「輸出立国」韓国の隠れた排外主義的体質

「武漢肺炎」をめぐる人類史的考察④

新型コロナウイルスの韓国国内での感染者は2月16日に新たに2人が確認され、合わせて30人となったが、それまで5日間は感染者ゼロで、このまま小康状態に入るのではないかという楽観論も囁かれた。こうした感染者の拡大防止に効果を挙げていると海外メディアからも高く評価されているのが、感染者の移動経路を確認して、それを速やかに公開して、国民の不安の解消に努めていることだという。

「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)」は16日、韓国の保健当局は感染者のスマートフォンでの位置情報、クレジットカードの利用明細、公共交通機関の利用履歴、出入国情報、それに防犯カメラの映像などから、感染者が訪れた場所や時間など行動履歴を割り出し、それを一般に公開していると報じた。感染者に対しては、立ち回り先や移動ルートなど個人情報が政府によって収集され、そこから確認された行動履歴は一般にも公開されるということを拒否できないと告げられるのだという。

さらに中国からの入国者については、入国に際して全員を対象にスマートフォンへのアプリケーションのダウンロードが義務づけられている。そのアプリを通じて、体温などの健康情報を毎日報告することが求められ、もし2日間、報告がなければ、政府から連絡があり、所在を追跡する措置がとられるという。

まさにデジタルデータを活用した感染者の行動確認の方法であり、感染者が移動したルートや時間帯を具体的に知ることによって、一般の人も感染リスクを測ることができ、安心感を得ることにも通じる。ウォール・ストリート・ジャーナルは、「感染者の追跡に21世紀的なデジタル手段を駆使していて、公衆保健の面で非常に興味深い」と評価する専門家の声を伝える一方、西欧の国々では「個人のプライバシー侵害」という論争を呼ぶ可能性があると指摘している。<KBS日本語放送2月17日「米経済紙 新型コロナウイルスへの韓国政府の対応を評価

実は、こうしたデジタルデータから判明したのかも知れないが、韓国内で発生した3人目の感染者の行動確認や周辺との接触調査から、この感染者に接触した女性が感染者として確認され、しかも2人が不倫関係であることがわかり、政府はどう公表をするか、苦慮したという噂が、まことしやかに伝えられている。

現代社会は、ビックデータという資料を活用すれば、個人のプライベートの行動や心の内面までもすべて筒抜けになる社会だということが、この例でも分かる。実は、顔認証技術やビッグデータの活用は、中国のほうがはるかに進んでいて、天津市内のデパートで先月末、従業員1人の感染が確認されたあと、他の従業員や利用客35人の感染が次々に見つかった。そこでビッグデータを活用してデパートを訪れた客2万人を割り出し、追跡調査を行っているという。

ところで、韓国の新型コロナウイルスに対する一般国民の関心や意識は日本よりはるかに高いと思われる。マスクが店頭から消えたのは、日本より早く見られた。しかも、彼らがつけるマスクは、日本の花粉症対策のような薄いマスクではなく、ウイルスも防ぐという高機能マスクだ。

各企業や店舗では入り口に消毒液を置き、体温を監視するための赤外線カメラを設置するところもある。中国での蔓延が旧正月の連休と、学校の冬休み期間に重なったこともあり、人々はみな家に閉じこもり、商店街やレストランはどこも普段の人並みが途絶えた。

韓国では2015年に、ラクダからのコロナウイルスの感染が原因とされる中東呼吸器症候群MERSで38人もの死者を出したことがあった。主に院内感染によるもので、それ以前に中東での発症例はあったが、これほどの感染拡大と死亡者数は韓国だけだった。ベトナムや香港など多くの国が韓国への渡航制限措置をとる事態となり、こうした経験のために、韓国の人たちは、感染症に関する政府の対策については、信頼を置いてない面があると言われる。

そうした国民情緒もあって、感染症への過剰反応ともいうべき現象も見られた。

中国の武漢から観光目的で入国した58歳の中国人女性が韓国での23人目の感染者として確認され、前述のようなモバイルデータの確認で、その女性がソウル市内で立ち寄った場所など5日間の足取りが公表された。立ち回り先として名前が挙がったソウル明洞のロッテ百貨店本店は、公表の翌日から3日間の臨時休業に入り、2月10日には全国の系列店が一斉休業して消毒作業を実施した。ほかの百貨店やショッピングセンター、免税店なども追随する動きが広がった。

またこの中国人女性が立ち寄ったルートに近いという理由で、旧正月を挟んだ冬休みを延長し、ついには新学期が始まる3月1日まで休園・休校とする幼稚園や小学校が相次いだ。ルートに近いと言っても、実際は数キロも先でウイルスが容易に届くような距離ではなく、騒ぎに便乗した休園・休校措置としか受け取られていない。

実は、デパートや幼稚園などが過剰とも言える措置や反応を示したのには、ネット上で反響を呼んだあるあるアプリが背景にあった。政府が公表した感染者ごとの行動履歴を、地図上にプロットして見せるアプリを大学生がつくり、その名も「コロナマップ」として公開した。感染者の番号で表示された地図上の場所をクリックすれば、その場所の名前とその時間帯近くにいたと見られる接触可能人数も表示される。文在寅大統領は、閣議にこの大学生を招待して「国民の肌に届く情報だ」と評価し、「政府も広報の仕方をこの学生に学ぶべきだ」と檄を飛ばした。

KBS日本語放送「文大統領『政府の広報、発想の転換が必要』」

その一方で、文大統領は国民に対し「過度な恐怖や不安は、経済をより困難にする。政府の対応を信頼し、衛生上の注意を守りながら、通常の経済活動や日常生活に復帰していただきたい」とも呼びかけている。「過度な恐怖や不安」を煽っているのは、コロナマップのようなアプリだということに気づかないのだろうか。実はコロナマップのように地図上に感染者の行動ルートを描いた地図は、KBSなど各テレビ局も用意したそうだが、実際には使用しなかったという。やはりどこまで個人のプライバシーを公開できるか、マスコミには逡巡があったのだろう。日本だったら、こんなアプリを公開すること自体が非難の対象になるはずだ。

ところで、2003年、SARS被害が拡大した香港に駐在していた私は、その発生当初から終息宣言まで一部始終を目撃し、自分自身でも現場のいくつかを取材したが、街を行きかうすべての人がマスクをし、街の通りや階段などすべての手すりを一斉に消毒するといった風景はあっても、通常の経済活動は普段通り行われていたし、企業や店舗が休業したり閉店したという事例は記憶にない。

WHOの広報担当者は「今起きている事態は『パンデミック』ではなく『インフォデミック』つまり情報が多すぎるという弊害だ」と言ったそうだが、確かに情報過多による過剰反応という側面がないわけではない。

韓国の飲食店で働く女性従業員は、中国吉林省の延辺朝鮮族自治区などから出稼ぎでやってきた朝鮮系中国人が多い。そうした朝鮮系中国人が多く働くレストランや中華食堂は客足が遠のき、シャッターを下ろして臨時休業する店も多いという。

彼女らがしゃべる韓国語の発音、その訛りですぐに朝鮮系中国人と分かり、本人が最近は中国には帰っていないと言っても、朝鮮系中国人が集まるコミュニティーに参加しているというだけで警戒されるのだそうだ。

「国の品格」を問わざるをえない事態も生まれている。

韓国政府は2月2日、中国全地域に出されていた旅行警報を「旅行自粛」から「撤収勧告」に引き上げると発表した。しかしその発表から4時間後、理由も明らかにせずこの発表を取り消し、メディアには「検討予定」に変えたと伝えてきた。「中国の抗議を受けて、『撤収勧告』決定を撤回した」という声があがったが、外交部関係者も「理由は知らされていない」と逃げ口上に終始するだけだった。

武漢在住の韓国人を救出するためチャーター機が派遣されたが、その帰国者を収容し2週間隔離する施設をめぐっても、最初に発表した政府施設が周辺住民の反対を受けるとすぐに別の二か所の政府施設に変更した。しかし、そこでも住民の激しい反対運動が起き、施設に通じる道路がトラクターやショベルカーで封鎖され、説明に訪れた政府幹部には住民から生卵が投げつけられ、ペットボトルの水もかけられた。

それと対照的だったのが、日本政府のチャーター機による邦人の帰国と隔離施設への移送で、「韓国とはあまりにも違う、静かすぎる対応」だという驚きの記事がでるほどだった。日本の第1便帰国者のうち2人が検査を拒否してそのまま帰宅するという出来事があったが、仮にそんなことが韓国で起きたら直ちに逮捕する、という事態になるのだという。

実は、武漢へのチャーター便の派遣計画を発表したのは韓国のほうが早かった。しかし、実際にチャーター便を派遣し在留者を帰国させたのは、日本のほうが早くはるかにスムーズだった。韓国はチャーター機を同時に4機派遣するとしていたが、中国側との交渉は難航して、実際には1機しか認められず、運航日程も二点三転して、最終許可がでたのも運航直前というドタバタ状態だった。

日本と同じくチャーター便にはマスクや防護服など支援物資が積み込まれ、中国側に送り届けられた。韓国の支援物資は量も金額も日本より多かったそうだが、中国外務省の報道官が記者会見で最初に感謝の言葉を口にしたのは日本に対してだった。これについて、韓国メディアからは「なぜだ」という不満の声が聞かれた。しかし結局は「量よりは真心の問題」という当然の結論になったようだ。

実は、これには後日談があり、韓国政府が中国に提供したと発表した300万個のマスクは、実際には武漢大学同窓会など韓国の民間団体がほとんどを用意したもので、しかもその資金を出したのは、中国人の実業家だったという。韓国政府はただ輸送費を負担しただけだった。誠意など、どこにあるのか、本当に疑いたくなる。

中国人の入国禁止を求める大統領府青瓦台への国民の請願署名は、2月15日時点で70万人を越えた。

韓国の大学は7万人もの中国人留学生を受け入れていて、留学生全体の44%を中国人が占めている。3月からの新学期を控えて、入学手続きや留学ビザの申請手続きを行ったり、旧正月で一時帰国し現在も中国に留まったりしている中国人留学生は1万9000人に上るそうだが、韓国政府(教育部)は16日、彼らに対して1学期を休学し、中国に留まるよう勧告した。中国人の入国を少しでも抑えたい、という措置である。

韓国では多くの大学がことしは卒業式や入学式を中止する動きが広がっているが、中国人留学生の受け入れも各大学の課題になっている。

韓国政府は、日本やシンガポールなどアジアの6つの国・地域への旅行を、「地域社会の中で2次・3次感染が発生した事例がある国・地域」として旅行自粛を呼びかけている。

このうち、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」での感染者の蔓延や感染経路が判明しない2次3次感染者が増加している日本に対しては、政府の会見でも「汚染地域」という言葉が飛び出し、日本人の入国禁止や韓国人の渡航禁止を検討すべきではないかという質問が記者から繰り返し投げかけられている。

東京オリンピック・パラリンピックに関しても、福島第一原発事故を引き合いに出し、放射能汚染の問題は今も解決していないとして「放射能オリンピック」というレッテルを張って、ボイコットしろと叫ぶ反日団体が盛んに活動しているが、今度はこれに新型コロナウイルスに汚染されたオリンピックというレッテルを張るのは目に見えている。

韓国はGDPの40%を輸出に依存する貿易立国である。なかでも中国は、韓国の最大の貿易相手国であり、輸出の25%、インバウンド観光客の34%を中国が占める。世界の半導体メーカー、サムスン電子は売上の24%、SKハイニックスは売上の48%が中国に依存しているといわれる。

日本も韓国にとっては、輸出・輸入とも第3位の貿易相手国だ。新型コロナウイルスへの恐怖心もわからないわけではないが、中国や日本との人の往来、交流を完全に絶って、韓国は生存できると思っているのだろうか?


富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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