中国CCTVの映像カット要請で再び注目が集まる
9月3日、「抗日戦争勝利80周年」を祝う軍事パレードが北京で行われた。この模様を特別番組で伝えた中国中央テレビCCTVの映像に、習近平がプーチンとの雑談で「人間は150歳まで生きられる(活到150)」と話した音声が、そのまま中継マイクに拾われ、全世界に流れた。パレードの開始前、習近平が各国首脳を率いて天安門楼上の式典会場に向かう途中での出来事だった。
この「活到150」という言葉は、ネット上では瞬く間に爆発的に広がり、その日のうちに検索数は330万回に達し、ついには検索が禁止される「敏感詞」にもなった。そして式典から2日後、中国CCTVは提携する世界のメディア機関にこの部分の映像の使用禁止を通告、世界に配信したロイター通信社もこの映像の削除を決めたという。ロイター通信によると、中国CCTVはロイター通信に送った書簡で、「この種の素材の編集処理は、許可された内容における事実と陳述を明らかに歪曲している」と述べたそうだが、「編集処理」も何もCCTVが制作した中継映像をそのまま伝えただけで、マイクの音声を消さずそのまま垂れ流したのはCCTVの落ち度に過ぎない。ロイター通信は「我々は公開された映像を慎重に検証したが、ロイター通信が長年堅持してきた正確かつ公正な報道という基準が損なわれたと信じる根拠は一切見当たらない」と反論している。
<万维读者网 环球大观 9月6日「“活到150”发酵 央视慌了,对路透社提出」>
閻魔大王も怒る?独裁者らが交わした雑談の中身
では、実際にどのような会話が交わされたのか。以下は上記の<「万维读者网」“活到150”发酵 央视慌了,对路透社提出(「150歳まで生きる」論が炎上、CCTVはおお慌てでロイターに申し入れ)>の記事が伝えた会話の中身である。
習近平とプーチンは現在、共に72歳。習近平の右にはプーチン、すぐ左側には40代はじめの金正恩(注1)が並び、列の先頭で歩いていたが、若い金正恩の年齢を意識したのかまず、習近平がプーチンにこう語りかける。
習近平「かつて70歳を超える人は稀だったが、今では70歳はまだ子供だと言われる」(过去超过70岁的人很少见;如今人们说,70岁还只是个孩子)
それに対しプーチンは「バイオテクノロジーは発展を続け、人間の臓器移植は常に行われ、生きれば生きるほど若返り、不老不死さえ可能になる」(生物技术不断发展,人类器官会不断移植,越活越年轻,甚至可以长生不老。)と返答。
これに対し習近平は「今世紀中に人類は150歳まで生きられるかもしれないと予測する者もいる」(有人预测本世纪人类可能可以活到150岁)と返した。
地獄の閻魔大王が聴いたら、怒り出すような傲岸不遜な話の中身だ。
(注1,金正恩の年齢は、北朝鮮の公式発表では1982年1月8日生まれの43歳だが、これは「国家プロパガンダの都合で設定された」説といわれ、米国や韓国の情報機関は1984年生の41歳説を支持している)
この映像は、いま現在も例えばANN/テレビ朝日のYoutube番組<ANNnewsCH 9月3日ライブ「中国 軍事パレード「抗日戦争勝利80年」習近平主席の両隣にはプーチン大統領と金正恩総書記並んで観閲【ノーカット】>でみることが出来るが、肝心の習近平の発言部分は天安門楼上を映す画面に変わり、音声は「本世纪人类可能(今世紀中に人類はたぶん)」までは鮮明に聞き取れるが、そのあとの「活到150岁(150歳まで生きられる)」の部分は聞き取れない。あとで何らかの加工が施された可能性もある。
不老不死のための「臓器移植」にどれだけのドナーが必要か?
この会話の内容を聞いて、世界の人々がすぐに敏感に耳を立てたとのは「臓器移植」という言葉であろう。中国はまさに「臓器移植天国」で、その臓器の無尽蔵の供給源となっているのが、中国国内で不法に拘束されている法輪功信者や新疆の強制収容所に収容されたウイグル人たちだと言われる。この問題では、すでに2019年6月17日、ロンドンで開かれたNGOと市民による「民衆法廷」で、数多くの証拠と関係者や研究者の証言に基づき、中国政府の関与と責任があると断定され、人道に反する罪で有罪判決がでている。国際世論的には、いわば結論が出ていて、中国ははっきりと断罪された存在でもある。
<Newsweek2019年06月19日「民衆法廷『中国は犯罪国家』と断罪 『良心の囚人』からの強制臓器収奪は今も続いている」>
またキルギスやカザフスタン、それにベラルーシなど旧ソ連邦の国でも、臓器を提供するビジネスが盛んで、ときどき日本人が巻き込まれる被害も発生している。プーチンは、こうした中国や周辺の国の実情を知っていて、「臓器移植で不老不死は達成できる」という考えをもつに至ったのだろう。しかし、日本では臓器移植を希望しても脳死患者のドナーが現れず、何年たっても手術ができないというというのが現実で、「プーチンのような発想になれない」と思うのが普通の感覚ではないか?いや、それよりも「150歳まで生きる」ために臓器移植に頼るとしたら、いったい何人のドナーが必要なのか?独裁者が望む「不老不死」の実現のためには、いったいどれだけの脳死判定の患者の発生が必要なのか?
臓器移植のドナーとなる人の死を考えれば、臓器移植を繰り返し行うことで永遠に生き延びられるというプーチンや習近平の発想には、臓器提供者の死についての思いやりは微塵もなく、こうした発想自体が異常で、鬼畜も震えるほどのおぞましい考え方だといえる。
バイオテクノロジーの発展で、豚の臓器を人間に移植する試みも行われているが、まだ実用化には至っていない。そんなことより前に、中国やロシアには、臓器の摘出を目的にした強制収容が国家ぐるみで行われ、また貧困による金目当てで自分の臓器を差し出す困窮者とそれを食い物にするブローカーが暗躍する社会で、臓器がいとも簡単に手に入る現実が目の前にあるからこそ、プーチンや習近平の発想が現実味を帯びていて恐怖を煽るのである。
150歳は中国の「党指導者延命プロジェクト」の実際目標
一方、習近平が言い放った「150歳まで生きる」という言葉についていうと、中国人はこの言葉を聞き、皆、「981健康科技グループ」という企業名を連想するのだという。2014年に北京で設立されたこの企業は、かつて「首長(指導者)保健チームを中核とする」「数十年にわたる高瑞人士(ハイエンド層)や首長領導(指導者層)の医療保健経験」を売り文句としていた。2019年には、ウィーチャット(微信)上では、一つの広告が話題を呼び、一時拡散されたが、後に削除された。その広告には、「2005年に開始された『981首長(指導者)健康プロジェクト』の寿命延長目標は150歳だ」とあった。
ここでいう「首長」とは、党中央指導者すなわち習近平など絶対権力層をいう。今回は習近平が「150歳まで生きられる」と軽口をたたいた結果、中国のSNS上には「彼が150歳まで生きるなら、それはまさに無間地獄だ」などのコメントがさっそく寄せられた。
習近平は2022年10月の中共第20回党大会で、党政治局委員の68歳定年制や総書記の任期が2期10年というそれまでの慣例を壊し、異例の3期目に突入し、実質的な終身制を確立した。中国の民衆にとって、コロナ・パンデミックという史上最悪の管理統制社会を経験したあとも、このまま習近平の独裁体制が続くことはまさに「地獄」であり、それが本人のいう150歳まで続くとしたら、永遠に苦しみから脱出できないまさしく「無限地獄」そのものということになる。
中国の若者の失業率は公式的にも20%を越え、求職を諦めた人を含めれば実質的には50%近くに迫るという見方もある。長年の「一人っ子」政策で、急速なスピードで少子高齢化社会が進むが、職につかない若者が高齢の親の年金に頼って生活するという実態もある。一部の特権階層だけが臓器移植などの手段を使って、150歳の人生を生きることができるとして、その他大勢の庶民(老百姓)は、年金手当も老後の生活保障もない将来が待ち受けるだけであり、こんな地獄のような暮らしを90歳、100歳を越えてまで生きようなどと誰が思うだろうか?
習近平の周囲は自殺者や不審死が多数、という不思議
習近平の「150歳まで生きられる」という言葉を聴いて、一斉に反発したのは海外を拠点に活躍している中国語メディアと亡命知識人たちだった。
その多くは習近平の周囲で中共幹部の不自然な死が相次いでいることを指摘する。李克強前首相の突然死をはじめ、中央軍事委員会の許其亮前副主席の急死、何衛東副主席がことし3月以来、消息不明で死亡が噂されていることなど、軍幹部や地方幹部の自殺や不審死が頻繁に伝えられている。
統計によれば、習近平政権発足以降、750人以上の高官が汚職事件の調査対象となり、そうした高官の間で、不自然な死が相次ぐことで、国内外のメディアやチャイナウォッチャーの注目を集めている。一部の幹部の死は当局によって「急死」や「自殺」と断定されているが、外部では依然としてその真相に多くの疑問が呈され、党内部の複雑な権力争いの暗部を浮き彫りにしている。
<阿波罗新闻网9月5日「这些人都没活到150岁 ! 习13年办750高官 从何卫东到李克强都“被自杀”?」>
習近平は自ら150歳まで生きる意欲をちらつかせながら、その周囲では自ら命を絶ち、人生半ばで謎の死を遂げる「共産党同志」が大勢いるという実態に心は痛まないのだろうか?映像に映るその笑顔を見ると、たぶん、そんなことは気にもしない冷血漢であることがわかる。
この映像に一緒に並ぶプーチンにしても金正恩にしても、ウクライナ侵略戦争に自国の多数の若者を動員し、有無をいわせず死地に追いやっている。そうした無辜の民の生き死になど歯牙にもかけないのが、独裁者の独裁者たるゆえんでもある。中国やロシア、北朝鮮を含めてこの地球上には、若い活力と情熱をたぎらせる若者たちがいっぱいいる。しかし、独裁者が支配する専制全体主義国家では、若者の思考もエネルギーもすべて統制管理され、ただ独裁者の思考に従い、それに奉仕することだけが強制される。独裁者だけが長生きする社会などまっぴらだが、彼らの消滅を願い、呪うことしかできない現実も哀れだ。
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