「韓日戦」という歴史観にこだわる文在寅政権

「武漢肺炎」をめぐる人類史的考察⑫

<姿を見せない金正恩をめぐって情報戦>

CNNテレビがアメリカ政府情報当局者の話として金正恩重体説を伝えた21日以降、香港・台湾のメディアや朝鮮関連情報を伝えるいくつかのYoutube動画サイトでは、一斉に金正恩は「脳死状態」、「心臓手術に失敗して重篤」などと伝えられたが、その後も、本人は公の場に姿を見せず、4月11日の政治局会議に出席した際の写真が公開されて以降、20日以上もまったく音沙汰がない状態が続いている。

死亡説、重篤説は、19日に北朝鮮に派遣された中国医学院阜外医院国家心血管病中心と人民解放軍301医院の心臓と脳を専門とした医師からなる50人近い医療チームが、中国に戻ったあと、それらの医師周辺から盛んに香港・台湾のメディアなどに流されているらしい。直接診察した人からの情報なら、それなりに確度も高いはず。

米軍はこのところ連日、偵察機5~6機を朝鮮半島上空に飛行させているという報道もある。偵察機5~6機というのは、有事並みの偵察監視活動ではないか。しかも、異常なのは、普段なら直ちに激しく反応するはずの北朝鮮軍が、こうした米軍の動きに何の反応も見せていないことだという。

北朝鮮に異変があれば、難民の流入などの混乱が起きる恐れもあるため、中朝国境地帯には人民解放軍第78集団軍の30万人が集結しているといわれ、実際に戦車やミサイルを搭載して丹東へ向かう大量の輸送車両が撮影されている。<李相哲TV 5/1>

平壌の金日成広場周辺では、軍が集結する動きが衛星写真で捉えられ、金正恩追悼行事を準備している動きではないかという観測記事がイギリスの夕刊紙「サン」にでたという。

すでに後継者に指名されていた妹の金与正が監禁状態にあるとか、去年、チェコから帰国した叔父の金平一が軍を掌握したなどの噂も流れている。

中央日報4/24  > 

仮に金与正が政権を握った場合、毛沢東が死去し、文化大革命が終わったあと権力を掌握しようとして排斥された「4人組」、そのなかでも毛沢東夫人・江青のような存在になるのではないかと麗澤大学客員教授の西岡力氏は見ている。かずかずの幹部の粛正に関わっている金与正は、恨みもそうとう買っているらしい。

一方で、金正恩不在の理由について、韓国の北朝鮮関係筋からは、「金正恩が新型コロナウイルスに感染した」、あるいは金正恩の警護を担当する護衛部隊の隊員から感染者が出たために「コロナウイルスから逃げ回り巣ごもりしている」といった情報が出ているという。

以下は、麗澤大学客員教授の西岡力氏がYouTube動画「松田政策研究所チャンネル」(4月22日)に出演して語った内容から引用させていただいた。

<姿の見えない相手に南北協力を申し出る文政権>

まず北朝鮮における新型コロナウイルスの感染状況だが、北朝鮮当局はいまだに感染者は一人も発生していないとしているが、実際には、3月末の段階で、平壌では1万人もの人が急性肺炎で死亡している。新型コロナウイルスの感染者がいないといっているのは、ウイルス検査キットがないから確認できないだけだ。遺体は強制的に火葬に回されるが、火葬場の処理が追いつかず、一部は野焼きされる状態だという。

北朝鮮ではまず平壌で新型コロナウイルスが蔓延したとされる。それは1月20日過ぎに中国との国境閉鎖に踏み切るまで、外貨獲得手段のため盛んに中国人観光客を呼び込んでいたからだ。感染者はそうした中国人観光客と接する政府の上層部の役人からまず広がったという。金正恩は、内部情報を漏洩させるスパイの存在とともに、側近のなかにいるウイルス保有者からも逃げ回らなければならない状況に追い込まれているという。

ところで、こうした金正恩と北朝鮮国内の置かれた状況について、もっとも多くの情報を握っているはずの韓国政府は、「金正恩は側近と地方に滞在している。北朝鮮内部に特異な動きはない」という公式説明を繰り返している。青瓦台で外交安保問題担当する文正仁補佐官は「金正恩は健康で、まもなく姿を見せる」と断言したほどだ。かくも長き不在、消息不明の理由を合理的には説明できないのに、それほどはっきり断言して大丈夫か、仮にそれが間違っていたら、どう責任をとるのかと心配になるほどだ。

ところで文在寅は、これまで30か国以上の首脳と電話会談して韓国製の検査キットの提供を申し出る一方、北朝鮮国内の感染状況には、一言も言及してこなかった。しかし、板門店宣言から2周年の4月27日、突然、首席秘書官会議で「新型コロナウイルスによる危機は南北協力の新たな機会であり、最も急がれる切実な協力課題だ」と言い出した。さらに「南北はひとつの生命共同体だ」とまで発言し、「新型コロナウイルスをはじめ、家畜の伝染病、気候変動などに共同で対処し、南北の交流・協力が積極的になることを願う」と語ったという。

KBS日本語放送4/27

しかし、金正恩が消息を絶って半月以上も経っての、この発言はいったい誰に向けたものなのか?協力を呼びかけるべき相手は、姿も形もなく、当然、相手からの何の反応もない。新型コロナウイルスに関する南北協力をいうのなら、北朝鮮が国境を封鎖した1月の時点で何かを提言すべきだった。

ところで、その文在寅政権と与党「ともに民主党」は4月15日に行われた総選挙で、国会の300議席のうち180議席を獲得し、歴史的大勝を収めた。左派系の他の政党を含めれば、与党左派系と野党保守系の議席は190対110となり、国会での法案採択は与党の思い通りに通過させることができることになった。

ところで、この選挙戦の最中に、与党側が持ち出したのは「この選挙戦は『韓日戦』だ」という主張だった。韓国での選挙で、いきなり日本と戦っていると言い出したのである。与党側が宣伝用に造ったポスターを見れば、その時代錯誤がよく分かる。「韓日戦」と漢字で大書され、「民族の正体性(ママ)を問う」「清算されなかった親日派100年の歴史」「反民特委(李承晩時代の反民族行為特別調査委員会のこと)の裁判をもう一度開け」などの言葉が並ぶポスターには、左右に李舜臣と日本の武将が配され、右の日本側には安倍首相や東条英機などの顔が、また左の韓国側には安重根や尹奉吉、金九など抗日テロ活動に関わったテロリストの顔ばかりが並び、何故か、日本側には唯一の朝鮮人李完用の顔が見える。日本による併合に賛成した当時の総理大臣で、国を裏切った代表的人物とされるが、要するに今の保守系野党はこの裏切り者の末裔だと主張したいらしい。国内政治の左右対立に、日本が引っ張りだされるのは、はた迷惑もいいところ。実は、このポスターをつくった勢力は、去年夏、日本の対韓国輸出規制が強化されたあと、ノージャパン運動や反安倍の大規模集会を開催した連中で、選挙戦では、日本に好意的な発言をした保守系議員の落選運動を展開し、実際に対象にした議員10人中8人を落選させたという。

その与党が、選挙戦での圧勝に乗って、最初に成立を目指す法案は「親日清算4法」で、その第1は「親日妄言処罰法」だという。たとえば日本でもベストセラーになった『反日種族主義』の本のなかで主張されたと同じ「親日的な発言」をしたら処罰されるなど、あからさまな言論弾圧のための法律だ。韓国の若者が日本を応援するYouTube動画をいくつかつくって流しているが、彼らは今、自分たちこそ「親日妄言処罰法」の対象だと戦々恐々としている。「親日清算4法」の2つ目は、親日派の子孫の財産を没収する。3つ目は国立墓地に葬られている朴正熙など親日派の墓を掘り起こして他に移す、4つ目は親日派に叙勲された勲章を剥奪することだという。

文在寅政権の「反日」の本性を全面的に晒すことになるような法律だが、その目的は、韓国を日米韓3国同盟から離脱させて、北朝鮮・中国の「レッド・チーム」の側につけることで、そのために、日本との歴史問題を利用しているのだ。われわれ日本人にとっては、なぜ今さら「韓日戦」かと戸惑うが、日本との歴史問題を持ち出すことで、保守系を徹底的に締め付けるという狙いがある。

<「歴史認識を間違うと国を滅ぼす」>

こうした与党左派系に対して、野党保守系は何故、完敗したのか。西岡力氏によれば、それは歴史認識の戦いで負けたからだという。以下も西岡力氏のYouTube動画「松田政策研究所チャンネル」(4月22日)での発言を引用させていただく。

(以下動画からの書き起こし、文責筆者)「80年代から盛んになった「反日歴史観」は、韓国は、戦後、親日派をきちんと処分しなかった、親日派が日本に協力して得た財産をそのまま使い、次は親米派、経済開発派に化けて権力を握り続けていた。その代表が朴正熙であり、その娘の朴槿恵こそ親日派の代表だから弾劾しなければいけないとする歴史観だ。そういう歴史観が80年代に学生の間に広がり、90年代にはマスコミや学会、教育界、映画や文化界も含めて、みなそういう歴史観をもつようになった。日教組と同じ「全教組」が合法化されると、教科書でもそういう歴史観が教えられるようになった。そのため朴槿恵大統領が危機感を抱き、歴史教科書を国定教科書に戻そうとしたが、文在寅は当選の翌日、国定教科書の廃止を宣言した。彼は歴史認識を握ったほうが勝つと分かっていた。

これに対して野党は、こうした歴史認識に反論しなかった。今回の選挙は「韓日戦」であり、親日勢力の野党保守派を追い落とす戦いだとする与党左派系に対して、特定の民族を差別するような歴史観はレイシズム(人種差別)であり、歴史問題は条約で解決したらそれ以上は要求できない、近代先進国家はそういうことはしてはならないのだという、ごく当たり前のことを野党は反論しなかった。韓国は共産主義を排除し、韓米同盟を維持することで繁栄できたということを、保守派はなぜ言えないのか。朴正熙大統領の統治の間に世界最貧国だった韓国がテイクオフし、その恩恵を受けたのは今の韓国人だとなぜ言えないのか。今回、新型コロナウイルスで1万人以上の感染者を出したが、それ以上の拡大を阻止できたのは、医療水準が高かったからだ。それは朴正熙時代につくられた国民健康保険制度とそれを全国民に広げた全斗煥大統領のおかげだったとなぜ言わなかったのか。実際の選挙戦では、新型コロナウイルス対策については、文政権がよくやっているという評価しか聞かれなかった。

野党がしっかりとした歴史認識をもっていなかったから、何も反論できなかった。朴槿恵前大統領の弾劾についても、賄賂など一銭も懐にいれておらず、誤報に基づく弾劾はおかしいと言わずに、弾劾を認める立場で選挙をしたから、過去に自分たちがやってきたことはすべて間違いだったとみとめることになった。

反日の裏には反米、反大韓民国があり、親北、親中があるのだから、国民は欺されてはいけない、と主張する選挙戦をしなかったらから負けた。韓国の良識派知識人はそう見ている。

韓国の保守派の失敗は、若い人の歴史教育に失敗したことだ。年配層は経済発展の道を自ら築いてきた世代だから、過去は、そんな頭から否定されるような時代ではなかったことを知っている。問題は、歴史認識を左派に牛耳られ、歴史教育、歴史教科書を左派に握られていることだ。

時間をかけてでも若い人たちに正しい現代史を教えて、韓国は誇りある国で、反共自由民主主義を選んだから、いま世界の経済大国10位に入っているということ、北朝鮮は最貧国で、結果は出ているのになぜ北に憧れるのか、ということを教える必要がある。民族主義という催眠術を使って左派が仕掛けている催眠術を解けるかどうかが課題だ。

その場合、日韓の間に横たわる慰安婦問題について、従軍慰安婦は存在しなかった、貧困の結果、売春という職業を選ばなければならなかった女性が日本にも韓国にいた、というように事実を示すことが、韓国の保守派は必要だ。いまだに「韓日戦」だと称し、悪いのは日本だ、アベだ、李完用だと言い続けることに何の意味があるのか.正しいことを正しいと言い切れる保守の力が試されている。

実は、この歴史認識を誤れば、国もあっという間におかしくなるということは日本についても言えることだ。そもそも慰安婦問題は日本発の問題で、日本軍というのは少女をレイプする軍隊であり、南京でも何十万人も虐殺するような軍隊で、日本人の血のなかには、そういう残虐性が含まれている。だから憲法9条が必要なんだという論理になる。

いま、新型コロナの疫病対策でも政府に強い権限をもたせると、日本人のなかには残虐な軍国主義の血があるから、政府を強くすることには反対しなくてはいけない、と考える。なぜ、外出禁止措置などアメリカやフランスで出来ること、自由民主主義国家でできる政府の権限が、日本にはないのか、それは日本人が自分の民族を信用していないからだ。そこにはそういう歴史観があって、戦前の日本はすべてダメで、軍部にすべて欺されていた、という歴史観があり、そうした歴史観のために、憲法改正もできないことになっている。

日本人は悪いという催眠術にいまだにかかっているから、安倍政権が憲法改正を言い出すと目の敵になって叩かれることになる。その根本は歴史観で、韓国にも日本にも自虐史観があり、自分の民族は悪いという考えの裏には、中国共産党や朝鮮労働党はいいという考え方とセットになっている。それを克服しないと今の韓国は明日の日本になるかもしれない。」(引用終わり)

https://www.youtube.com/watch?v=AOWxyIrBQf8

歴史認識がおかしくなると国が滅ぶ」という議論は、当ブログでは3年前の2017年1月にも同じく取り上げている。そのときも西岡力氏の論文をお借りして、当時「ろうそく革命」で弾劾された朴槿恵政権の問題点などを論じた。それを読んでも、80年代に出版された『解放前後史の認識』という書物が、今の文政権を含め、当時の社会や学生に残した影響力の凄まじさを感じる。しかし、それから30年以上が経過し、韓国では李栄薫教授らの『反日種族主義』という、『解放前後史の認識』に対する完璧な反論書が生まれ、ベストセラーにもなった。これを読んだ今の韓国の若い世代が、何を考え、次の時代をいかに切り開き、つくっていくか、楽しみでもある。そういう意味では、左派政権がつくった歴史教科書で学び、「反日意識」だけを身につけた与党系支持者と、『反日種族主義』によって目覚めた新しい考えの持ち主による「韓日戦」は、いよいよこれから展開されるのだと期待したい。









富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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