中国とどう向き合うべきか④

4)共産党支配に大義はあるか?

・「二つの百年」という国家目標を掲げる中国共産党だが、経済の停滞が鮮明となり、党幹部の腐敗・汚職が広がるなかで、そもそも共産党支配の正統性はもはや喪失しているのではないかという議論もある。

習近平は去年9月「抗日戦争勝利」70周年を記念する史上空前の軍事パレードを行った。しかしそもそも「抗日戦争勝利」そのものが嘘で、日本と実際に戦ったのは国民党軍だった。毛沢東は「抗日はせず、兵力を温存せよ」(1937年洛川会議で)と厳命していた。たとえば、八路軍の彭徳懐将軍が日本軍に対して独断で行ったゲリラ戦「百団大戦」を、毛沢東は命令に背いたとして厳しく叱責した。このことは、のちの文革で、彭徳懐が失脚し迫害される材料となった。

・一方で、日本とは裏で共謀していた事実もあった。遠藤誉氏の近著「毛沢東・日本軍と共謀した男」(新潮新書)によると、毛沢東は当時、上海にあった日本外務省の出先機関「岩井公館」へ、藩漢年という中共スパイを潜入させ、国民党軍の動静など情報提供を行なう一方で、日本軍に関する情報収集や親日政権の汪兆銘政府に対する謀略活動を行った。こうした事実を隠蔽して口封じするため、戦後、毛沢東は藩漢年を逮捕し、20年あまりに渡る投獄の末、獄死させている。

・毛沢東は、戦後中国を訪れた日本社会党の佐々木更三や黒田寿男、それに旧日本軍関係者などに対して、日本軍を皇軍と称し、「皇軍に感謝する」「(共産党が勝利したのは)皇軍のおかげ」などと何度も発言している。その一方で、『南京大虐殺』にはいっさい言及していない。なぜか?当時、南京で日本軍と戦ったのは国民党軍で、共産党軍ははるか後方の山奥に引きこもっていたという事実を知られたくなかったからだ。 あるいは、「南京大虐殺」自体を知らなかった可能性がある。

    

・「抗日戦争勝利」は中国共産党の党是となり、中共政権の存在意義(レゾンデートル)そのものとなっている。そのために愛国主義教育という名の反日教育に力を注ぎ、各地に「抗日記念館」という学習施設が作り、荒唐無稽な「抗日ドラマ」が次から次へと制作され、エンタテインメントとして放送されている。 

われわれは、骨の髄まで抗日に染まった人たちが、隣国にいるという状況を直視する必要がある。

・もうひとつの共産党支配の大義(正統性)は、曲りなりにも中国人民全員に食料を与え、働き場所を確保してきたことだ。いま中国では、地方の中小都市に農村戸籍の農民を移動させる「都市化」政策を進めているが、都市に移住したひとびとに職場を用意し、失業者を出さないという意味では、つぎつぎと経済を拡大していくことが重要で、「経済成長が止まってしまったら、共産党支配の大義はない」と見られている。

・そうした中で、現在の中央集権的で画一的な経済政策が本当に機能しているのかという疑念がある。従来の全体主義的な経済政策では、14億人を統治し、すべての社会階層・すべての地域に富を分配するのはもはや不可能だと考えられる。

・すでに現実となっている懸念もある。経済発展の恩恵が広く行き渡る前に経済の衰退が始まる、という「中所得国(中進国)の罠」だ。生産労働人口の減少はすでに2012年に始まり、超老齢化社会の到来は日本より早いスピードで進んでいる。これまでのような成長の伸びは望めず、逆に縮小していくしかない時代を迎えている。 

・共産党政権を取り巻く厳しい状況のなかで、いかに共産党支配体制を維持していくか。そうしたなかで締め付けを強化しているのがメディア規制である。ソ連崩壊過程を反面教師として学んだ習近平指導部は、言論思想統制の良き手本は北朝鮮だと見ている。習近平は、ことし2月、人民日報やCCTVなど大手国営メディアを視察し、「メディアは党の子供」だと檄を飛ばした。メディアは「党中央の方針に忠実に従い、表現の自由など危険な「欧米の価値観」は排除せよ」という指示だった。 

・天安門事件は、中国の民主化を求めた学生・市民に対する武力鎮圧であったが、学生らの民主化要求運動の背後には外国勢力による扇動があったと当時の中国指導部は見ていた。天安門事件後に騒がれた「和平演変」論は、「外国の圧力によって平和的に中国の体制が転覆する」という意味だが、鄧小平をはじめとする当時の中共指導部は、こうした西側からの自由主義的な思想の流入と、それによる体制崩壊をもっとも恐れていた。彼らは、ソ連の崩壊過程を徹底的に分析し、ゴルバチョフのペレストロイカに見られるような思想統制の緩みと情報の自由化こそ体制崩壊の原因と見ていた。そのためソ連を反面教師として、思想の引き締め、報道やネット規制、愛国主義教育などを徹底した。

・次に規制を強めているのが、インターネットの監視とそうしたネットを使って活動する市民や人権活動家に対する弾圧だ。中共政権のインターネット規制は、ネット世論の動向を監視し特定の言論や人を規制することと、政権側が望む方向にネット世論を誘導することの両面で行われている。

・ネットを常時監視するネット警察(サイバー警察)と呼ばれる人は、党組織や各企業、大学などに割り当てられたボランティアまで含めると1000万人以上いるという。こうした人たちの監視によって、ネット上に政府に不都合な批判が現れれば、通常は数分で削除される。一方、政権側に都合のいい書き込みを行ってネット世論を誘導する人たちは「五毛党」と呼ばれる。いわゆる「ネット書き込みバイト」のことで、書き込み一件につき五毛(0.5元、約10円)がもらえることからこう呼ばれる。

・ネット論壇のオピニオンリーダーといわれ、多くのフォロワー(読者)を抱える人気ブロガーが相次いで逮捕され、ブログを閉鎖される事件が中国では続いている。ブログのフォロワーが数十万、数百万を超え、影響力が強い人気ブロガーほどその言論内容は当局の目に留まりやすい。2015年7月、人権派弁護士や人権活動家200人が全国いっせいに拘束され、一時行方が分からなくなった。弁護士らは、警察官による市民射殺事件の真相を暴こうとネットを通じて支援者を求めていた。大規模な集団抗議になる前に、運動を抑え込むための予防拘束だった。大衆の抗議活動や市民集会は全国のあちこちで頻繁に行われている。これらの参加呼びかけも、ネットやSNS(携帯メールなど)を通じて行われる。しかし、ネットでの呼びかけはすぐに当局側の知るところとなり、禁止されるので、「散歩」作戦と称して、時間と場所だけを指定し、その時間その場所にそれぞれ勝手に足を運び、市民が自然に集まる形式が流行している。

・中国におけるインターネットの普及は、自由で大衆的なコミュニケーション・ツールとなり、自由な言論や考え方を促し、政治体制の改革にもつながるのではないかという期待もあった。しかし、実際には、ネット世論の監視や巧みな誘導で、若者に対する洗脳が機能し、「反日デモ」の時のように、何か特定の方向に大衆を誘導したいときには、集団的なヒステリーのように一気に火がつく可能性がある。つまり政府批判につながる特定の言論は徹底的に抑えこむことで、ネットによる愚民化政策は効果を発揮しているといえる。

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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