韓国が10大先進国とは?選挙も司法制度も信頼できない国なのに?

「民主国家」というブランドだけが欲しかった

韓国の大統領が、突拍子もなく宣布した「非常戒厳」をめぐって、憲法裁判所に弾劾訴追され、「内乱首謀罪」で刑事告訴される事態を見て、韓国の民主主義の危うさ、未熟さを目の当たりにする結果となった。一方で、本来は大統領と内乱罪に関する捜査権限がないはずの「高位公職者犯罪捜査処」(公捜処・コンスチョ)が大統領に対して超法規的な逮捕・拘束手続きを進め、また、文在寅政権時代に検察の強大な力を弱めるとして捜査権を縮小させられた検察が独自捜査をまったくせずに大統領を内乱首謀罪で拘束起訴し、さらに大統領の弾劾罷免を審理する憲法裁判官が特定の政治心情をもつ法曹グループに支配されているとして、国民の間で連日、大規模な弾劾阻止運動が起きていることなど、どれをとっても、この国の司法制度の危うさと怪しさを感じとってしまい、法の支配と司法の独立は貫徹できるのか不安になってしまう。

自称「韓国観察者」の鈴置高史氏が書いた『韓国消滅』(新潮新書2024年9月)という本で、鈴置氏は「韓国が民主化を実現した1987年以前から、韓国人が欲しがっていたのは「民主的な政体」というより「民主主義国の称号」ではなかったと疑っていた」(同書p60)と書いている。要するに韓国は「形だけの民主主義」、「民主国家」という先進国としてのブランドが欲しかっただけで、民主主義の中身などどうでも良く、選挙も司法もただ形だけ整っていればよく、その実質についてはどうでもよかったのだ。

司法と選挙に信頼がないと「内戦」が起きる

鈴置氏も紹介しているが、最近韓国で話題になっている本に『How Civil Wars Start and How To Stop Them(内戦はどのように起こり、どう止めることができるか)2022/01』(邦訳『アメリカは内戦に向かうのか』東洋経済新報社2023年3月)がある。カルフォルニア大学サンディエゴ校の国際政治学者バーバラ・F・ウォルター教授が書いた本で、ウォルター教授と研究グループは第2次世界大戦以降、2021年1月のトランプ支持者の米議事堂襲撃まで、世界各国で起きた内戦や政治的混乱、反乱事件すべてを調査し、内戦に発展するかもしれない共通の経路を分析した。その結果分かったのは、専制独裁国家と完全な民主主義国家では内戦は起きなかった。しかし、そのどちらでもない中途半端な国では内戦が起きやすいことが分かった。中途半端な国とは、司法制度がしっかりしていない国、そして選挙に信頼が置かれない国のことだという。

「選挙」にも「司法制度」にも欠陥がある国とは、まさに韓国のことではないか。そして今まさに、国民の間やメディアからは「内戦」状態だ、という声が聞かれる。今の韓国は、大統領一人の「内乱」というより、激しい左右対立、保革の断絶で国民を二分する状態は「内戦」と呼ぶほうがふさわしいというのだ。

ハッキング攻撃があるから開票は手集計という台湾

選挙や民主主義の制度をめぐって、韓国と何かと比較されるのが、台湾だ。

台湾が「民主主義の優等生」と言われて久しい。台湾人も自らを「アジア第一の民主主義国」と主張し、その公正で透明な選挙制度と、それによって保たれる高度な民主主義体制を大いに自慢している。

台湾の選挙キャンペーンの風景を何度か直接見たことがあるが、選挙はまるで「お祭り」と同じで、連日連夜あちこちで開かれる各陣営の大規模な選挙集会は、大音声の歌や踊りのパフォーマンスが繰り広げられ、色とりどりのペンライトやネオンが煌めくフェスティバル会場と化していた。また、普段は屋台が並ぶ街のメインストリート一帯は、椅子やテーブルが並べられ、誰でもが飲み食い自由の大宴会場へと様変わりし、飲ませ食わせの大盤振る舞いの集票勧誘活動が平然と行われていた。

しかし、台湾の選挙には「期日前投票」も「不在者投票」もない。有権者は投票日当日に必ず本籍のある実家に戻って地元の投票所で投票しなければならない。中華民国籍の華僑も海外在住者も同じだ。そして開票作業は、投票時間終了後に同じ投票所で、投票を済ませたそれぞれの党の支持者など衆人環視のもとで、一枚一枚投票用紙を後ろの有権者にも見えるように頭上高く掲げ、大きな声で候補者名を読み上げ、それを別の人が白板に「正」の字を書いて記録し、集計するという方法が採られる。

半導体製造の先進地で社会全体のデジタル化も進んでいる台湾で、投票を電子化しないのはなぜか?それにははっきりと「ハッキング防止のためだ」という答えが返ってくる。また「海外投票や不在者投票ができないのは、中国大陸在住の台湾人が多いからで、彼らの票が仮に郵送で送られてくるとして、その途中で、届かない、すり替え、などの操作に遭う可能性がある」(渡辺将人著『台湾のデモクラシー メディア、選挙、アメリカ』(中公新書2024年5月P285)からだという。

郵便投票は2020年米大統領選挙で混乱の原因となり、トランプ氏が「stop the steal(票を盗むな)」として不正を主張した原因でもあった。そして今、「stop the steal」は韓国で尹大統領支持派の人達のスローガンになっている。

中国からの「超限戦」につねに緊張する台湾

台湾は、韓国と同じく二つの政治勢力に分断し、激しく拮抗し、政権交代も経験してきた。台湾の民主化は1986年の野党結成の公認と翌1987年の戒厳令解除がスタートとなり、総統直接選挙は1995年に初めて行われた。韓国も1897年の「6月民主抗争」がその年の大統領直接選挙に繋がった。つまり、韓国も台湾もその民主化プロセスにとって、1987年は節目の年であり、スタートはほぼ同じだったことになる。

そして台湾は、韓国と同じように制度も理念も異なる隣国を抱え、台湾周辺での威嚇的な軍事演習を頻繁に行うなど、韓国以上に隣国がいつ攻め込んでくるか分からないという軍事的緊張を抱えている。その脅威は、軍事面だけに限らず、まさに中国がいう「超限戦」と言い方がふさわしい。つまり外交戦、諜報戦、金融戦、IT情報戦、法律戦、心理戦、メディア戦など、全方向的で、リアルタイムに、全国民と多次元の社会機能を総動員して、正規軍同士ではない、いわゆる「非対称戦」を仕掛け、敵のすべてをコントロールし支配しようとするものだ。

台湾は、日常的にそうした中国の脅威を体験し、日々、そうした脅しに直面しているからこそ、民主主義の根幹を握る選挙制度で、中国の介入を許してはならないと決意し、選挙結果が中国の手で不法に歪められることがあってはならないという信念で、国民全員がまとまっているように見える。韓国も、北朝鮮と向き合い、つねにその脅威や脅しに晒されているのは同じのはずだが、どうも脅威に対する向き合い方には違いがあるようだ。

多言語多民族社会に対応した台湾メディアの柔軟性

台湾が韓国と大きく変わるのは、台湾が言語や祖先が異なる多様な人々を抱える他種族・多言語社会だということである。『台湾のデモクラシー メディア、選挙、アメリカ』を書いた慶應大学総合政策学部の渡辺将人準教授(アメリカ政治・メディア論)によると、台湾の政治の難しさは国家アイデンティティーをめぐる分断以外に、「族群」と呼ばれるエスニック分類があることだ(p51)という。古くから台湾に暮らす原住民(先住民)と呼ばれる人々はオーストロネシア語族に属す16の言語に分かれ、そのほか閩南系本省人(福建語)、客家系本省人(客家語)、戦後大陸から来た外省人(北京語など各地の方言)、それに最近では東南アジアからの新移民もいる。そして、それらの各言語に対応する公共テレビやラジオを含めて、多様な言語でさまざまな情報やサービスの提供するメディアが非常に発達していることが、台湾の民主制度を支える重要な要素だといわれる。

さらに渡辺氏は、台湾の民主主義に決定的な影響を与えているのは、こうしたメディアの力と、アメリカで政治を学んだり、実際に米国での政治活動に参加する台湾人や台湾系華人の存在、そして、そうした台湾人の影響や交流を通じて、台湾の政治に直接助言したり、支援する米国人や政治家の存在があるとし、台湾のために果たしている米国の役割の大きさを指摘する。中国という巨大な影に怯えることなく向き合うためには、アメリカという後ろ盾が必要なことを台湾人はよく理解している。

支持政党が違えばたとえ家族でも口を聞かない

韓国人がどこから、どうやって民主主義を学んだのか、よく知らないが、革新系左派の人達は、反米・反日を唱え、親北・親中の姿勢を隠さない人も多いから、必ずしも西側欧米型の民主主義を理想としているようでもないようだ。

最近発表された世論調査の結果が面白い。韓国保健社会研究院が2014年から毎年行っている「社会的対立と統合に関する実態調査」で、2018年と2023年を比較して「社会葛藤の類型別変化」を発表している。

それによると韓国人のおよそ92.3%が、もっとも深刻な社会的対立(葛藤)として「保守と革新の間の政治対立」を挙げ、2018年の87.0%からこの5年間で5.3ポイント増えている。また「政治傾向が異なる人とは市民・社会活動を行いたくない」と答えた人は71.4%、「政治傾向が異なる人とは恋愛や結婚を考えない」と答えた人も58.2%にのぼったという。

KBS日本語ニュース2月5日韓国人の92%「最も深刻な社会的対立は革新・保守の政治対立」

余談だが、ことしの旧正月は1月29日だった。ソルラル(旧正月)は家族が一堂に会する一家団欒の機会だが、今年は尹大統領の戒厳令とその後の政治的混乱で、支持する政党が違えば、たとえ家族でも口を聞かないとか、家族が大勢集まった場では「政治の話は一切禁止」という宣言する家庭が多かったという。政治的な発言で大げんかが始まるからだ。(KBSワールドラジオ2月3日「玄界灘に立つ虹」)。 

ちなみに先の世論調査で、そのほかの社会的対立(葛藤)として「正規職と非正規職の対立」が82.2%、「貧富格差による対立」が78%、「大手企業と中小企業の対立」が71.8%、「地域間の対立」が71.5%などの順となっていて、2018年と2023年を比較するとこれらの割合もアップし、対立と葛藤は深まっていることを示しているが、「ジェンダー(男女)の対立」だけは52.3%から46.6%に下がり、多くの人が意外だと受け止めているようだ。

韓国は南北の分断国家だけではなく、保革・左右の政治分断、地域別、世代別、収入別、男女別など各レベルで互いに越えられないほどの深い断層を抱えている。

そうした分断状況を克服するためにも、韓国国民が自分たちの民主主義のあり方について、虚心坦懐に見つめ直す必要があるが、それはいつになったできるだろうか?

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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