可能な発展フォーラム、伝統医学フォーラムを成功裏に開催する。今後5年間で、中国はSCO加盟国に対し、先天性心疾患患者500名の治療、白内障手術5000件、がん検診1万件を実施する。

国際的な公平と正義を守るために展開すべき「SCO行動」(“上合行动”)

各加盟国は公正・公平の原則を堅持し、国際・地域問題に建設的に関与し、グローバル・サウス共通の利益を守る。覇権主義と力による政治に断固反対し、真の多国間主義を実践し、世界の多極化と国際関係民主化を推進する中核的役割を担い続ける。>

習近平に対する「信」がなければ世界は動かない

要するに、上海協力機構のこれまでの実績と成果を強調し、これをモデルとしてさらなる協力と発展が可能だと宣言しているのである。しかし、中国の「一帯一路」政策を見ても、関係国を「負債の罠」に陥れ、中国の思い通りに振り回され、利益を吸い上げられているという実態は、誰の目に明らかになっている。SCO加盟国や対話パートナー国以外のグローバル・サウスの発展途上国の国々で、中国が主導する世界秩序や経済圏構想になびく国が実際どれだけあるか、世界はそれほど盲目や無知蒙昧ではないと思う。

それこそ、まもなく退場が予想されている習近平が、いかなる提唱を行っても効果はほとんど期待できず、誰もが彼の結末がどうなるかを注視しているのではないか?

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

0コメント

  • 1000 / 1000