尹大統領弾劾裁判は次の内乱罪刑事裁判までまだ終わった訳ではない

結論部分は朴槿恵弾劾判決と一字一句同じだった

有権者の半数が投票で選んだ現職大統領を、有権者が信任を与えたわけでもない8名の憲法裁判所判事によって弾劾罷免される、というのは、朴槿恵(パク・クネ)大統領に続いて、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領で二人目となった。

ところで、尹錫悦大統領に対する憲法裁判所の判決文は、8年前の2017年3月10日、朴槿恵大統領に対して下された罷免判決と、結論部分は一字一句違わず、まったく同一の文章だった。ユーチューバーの「なぜなぜ韓国」さんが、それぞれの判事が判決文を読み上げる音声を同時に流し、一字一句同じであることを証明している。それは以下の文章だ。

「憲法守護の観点から許容されない重大な違法行為に該当します。被請求人の違法行為が憲法秩序に及ぼした否定的影響と波及効果は重大であり、被請求人を罷免することによって得られる憲法守護の利益は、圧倒的に大きいと言えます。以上、裁判官全員一致の意見で主文を宣言する。主文、被請求人、大統領尹錫悦(朴槿恵)を罷免する」

(なお、朴槿恵弾劾裁判と今回の尹錫悦大統領に対する判決文の韓国語全文は以下のサイトで確認できるが、法廷で実際に読み上げられたものより、はるかに文章量が多く、同一ではない。)

2017・3・10大統領(朴槿恵)弾劾審判決定文 대통령(박근혜)탄핵 심판 결정문.pdf

2015・4・4尹錫悦大統領弾劾審判決定文 윤석열 대통령 탄핵 심판/결정문 namu.wiki>

윤석열 대통령 탄핵 심판/결정문 - 나무위키

これで「K民主主義」と自慢するのは恥ずかしすぎる

結論部分で、前回朴槿恵大統領弾劾裁判の判決文とまったく同じ文章が使われていると言うことは、今回の尹錫悦大統領に対する弾劾裁判も、最初から結論は決まっており、この結論に導くために、さまざま論理を構成したことは明らかだ。前回と同じ結論、同じ文言を使うしかなかったということは、この判決文を書いた最高裁判事たちには、前回の弾劾裁判を上回ることができるほどの知恵も理屈もなかった、という証明でもある。

しかし、この結論部分は、要するに「弾劾しないより、弾劾した方が利益は大きい」と主張しているわけだが、最大多数の最大幸福を追求して「国民の利益」を判断するのは、大統領や政治家の政治的裁量であって、政治の素人である裁判官の法律的知識ではないはずだ。しかも、法律は「どちらが利益になるか」より「事実は何が正しいか」を判断すべきはずのものだ。

野党代表・李在明は今回の憲法裁判所の裁定について、世界に冠たる「K民主主義」の成果だと自慢するが、こんな危うい、まやかしの「民主主義」制度など、まともな国ならばマネして取り入れたい、などと思うはずがない。因みに「K民主主義」とは「ケチでクダらないクソったれのカン国式」民主主義のことで、嘘つきで詐欺師の前科4犯・李在明が言うのだから、せいぜいその程度なものだろう。

政治色だけで任命される左派系判事

韓国の憲法裁判所判事は、大統領と国会、大法院長(最高裁長官)がそれぞれ3人づつ指名し、大統領の承認で決定される。しかし、前任の文在寅大統領は、明らかに左派色のイデオロギーに染まった特定の裁判官グループ「ウリ法研究会」出身の文炯培(ムン・ヒョンベ)判事やその後身といわれる「国際人権法研究会」の李美善(イ・ミソン)判事を憲法裁判事に指名した。文炯培(ムン・ヒョンベ)所長権限代行は「ウリ法研究会での中で私が最も左」と言って憚らない人物である。

そして、去年12月、野党共に民主党が国会指名枠として指名したのが、ともにソウル西部地裁部長判事の鄭桂先(チョン・ゲソン)と馬恩赫(マ・ウンヒョク)だった。そして、鄭桂先は「ウリ法研究会」で会長を務めた人物だが、崔相穆(チェ・サンモク)大統領権限代行によって憲法裁判所判事に任命された。一方、崔権限代行によって任命を保留された馬恩赫は、社会主義革命組織『仁川地域民主労働者連盟』を創設したメンバーの1人で、この組織の綱領には『6・25戦争(朝鮮戦争)は米軍が起こしたもので、米軍が数百万人の民衆を虐殺した』とあり、完全な従北左派勢力でもある。実際の公判でたいした実績も残していない地裁判事が、特定の政治色がついた裁判官というだけで、最高裁よりも上位の憲法裁判所の判事に簡単に指名されるのが韓国なのである。

ところが4月8日、この馬恩赫も憲法裁判所判事に任命された。弾劾棄却で職務復帰した韓悳洙(ハン·ドクス)権限代行兼首相が、4月18日に任期切れで退任する文炯培と李美善に替わる後任の判事の指名と同時に馬恩赫の任命を認めた形をとった。

これで、憲法裁判所の9人判事の政治傾向は、左派系が2人(鄭桂先、馬恩赫)、鄭貞美(チョン・ジョンミ)裁判官は中道・革新、金炯ドゥ(キム・ヒョンドゥ)裁判官は中道指向、金福馨(キム・ボクヒョン)裁判官は中道・保守、鄭亨植(チョン・ヒョンシク)裁判官と趙漢暢(チョ・ハンチャン)裁判官は保守指向と見られる。

朝鮮日報1月4日「弾劾審判きょう初弁論 尹大統領側の裁判官「忌避申し立て」結果から告知へ」

そして、今回指名された李完圭(イ·ワンギュ)法制処長(検事出身、尹大統領とは司法修習同期)とハム·サンフン・ソウル高等裁判所部長判事は保守・中道性向と言われる。

毎日経済4月8日「尹 大学同期の李完圭、刑事訴訟法の権威者民主党「内乱共犯の疑い者指名」

これで、左派・革新系の憲法裁判所判事は3人、そのほかの6人は中道・保守系ということになった。今後も閣僚の弾劾裁判は続くが、弾劾罷免には6人以上の裁判官の賛成が必要であり、中道・保守系の判事が3人以上、反対すれば弾劾は棄却・または却下されることになる。与党「国民の力」にとっては、ある程度、好ましい状況になったが、野党「共に民主党」とっては受け入れがたく、「内乱共犯者」を任命したとして、「憲法を蹂躙する蛮行」だと非難する。憲法裁判官の任命人事で、これだけ意見が割れるのだから、これがまともな司法制度、まともな民主主義制度であるはずがない。

内乱罪の刑事裁判で審理されるべき重要証言

ところで、今回尹錫悦大統領の弾劾罷免を決めた憲法裁判所の判決は、国会の弾劾決議や証人申請の不許可、証人尋問の時間制限など司法手続き的な瑕疵や疑問も多かった中で、最も問題となるのは、刑事裁判で審理されるべき「内乱罪」について、十分な証拠や証人に確固たる証言がないにも関わらず、検察側の調書に基づいて、内乱罪の構成要素をすべて認めてしまったことである。そもそもこの検察調書は、内乱罪に関する捜査権限のない高位公職者犯罪捜査処が作成したもので、憲法裁判所に証人として出廷した軍関係者の多くは、自らが刑事裁判を抱えていることから、法廷での証言をいっさい拒否し、検察調書に書かれた内容も認めなかった。

そうしたなかで、憲法裁判所が証拠として採用した証言のなかで、具体的には以下の2点が最大の問題となる。一つは、大統領が現場の戒厳指揮官らに対し、「国会の本会議場のドアを壊し、中の議員を引きずり出せ」と命じたとされる郭種根(クァク・チョングン)陸軍特殊戦司令官の証言、もう一つは、大統領や国防部長官が、野党代表や国会議長など政治家と司法関係者15人の逮捕を指示し、その位置確認を指示したという洪壮源(ホン・ジャンウォン)国家情報院第1次長の証言についてだ。

当ブログの「従北左派野党議員が仕掛けた弾劾・内乱「謀略」フレームが明らかに」でも詳しく書いたが、これらの証言については、憲法裁判所の証人尋問で証言が何度も修正されるなど、証言が揺らいで何が真実なのか明らかにはならなかったほかにも、そもそもこれらの証言の背後には、野党「共に民主党」の朴善源(パク・ソンウォン)議員の存在があり、彼の指示あるいは懐柔で証言や証拠のメモがねつ造されたという、いわば「謀略工作」の疑いが極めて濃いのである。

刑事裁判で内乱罪が成立しなければ憲法裁は瓦解する!?

今後、内乱罪を審理する刑事裁判では、憲法裁判所での証人尋問よりはるかに多い150人以上の軍関係者などが出廷して、証人尋問が行われる予定だとされ、憲法裁判所は一回の判決だが、刑事裁判では最高裁判決まで3回の判決公判が行われ、長い期間をかけて徹底的な真相解明が行われるものと期待されている。

はたして郭種根(クァク・チョングン)陸軍特殊戦司令官や洪壮源(ホン・ジャンウォン)国家情報院第1次長の証言が虚偽、ねつ造だと証明され、それに朴善源(パク・ソンウォン)野党議員の謀略工作が関わっていたことが証明されたら、どうなるのか。尹錫悦大統領の弾劾罷免判決も、憲法裁判所の正当性もすべて吹き飛び、韓国の司法制度も民主主義も根本から瓦解するのは明らかだ。尹大統領の弾劾罷免判決は、まだまだ進行過程にあり、決して終わった訳ではないのである。

富士の高嶺から見渡せば

富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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