韓国大統領選に向けた与党「共に民主党」の公認候補・李在明(イ・ジェミョン)氏は、「産婦人科」という名称は「日帝の残滓」であり、時代錯誤的な認識を含むと指摘し、これを「女性健康医学科」に変更すると公約した。
曰く「未婚の女性が産婦人科に行くのは、妊娠・出産など既婚女性のための病院という先入観があるため、とても難しい」と指摘した上で、「産婦人科という名称は女性を婦人と呼んだ日帝の残滓だ。依然として女性の健康と疾患を婦人病と呼ぶ時代錯誤的な認識が、女性青少年と未婚女性の病気を重くしている」と強調した。過去にも小児科を小児青少年科に、精神科を精神健康医学科に変更しているという。
<中央日報11/22「韓国与党大統領候補、産婦人科を「女性健康医学科に名称変更」公約…「日帝の残滓」>
日本語の「婦人」という言葉は、女性を蔑視して使う言葉ではない。むしろ英語のLadyと同じ尊敬語のはずだ。ましてや「産婦人科」という言葉を日本が無理やり朝鮮に強制して残したわけでもなく、戦後、いやなら変えればよかったはず。自分たちが勝手に使い続けたのだから「日帝の残滓」とは関係ないだろう。
産婦人科(산부인과)を「女性健康医学科(여성건강의학과)」に変えるというが、この「女性(ヨソン)」も「健康(コンガン)」も「医学(イハク)」も、すべて日本語由来であり、中国語や朝鮮語に元々あった言葉ではない。日本語由来の言葉をこれだけ使うのは、「日帝残滓」には当たらないのか?「産婦人科」が使えないのであれば、内科=내과、外科=외과、歯科=치과、胃腸科=위장과、心臓外科=심장외과、口腔外科=구강외과、循環器科=순환기과、消化器科=소화기과、整形外科=정형외과、等々もすべて変更すべきだ。すべて日本語の漢字を朝鮮語読みにしたに過ぎないからだ。当然だろう。近代医学を朝鮮に教えたのは、日本統治以降、1907年設立の大韓医院教育部や1916年設立の京城医学専門学校だったからだ。
<詳しくは過去ブログ21/3/19「日本は朝鮮民衆を伝染病から守らなかった、は本当か?」参照>
因みに朝鮮王朝末期、アメリカ人宣教医師ホーレス・アレンが1885年、初めての西洋式病院「濟衆院」(のちのセブランス病院の前身)を開設するまで、まやかしや呪(まじな)いの類を含め怪しげな民間療法があるだけで、近代医学などに触れたことはなく、とりわけ女性が男性医師に体を晒したり触らさせたりすることは禁忌だったため、女性がまともな医療を受けることは皆無だったと言われる。それだけ、近代医学には縁遠かった朝鮮にまともな医学用語があったはずがなく、江戸時代の杉田玄白以来、西洋医学の導入と翻訳に努めた日本の力に頼るしかなかったのである。「濟衆院」と「セブランス病院」については、KBS日本語放送・歴史ぶらり旅<甲申政変と初の西洋式病院「濟衆院」>が詳しい。
それにしても「些細だが確実な幸福の公約」と銘打っているとはいえ、与党の大統領公認候補たる者が、その公約の一つに「産婦人科」の名称を「女性健康医学科」に変えることを掲げるなんて、みみっちくはないか。大統領候補たるもの、もっと大所高所に立って国家百年の大計たる国家ビジョンを提示すべきではないのか。しかし、前回のブログで、李在明氏の歴史認識問題を取り上げたが、朝鮮半島が分断されたのは日本の統治と米国の承認があったせいだという、貧弱な歴史認識しか持てない人物に国家百年の大計など期待するのは無理か。
それにしても意外だったのは、この李在明氏の公約を伝えたネット記事を読んだ日本のネチズンからのコメントは、「やれやれ、もっと徹底的にやれ」という反応が多かったことだ。
「道路、鉄道、電気、ガス、水道、河川、ダム、病院、学校、公衆衛生、奴婢制度の廃止など、日韓併合時代に行った日本のインフラ整備や悪弊の撤廃など、色々あるので、全部、取っ払うべきだ。また、奴婢制度の復活も導入すべきだ。」
「そんなに残滓残滓と日本狩りを行いたいのなら、まず国土全てを更地にして測量から始め、インフラを整える必要性が有りますね?当然全て国産品で。また、日本企業を韓国から全て強制的に撤退させて見ては如何でしょうか?」
「李さん、いいこと教えてあげようか。あなたが目指している『大統領』は日本語だよ。江戸末期に幕府とアメリカ政府が開国及び通商交渉をするにあたって、英語の『president』を和訳するときに『大統領』という言葉を幕府の役人が作ったんだよ。『大統領』という言葉を使っているのは日本と韓国だけです」。
<WoW!Korea11/22「李在明候補「『産婦人科』という名称は植民地時代の残滓」…「『女性健康医学科』に変える」=韓国」の読者コメントより>
・・・などなど、なかなか説得力がある文章ばかりだ。
李在明氏は最近まで務めた京畿道知事として、「親日残滓」の解消に血道を上げた人物だった。学校や役所で使われている日本製の備品には反日ステッカーを貼り、学校の校庭に日本固有種の木が植わっていれば伐採し、親日派といわれる作詞家・作曲家が作った校歌はすべて廃止・変更させた。そんなことをして、京畿道住民の誰がどういう恩恵を受けたのだろうか?大統領に当選した暁には、そうした親日清算、日帝残滓の撤廃を今度は全国規模で行うのかどうかを、韓国に少しでも関心をもつ日本人たちは、ある意味、期待半分、興味津々で見守っているのである。
ところで、シンシアリー氏の『日本語の行間―韓国人による日韓比較論』(扶桑社新書2021/9)によれば、韓国語の語彙の70%は漢字由来といわれ、漢字語の半分以上は日本で作られた言葉だとした上で、「韓国語から日本語、特に日本語由来の漢字語の影響を完全に取り除くなら、韓国人は『あっ』や『おっ』しかい言えなくなるだろう」と書いている。そして、日本語の~化、~式、~的、~性、~型、~観、~度など日本人が発明した「接辞型漢字語」のおかげで、文学から科学に至るまでさまざまな概念、西洋から輸入された近代的概念がそのまま訳せるようになった、とした上で「日本にとって前近代と近代を最も明確に区分する境界線の一つこそこの接辞型漢字語を活用した『概念拡張言語体系』の登場であり、韓国語は、その恵みによって近代化できた。そんな歴史を考えず、日帝残滓を完全に清算したいなら、韓国を前近代まで巻き戻す必要がある」と主張している。
日韓の間の言語文化の優位性については、もはや完全に勝負がついていることは明らかなのである。
「名を正す」とは、「事の正邪を判断する」「ものの名と実を一致させること」を意味する。『論語』子路編には「必ずや名を正さんか(必也正名乎)」として、次のような文章が出てくる。
「子曰わく、必ずや名を正さんか。(中略)名正しからざれば則ち言順(したが)わず、言順わざれば則ち事成らず、事成らざれば則ち礼楽(れいがく)興(お)こらず、礼学興こらざれば則ち刑罰中(あた)らず。刑罰中らざれば則ち民手足を錯(お)く所なし。故に君子はこれに名づくれば必ず言うべきなり。これを言えば必らずおこなうべきなり。君子、其の言に於いて、苟(いやし)くもする所なきのみ。」
「子曰、必也正名乎、(中略)名不正、則言不順、言不順、則事不成、事不成、則禮樂不興、禮樂不興、則刑罰不中、刑罰不中、則民無所錯手足、故君子名之必可言也、言之必可行也、君子於其言、無所苟而已矣」
つまり「名、すなわち名分が正しくなければ、言葉が従わず、物事も成立せず、礼楽すなわち礼儀も文化も起こらず、刑罰も的外れになり、その結果、国民は居場所を失うのである。君子たる者、名前を付け、それを口にしたら、その通りに正しく実行し、けっして曖昧にしてはならない」というのである。
自称「儒教の国」の「大統領」を目指す与党候補殿に申し上げる。「産婦人科」は日帝残滓のほんの一例に過ぎず、大統領に当選した暁には、日本語由来のほかの多数の言葉を含め、日本の制度や文化、日本が作った建物・インフラの類いも含めて、徹底的に清算し、撤廃してくれるものと信じるが、国家指導者としてまさに「名を正す」という気概があるのならば、たとえば「婦人」という言葉のどこがどう悪いのか、はっきりと皆が分かるように説明し、人々を納得させるべきだ。「日帝残滓」というのなら、日帝支配のどこがどう間違っていたのか、日帝支配の前の朝鮮時代はどこがどう優れていたのか、しっかりと論理的に説明すべきだ。ただ人々の情感に訴え、感情に頼るだけで、人々が頭で考える必要はないとして、冷静に考える材料を与えないとしたら、それはまさしく愚民化政策であり、朝鮮時代の奴隷社会に戻ることでもある。
慰安婦問題にしても「徴用工」問題にしても、韓国国内においてさえ、『反日種族主義』の著者グループを中心に、その問題の所在自体を疑う否定的な議論があるなかで、しっかりとした歴史資料、文献や証拠に基づいて、知的に議論させるべきだろう。いまは、一切の異論を許さず、一方的な感情と論理を国民全員に押しつける全体主義的な気分を、進歩派と言われる左派自らが醸成しているのである。来年3月の大統領選に向けて、そうした傾向がさらに強まるのかどうか、注意深く見守っていく必要がある。
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