ウイルス検査に頼るのは危険!?日韓で真逆の対応

「武漢肺炎」をめぐる人類史的考察⑥

「日本ではことし夏にオリンピックを控えているから、新型コロナウイルスの検査や診断をせずに、患者を隠蔽している」。韓国では、こうした発言が公然と囁かれている。国民健康保険公団という公的機関の理事長を務める人物(金容益キム・ヨンイク氏)までが、「日本は韓国より感染者数がはるかに多い可能性があるが、五輪という要因があるため、非常に政治的な判断で、感染症を何とかしようとは考えていない」。「診断しなければそのまま風邪としてやり過ごせるもので、重症になれば肺炎治療をすればよい。高齢者が重症になっても、死ぬときは死ぬ、このような態度のようだ」と放言した。

中央日報3・4「日本、新型肺炎を隠蔽…韓国より感染者数多い可能性」 韓国の国民健康保険公団理事長が発言」

(写真はソウル市内の地下鉄社内と弘大入口駅のプラットホーム・2月29日撮影)

却って感染を広げる?ドライブスルー検査

韓国では、2月26日以降、現在まで、新型コロナウイルスの検査件数は毎日1万3000件前後で推移し、多いときには1万7600件に達することもあった。検査総数も3月14日現在で26万件を越えている。それに対して、日本のPCR検査能力は現在一日6000件だというが、実際の検査件数は3月7~9日の3日間をみても、一日670件から1100件しかない。

<TBSニュース3/12「PCR検査で野党指摘、検査能力に比べ実施件数少ない」>

韓国で検査件数が多いのは、たとえば野外の駐車場で車に乗ったままで、口や鼻から検体を採取する「ドライブスルー方式」や、集団感染が発生したビルの玄関先にテントを設営し、そこにビルで働く従業員を集めて一斉に検体を集めるなどの方式をとっているからだ。

しかし、この検査方法について、日本の専門家は、かえって感染者を増やす危険性があると問題点を指摘する。なぜなら、検体を採取する医療スタッフは、検体をとるごとに手袋やマスク、防護服を変えることなく、次から次へと綿棒を別の人の口や鼻に入れ、検体を取っているからだ。実は、綿棒を口や鼻に入れた途端、くしゃみをする人が多く、もしその人がウイルスの保有者だったら、検査員はウイルスの飛沫を全身で浴びることになる。つまり、検査を受けた人に感染者がいたら、ウイルスで汚れた検査員の手袋のまま、そのあとの人の口の中に綿棒が差し込まれることになるのである。

日本では、そうした事態を避けるために、衛生的でない屋外で検体を採取することはなく、検体を採取する検査室も一回一回、消毒をし、手袋やマスク、防護衣もすべて着替え、次の患者が感染しないように万全の態勢がとられているという。

さらにPCR検査の精度にも問題がある。医師でジャーナリスト、WHOでも勤務したことがある京都大学非常勤講師の村中璃子氏によると、「PCR検査の精度は50%〜70%までの確率でしか検査出来ない」という。そうなると半分から30%の人は、感染していても陰性だと判定される可能性があり、陰性だったとして安心した感染者が、家庭や会社で感染を広げてしまう可能性がある。村中氏は「PCR検査は不安を解決する為にある検査ではない。まず第一に100%の検査ではなく、PCRの結果に頼りすぎない事が大事だ」と指摘する。

神宮外苑ミネルバクリニックの仲田洋美院長も「PCR検査をスクリーニングのため、症状のない人も含めてすべての人に適用するのは間違いで、確定診断用のみに使うべきだ」という。というのは、この病気に対するPCR検査の感度は40%、特異度は90%で、真性の感染陽性者の40%程度しか検出できず、「偽陽性、偽陰性」という診断結果しかでない人の方が多いからだ。

日本のワイドショーなどでは、日本も韓国と同じように早くドライブスルー方式の検査を導入して、すべての人の検査をすべきだという主張する上昌広氏のような医師やコメンテーターがいる。またソフトバンクの孫正義会長は100万人分の検査キットを提供すると発信したことがあった。しかし、村中氏や仲田氏のような冷静な議論が、紹介されるようになると、検査数のむやみな拡大はむしろ弊害が多すぎて、韓国と同じように「医療崩壊」を招きかねないという認識が広がり、検査数を増やせという主張には批判が高まっている。

国民を信頼する政府と信頼しない政府

感染源となった中国に近い隣国同士という関係にあっても、日本と韓国では、新型コロナウイルスに対する対応はまったく異なっている。

日本は当初、クルーズ船ダイヤモンド・プリンセスでの集団感染を抱え、重症患者の大量受け入れで、首都圏周辺の指定病院ですでにベッド不足が危惧されたという事情を抱えていたこともあるが、当初から重症者に絞り、重症者から死亡者を出さない治療に重点を置き、軽症あるいは無症状の人に関しては自宅待機を要請した。保健所でのウイルス検査の件数を絞ったことも、海外渡航実績や症状の有無など感染の疑いの濃い人を医師が判断して絞ることによって、検査のため病院を訪れる人が殺到することを避け、院内感染の危険を防ぐという考え方からだった。また前述のとおり、PCR検査では一定の確率でしか感染者を確定することができない事や、治療方法が存在しない現状では、軽症者や無症状の人は、自宅で待機して経過を観察するのが効率的だという判断があった。そして、そうした方針を実効性のあるものにするためには、感染の疑いがある場合には、国の呼びかけに答えて、国民一人ひとりが外出を控え自宅待機に応じてくれるはずだという国民への信頼感という背景と確信があったのも間違いない。

一方、韓国は、国民の安心を確保するためとして、ウイルス検査を希望する人にはすべて検査に応じ、感染が確認された人は症状が出ていなくてもすぐに隔離して病院に収容した。また濃厚接触者の確認に限らず、感染者の立ち回り先の情報を詳しく公開して、その場所に関係した人には、検査に応じるよう呼びかけた。これによって2次感染や集団感染を早期に発見しコントロールできるという目算があったからだ。

韓国政府はこうした「検査」により感染が明らかになった人を可能な限り医療機関に入院させ、患者を早期に社会から隔離して「医療措置」を進める事で、感染拡大を防止する狙いがあった。そのため軽症患者を含めて、すべて入院させたため、感染症指定病院の専門病床はすぐに満杯になった。

加えて、新興宗教団体「新天地イエス会」の組織を通じての集団感染が明らかになり、しかも感染者の確認は大邱市や慶尚北道に集中したため、大邱市内ではすぐに「医療崩壊」という事態になった。感染者の半数以上が入院できず、自宅での隔離となり、治療を受けられないまま自宅で死亡する高齢者が相次いだ。こうした事態に、病院以外に政府など公的機関が保有する宿泊施設を「生活治療センター」として確保して軽症患者や無症状の感染者を病院から移し、重症患者のためのベッドをようやく確保することになった。

韓国がどこよりも早く大量の国民のウイルス検査をしていることについては、一つのことにワッと沸き立つ韓国人の国民性があるという説もある。国民が安心し納得するためには、とにかく自身が一刻もはやく検査を受ける必要があるという考え方だ。過去にMERS(中東呼吸器症候群)で院内感染によって多くの犠牲者を出した経験から、政府の言うことをあまり信用していないため、とりわけ情報に過敏になり、危険には自分自身でいち早く対処する必要があると考える。また感染者を軽症者を含めて一律に病院や隔離施設に収容するのも、感染者に自宅待機や外出禁止措置を求めても、どうせ守らないだろうから、最初から隔離収容するのが安全だと考える。要するに国民も政府を信用しないし、政府も国民を信頼していないということでもある。

韓国の対応に海外は高い評価って本当?

ところで、こうした韓国の対応と成果を、欧米のメディアは高く評価している。そうした海外メディアの評価を韓国メディアはしばしば取り上げるし、韓国政府自身も自らの成果として宣伝材料につかっている。

例えばワシントンポストは、検査の拡大が新型コロナウイルスに対応する「効果的な武器」と指摘し、これにより、韓国では新型コロナウイルスウイルス感染による死亡率が世界で最も低くなっていると評価したという。

イギリスのフィナンシャル・タイムズも、韓国が初期の段階から、患者と医療従事者との接触を最小限に抑えるドライブスルー方式を採用した検査施設の設置などにより、検査を積極的に行ったことを評価した。

KBSニュース3・13「海外メディア 新型コロナへの韓国の対応を評価」

AFP通信も「韓国は、中国以外で感染者が最も多く出た国の一つだが、時間の経過とともに感染率は大幅に下がり、致死率も世界平均から見れば異例と言っていいほど低い」と評価し、「日本では広範な検査が行われておらず、韓国の対応から学ぶことができる。韓国の対応はあらゆる国にとって、良い手本となる」という医療ガバナンス研究所の上昌広理事長のコメントを紹介する。

AFP時事3・13「韓国の新型コロナ対策、世界の手本となるか」

しかし、そうした海外メデイアの評価や韓国国内メディアの報道で前述のドライブスルー方式のウイルス検査の危険性や、もともとPCR検査の確度が低い問題について言及し、疑問を呈した記事にはお目に掛かったことはない。PCR検査を含めすべての医療検査は、陰性か陽性かを確定できず、偽陰性・偽陽性と判定されるケースが統計上、一定程度あり、100%信用してはならないということは、日本の大学医学部なら2,3年生のときに学ぶ基礎知識だという。

たとえばクルーズ船ダイヤモンド・プリンセスの乗客で陰性と判定されて下船した人からのちに陽性反応が出たり、いくつかの病院を渡り歩き何度か検査を受けたすえにようやく陽性と判定されるひとが出るのはそのためだ。したがってPCR検査が絶対不可欠で国民全員に行うべきだなどという上昌広氏のような主張は、医師としての常識に反した考え方ということになる。

韓国では新規の感染者が2月末から3月初めには一日で600人から800人に及んだが3月14日は76人まで下がり、感染拡大は抑制されている。一方、日本は同じ14日は新たな感染者がこれまでで最も多い63人が見つかり、拡大傾向は続いている。しかし死者の数を比べると日本の22人に対し、韓国は75人で、人口比で比較したら韓国は日本の8.5倍の多さだ。日本と韓国、どちらの対処法がより正しかったのかの判定は、事態が落ち着き、冷静に振り返ることが出来るときまで待つ必要がある。いずれにしても対照的な両国の対処法を科学的に分析・評価することは、未来の感染症対策に多くの知見を与えることに間違いはない。

(スマートフォンには、エリアメールで感染者の発生が頻繁に伝えられる。上から光明市庁、ソウル市九老区、永登浦区、冠岳区の各区役所から「何番目の感染確認者がどこで発生したか」を伝えるメッセージ。)

(LINEを通じて政府から毎日伝えられる感染者総数、退院者、死亡者の数字とグラフ)

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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