原発処理水問題を韓国は国際機関に訴えるべき


どっちの言い分を信じればいいのか?読者も戸惑っているに違いない。同じ新聞の同じ日の誌面に載った「社説」とコラムニストの寄稿文がまったく真逆の主張だからだ。

韓国の「中央日報」は10月24日付けの社説で「福島原発の汚染水放流方針を撤回すべき」と主張した。その一方「福島処理水処分に科学的接近が必要」(후쿠시마 ‘처리수’ 처분에 과학적 접근 필요)と題した寄稿文が掲載された。

この寄稿文を書いたのは、アメリカの科学コラムニスト、ジェームス・コンカJames Conca氏で、コンカ氏は1年前にもフォーブスForbes誌に「福島の放射性処理水を海洋に投棄してもまったく問題ない」(It's Really OK If Japan Dumps Radioactive Fukushima Water Into The Ocean)という一文を寄せている。

長年、核やエネルギー、環境問題を専門にしてきた科学者だけに、その論点は科学的で説得力がある。

まず、中央日報に掲載された寄稿文の中身を引用する。

(以下引用)「専門家らはこの処理水を規制基準値以下の状態で海に放流することを勧告していて、現在としてはこの方法が最善策だと口をそろえる。途方もない水準の放射性物質が含まれているという一部の憂慮とは違い、1リットルの処理水からはポテトチップ1袋またはバナナ4本と似た水準の放射性物質しか検出されない。また東京電力はALPSで汚染水から62種の放射性物質を取り除いて規制基準値以下にし、現在の処理水にはトリチウム(H-3)だけが含まれている。

一部の懸念とは違い、関連分野で長期間研究してきた筆者のような人は、トリチウムがすでに自然界に存在する物質であり、海に放流しても問題はないということをよく知っている。現在までも複数の国の原発施設から海などに放流されたことがあり、トリチウムによって海洋生態系および人々の健康が深刻に脅かされた事例もない。

またトリチウムは半減期が比較的短いうえ、海洋生物や海底堆積物に容易には吸収されず、ベータ放射線を放出するので、海に放流するのが適切だ。そしてトリチウムは大気の自然な過程によってすでに多くの量が海洋に存在している。特に地球に現在存在するトリチウムの99.9%は数十億年間にわたりそうであったように自然の大気中で形成される。これと比較すると福島処理水のトリチウムの量は心配するほどの水準でない。

放射性物質を海に放流するという発想は多くの人を不安にさせる。しかし問題はまさにここにある。トリチウムは人体に有害という認識とは違い、現実は全くそうではない。他の放射性核種と異なり、トリチウムはすぐに希釈されて体内から抜ける。実際、トリチウムが含まれた水の危険度は非常に低いため、世界各国の原発からすでにこれが排出されたこともある。」(引用終わり)

中央日報日本語版10/24「寄稿】福島「処理水」処分に科学的接近が必要

論旨は明確だ。トリチウムは自然界にも存在し、トリチウムによって人類の健康が害されたという事例はない。処理水は海に放出するのが最適の手段であり、世界各国の原発からはすでに大量のトリチウムが排出されている、というのが趣旨だ。読み誤ったり、反証できる余地はない。

一方、これに対して同日の中央日報の社説には、以下のような文言が並ぶ。

(以下引用)「原発汚染水処理問題は日本だけでなく周辺国にも莫大な影響を及ぼす可能性が高い。日本国内でも反対する立場が多いことを周辺国の同意なく独断的に施行しようとすることに対し、地理的に最も近い隣国として憂慮を禁じ得ない。(括弧内は筆者に反論である。以下同じ。日本政府は専門家委員会に諮問し、福島の漁民の声も聞いてきた。国際社会への説明も外交団を招いての外務省の説明会も140回以上重ねている。)

「日本政府と東京電力はALPSで処理すればトリチウム(三重水素)を除いた放射性物質は国際基準よりはるかに低い濃度になると主張する。しかし毎日新聞はALPS処理した汚染水110万トンのうち日本政府が自ら定めた放出基準を満たした量は27%にすぎないと指摘した。6%は基準値の100-2万倍にのぼるという。(処理水はトリチウム以外の放射性物質を含んでいないことを確認するため、濃度の高い放射性物質が放出されることはあり得ない)

「日本側はトリチウムは自然界でも出る毒性が相対的に弱い物質であるうえ、他の原発保有国も放出するので問題はないと主張する。しかし一般の原発から出るのものに比べて汚染水に含まれるトリチウムは濃度が非常に高いという。水で希釈するというが、それでも放出される総量は同じだ。また、欧州放射線リスク委員会は低濃度のトリチウムも持続的に体内に入ればDNA損傷、生殖機能阻害などが生じると警告した。」(トリチウムは体内に蓄積されることはなく、すぐに排出される。DNAが損傷されるとしたら、トリチウム関連の病気が人類誕生以来多発してもいいはず。)

「自国内の意見をまとめる過程が十分でないだけに、周辺国に同意を求める過程も誠実でない。東京電力は最近、汚染水1000トンを2次処理したところ、主な放射性物質が基準値以下になったと発表した。しかしどの物質がどれほど落ちたかについて具体的な数値は明らかにしていない。」(引用終わり)

<中央日報社説10/24「福島原発の汚染水放流方針を撤回すべき

ALPSを使って処理した水は、放射性物質が基準以下であり、安全であることは、IAEAによる確認、承認を得ている。菅総理が福島第1原発を視察し、処理水を目の前にしたとき、飲んでも構わないと説明を受けていた。韓国メディアは、日本政府や東京電力がいかに丁寧に説明を繰り返しても、はじめからそれらには聞く耳を持たず、韓国民の不安をかき立て、日本に不利になる情報しか集めず、自分たちの主観に沿った報道しかしないのである。

しかし、自社の社説と真っ向から異なる意見、主張を「寄稿」という形で、紙面に載せた勇気、気概は認めなければならない。あるいは自分たちの主張がいかに偏向したものであるかを自覚しているため、こうした寄稿文で逃げ道を用意したのか?と勘ぐりをいれたくもなる。

保守系の中央日報とは対局にある左派系のハンギョレ新聞も同じ24日、処理水放出の記事を出している。しかしそのハンギョレ新聞でさえ、自分たちの主張が無理筋であることを知っている。「問題は、日本の決定を覆す「対応カード」がないということだ。原発で発生する「汚染水」を基準値以下に薄めて海に放出することは、国際原子力機関(IAEA)も認める処分法だ。」と認めているからだ。

それにも関わらず、「汚染水に対する安全性が確保されていない状態で海洋放出を計画している日本政府に強い遺憾の意を表明するとともに、国際社会と隣接国の『同意なき放出推進の中止』を求めた」という、何の根拠もなく一方的な断定に過ぎない国会科学技術情報放送通信委員会での決議を何の疑問もなくそのまま伝え、「福島原発の汚染水の海洋放出は歴史上最悪の海洋汚染になる」という環境運動市民グループの誇張された主張をそのまま伝え、なおさら国民感情を煽ることしかやっていない。

ハンギョレ新聞10/24「福島第一原発の汚染水放出…韓日関係悪化の「新たな雷管」>


こうしたメディアの報道姿勢とそれに煽られた国民感情に乗じる形で、韓国政府も相変わらず、日本政府を非難する材料として使っている。

韓国外交部は、記者から関連の質問があるごとに「日本の透明な情報公開と緊密な情報共有を引き続き求めていく」と答え、あたかも日本が情報を隠蔽しているかのような印象操作をしている。

KBS日本語放送10/23「福島第1原発の処理水めぐり 外交部「透明な情報公開を改めて要求」

しかし、外務省は、汚染水処理問題を含め東京電力福島第1原発の現況と復興状況に関して、東京にある各国大使館・領事館向けの説明会を、去年9月の時点で通算103回も開いている。毎日新聞によると「説明会は非公開で行ってきたため、その実施を公表するのは初めてだが、韓国政府が汚染水処理計画の説明を外交ルートで日本側に要求したのを踏まえ、情報公開の透明性をアピールするため公開した」のだという。

毎日新聞2019/9/4「在京外交団への原発事故対応説明会 103回目で初公表 「情報公開の透明性」アピール」

さらに外務省は、外国報道関係者を招へいし、「被災地の状況を含め、東日本大震災後の日本の復興状況に関し正確な 情報を取材させ、各国における正しい対日理解を促進し、風評被害対策を図る」ための事業を毎年、予算を付けて実施している。海外メディアには、こうした場を通じて十分に事実に接することのできる機会が用意されているのである。

済州島の元喜龍(ウォン・ヒリョン)道知事は、日本に対して、処理水に関するすべての情報や資料を公開するほか、処分方法について協議を行うよう求め、日本が処理水を海洋放出した場合には、「韓日両国の沿岸の住民を代表する原告団を募り、両国で日本政府を相手取って民事・刑事訴訟を起こす一方、国際司法裁判所にも提訴する」とした。

KBS日本語放送10/20「済州道知事 「日本が処理水を海洋放出すれば国内外で訴訟提起」

是非とも国際司法裁判所でもどこでも訴え出ていただき、科学的・客観的な立場で判断してもらったらいいのである。

韓国では、福島沖に処理水を放出した場合、海水は海流を乗って循環するため200日後には済州島に、その80日後には日本海に到達するという言説が流布している。基準を大きく下回るごく微量な福島のトリチウムを追跡するより韓国沿岸の原発由来の大量のトリチウムを問題にした方が手っ取り早いのではないか。

ところで韓国海洋水産部は、韓国海洋科学技術院のユ・シンジェ博士がSCOR=国際海洋研究科学委員会の議長に選ばれたと発表した。

KBS日本語放送10/21「国際海洋研究科学委員会議長に韓国海洋科学技術院のユ・シンジェ氏就任」

SCORがどれほどの力を持っている組織かは知らないが、そのトップに沿岸の水質汚染など海洋生態系の専門家である韓国人が就任したということで、韓国側には何か下心的な期待があるのかも知れない。

国際的な科学機関の場でもいいし、国際司法の場でもいい、韓国はぜひ訴えを起こしていただき、福島第一原発の処理水問題について科学的、客観的、実証的に検証してほしい。科学コラムニスト、ジェームス・コンカ氏の説に従えば、韓国の行為は、国際的な「恥さらし」となることだけは間違いない。

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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