「ワールドカップで注目?」旭日旗問題はわずか10年の歴史

スポーツの世界で始まった「旭日旗」排斥運動

日本代表チームの活躍で盛り上がるワールドカップ・カタール大会。しかし、その陰で、日本の応援団席で「旭日旗」が掲げられていないか、と目を凝らして見つめている人たちがいる。韓国の「広報専門家」を自称する徐坰徳(ソ・ギョンドク)氏とそれに同調する韓国ネット市民たちである。

サッカー選手が繰り出す妙技や勝敗のワクワク感を純粋に楽しむのではなく、特定の国を貶めるための材料を探しだそう、という不純な動機をスポーツの世界に持ち込む人たちだ。

しかし、旭日旗を「戦犯旗」だといって、韓国で騒ぎ始めたのは、このわずか10年ほどのことに過ぎない。

それ以前は、日本に抗議するデモや集会で、旭日旗は、しょっちゅう火をつけられ燃やされてきたが、そのときは日章旗(日の丸)も一緒に燃やされていた。漢字を使わない韓国人には、日章旗(일장기・イルジャンギ)も旭日旗(욱일기・ウギルギ)も意味を判別することはできず、新聞が旭日旗の写真に日章旗だというキャプションをつけても平気だった。つまり、ただ単に日本のシンボルとしてどちらも区別せずに使ってきたのである。

「旭日旗=戦犯旗」と言われ始めたのは10年前

そして「戦犯旗」という造語が登場し、「旭日旗は戦犯旗だ」という言説が韓国の新聞記事に現れるのは今から10年前の2012年のことで、新聞の記事データベースを検索しても、それ以前に「戦犯旗」という言葉が使われた例は見つからないという。

それでは、なぜ「旭日旗=戦犯旗」という言説が2012年に現れたのか?

旭日旗が注目される契機となったのは、2011年サッカーアジアカップ準決勝の日韓戦で、韓国の奇誠庸(キ・ソンヨン)選手が日本を侮辱するために猿まねパフォーマンスを行ったことを非難され、その言い逃れに「(会場に掲げられた)旭日旗を見て腹がたった」と発言をしたのが始まりだった。しかし、会場で撮影された映像を見ても、旭日旗はどこにも見つからず、まったくでっち上げの虚偽発言だったことがわかっている。

また翌年の8月10日、ロンドン・オリンピックのサッカー3位決定戦で再び日本と韓国は対決し、試合終了と同時に韓国の朴鍾佑(パク・チョンウ)選手が「独島はわが領土」と書かれた紙を掲げて観衆にアピールする出来事があった。

これに対してIOCは、政治的なパフォーマンスを行ったとして朴選手のメダルをはく奪する処分を行った。

この処分に怒った韓国のネット民は、体操の日本代表チームのユニフォームこそ「旭日旗を連想させる」「旭日旗はナチスのハーケンクロイツと同じだ」と主張し、IOC会長に体操日本代表チームの銀メダルはく奪を求める大量のメールを送りつける騒ぎがあった。

李明博大統領の竹島上陸で悪化した日韓関係

実は、朴鍾佑選手がロンドンで「独島はわが領土」と書かれた紙を掲げた同じ8月10日、李明博大統領の竹島上陸が行われていた。

そしてその4日後には李大統領は大学の学生を前に、「日王(天皇)は韓国民に心から土下座したいのなら来い、重罪人にふさわしく手足を縛って頭を踏んで地面に擦り付けて謝らせてやる」と発言したとネット上では流布された。

日本で「嫌韓」感情が一気に高まる契機となった。

またロンドン五輪の最終日、2012年8月12日には、韓国のニュースポータルサイトNEW DAILY に「チョンポンギ(전범기・戦犯旗)」という造語が韓国メディアとして初めて登場した。

神戸大の木村幹教授によると、同じ頃、ニューヨーク在住の韓国人らが主導して「日本の戦犯旗追放の為の市民の集い」(The Citizens Against War Criminal Symbolism=CAWCS)なる組織が結成され、はっきりとWar Criminal Flag(戦犯旗)という言葉を使って旭日旗の追放運動が始まっていた。

当時の米国では、すでにナチスのハーケンクロイツや南北戦争の南軍旗など人種差別にまつわる「旗」を追放しようという議論があり、韓国系の人々は、その中に旭日旗も取り込もうと画策していたのだという。

そうした米国内での動きについて、2012年8月24日付の韓国の文化日報は、「戦犯旗=旭日旗」という言葉を使って報告している。

サッカー日韓戦で問題となった旭日旗

これらは「戦犯旗」という言葉がメディアに現れた最初の例だが、それが一般に広く浸透するには、さらに、きっかけ(トリガーイベント)が必要だった。

それが2013 年 7 月 28 日のサッカー東アジアカップ最終戦の日韓戦だった。

この日、試合が行われたソウル蚕室(チャムシル)総合運動場には、韓国応援団が「歴史を忘れた民族に未来はない」と書かれた長さ40メートルもの横断幕を掲げた他、試合前には安重根や李舜臣の巨大な肖像画が観客席に広げられた。

日本政府がFIFAが禁じている政治的主張に当たると抗議したのに対し、韓国外務省は「日本のサポーターが旭日旗を振り、韓国ファンを刺激したのが原因」だと反論した。しかし、旭日旗はキックオフ直後に日本の1人のファンによって振られたに過ぎず、3分後には撤去されていた。

さらに2017年には、AFCアジアチャンピオンリーグの川崎フロンターレと水原サムスンの試合でも、旭日旗が掲げられたとして、AFCは川崎に対しホームでの無観客試合と1万5000ドルの罰金を科す事態にまでなった。

「日韓戦」ともなれば、絶対に負けられないと熱くなる韓国人にとって、スポーツの世界での対立は、国民感情を刺激し、民族情緒を沸点まで高揚させることに繋がるようだ。

互いの国民感情を刺激する事態が多発した

実は「旭日旗=戦犯旗」問題が起きた2011年から12年という時期は、日韓の間にさまざまな問題が生じ、互いの国民感情を刺激する時期でもあった。

2011年は、東日本大震災が起きた年であり、その年の9月27日、韓国で行われたアジア・チャンピオンズリーグ準々決勝、セレッソ大阪VS全北現代の試合では、韓国側の応援席に「日本の大地震をお祝います(ママ)」と手書きされたポスターが掲げられた。まだ避難所生活を送る多くの被災者がいる中で、遺族や被災者に向けられた心ない言葉だった。

その年の8月、元慰安婦による賠償請求訴訟をめぐって、韓国の憲法裁判所は「韓国政府が解決に向けて外交努力しないのは憲法違反」だとする判決を出した。

慰安婦支援団体の「挺対協」が1992年1月以来、毎週行ってきた水曜集会がその年の12月、1000回を数えたのを機に、ソウルの日本大使館前の歩道に慰安婦の少女像が設置された。

外交関係に関するウィーン条約第22条では相手国政府は「外交公館の安寧の妨害または公館の威厳の侵害を防止」する責務があると規定されている。慰安婦像や水曜集会は、このウィーン条約の規定に明らかに違反しているが、地元の鐘路区役所は、その後、少女像を「公共造形物」に指定し、無断撤去できないようにした。

そして2012年には、李明博大統領の竹島上陸や天皇謝罪発言があり、一方、日本ではその年の9月、自民党総裁選で安倍晋三氏が返り咲き、12月には総選挙を経て第2次安倍政権が成立した。

韓国では安倍氏について「極右政治家」というレッテルを貼り、「歴史修正主義者」とする評価で固まっていた。

その後、日韓の間では首脳間の往来も途絶え、2019年夏に起きた韓国の「ノージャパン運動」は「ノー安倍運動」となり、隣国の首脳の退陣を要求するまでにエスカレートした。

こうした冷却化した2国間関係の一方で、韓国は世界有数の経済力を持つようになり、先進国入りしたという自信から、日本に対してなら何でも言えるという雰囲気が生まれていた。

   (反日集会で「ノー安倍」と書かれたプラカードを掲げる人々 2019年8月15日)

(ろうそく集会で「安倍政権糾弾、強制徴用を謝罪せよ」と書かれたプラカードを持つ子供たち 2019年8月3日)

日本の文化と伝統を否定する韓国

韓国でもファンが多いアニメ『鬼滅の刃・無限列車編』が2021年1月に韓国で公開される際、主人公の耳飾りが「旭日旗」に見えるとして問題となり図柄が変えられた話は、以前、このブログでも取り上げたことがある。

しかし「鬼滅の刃」ファンなら誰でも知っているとおり、この耳飾りは「花札イヤリング」と呼ばれ、花札の絵柄をモチーフにしたもので、「旭日旗」とは何の関係もない。それにも関わらず、韓国で上映する際は、コストと時間をかけ、耳飾りの部分だけすべて図柄を差し替えたのである。

韓国のケーブルTVには、夜の時間帯に日本のドラマを流すチャンネルがあるが、このドラマを見ていて許せないと思ったのは、旭日を描いた大漁旗が画面に出てくると、必ずその大漁旗にぼかしを入れて、見えなくすることだ。

実際に目にした例でいえば、『釣りバカ日誌』のハマちゃんこと浜崎伝助(濱田岳)が恋人にアピールしようと歩道橋の上で大漁旗を大きく振り回すシーンでは、画面いっぱいに映し出された大漁旗にぼかしが入れられ、何が何だか分からない画面に変わっていた。

また「孤独のグルメ」では、松重豊さんが大漁旗を製作する染め物屋を訪れるシーンがあり、その大漁旗で旭日のデザインには全てぼかしが入れられた。

花札も大漁旗も、日本の伝統的な文化だ。そして旭日のデザインは幸運の象徴として、誕生日や節句などハレの場で古くから使われてきた縁起物であり、日本だけでなく世界的に存在する普遍的な意匠でもある。

しかし韓国では、あたかも旭日のデザインは見てはいけないもの、この世に存在してはいけないものとして、日本の文化や伝統を否定するだけでなく、人類の文化遺産も一方的に否定しようとしている。

(地下鉄ホームに掲げられた映画「鬼滅の刃 無限列車編」の宣伝ポスター 2021年2月)

(「花札」の紋様から太陽の図柄に変更された炭次郎の耳飾り)

民族の象徴、日本人の魂である旭日旗

日本人は、『日本書紀』にも描かれる通り、天照大神(あまてらすおおみかみ)という太陽神を皇祖神(皇室の祖とする神)とする民族であり、日本仏教では天照大神(てんしょうだいじん)を「大日如来」として信仰の対象とする人々でもある。

天照大神が姿を隠し籠もっていた天岩戸から再び姿を見せる場面では、まばゆい旭日の光があざやかに四方に広がるイメージとして神話の絵画では描かれている。

また古代邪馬台国の女王卑弥呼の名前は、実際は「日御子・日巫女(ひのみこ)」だったと言われ、日本人が太陽を信仰する民であることと関係があると言われてきた。

つまり、旭日旗も日章旗も、日本民族の象徴であり、日本人の魂そのものでもあることを世界に対し、歴史に対して証明している。そうした民族の象徴を排斥し、毀損しようという韓国の悪意ある人々の活動に対しては、満腔の民族的な怒りでもって立ち向かっていくことになるだろう。

                     (天岩戸神話の天照大御神  春斎年昌画、明治20年/1887年)

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

0コメント

  • 1000 / 1000