「武漢肺炎」をめぐる人類史的考察⑪
日本では北朝鮮関連情報を伝えるいくつかのYoutube動画が4月25日から26日にかけて、「金正恩は脳死状態」、心臓手術が失敗して重篤な状態にあるなどと伝えている。
ロイター通信は25日、中国の医療チーム50人が中国共産党対外連絡部部長とともに23日に北朝鮮に入ったと伝えた。一方、「李相哲TV」は複数の中国筋の情報として金正恩は死亡したという見方をしていると伝えた。19日にも中国の医療専門家6人が北に入っている。フーワイ医院と三〇一病院から心臓と脳の専門家が北に入った。4月12日に手術を受けて15~18日の間に異変が起きた。心臓血管手術は脳にもダメージを与える可能性がある。あわてて中国に救いを求めた。23日に医療チームを装った中国代表団が北に入った。北朝鮮に異変が起きたら中国に難民が流入するなどの混乱が起きる可能性がある。瀋陽では、北朝鮮平壌と結ぶ鉄道を4月28日から5月20日まで停止するという張り紙が張り出されたそうだが、これをみて28日までに何か重大な発表がある可能性あると李相哲龍谷大学教授は見る。
香港鳳凰TVの幹部・副台長もツィッターに「金正恩は100%再起することはない」と書いたあとこのツィッターを削除したが、その削除の理由を「中国の大局を考えて削除した」としているそうだ。 <「李相哲TV」4/26>
一方で、 韓国政府は依然として「北朝鮮に特異な動向はない」という見方の表明で一貫し、韓国メディアは26日深夜の段階でも、青瓦台の安保問題担当補佐官だった文正仁氏が「金正恩は健康で、まもなく姿を見せる」と断言したとするニュースを伝えている。
北朝鮮ウォッチャーの篠原常一郎氏によると、金正恩が脳死状態という情報は、妹の金与正組織指導部第一副部長からトランプ大統領への親書の形で伝えられているとし、そうした情報は米国から日本にも伝えられ、共有されているという。それでは米韓の間ではどういう情報のやりとりがあるのだろうか?文在寅政権とトランプ大統領の関係をみるかぎり、十分な意思疎通が行われているとは思えない。
<「篠原常一郎YOUTUBE」4/25 >
ところで、文在寅政権と与党「ともに民主党」は4月15日に行われた総選挙で、国会の300議席のうち180議席を獲得し、歴史的大勝を収めた。この圧倒的多数な議席を得て、さっそく政権内部や与党内で議論されているのが、南北の鉄道を連結する事業など、ちょうど2年前の南北首脳会議(2018年4月27日)の板門店宣言でまとまった南北協力事業の積極的な推進だという。
<KBS日本語放送4/20「韓国政府 南北鉄道連結事業を再び推進>
しかし、今回の総選挙で有権者たちが関心を寄せたのは新型コロナウイルスをめぐる防疫対策と経済救済対策で、北朝鮮をめぐる問題など選挙戦のなかで、いつどこで議論されたのかと疑問に思う。
そもそも、今回の総選挙は去年12月、野党の反対にも関わらず、与党が選挙法の改正を強行し、少数野党にも議席を配分しやすいようにするという名目で、「準連動型比例代表制」と呼ばれる選挙制度に変更した。
そのため、比例選挙に参加するため新たに35もの新政党が名乗り上げ、登録した。その中には北朝鮮問題を主な公約に掲げる政党も多数あった。しかし実際には、与党も最大野党も、『衛星政党』と称して比例代表選挙のためだけの政党を選挙直前に立ち上げて、比例代表議席43議席のうちのほとんどの議席をこの衛星政党が獲得した。
(KBSの開票速報画面、投票終了とともに出口調査結果による議席予測が伝えられた)
与党は、政権内の不正疑惑で逮捕されたり起訴されたりしている疑惑の人物だけを集めて、その名も「開かれた民主党」という、いわば与党系の「隠れ政党」さえつくり、3議席を確保している。北朝鮮をめぐっては最大野党「未来統合党」の候補として、在英北朝鮮大使館の元公使で韓国に亡命した太永浩(テ・ヨンホ)氏と、同じく脱北者出身の人権運動家チ・ソンホ氏が当選したことが話題になった程度だった。
ところで比例選挙には35の政党が名乗りをあげ参加したというが、選挙中のテレビの報道を見れば、与党「ともに民主党」と最大野党「未来統合党」の選挙戦の様子しか報道されず、そのほかの政党がどういう主張をしているのかなど、視聴者には皆目伝わっていないと思われる。日本でもメディアが泡沫候補は無視することはあるけども、それでも政見放送や政見公約のチラシには全政党の名前と公約は紹介されるはずだ。しかし、韓国で立候補者や各党の公約などをひとまとめにして各戸に配布される選挙資料では、既存の主要政党などのチラシやパンフレットだけで、35に及ぶ新政党の資料などほとんどなく、選挙区に立候補した候補者に関する資料さえ全員のものは揃っていない。そんなことで公正な選挙と有権者の正当な選択権は確保されているのだろうか?
(選挙区に出馬した候補の選挙用横断幕)
今回の選挙戦で、与党に有利だったのは、政府のコロナ対策での政策実施と選挙キャンペーンが連動できたことだった。文政権は、選挙運動期間中、政府のコロナ対策が効果をあげ、世界から賞賛されていることを、ここぞとばかりに連日、PRし、政府・与党への信任を集めるのに余念がなかった。これに対して野党は、政権の経済政策の失敗や北朝鮮をめぐる課題を訴えても、当面の課題であるコロナ問題ほどには有権者の関心を引きつけることはできなかった。要するに今回の選挙での、文政権と与党の圧倒的な勝利は、コロナ対策への評価と期待があったためであり、いわばコロナ対策というシングル・イシューで今後2年間の文政権と4年間の国会政治が決定されたのである。
ところで、新型コロナウイルスの感染が拡大するまで、ソウル中心部の光化門広場では毎週土曜日に、親朴槿恵・反文在寅の保守派の集会が開かれ、例の「タマネギ男」チョ・グク法務部長官の不正問題が騒がれたころには、数十万から数百万(主催者側発表)と言われる参加者を集めたこともあった。その後も「反文在寅1000万人署名」を呼びかけるなど、毎週土曜日にデモ集会を行なわれてきたが、「新天地教会」という新興宗教団体の集会で集団感染が発生したのをきっかけに、2月下旬から人々が集まる大規模集会は禁止対象になった。とりわけ光化門広場での集会は警察も動員されて厳しく規制され、保守系の人たちの活動は不可能人になった。選挙の争点や人々の関心も、文政権の経済政策や北朝鮮政策の失敗には目が向けられず、新型コロナウイルスの感染症対策一色になったが、
文政権を厳しく批判する保守系の人々の集会が、4月15日の総選挙まで続いていたとしたら、選挙結果も少し違ったものになったかもしれない。
ところで、選挙戦の最中にも文在寅大統領は各国の首脳と電話会談やテレビ会議を繰り返し、韓国が新型コロナウイルスの感染症対策で、いかに成功を収めているかを強調し、韓国が行った感染症対策の経験を各国と共有し、PCR検査キットなど医療物資の各国への提供を約束した。こうした外国首脳との会談を頻繁に報道することを通じて、世界各国が韓国をコロナ感染症対策のモデル先進国と認識しているというイメージを発信し、政権・与党への信頼に結びつけた。そして政府の効果的な対策もあって、新たな感染者数が激減しているという政府の発表は、有権者に対する強力なアピールになったことは間違いない。つまり、新型コロナウイルスという事態がなかったら、選挙結果はどうなっていたか、分からないというのが真実ではないか。
ところで、不思議なのは韓国が新型コロナウイルスをめぐる国際協力にこれだけ熱心なのに、すぐ隣の同胞国家の感染状況についてはいっさい関心を示さず、支援も口にしないことだ。遠い南米やアフリカの国にマスクや検査キットを送ることができる余力があるのなら、隣国の同胞たちの命を救う方が、まず何よりも先だろうと思うのが自然だ。北朝鮮は、新型コロナウイルスの中国での感染拡大にただちに国境を封鎖して、自ら早々に閉じこもった。そのほとんど「発狂状態」にも似た恐れ方を見ても、北朝鮮が置かれている感染状況の実態は判断できると思うのに、韓国・文政権はいっさい口出ししない。
というよりも、口出ししたくてもできないのだろう。金正恩の機嫌を慮って、下手に口だしすれば、どんなしっぺ返しがあるか分からない。この間に北朝鮮が文政権に対して発した屈辱的な言葉の数々からして、韓国を躊躇させるには十分であるのは間違いない。文在寅が日頃から公約に掲げる南北の経済協力や朝鮮半島の平和構築には、北側住民が新型肺炎感染症によってバタバタ死んでいく事態は含まれていない。つまり彼の平和構想が仮に実現したとして、現在のような非常事態でそれが機能するとは思えず、北側住民にとって文政権の約束など何の益にもならないことになる。
新型コロナウイルスをめぐる北朝鮮支援ということで言えば、米国のエドワード・マーキー上院議員(マサチューセッツ州選出、民主党)とアンディー・レヴィン下院議員(ミシガン州選出、民主党)が「対北韓人道支援強化法案」を上下両院に提出し、非政府機関による人道的支援物資の伝達手続きの短縮化と、制裁免除対象を現在の食料と医薬品からさらに広げることを求めている。総選挙のキャンペーン中の韓国で、こうした人道支援案についての議論がなぜ持ち上がらなかったのか、不思議というしかない。
<KBS日本語放送4/14「北韓への人道支援を強化する法案、米上下両院に上程」>
投票所の入り口で体温検査を受ける
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