博士後期課程の留学生には年間290万円の経済支援
博士課程で学ぶ研究者の生活・研究支援を行う「次世代研究者挑戦的研究プログラム」(Support for Pioneering Research Initiated by the Next Generation=SPRING)という支援事業がある。
スプリング(SPRING)は2021年度に開始された文科省所管の科学技術振興機構(JST)の助成制度で、大学院の博士課程在籍者に対し、最大3年(4年制の場合は4年)で年額の支給額は290万円。渡し切りの給付で返済義務はなく、国籍要件や年齢要件は設けていないという。このスプリングの受給者数について,有村氏が参院外務防衛委員会(3月24日)で質問したところ、文科省の答えは、「令和6年度のスプリング事業の実績は、全体が10,564人で、うち日本人が6439人、外国人が4125人、そのうち中国人が2904人」だった。つまり受給者のうち日本人はたったの6割で、残り4割の外国人のうち実に7割(全体では27%)を中国人が占めている。産経新聞は「中国人留学生などのSPRINGの利用割合が公表されたのは初めてとみられる」と報じている。
これについて有村氏は参議院外交防衛委員会の質疑で次のように指摘した。
「3年もしくは4年の経済支援で、全額1000万円近くの公的支援をかけて行う博士号支援は、我が国の産業競争力、稼ぐ力、科学技術力の回復につなげるべき投資でなければならない。ひいては我が国の国力、国民を豊かにする力、外交に働きかけ、安全保障を確かにする力になっていかなければならない。国民生活が厳しくなる中、多額の公的資金を投ずる政策目的を鑑みれば、支援学生の選択を各大学まかせにせず、日本の学生を支援するという政策目標を明確に打ち出し、各大学にも明確に伝達し、特例、例外として極めて優秀な各国の学生のごくごく一部に限定する制度にしなければ、とてもや国民の理解は得られない」。
これに対して文科省は「我が国の研究力強化に向けて優秀な日本人の博士課程支援の充実と、より多様な国・地域の留学生の受け入れというスプリングのおける博士後期課程の支援のあり方について、本年夏ごろまでを目途に中間とりまとめを行うべく、審議会で検討を行っていきたい」と応じ、有村氏の迫力を前に検討・見直しを迫られる結果となった。
国立大学の副学長に中国人
それから17日後の同じ参院外交防衛委員会で、今度は同じく自民党の佐藤正久参院議員が爆弾質問を行った。
<佐藤正久参院外務防衛委員会4月10日での質疑「我慢の限界を超えて怒りが爆発するヒゲの隊長!岩屋外務大臣、お花畑ですよ!」>
「日本の国立大学の副学長に中国人が複数いて、いわゆる「国防7校」の関係者もいる。中国人民解放軍関係者と共同研究をしている人物が含まれるほか、中国の地方政府機関・大学との兼職している人物もいる」と指摘した。
国防7校とは、北京理工大や南京理工大、ハルピン工程大学など、最先端兵器の開発研究に従事し、中国の軍需産業に卒業生の多くを輩出している大学であり、そのうち4校は米国の禁輸リストに含まれている。2020年度の時点で、「国防七校」のうち6校から徳島大に9人、千葉大7人、東北大4人、東京工業大2人など全部で10の大学に計39人が留学していたことがわかった。
<ダイヤモンド・オンライン2023.6.7「中国軍へ技術流出の恐れ、東工大らが留学生受け入れる中国「国防七校」の危険性」>
ネットで検索し分かった限りでは、国防7校から8人の留学生を受け入れている私立福岡工業大学の副学長は倪宝栄(ニイホウエイ)という中国人だった。また山口大学には葛崎偉(コ・チーウェイ)、信州大学には金翼水(キン・イスイ)という副学長がおり、九州大学にはLIU HUIXIN(リユウ・フイシン)という副理事がいる。かれらは国際担当という役職を負っているが、要するに留学生の受け入れに裁量権を持ち、留学生を監督できる立場にいる人たちだ。
研究内容の定期報告を義務づけた中国留学基金
さらに中国国家留学基金管理委員会(CSC)が実施する「国家建設高水平大学公派研究生項目(プロジェクト)」(高水平)と呼ばれる奨学金留学制度がある。佐藤氏の調査によると、東京大学など国立大学で18校、私立大学で少なくとも5校で、この「高水平」という制度による中国人留学生を受け入れているという。また一部の大学はCSCとの間で協定、覚え書きを締結しているとの情報もある。例えば、旧・東工大は精華大学との間で交換留学生プログラムがあり、学位の相互認定を行っている。
問題なのは、この奨学金を受給した中国人研究者は、研究内容について定期的な報告義務があることだった。このCSCの奨学金制度について、ドイツやオランダの教育大臣は問題視し、「政府で調査する」と発言、一部の大学はCSCの奨学金による留学生の受け入れを停止している。そしてこうしたドイツなど動きのあと、CSCのホームページにかつてあった「定期的な報告義務」の記述は、今は削除されているという。
佐藤氏は「(副学長とか博士課程の中国人留学生は中国の)国家情報法と国防動員法の対象者である。中国の国内法が適用される人物である以上、留意が必要ではないか。科学技術の安全保障の観点からも、これら副学長あるいは博士課程の中国人留学生に対するデューデリジェンス(Due Diligence、日本語では「適正評価手続き」、当然に実施すべき注意義務および努力のこと)は、これまで以上に重要になり、そろそろ政府全体で考える時期だと思う」と指摘する。
「国家情報法」とは、「国家の安全・利益の擁護を目的として、国家の情報工作活動への組織・市民の協力義務」を定め、「国家動員法」では、中国国内の中国人のみならず、現在日本にいる中国人も、有事の際に中国軍に動員され、日本での破壊活動や軍事活動に協力することを義務づけた法律である。
佐藤氏は「そろそろ手をつけないと手遅れになる。これから軍民融合の部分で、軍と民の境目がなくなっている。中国人留学生はどんどん増えている。(留学生を)監督する側の副学長までいる。しかもCSCは非常に特別な奨学金制度で、日本で最先端のものを学び、中国で足りないものを学んで、取ってこいという制度だ。明確なこういう(目標)基準がある以上、我々も対応しないといけない」。
中国人研究者なしでは成り立たない博士課程と研究所
参政党の神谷宗幣参院議員の質問主意書(2023年11月24日)によると国立研究開発法人の「産業技術総合研究所」に採用されている外国籍職員146人のうち中国籍は41人、「科学技術振興機構」の外国籍職員16人のうち中国籍は7人、「物質・材料研究機構」の外国籍職員179人のうち中国籍は58人、「理化学研究所」の外国籍職員481人のうち中国籍は138人となっている。つまり、国立開発研究法人4機関の全てで、採用されている外国籍職員の中で中国籍の割合は3割から半数近くにおよび、突出して多くなっている。
博士課程で教える大学教授の間からは、もはや優秀な中国人研究者の存在なしでは大学院博士課程は維持できない、という声があるという。そういう研究現場に限って、おそらくは研究費や寄付金の獲得のために目の前の研究成果のことしか目に入らず、そこに在籍した中国人が研究ノウハウや技術を学んで帰国したあと、中国でどんな活動や業務を行っているか、総合的な国家戦略の観点から見ていないのではないか?なぜ中国人留学生なのか?なぜ中国人研究者が必要なのか?先端技術や貿易摩擦をめぐる米中対立、ウクライナやグローバルサウスをめぐる中ロ協力といった国際情勢全体に目を転じて、中国人留学生・研究生を受け入れることによって、中長期的に世界にどういう影響が与えるか、大学関係者は想像力を巡らしてみるべきだ。
0コメント