「超限戦」に立ち向かう③=中国への警戒心がない「お花畑状態」こそが危機

中国に流出した日本の高度産業技術

例えば、「薄くて、軽く、曲げられるペロブスカイト太陽電池(Perovskite Solar Cell、以下PSCと表記)」といえば、桐蔭横浜大学の宮坂力(つとむ)特任教授が発明した次世代型の太陽電池だが、「PSCの特許出願件数では、日本は年間出願件数で2019年まで5年連続の首位だったが、2020年に中国や韓国に抜かれた。2021年の中国の出願件数は70件で、2番目に多い韓国(39件)や日本(19件)を大きく上回る」

日経XTECHクロステック2024・3・12「ペロブスカイト太陽電池で中国に存在感、日本は前途多難」

また、日本では積水化学工業が2024年7月から、PSCの大量生産の運用に入っているが、「一方、PSCの開発に後発する中国では、スタートアップを中心に量産を加速させている。2023年の時点で 既に年間百MW(メガワット)の生産規模に達しており、一部の企業は2024年内にGW(100万メガワット)規模の生産ラインの整備を進めている など、市場投入に向けた動きが顕著となっている」

三井物産戦略研究所2024・07「ペロブスカイト太陽電池のGW級量産に進む中国 ―タンデム型で変換効率30%突破を目指す」>。

つまり、日本人が発明したPSCは、その量産体制と市場投入規模で中国に先行を許し、すでに負けているのである。

さらに世界で初めて実用化した量子コンピューターの原理、「量子アニーリング」と呼ばれる概念を初めて提唱した東京工業大学の西森秀稔教授や、量子コンピューターの「量子ビット」と呼ばれる頭脳部分を世界で初めて開発した東京大学の中村泰信教授、また「量子テレポーテーション」と呼ばれる情報の瞬間移動を利用した「究極の量子コンピューター」の実用化原理の開発に成功した東京大学古澤明教授の研究グループなど、量子コンピューターの基礎的な理論や技術はその多くが日本で生まれたものだ。

しかしここ数年、中国から伝えられる情報によると、中電信量子集団による超伝導量子コンピューター「天衍-504」のサービス開始、中国科学技術大学の超伝導量子チームが「祖沖之3号」を開発し、ビット数と性能が向上させている。また中国が作り上げた量子暗号通信網は2016年、世界初の量子暗号通信衛星を打ち上げ、2025年には低軌道にも量子暗号通信衛星を打ち上げる予定で、そのエンドユーザーは500万人を超えると予想されている。

Science Portel China2024・12・17「超伝導量子コンピューター天衍-504が発表」

Science Portel China2024・12・24「量子コンピューター祖沖之3号が発表」

UchuBiz中国2024・10・9「量子暗号通信衛星を2025年にも–中国電信ユーザーは300万人」

量子分野について、中国は日本など太刀打ちできないほどの巨額の研究開発費を注ぎ込んでいる。旭化成の吉野彰氏が開発しノーベル化学賞を受賞した「リチウムイオン電池」は、中国のEV電気自動車を支え、ヤマハが世界初の産業用ラジコンヘリを開発し、かつて日本は民間活用のドローン大国だったが、その技術は中国に渡り、今や中国が大量生産の拠点になっている。そして日本から学んだはずの新幹線技術は、いまでは中国が独自開発したと主張し、技術輸出国を名乗っている。かつて日本がリードした半導体技術や液晶テレビも中国や韓国が国家ぐるみで模倣と剽窃を繰り返した結果、日本からこうした産業自体を奪ってしまった過去がある。

「超限戦」という「静かなる侵略」にいかに対抗できるか?

有村氏は参院防衛外交委員会(3月24日)での質疑の冒頭で、中国軍のいわゆる「超限戦」という考え方に触れて、以下のように述べる。

「超限戦とは軍事的な武力攻撃以外の手段を含む相手国への攻撃を想定したもので、ハイブリッド戦とも呼ばれる。あらゆるものが手段となり、あらゆるところが戦場になり得るとして、軍事と非軍事の境界が曖昧になる。従来、私たちが持っていた思考の境界線、自らの思い込みや制約を超えて、戦争以外の戦いで勝つ、戦わずして勝つための戦略として、自国を有利にし、相手を不利にする戦いを展開するための新しい戦略について論じたものだ」。

「14億の民を持ち、世界の覇権を狙う野心を隠さず軍事力を急増させ、軍事以外の分野でも法律戦や世論戦、心理戦、経済を武器化する経済的威圧、技術や情報を駆使した影響工作を各国にしかけている中国を隣に持つ我が国は、はたして、そうした中国政府、また市井の人々による静かな、しかし確実に我が国の体力や資源、国力をそがれることになる戦争以外の構造的な浸食に気づいているのか?」

「たとえば(中国人による)高額療養費制度の利用、自動車免許を(日本で)国際免許へ書き換える外免切替、健康保険被保険者資格、土地不動産の購入など、中国による攻防の多くが違法とは言えない、合法的と見なされる攻め方で行われている。豪州では、これを「静かなる侵略」サイレント・インベージョンと名付けて、戦争以外の手段によって豪州が中国によって浸食される浸透工作の広がりに警戒している。このような静かに進む中国化、およそ国防の領域にはとどまらないあらゆる分野で加速化している浸透工作、結果として日本国民、納税者にしわ寄せがいく攻防に、はたして我が国政府、各省庁は有効な手立てを打てているのか?」

「隣に中国がいるというその厳しさをどれだけ留学生政策に反映しているのか、ということを常々指摘してきた。それを政府が受け止めているという実感を持てないことに危機感を持っている。文科省だけにとどまらない、外務省、防衛省だけでも日本の守りはできない。日本国政府として静かなる浸食に対し日本の国民の国益をどう守るかを探求してほしい」。

衆参議員会館で中国製の掃除ロボットが稼働中

ところで、現在、衆議院や参議院の議員会館の廊下でお掃除ロボットが常時、稼働しているそうだが、このお掃除ロボットは中国企業の製品であったり、日本企業が中国で製造した製品であることが、自民党小野田紀美議員の指摘で分かった。インターネットにつながるデジタル機器は、AI人工知能やIot(モノのインターネット)の発達で、どこからでも制御可能で、カメラの顔認証技術で議員会館に出入りするすべての人物を特定できるだろうし、少し好感度のセンサーを使えば、部屋のなかの会話の盗聴も可能かもしれない。しかし、このロボットの導入について、出入りの掃除業者が役務で導入したことは分かっても、その安全性を確認する責任は、どこの省庁、どこの関係機関に聞いても自分ところの所管ではないという答えが返るだけで、責任の所在が分からなかったという。デジタル庁の平将明長官は「私の所管ではない」としつつ、「国家安全保障上のリスク管理のためにはイマジネーション・妄想力を働かせることが必要だ。所管ではないが問題意識を共有していきたい」と答えるのが精一杯だった。日本の政府・国会の「お花畑」状態もここに極まれりという体たらくだ。

小野田紀美2025/04/09「衆参議員会館でウロウロしてるお掃除ロボット、調べたら中国企業だった!」


富士の高嶺から見渡せば

大学で中国語を専攻して以来、半世紀にわたって中国・香港・台湾を見続け、朝鮮半島にも関心を持ち続けてきました。これらの国との関係は過去の歴史を含め、さまざまな虚構と誤解が含まれています。富士の高嶺から、雲海の下、わが日本と周辺の国々を見渡せば、その来し方・行く末は一目瞭然。霊峰富士のごとく毅然、敢然、超然として立てば、視界も全開、隣国を含めて同時代の諸相に深く熱く切り込めるかもしれません。

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